表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/232

神話白撃5


 オクタはクトゥルフから大凡の説明を受けながら、水の玉を作り回転させる。レイアが時折「オクタくん、誰かと交信とかしてる?」と鋭い言葉をかけてきたので、素直に「私の親がレクチャーしてくれている」と答えると「僕が口を挟む事ではないか」と寂しそうに口を閉ざした。


「そんなことはない、レイアには返し切れない恩と感謝をしている。だからそんな顔をしないでくれ」


「どこでそんな口説き文句を覚えてきたんだい?」


「口説く?」


「無意識なんだ」


 そんな会話をしつつも。レイアとグレイダーツが西洋甲冑や召喚されたシストラムを飛ばす中でオクタ自身も、水で作られた自分の分身を作り飛ばした。クトゥルフが言うには、相手の呪力を打ち消す為に神力が必要らしいのだが……オクタ自身は魔力を使い慣れているせいもあり、神力の説明はいまいちピンと来なかった。ので、分身も魔力なのだが、そこに消火系の魔法を込めてある。


 この一幕でショウケイが説明してくれた神性、イザナミはどう動くのか。敵対は確定しているらしいが今は静かなのが不気味だ。


………………


 イザナミはぼんやりと考えていた。此度の顕現、或いは召喚において自分は『どうなのか?』と。イザナミはこの日本が憎い、そしてなによりも夫が憎かった。あの日、神話の時代に黄泉の国で腐り落ちた姿を見られた事をずっと引きずっている。こうして再びの顕現でも鮮明に思い出せるくらいには。


 イザナギ。夫はいないのだろうか。ならば、出てくるまで壊そう。己を殺した愛しい軻遇突智と共に。


 炎の剣となった軻遇突智から悲鳴のような音がしたが、イザナミの耳には届かない。繰り返される復讐が、再び始まった。


………


 リアとレーナの前に、ウカノが姿を現した。半透明で完全なる顕現とはいかないが力を振り絞ってここまで来たのだ。


「リアの心地よい鼓動がここまで連れてきてくれてな」


「若干、気持ち悪いですよウカノ様」


「なんと!?」


 とてもショックを受けた様子のウカノにリアは苦笑いを浮かべる。自分の「心臓の音を頼りにここまで来ました」とでも言われたと想像してみてほしい。普通に気持ち悪いだろう?


「だが……よい、許すぞ。リアだからこそ冗談を許す事を忘れるなかれよ。それでは《白撃》について説明しよう。簡単に言えば神力式ミサイルだな」


「ミサイルですか?」


 ウカノが試しに神力の杭を作る。とは言え顕現するので精一杯なので、見本というだけだが分かりやすい。リアもウカノに見習い杭を作った。その杭を今度は魔力を纏った腕の中に入れる。中立の魔力は神力の拡散を防いでくれる。


 最後にほんの少しの呪力を杭の底に流して……神力と呪力が高速でぶつかり合う事で魔力に変わる前に混ざり合い、反発力が生まれて爆発現象を起こす。


「《白撃》!!」


 ズガンと轟音が響き木々が揺れる。神力の杭はまるで空間を削り取るかの如く突き抜けた。ウカノの微弱な神力と呪力でこれなのだ。揺れた木々から葉が落ち、曇天を少し吹き飛ばした。


 思っていた20倍くらいの威力に驚くと同時に、扱いの難しさもあるのだが……肝心なところが説明されていない。


「超シンプル!! けどウカノ様、これ腕吹っ飛びません?」


「失敗すれば消し飛ぶぞ」


「こっわ!?」


「でもリアにはあるだろう? 最強の腕が」


「ありますね!!」


 最近、纏った時の破壊力しか考えてなかったが《境界線の狩武装》の元は《境界線の剣》だ。《境界線の剣》はなんでも切り裂け『決して折れない』。《境界線の狩武装》にも同じ効果がある。纏う事で腕全てが強化される。つまり肉が裂ける事も骨が砕ける事もないという事だ。でも、それって魔力によって成される現象の話ですよね?

 神力や呪力にも対応しているのだろうか?


「いけます?」


 レーナが心配そうに聞いてくるので、リアはほんのり首を傾げた。ぶっちゃけ腕がぐちゃあってなる未来の可能性はある。いやグロい、ドラゴンの血のおかげで再生できるとはいえ、痛いものは痛いのだ。


 あとでギルグリア呼ぼう。


 それから、そもそもの話リアは呪力が使えないではないか。


「呪力使えないじゃん俺」


「私は使えるので、補助しましょうか」


「レーナ使えるの? いいなぁ、俺も今回の戦いが終わったらショウケイさんに頼むか」


「2人ともよいのか? では実践してみようかの」


「ウカノ様、よろしくお願いします」


 《境界線の狩武装》を纏い、神力の杭を作ると腕に仕舞う。肘を起点にして、そこに強力な神力を溜め込むと、レーナがそっと手を当てて呪力を流し込んだ。


 とかしていると、空で大きな爆発音が轟いた。空を見れば、丁度《召喚魔法》で生まれた軍勢とイザナミが衝突していた。イザナミが炎の剣となった軻遇突智を一振りするだけで、曇天が一瞬晴れてしまう程の威力があり、シストラム以外の西洋甲冑は軒並み焼き払われる。無双ゲームのようだ。こちらが劣勢の。絶望感マシマシであった。


 状況が動いたのと同時に、一体のオクタに似た水の召喚体が軻遇突智に触れた瞬間。水の鎖が伸びていき軻遇突智の動きを止めた。軻遇突智を止められたイザナミは何を考えているのか分からないが、ぼんやりと軻遇突智を動かそうとしている。


