事変閉幕・閑話
ニャルはクトゥルフに説教をしていた。
「SAN値チェックの権能は今後一切、しないでください!!」
「分かったよぅ」
下手をすれば数万人単位が発狂していたかもしれないのだ。この世界軸のニャルは人間に試練を課して遊ぶ事はすれど……いや、試練で遊ぶ時点で碌でもないのは確かだが、少しだけ人間側にいる。なので基本的に招来はやらないし、もしやろうとするクトゥルフ側の神性がいれば殺しに行くだろう。探索者は別だが。
「はぁ、説教はここまでにしておきましょうか」
「やったー!!」
「喜ぶ前にひとつお願いをしても良いですか? ノーデンスにも」
「ん? 要件は聞こう」
「私の出来る範囲ならいいよー」
見た目だけならアメリカンお姉さんなんだよなぁと西洋人形よりも美しいニャルは自分の容姿を棚に上げつつ思いながら。
「出来ればモルディキアンと友達になってあげてください」
その言葉に側で聞いていたモルディキアンが「ニャルの姉御……」と感動している。ノーデンスとクトゥルフは首を傾げて答えた。
「モルとはもう友達だよ?」
「私も友達だと思っているよ。穏やかな神性をしているしな」
「あら、そうなのですか?」
「今日だけで友達が3人も増えた……? 生きてて良かった」
感動する納骨堂の神に、3柱の神は温かな視線を向けた。
………………
第二次人魔大戦……というよりは呪力汚染事件とでもいうべき一件は、一息つける所まで落ち着いた。
リアは隣で上品に佇んでいる神に向けて一礼する。
「ではウカノ様、また夢で」
「夢もそうだが、今の調子は絶好調なのでな。また本殿も訪れてくれてもよいぞ?」
「じゃあ日程調整しておきます」
夢の中でいつでも会えるので、そこまで寂しくない……と言えば嘘になる。できれば現実で会いたいと思うのは、友達になったからこそだろう。神と人、けれど対話が出来るのだから壁などない。
それからリアやレイア達が全員集合して、各々に報告やらを済ました頃合いに。全世界放送で事態の大まかな終息宣言が行われた。
英雄達は報告の為に連合国の中枢に向かう事となり。ダルクはジルと合流する為に離脱。リアとレイアとレーナはライラの家に戻ることに決める。元々、あそこから始まったのだ。きっと何かあるだろうと予感して。
そして戻ればライナとティナと名乗る、ライラとティオの顔そっくりな女性がいた。どう考えても別世界軸の2人だと思い至る。
うぇーい、どんどんパシパシと小気味よくハイタッチをしてから挨拶をする。
「いやはや、この世界軸のリアとレイアはドラゴンの血が……格好良いではないか!!」
「ふっふーティナさん分かりますかこの格好良さが」
「羨ましいぞ、本気でな!!」
レイアとティナが談笑する中で、リアはルナとクロエの無事を確認する。
「2人は怪我とかない?」
「大丈夫ですよお姉様。クロエちゃんと共に傷ひとつありません!!」
「ウカノ様の加護もあったから。ルナ姉も私も、体調は絶好調だよ」
ウカノ様がルナとクロエにも加護を与えてくれていたと知り、再度の感謝を心の中でする。今度必ずウーラーシールの本殿に行こう。そう思いながらほっと胸を撫で下ろした。
「良かった」
「お姉様こそ、報告を聞きました。火傷などはしていませんか? 乙女の柔肌に火傷が残るのは不味いです!!」
「ん、私もリア姉の方が心配」
「ありがとな、俺は大丈夫だ」
2人の頭を撫でながら、それでいて内心はかなりホッとしている。あの熱気は流石にもう浴びたくない。真夏の1番キツい時に外で暴れる様なものだ。
「シャワー浴びたい」
「使ってきて良いぜ」
隣で貸し出した機材の情報を収集していたライラの言葉に甘えて「じゃあお借りします」と頭を下げてから、シャワーを浴びに行った。
………………
事態終息から数日が過ぎた。日本区域はボロボロだが、それ以外の連合国はあまり被害も無い。驚く事に死者はおらず、人魔大戦と呼ぶには些か弱い事象ではあった。だが、死者がいないならそれに越した事はない。
