神話白撃7
オクタは身体の内から湧き上がる神力と魔力の全能感を不信に思っていた。この力は強力だが、任せて使うと身を滅ぼすと思ったからだ。自分の親らしいクトゥルフの声は聞こえない。試練だとでも言うのだろうか。隣を走るレイア達を見つつ。魔術的な詠唱を開始した。
「水心千倍《海》の漣」
水の杭が軻遇突智を貫いた。マグマですら蒸発しない、海の権能はその場に軻遇突智を縫い付ける。
オクタの魔術を見ていたダルクは少し考えた後で「オクタくん、クトゥルフみたいな水の檻って出来る?」と問いかけてきた。クトゥルフの水の檻は、魔術としてはかなりの高位に当たるだろう。でも、出来なくもない。
「時間さえあれば」
「んじゃ、私らで足止めするぞ」
グレイダーツはどこか苦い顔で。レイアは頷き、ショウケイはサムズアップで返した。
全員が話さずとも役割を理解した時のこと。軻遇突智が身を捩り四方八方に爆炎を振り撒く。それにより、蒸発しないとは言え脆い水の杭は綺麗に外れた。そこですかさず、ショウケイが呪力を練り上げる。
「夕刻、寄り道、神隠しの折。呪道《脇道》」
爆炎を掻い潜り、ダルクが先行する。全ての爆炎が全員の傍を通り抜けて当たらない。呪は祝福となって、全員を守った。ダルクは熱波を耐えられるギリギリで変身アイテムの『糸』……もはや糸とはいえない、材質不明の『鋼線』を飛ばす。
蛇が巻き付くように、鋼鉄の糸は軻遇突智へぐるぐると巻きつく。
「おっと、予想通り固い部分があったな。あれが『核』か」
ダルクは軻遇突智にも心臓のような部分があると予想していた。そこを糸で捉えられれば完璧に拘束できる。
ただ、このまま綱引きをすればダルクは負ける。ので、グレイダーツが巨大な杭を召喚するとダルクの鋼線を地面に打ちつけた。
「僕の出番がねぇ!!」
レイアが喧しいが、拘束は完璧だろう。あとはオクタの魔術を待つだけ……と思いきや。オクタはレイアにひとつ頼み事をする。
「レイア、戦乙女で魔法陣を描いてくれないか?」
「魔法陣をかい? お安いご用さ!!」
「ありがとう、脳内に直接送る」
「うぐっ、慣れないねこの感覚は」
オクタから送られた立体の魔法陣を、レイアの召喚した戦乙女は綺麗に魔力で描いていく。まるで一枚の絵画のような光景に、グレイダーツも心の中で感心する中。最後の一筆を書き終えたレイアが「完成したよ!!」と伝えた。
もう勝ち確だろと思ってる4人から離れて。端っこでダルクはリアに連絡を飛ばしていた。「ふむふむ、《白撃》ね。了解」。
オクタが触手を伸ばし、魔法陣に魔力を送る。
「《水の檻》」
オクタの大魔術が輝く。呪力による中和ではない、しかし母なる海という圧倒的な水量が軻遇突智にも襲いかかった。完全拘束、完全なる水没。神話事変、完!! とは思えないダルクはドラゴンの血で右腕を強化する。軻遇突智は水の檻の中で泡を吐き、もがくように時折、熱線を飛ばしてくるが。
「余裕あるな……」
中々、鎮火しない。
やはり『核』に向けて撃つか、《白撃》。そう考えている時、横からレイアが声をかけてくる。
「先輩、何かしようとしてます?」
「強烈な一撃をぶち込もうとしてるぜ?」
「なら、僕の《境界線の剣》が使えないかい?」
「使えるねぇ!!」
レイアと2人で打ち合わせをする。まず、境界線の剣を『杭』状態にできないかの相談。杭には出来るとの解答で、次に真っ直ぐ飛ばす為に召喚魔法でパイルバンカーみたいなの作れないか? と相談。いけるとの解答。
「……凄い奴だったんだな」
「パイルバンカーを作れるくらいで、その言葉は少し不服だね……」
「複雑な機構を一瞬で作れるのは普通にすげぇよ」
「感謝するならライラ先輩に。夏休みの時にロマン武器だーって設計図を見せてもらってね」
「よく覚えてんな」
でも記憶力なら自分も負けていないので、天才とはそういうものなのかと思う。
話を詰めていき。5分ほどで出来た。パイルバンカー射出式《白撃》装置。なお反動は考えないものとする。
隣で話を聞いていた3人も作戦に参加する。
「私が適当な《鳥》を召喚してやるから、それに掴まっていけ」
「俺はある程度の距離まで《脇道》を作ろうか」
「『核』の位置は把握した。水で無理矢理こじ開ける」
「私も『ARACHNE』である程度、熱は防御できそうだな。よっし、いくぞ!!」
ガチャンとARACHNEのシールドバイザーを閉じると「デンデンデデデデーン」と口ずさみ、ダルクは駆け出す。そしてグレイダーツの召喚した鳥に捕まった。高速で駆け抜けていくダルクを捉えた軻遇突智が熱線を放ってくるものの。グレイダーツの巧みな擬似生命プログラムを施された鳥と、ショウケイの《脇道》が全てを回避していく。軻遇突智は最後の抵抗と熱波を放とうとするも、オクタの海水で封じられた。
そして迫る、軻遇突智の核。オクタの水操作により開かれた胸には、灼熱の心臓が鎮座している。
パイルバンカーの撃鉄モドキに呪力と神力が渦巻く。急速に混ぜ合わされた2つのパワーは中立の魔力に変換されるが、変換の際に膨大し魔力の大爆発を起こす。杭が射出した。
