世界軸26
ところ変わって、レイアとグレイダーツに移る。
レイアは身構えていた精神が落ち着いていくにつれ、なんとも言えない気持ちになり、に口を開いた。
「なんか、僕らのところは平和だね。人魔大戦くらいヤベーって聞いてたのに」
「まぁ、ヴァルディアが起こした人魔大戦は『戦略』があったからこその厄介さだったからなぁ。統率の取れていない魔物の群れなんて、こんなもんだよ」
自分達の召喚した西洋甲冑達が、魔物相手に蹂躙していく様を眺める。ダルクからは『神様相手に死にそうな体験したけど、そっちはどう?』、リアからは『めっちゃ不思議な体験したから、後で語らせて』とメールが来た。2人とも『非日常』を体験したのだ。死にそうな体験かもしれないが、少し羨ましい。
「いやね、何も起きないならそれにこした事は無いよ。でも、僕も一応ヴァルディアとの因縁? みたいなのあるよね?」
「ボスみたいなのはさっき倒しちまったからな。ま、いいじゃん平和で。私は気が楽だ」
のびーっと背を伸ばしてストレッチするグレイダーツ。彼女は避難場所である学園の防衛並びに魔物の殲滅と、呪力の調査が主なのだが。別に何も起こらないならそれが1番いいと思っている。
「呪力って誰にでもあるんだよね?」
「ショウケイが言うにはあるらしいけど、人の身体には魔力の浄化機能が備わっていて、基本的には綺麗な魔力に変換されるから使えないらしいぞ。ショウケイは使えてたから、絶対に使えない訳じゃないみたいだが」
「……勿体無い。呪力で発動する必殺技とか出来たらなぁ」
「漫画の読み過ぎだぞ。でも、なんだかんだお前ら充分に漫画的な経験してるじゃねぇか」
「そんな事を言い出したから、師匠達の存在も漫画みたいなものだよ?」
「ははっ、確かにな」
平和な会話をしながらも、魔物の数は減っていく。
「なんか不思議だよね呪力って」
「今度ショウケイに頼んでやろうか?」
「え、ほんとに? ならお願いしようかな。よし、目指せ呪力使い!!」
なんか弟子が召喚魔法使いからズレ始めてる気がするなぁとグレイダーツは思った。
……………………
場所は変わりライラ邸。ライラのシストラムとディオの粒子技術により、大都市を自動防衛するという実績を得たデルヴラインド社は、社名と株価を爆荒れさせていた。
しかし、当のライラにはそんな事に思考を割く余裕など無い。
「私が2人だと呼びにくいな」
ライラが最初に提案したのは自己紹介である。人間のコミュニケーションの最初において、自己紹介はとても大切だ。ライラの言葉に、別世界軸の彼女も頷く。
「確かにな。じゃあ私は『ライナ』とでも名乗るか」
「お、なら我は『ティナ』にしよう」
別世界軸のティオも名を変えて。
「ふむ、じゃあ我から。薬学主任研究者のティオだ。最近は治癒魔法の王に弟子入りしたので、一応は治癒魔法使いでもある」
「なぬ!? 王の弟子……格好良いではないか!!」
「あの我よ……中二病やめないか?」
格好つけて話す。格好良いと思っているポーズをとる。そんなティナとティオは顔が同じなので、黒歴史を掘り返されているようで恥ずかしさが天元突破していた。
……話が分からない訳ではないのだ。その羞恥が通じていない訳でもないのだ。
酷く、至って真面目な表情をしたティナが言った。
「……話すと長くなるが、このテンションが1番精神崩壊を防げるんだよ」
「……」
この人ら結構な修羅場と人生経験をしていることが分かっているからこそ。
なにも言えねぇ……。
と、空気が最悪な2人を放っておいてライラとライナも軽く自己紹介をしてから本題に入った。
「色々と話をしたいところだが、今はこの世界の事態を終息させたい」
「あぁ、私達はリアとヴァルディアの弔いの為に来た。そして一緒に持ってきたのが……」
ライナは天に指を向ける。
「宇宙にある人工衛星。アマツクミだ。あの衛星には月と太陽のエネルギーを吸収する機構が取り付けられていてな」
「太陽と月……神力か?」
「正解。別名は神力砲……或いは平定砲だ。太陽と月にはどの世界軸でも世界的に信仰されている。そして世界軸調査の結果、基本的に『魔力』などの不確定要素エネルギーの存在する世界の太陽と月には、膨大な神力がある事が分かった」
ライナはポッドの中に入ると、ノートPC……のようなモニターの付いた機械を取り出した。
「ネットワークを借りていいか?」
「もちろん、存分に使ってくれ。なんなら、一旦私の工房に行くか。有線の方が安心できるだろ? ところでティガ、さっきから黙ってどうした?」
肩に乗っかって存在感を無くしていた世界最高峰の人工知能が、ライナを細かく観察するようにカメラアイを動かしている。ただ、それは側から見れば人形に徹しているようにしか見えないのだ。
そして、彼女はスピーカーを大音量にして言った。
『マスター!! ライナさんCカップありますよ!? これは世界軸理論や並行世界の自分という存在の一致率などの議論において、とても面白r』
言い切る前にライラはティガを掴むと海に向かってぶん投げた。
『ふはははは!! 私はインターネットがある限り不滅!!』
「どちらにせよ飛べるだろうが」
ため息を吐きながらも。ずっと抱いていた警戒と未知に対する恐怖が和らいだ気がして。腹は立つが、心の中で礼を言った。
それから、ずっと空気だったルナとクロエにライナが視線を向けた。興味はどうやら、ルナに向いたようだ。
「なぁ、もしかしてリアの妹か?」