 リアは肘に溜まった神力と呪力を乱回転させた。急速に混ざり合った神力と呪力が魔力へと変換される時。


 急速に膨張し爆発して。


 杭は空へと放たれる。


「《白撃》!!」


 放った瞬間に肘から出た圧力の余力が地面を抉る。あまりの威力に転びそうになりながら空を見れば神力の杭が既に突き抜けて雲を晴らし晴天で地上を照らしていた。亜音速である。


「こ、こわっ」


 下手に撃ったら不味い技術どころか門外不出レベルの技術だった。


 この威力なら近距離で暴発したら不味い。確かに神経のいる難しい魔法だ。だが果たして安全対策として距離を取り遠距離で当てられるものなのだろうか? 今回の一撃はイザナミには当たっていない。よく見れば着物が破れているが、あの刹那の時間で避けた事が分かる。完全なる不意打ちを避けたのだ。


 どうしようかと3人で話し合っていると、イザナミの首がカクリと動く。軻遇突智の剣は水の鎖で動かないが、別にイザナミ本体が無力な訳じゃない。


「どう考えてもこっち見てますね」


「だよね」


「のぅ……」


 どうすんだよと思っている2人と一柱の元へ。イザナミが超高速で突っ込んできた。


「うぉおおおこっち来た《召喚:ギルグリア》!!」


 リアは思わず盾にしようとギルグリアを召喚する。《門》から強制的に連れ出されたギルグリアは訳が分からないと言った様子だが、ここはドラゴン。0.1秒で状況を理解するとイザナミに向かって口を開いた。


 空を黒炎が埋め尽くす。けれど炎のはずなのに冷たい。ギルグリアもこちらの状況は見ていた様子で、イザナミの脅威から《氷のブレス》を放ったようだ。


 ブレスが視界を埋め尽くす中で。人形の如く整った顔が飛び出した。パキリパキリと音を鳴らして、イザナミは口を開く。


「《汝、黄泉の夢を》」


 ギルグリアが力無く崩れ落ちる。微睡む夢に絡まれて落ちたのだ。イザナミの首がカタリと音を立ててこちらに向いた。


 全員が身構える。その時、1人の影が頭上から着地する。海水のように色を変える髪が特徴的な姿で、かなりの美人だ。そして彼女が呟く。


「《深海の夢》」


 全員の意識が夢に引っ張られて落ちていく。


………………


「やぁ、イザナミちゃん」


「……」


 イザナミとクトゥルフが対峙する。イザナミは表情を変えずにクトゥルフを見ていた。やぁと気さくに挨拶をしたつもりだったクトゥルフだが、どうやら彼女自身の意思は希薄なのだと気がつく。


 骨で胸を貫かれたのはキツかったが、神話生物は空間を折り畳む事で身体を小さくしているので本体はデカい。なので、やろうと思えば復帰は早い。


 ダルクに言わなかったのは、一度試したい事があったからだ。


「《平凡な見せかけ》」


 クトゥルフは辺り一体に自身の姿を隠す結界を張った。


 そして。

 クトゥルフの身体から「ゴキっ」「バキッ」と物々しい音が鳴り始める。肌を突き破り無数の触手が現れ、身体は崩れて巨体が顕になっていく。


 それは名状し難い姿をしていた。


 蛸のような頭部に無数の触手。肌は緑色をしており、テラテラと水が垂れている。胴体は分厚く人の形のようで、しかし背中には巨大な、けれど決して飛べはしないと思わせる、蝙蝠のような翼が生えている。目はギラついた、それなのに水底のような澱んだ色をしている。


 巨体を支える触手はリア達を踏まないように避けながらも、数を数えるのが面倒な程に多い。


 悍ましい怪物を見たイザナミは。




 SAN値チェック。1D100。




 イザナミはサイコロが転がる音を幻聴する。


「あ……」


「ほー?」


 が、耐え切った様子だ。結果、彼女はよりハッキリと現状を理解した。強制的なSAN値チェックが意図せず気付けとなってしまったのだ。


「……ぃ!!」


 イザナミ本来の恨み怨みにより生み出される呪力が汚染を広げ、結界に亀裂を入れる。


「まずい《平凡な見せかけ》が崩れる」


 クトゥルフは急いで身体を空間に仕舞うと人形に戻る。ちょうど《深海の夢》も効果が切れ、リア達が目を覚ましていく。


 クトゥルフはひとまずリア達を呪力汚染から守るように立つと、障壁を発生させた。リアが真っ先に目を開くと。


「あれ、寝てた? え、こんな時に!?」


「おはようリアちゃん」


「だれ!? なにこの状況!?」


「私はクトゥルフ、オクタくんのお母さんだよ?」


 要領を得ないな、というか数秒の会話で察するの無理だわと思ったリアは。


「敵?」


「仲間だと思って欲しいかな?」


 声から感情が読み取れないが、ここに来て敵が増えるのもそれはそれで嫌だ。それから、ハッキリ言えば胡散臭さが無いのでリアは仲間と認定する事にした。


「まぁ護ってくれてるしな。よっし、クトゥルフさん呪力使える?」


「使えるよ」


「じゃあ、肘にちょっと呪力をください」


 リアは腕に杭をセットして。ウカノの神力を肘に溜めるとクトゥルフから呪力を貰う。


 そして、リアは拳を握り締めイザナミを見据えると。


 肘に溜まった神力と呪力が混ざり合う時。強烈な魔力の膨張が起こり爆発して、杭は亜音速で突き抜ける。


 方向は拳の先だ。だから、狙いも何もない。拳をアッパーで振り抜いた。


「《白撃》ッ!!」


 イザナミの顔面にクリーンヒットした《白撃》の杭は、彼女を伴って天高く突き抜けた。


 快刀乱麻、一切合切、全てを吹っ飛ばした。

読んでる人おらぬの

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
神様にもSAN値チェックあるんだなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