「《白撃》ッ!!」
一筋の煌めきが、軻遇突智の心臓を突き抜けていった。
軻遇突智の、壊れた心臓が高鳴る。
レイアは悟った。あの神は最初から……『自暴自棄』になっていたのだと。鼓動は強烈な圧力を持って空気を鳴らし炎の暴力が生まれようとしている。だからこそ、レイアは魔法を唱えた。
「《魂静世界『紅夜行』》」
………………
紅に染まる草原の中で、1人の赤熱した影が蹲っていた。影はずっと考えている。
なぜ、私なのだろう。
何千何万何億と問い続けた答えを探して、結局答えは今日まで見つかっていない。
私は、普通に生まれたかった。母親を殺したくなんてなかった。父からは忌むべき存在として見られ、兄弟達から封印された。私は普通の神になりたかった。普通の家族が欲しかった。
自暴自棄にならず自我を保てたのは、微かな一瞬でも幸せを渇望したからだ。だが、母親であるイザナミが自分を道具のように使った時に心が折れた。
「そっか、君はずっと苦しんできたんだね」
誰だ、私の心に入り込むのは。
「慰めは力無く、言葉は軽いと思う。だけど、君に対して僕は1人の理解者になりたい」
今更いらない。
「……ここで壊れるくらいなら、最後に家族と会話をしてみないかい」
きっと傷つくだけだ。
「そうかもしれない。事実、イザナミは君を道具のように扱ったからね」
これが1番、心にきた。もう折れたよ。諦めたまま、私は消えたい。
「……僕はそれでも。君に少しだけでも言い。もう一度、対話をしてみて欲しいんだ」
なぜ、私にそこまで拘る。貴方は私を倒そうとした1人だろう。
「心に闇を抱えたまま去るのを見るのは、僕だって辛いのさ。そこに敵や味方は関係ない」
変な人間だ。けれど、そうか……心に寄り添ってくれる者がいるのだな。
常に孤独だった私にも、日本を破壊するだけだった私にも。こんなにも対話をしてくれている。
「対話は友好への第一歩だよ。なんなら友達にならないかい? 神様と人間では立場が違うかもしれないけど」
良いのか?
「良いよ、君の孤独に1人でも寄り添えるなら僕は充分さ」
やはり変な人間だ。でも、初めての友達がそこまで言うのなら。傷つくだけかもしれない、けどもう一度だけ対話をしてみるよ。
「僕から言える言葉はひとつだけ。『勇気を出して』」
うん。せめて、母からの言葉だけでも。
「了解、僕が手伝うよ」
……………………
炎の神が鎮火した。水の檻により巨大な石の塊となって。軻遇突智の石像は日本神話の荒々しさを少しでも残す為に保存される事となった。しかし、そこに住んでいる者たちはたまったものじゃない。
だが、これはリア達がやる話ではない。
そしてひとつ、後から聞いた話なのだが有名な神々も不完全ながら顕現していた。天照や須佐男に月詠といった日本神話を語るには欠かせない神性は、人々を守った後に光となって消えたらしい。神々は出来ればイザナミを止めたかったが……1番いい神性が降臨したので、その者に託したのだとか。どこか納得のいかない表情だったとは、人伝に聞いた。
かくして、世界における呪力汚染と日本における神話事変は一度終幕になる。だが、本当に終幕なのかは人それぞれになる。
目の前の浮遊する女性の神性は、リア達の前で頭を下げた。
「この度は失礼を」
イザナミだ。目にはすっかり理性の色が戻っている。もう攻撃してこないならそれでいいやと全員が思っている中で。すかさず、レイアが口を挟む。
「あの、一ついいですか」
「処遇ですか? 出来れば穏便に消えたいと……」
「いえ、貴方の家族の……軻遇突智についてどう思っています?」
イザナミは少し考える素振りを見せる。彼女の中でもやはり、軻遇突智には良くも悪くも特別な思いがあるのだろう。レイアは祈るしかなかった。神様のために神様に祈るという行為に少しカラカラと笑いつつ。
「不憫にしてしまった、と思ってます。道具として扱ってしまった以上、私が言えた言葉では無いのかもしれませんが……。神性を得て降臨した時は冷静に狂っていたから、は言い訳ですね。あの日あの時、イザナギには、例え私の死因だとしても軻遇突智を家族に入れてあげてほしかった。私も、私が産んだ我が子なのに一度は恨んでしまった。ダメな母親ですね」
「だってさ」
レイアの手のひらから炎が立ち上る。炎はイザナミの言葉を聞き、一瞥した後にスッと消えた。レイアは軻遇突智の魂が救われた事を祈って。
「まってください、今の神性は……」
「次に降臨した時には優しくしてあげてください」
「……はい、親として」
やはり対話までは出来なかったモヤモヤは残ったが。けれど消えゆく軻遇突智にとっては最善の言葉だった。
そして呪力の風が吹く。イザナミはその場から姿を消した。
語彙力がだいぶ消えた気がする
のんびりとしたTSものか百合を書きたいけど、物語の構築力が明らかに低下してて無理そう
この出来の悪い小説を読んでいる君も、執筆してみないかい?