「はい!! 妹ですよ!! そしてこっちも妹のクロエちゃんです!!」
「こ、こんにちはライナさん。えっと、ホムンクルスのクロエです」
「ホムンクルスとな!?」
ライナを押し除けて、ティナが前に出るとクロエの両肩を掴む。目がキラキラしていて、表情はおもちゃを買って貰った子供のように無邪気だ。
「この娘が……。私が唯一、成し得なかった、完成系ホムンクルス……」
並々ならぬ感情をクロエに向けているのが分かった。どこか鬼気迫る様相のティナの頭をライナがしばいた。
「気にすんな2人とも。……どんなに頑張っても死者は生き返らない」
「分からぬでは無いか。我らは天も獄も観測していない。しかし魂の存在証明は為されているのだ。なら……」
「その人が決めた死ならば敬意を表し弔うべきだ。レイアが私らを見送る時に送った言葉を忘れんな」
彼女達のやりとりに、クロエは思いを浮かべる。私は幸運なんだなと、今の幸せを噛み締めた。
…………………
ライラの家に揃っているのは、この世界で最高峰の最新研究および開発設備……。しかし、ライナとティナの世界には遠く及ばない。
「3世代くらい前の設備だな」
「そりゃあ量子コンピューターを持っていた人達と比べられてもね」
別に悔しさとかはない。科学者は先を歩く者を尊敬するものだ。足跡を追い、その過程で知恵が閃いていく。
「いつか量子コンピューターも私の手で作る」
「頑張りたまえ、まぁ私なら出来るだろうけどな。それでティナ、アマツクミと接続できそうか?」
「任せておけ、我が宇宙という星々の楽園と繋げてやろう」
「あのライナさん、もし出来ないとどうなるの?」
クロエがなんとなく聞くと、ライナは首を振った。
「呪力は反発し、結合し、巡る。要するに、この呪力による魔物の大量発生という現象が……少なくとも300年は続く事になる。人間や動物という自然的浄化機能をもってして、だ」
その言葉にルナは首を傾げた。多少、余裕のできたリアとダルク、グレイダーツやレイアのグループメッセージでそれなりに討伐が進んでいる事を知っている。ただ、相手はライラの数倍賢い。
「この世界軸の地球は呪力に汚染されているって事ですか?」
「そうなる」
「スケールがすごい……。それにお姉様が心配ですね……」
ルナは前線で魔物が街に向かうのを抑え込む一員として動いているリアを心配する。たとえ雑魚とはいえ、無限湧きは対処しようがないからだ。
神妙な表情をするルナ。その彼女に、ライナはさっきから気になっていた事を聞いた。
「なぁ、お姉様って……この世界のリアは女の子なのか?」
「はい!! ちょっとばかし、複雑な事情はありますが……超絶美少女ですよ!!」
「……会うのが楽しみだな」
………………
遥か空の上。真空の人間が生きれない無重力の宇宙で、巨大な人工衛星が動く。菱形を基本とした形で、ひとつの角に巨大な砲門が装備されている。それだけのシンプルな作りだ。
その菱形の衛星から、神力を収集するのだ。ティオが説明を聞いて面白いなと考えた。主に、人工衛星に使われている鉱石類に関してた。
エネルギーを貯蔵には『電池』が必要だ。今回においては超エネルギーの塊を溜め込める電池。一体それはなんだ?
「なぁティナ、時間が出来たら質問攻めしていいか?」
「同じ我なのだ、当然構わない!! この私が講義をしてやろう」
「……心が踊るな」
言葉のやり取りをしつつも作業は進む。
先に神力を溜め込むと表現したが、簡単に出来るのかと言われれば『現状』による。
神力と言われれば気難しいエネルギーだと思われがちだ。しかし超常的存在……つまり『神の思考』が及ばなければ、自然エネルギーと同じで『人の手』で扱える。逆に言えば呪力は意思がなければ澱んだエネルギーでしかないとも言える。
その第一段階である、月と太陽へのアプローチが始まった。
「私達は蚊帳の外ですねー」
「だねー、ルナ姉。でもこれ歴史的に見れば凄い場面に遭遇していると思うんだよ」
「ですね!! まぁ、傍観者らしく見物していましょうか」
そんな2人の台詞を聞いていたライラは、ライナにひとつ質問を投げた。
「神力が思考により動くエネルギーだとして、誰が動かすんだ?」
「一応、私の脳を利用するつもりだけど、どうした?」
「……ルナとクロエは、この世界の『神』に一度、神力を借りた経験をしてる。彼女達の方が上手く使えるのではと思ってな」
「なるほど……ティナー!! 聞いてたか? どう思うー!?」
「ふははは!! 神の僕がいるとはな!! 悔しいが頼んだ方が正確だ!! 科学者にとって正確なのは有難いからな!!」
「私も同意見だ。ルナちゃん、クロエちゃん。手伝ってもらっても良いかな?」
ルナとクロエは互いに顔を見合わせて不安そうに言った。
「私達が出来ることなのでしょうか?」
「神力を使ったと言っても、ウカノ様に借りただけだもんね。私達が操作したって感覚は薄いし……」
ライナは躊躇する2人に見せつけるように何処からか、にゅるっとヘルメット形式の装置を取り出した。ヘルメットにはこれでもかとコードが繋がっており……見た目を例えるなら「脳みそが駄目になりそう」が最も的確だろう。
ルナとクロエは爽やかな笑顔を浮かべ、ライナにサムズアップする。
「ライナさん!! 頑張ってください!!」
「応援してます!!」
「大丈夫、私は拷問器具にしか見えてないから」
2人の初々しい反応に、苦笑を浮かべるライナであった。




