神話白撃3
オクタとレイアが情報共有を行う。隣にいたグレイダーツはショウケイからの連絡で暫く席を外しているので、完全に2人きりだ。話題はさっきのクトゥルフと名乗る神性との出会いの話。
「君、神様の類いだったのかい……?」
「私もよく分からないが、しかし生まれを知らないからな」
「親らしいクトゥルフってどんな神様なんだろう」
「私のように触手がいっぱいなのかもしれない」
そんな会話をしているとグレイダーツが面倒そうな表情で戻ってきた。くらりと首を傾げ、携帯端末をつまんではプラプラとさせている。顔には面倒とも面白いともとれる、なんとも微妙な表情を浮かべていた。
「2人とも、日本地域に行くぞ」
「日本に?」
「ショウケイの所で神性が暴れてるんだと。なんでも名のある神様だとか」
「おお」
「おおじゃないが。オクタもいいか?」
「構わない。今すぐ救援に行こう」
オクタとクトゥルフとのやりとりは気になるがここで議論していても答えなど出ない。一先ず救援が必要というのなら力を貸そうと、グレイダーツの開いた《門》を通った。
《門》によりショウケイの指定した場所に出ると、熱風が肌を撫でる。カラッとした熱い風は神聖さが入り混じっているように感じた。それに焼けた香りが酷いが空気がどこか神性で澄んでいる。
「来てくれたか」
ショウケイがほっと胸を撫で下ろして言う。グレイダーツは遠くで暴れているマグマと炎の塊のような神性を見ながら「倒すのってあれ?」っと問う。
「あれなんだよなぁ……」
「なんだよなぁじゃねぇよ。何か策があって呼びつけたんだよな?」
「何もねぇんだよなぁ痛い痛い!?」
ショウケイの足の指先を思いっきり踏みしめながらグレイダーツは「近づくのも難しいな」と現状を理解する。一方でショウケイと顔合わせできたレイアはキラキラとした目で彼を見ていた。目的はもちろん呪力である。魔物の浄化現象が始まってから、ずっと呪力の使い方をシミュレーションしてきた。けれど、やはり手にしてみないことには運用できるかは分からない訳で。
家電があっても、電気エネルギーが無ければ動作確認すらできない。
「ショウケイさん!! 僕も呪力が使えるようになりたいです!!」
「おっと、これまた普通に習得するパターンだな?」
ダルク達と同じやり方でレイアを試すと、すぐに呪力の核心をつく。彼女は普通に習得してしまった。
「これが呪力……《召喚魔法》との相性は良さそうだね」
「なぁグレイダーツ。今の世代ってヤバいのか?」
「私の生徒は天才ばかりだからな」
グレイダーツは薄い胸を張って答える。わりと今年の1年生も含めて良い世代なのは確かだ。
一方で既にレイアは呪力操作で行う召喚魔法の擬似生命プログラムにおける、自律的な思考動作の細部を補完する……といった使い方を考えていた。ダルク達と違いしっかり使い道を考えて来るあたり、やはり天才なのだろう。
その傍で炎の神、軻遇突智を見ていたオクタは消火するにはどうすればと考え込んでいた。確かに自分は水魔法が得意だ。しかし得意なだけで突出した才能は無い。
「父はどれほどの神性なのだろう?」
故に、無学からここまで使い熟せてきた自分の親はどれ程の水系統の熟達者なのか気になる。クトゥルフ、ひとつの神話の代表格だ。もしかしたら海水を大量にぶっ込めたり、水圧で全てが切断できるほどのレーザーを放てるのかもしれない。未だ出会ってはいないがファーストコンタクトは優しかった。だから時間があれば指導してもらいたいものだ。
……………
一応主人公であるリアは空から降る神力を用いた地上の浄化を見て一息ついた。
(呪い……字面だけ見ると悪いモノばかり想像してしまうけど……あの世界軸のヴァルディアのようにひとつの物語になる事もあるんだな)
しんみり。たった1日の体験だったとはいえ、あの世界軸での経験は計り知れない情報と情緒と物語を齎してくれた。全てのヴァルディアの呪力がそうだとは限らないが……この世界では悪でも別の世界軸では善になる者もいるのだと心に刻む。それは自分も変わらず……きっとどこかの世界軸にはどうしようもなく愚かなリアがいるのだろうと思った。