それはそうと、魔法使い達の一部は有名人となった。リアを筆頭に、前線で戦った者達には賞賛が送られて、後日に感謝状が手渡された。英雄願望のあるリアにとっては、喜ぶべき一歩だ。一歩なのだが……世間的にはアイドル的な人気が上がり、魔法使いとしては見られていないのはかなり不服であった。しかし結界魔法だけでなく、その奥義の改造版《境界線の狩武装》が使えると言っても、殆どの人はピンと来ないのも仕方のない話ではある。
一方でレイア達もかなり名が広がりリアと同じくアイドル扱いされている。けれどレイア的には別に良いらしく、リアは少しだけもやっとした。
戦いに参加した神々については、知らずのうちに全員が消えていた。痕跡を残した神もいるので完全に消えたという訳でもなく。各々が向かう所に旅立ったのだろう。クトゥルフと別れの会話ができなかったのは残念に思った。
日本区域での戦いは苛烈であったとだけ伝わり、実質的には映像などは残っていないのは幸いである。ニャルラトホテプが合流した時にクトゥルフが神話の権能である『SAN値チェック』が行われ、普通の人が見てしまえば基本的に気が狂うか発狂するのだとか。怖すぎる。
そんなこんなで、日常が再び舞い戻ってくる。何気ない日常の大切さを胸に、ルナと共に学校へと歩みを進めた。
……………………
春になり、桜が咲き誇る季節。
時は流れ3年生になった。
生徒会は終わりを告げ、卒業生である皆とはそこそこに遊んだので惜しい別れだ。特にエスト先輩との別れは悲しい。1年生の頃からお世話になっていたので、今後なにかあれば返していきたい所存だ。引き継ぎを行い、リアとレイアとダルクは生徒会を抜け、次の四年生に任せる事とした。みんなエスト先輩を慕っていたという事だ。
一方で遊戯部の面々も来年卒業を控えている。感慨深いと思いライラはポツリと言った。
「いやはや、時が流れるのは早いものだな」
「だな、我も今年で卒業かぁ」
ティオがゲームのコントローラーを握り、画面に映る敵を銃で撃ちながら言った。それに対してライラが反応する。
「進路がどうであれ、皆とはダラダラと長い付き合いになる気がしてるよ」
ライラの嬉しい言葉に、リアも笑顔で言った。
「そうだったら嬉しいです。先輩達と居るのは楽しいですから」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。週末にでも、またお泊まり会をしようか」
ライラの提案に全員が賛成と手を挙げる。そんな中で1人不安そうな5年生がひとり。
「ダルクさんも行っていいやつですか?」
「当たり前だ、歓迎してやろう」
「ありがと!! やっぱ持つべきものは親友っすわ」
ぞんざいな扱いは、その場のノリ以外はされなくなった。彼女自身が多くを学び、丸くなったのある。そして皆は成長している。出会ったばかりのダルクにも、やりたい事を優先するとは言え、信念にも似た行動原理があったと分かった部分も大いにある。あとは、心にゆとりができ優しくなれた。
そんなホッコリするやりとりが終わり、各々がゲームをする中でレイアが「そういえば」と話を切り出した。
「ライナさんとティナさんは、結局どうなったんですか? 前にお泊まり会をした時は居なかったから気になってて」
「あぁ、あの2人なら魔導機動隊の技術部門に就職したよ。出来れば私やティオの研究に付き合って欲しかったが……「居候は申し訳ない」と言ってな。ついでに給料がある程度貯まったら、この国を見て回る為に軽い旅をするそうだ。この世界軸の仕組みに面白さを見出したらしい」
「旅ですか、いいですね。僕も見たことない景色を見に、卒業したら旅をしようかな? リアも一緒にどうだい?」
「いいぞ、けど就職先次第だなぁ。旅できる時間とかあればいいな」
将来の事は誰にも分からない。故に各々が先の事を思い、想像して、考えて、話しているのは心地良い。リアは自分の人生がどこに向かっていくのかは分からないが、少なくとも良い方向だと嬉しい。それに出会って紡いだ絆を大切にしたいと思った。