それはそれとして。
「師匠、終わりでいいんですかね?」
「それなんじゃがのう」
デイルは自身の携帯端末に送られてきた、グレイダーツが遠くに揺らめく明らかにヤバそうな溶岩と炎の塊を背後に撮影された写真を見て。そりゃ簡単には終わらないかと思う。
「わしはここで後処理などに尽力しようと思う。だからリアは日本区域を手伝ってきてくれ」
「日本?」
「出来るのならバカンスで行きたかったんじゃがのぅ。今、日本区域では神性が生まれては暴れているらしい。その中でも軻遇突智という神が厄介らしくてな。必ず、力になれるはずじゃ」
「概ね了解。《門》だけ任せていい?」
「良いぞい。あぁ、待て渡る前に。ショウケイから呪力を学んでみると良い。得難い体験が出来るはずじゃ」
「俺は要らないんだけど……まぁ師匠が言うなら……」
レイアとは違い、リアはこれといって呪力を使いたいとは思わなかった。理由は単純で、リヴァイアサンの一件において一度神力を纏った状態を経験したからこそだ。此度の経験においても呪力には良いイメージはなく。ウカノ様の神聖な力の方が得たいと思った。
でも、まぁ使えるなら得ても良い。使えないならそれでいい。
そうして見慣れた《門》が現れ、リアはそれを潜ると日本区域に飛んだ。
……………………
「やぁ?」
《門》を潜ると見慣れた顔ぶれが揃っており、リアは片手で挨拶する。レーナとショウケイの2人がとても疲れた様子だ。一方でレイアは比喩表現となるが目がキラキラとしていた。
レイアはリアの姿を見ると「リア!! なんだかとても久しぶりな気がするね!! 元気かい?」と駆け寄った。リアも「怪我とかしてない?」と心配して声をかけるとレイアは「この通りだよ」と全身で健康を表現する。
「グレイダーツ校長に、レーナもショウケイさんもこんにちは。オクタくんは久しぶり。とまぁ、挨拶は程々にして。あれが今回のターゲットなんですか……?」
問いに対してショウケイが答える。
「鎮魂対象になるな。日本神話の軻遇突智だと思う」
グレイダーツが「炎の神様だと思えばいい。逆に言えば炎が厄介で何もできないともいうがな」と説明を付け加える。
「軻遇突智……恐ろしい炎っすね」
「そうなんだよ、純粋に熱ってだけで人間には過酷な空間になるからな。今すぐ対策を練らなくちゃいけないのに……ダルクはどこに行ったんだか」
「あれ、先輩も一緒なんですか?」
レーナが「神様見つけたって言って、何処かに行ってしまいました」と指をさす。記された方向には閑静な街並みと遠くに海が見えた。
「ダルクと言えばリアさん、変身アイテムってご存知ですか?」
「え!? なんで知ってるの!?」
「変身アイテムらしい指輪が、この世界に落ちてきまして。ダルクが本当に変身したので驚きました」
「あれが……。そうなんだ、この世界軸に……。なら、安心して使っても大丈夫だと思います。俺も詳しくは知らないんですけど、悪いモノだとは思えないので。でも後で検査はした方がいいと思います」
「そっか……」
「……レーナさん、なんか気落ちしてますね?」
「いえ、私もちょっとだけ変身とかしてみたいなぁーって……いえ聞かなかった事にしてください」
「ふふっ」
「わ、忘れてくださいね!?」
恥ずかしがるレーナだが、その少年心は分からなくもない。隣で理解者としてうんうんと頷いておく。それはさておき。
「じゃあ全員。作戦会議だぞー」
パンパンと手を叩き、グレイダーツが話の音頭を取った。
「今回の事象『軻遇突智の顕現』において、試してみたい事がある奴は挙手」
レイアが率先して「師匠!!」と手を挙げた。
「そもそも、あれって敵対しているのかい? それに話し合いで解決できるなら、お帰り願う事もできると思うんだ」
「という訳で、今私が《召喚》した西洋甲冑を一体飛ばしているぞ。めちゃくちゃデカく作ったからここからでも良く見える」
全員が軻遇突智の暴れている方向を見る。西洋甲冑の接近に気がついた軻遇突智は、無数の炎の弾を放ちながら近づけないようにしている様子。そして、50メートルくらいを目前にきたその時。ぐわりと人型が形を崩し、片手を上に挙げた。
熱が収束していく。天津甕星のように、とても小さな太陽が形成され、そこからエネルギーが熱線の形をとって解き放たれる。熱線は西洋甲冑を溶かして切り裂き、余りある余剰エネルギーが街を横断していく。
運が悪い事にこちらに向かって。
「《結界魔法》!!」
リアが結界を張ると、ジュッと嫌な音を立てて結界に熱線がぶつかる。しかし、一応はリアとて進歩しているのだ。結界は割れる事もなく皆を護った。
「すっごい久しぶりに《結界魔法》が活躍した気がする!!」
このご時世、普通なら使う機会は少ない筈なのだが。リアは台風の目に飛び込むタイプの人間である為に、妥当な進化といえよう。そして今回はその進化に助けられた。熱線だけてなく熱波すらも遮断する結界の効果は絶大である。
「私の障壁じゃ危なかったですね……。リアさんお疲れ様です」
「守れたのはいいんですけど、これで完全に軻遇突智の目がこっち向いたみたいです」
呑気してる場合じゃねぇと全員が思った。
ほんの僅かな接触で敵認定されたのだ。このまま緩やかに談義と会議など出来るはずもなく。第二射と、既に小さな太陽が作られ始めていた。
「俺は《縮地》の使えないレーナさんと行動します。グレイダーツ校長とショウケイさんは心配していませんが、レイアは気をつけてね。突っ込んじゃダメだよ?」
「リアもだよ、無茶したらダメだからね」
「よし、んじゃ全員散会!! 連絡は携帯端末で行うこと!!」
「時々思うんだけど、テレパシー的な魔法が欲しいよね。なんでないの?」
「プライバシーの観点で色々と規制されたからだ」
「つまり、あるにはあると……」
……………
一方でダルクの方は、完全に戦力外だと言うノーデンスとモルディキアンが起こしたという超戦力のクトゥルフを待っていた。二柱曰く、直接見たらSAN値減るよ? との事なので特製のゴーグルを装着済みだ。
その間にも神性を中途半端に得た付喪神らしき存在に襲われ、対処しつつ数分。海から巨大な水飛沫が上がり、豪雨が如く天から海水が降り注ぐ。一瞬だけ巨大な蛸と人を組み合わせた化け物が見えた気がしたが、瞬きした時には人の形になっており、岸辺に着陸する。
降り立ったのは、海色で波のようにコロコロと色を変える髪を靡かせた美人だ。顔立ちの異常な整いは神様の一柱だと言われれば納得できる。服装は賢者のような少し古臭くもファンタジーみを感じるローブを着ている。身体つきはまさに女神と言える肉付きの良さ。街を歩けばナンパにスカウトと大人気だろう。
そんな彼女、クトゥルフは気さくな笑みで口を開いた。
「久しぶりだねノーデンス」
「おはようございますクトゥさん」
「うん。それから、モルディキアンと人の子。君達もこんにちは」
「こんにちはです!!」
「こんちわー、私の事はダルクって呼んでくださいっす」
「分かったよダルク。ん? 息子に近しい匂いがする。もしかしてオクタと友達かな?」
「え、オクタくん? うーん? 友達なのか? 友達の友達ではあるんですけどね」
「そうか。できれば仲良くしてやってくれ。さて、じゃあ平穏の為に頑張るとしようかな」
ノーデンスとモルディキアンは互いに戦力外を伝え、更に下手に権能を使えば人々を狂わせ兼ねないことを説明する。
一方でダルクは「私には私なりの理由がある。なによりも渡されたバトンを投げ捨てる事はしたくないから戦うぜ」と心意気を伝えると、クトゥルフは和やかな笑みで「なら共に行くか」と了承した。
モルディキアンがせっかくできた人間の友達が故に心配をし、ダルクの「ま、私が死んだら弔ってくれや」という冗談を受け本気で怒ったり、ノーデンスも「任せっきりになりますねぇ。まぁ雑魚はこちらでなんとかするので頼みます」と頭を下げたり。話は簡潔に済ませ、軻遇突智の元へ向かう事になった。
「ではダルクとも今から友達だね。お手をどうぞ」
「これはご丁寧に。でも私《門》使えますぜ?」
「私の魔法を特等席で見てもらいたくてね」
「……そういうことなら遠慮なく」
ダルクがクトゥルフの手を取った瞬間「グワンッ」と空間が湾曲する音が鳴り、姿が消えた。感じた余裕はさて。偉大なる海神の権能は猛々しき炎に届くのだろうか?




