世界軸25
ヴァルディアから呪力の瘴気と共に突風が吹き、リアは遠くの壁まで吹っ飛ばされる。
空を舞う僅かな時間。変身システムRAVENの黒い渡鴉を模した装甲を纏っていく内にリアの意識が少しだけ遠のく。そこに見えたのは『歴史』だった。
オーパーツは世界を巡り継承されてきたらしい。RAVENはそのひとつであり、この世界軸にあるオーパーツは渡鴉に釣られてやってきたようだ。元々は人が発明した物であるが、技術は不明。けれどライラならば解読できるかもしれない。そんな神秘的なアイテム。
そしてRAVENの装着者達の記憶や歴史、思いが、コマ送りのように見えては消えてゆく。
自分を犠牲にして消えた者、次に託して手放した者。
ただ、ひとつ確かな事は。成すべき事がある者の手に渡る事だ。正義の心などなくてもいい。たとえ独りよがりでも、成すべきことを目指す物の手に。手助けをする力として継承される。
意識が引き戻された時には装着は完了した。フルヘルメットのような頭部装甲だが視界は良好。同時にオーパーツの能力情報が流れ込んでくる。
変身できたという事実は、この世界に干渉できる証拠だ。これで、異世界のリアとヴァルディアを引き剥がす。
周囲では突然、現れたRAVENに戸惑うリア(異世界)の仲間達の姿が見えた。その中の1人、レイア(異世界)は何かを察したように動き始めていた。
ダルクとばかり関わりがあったように思ったが、この世界では親友なんだなと思う。異世界の人間関係の類似は面白い題材になりそうだ。
なんて考えながらも、リアは直ぐに向かう。吹っ飛ばされた距離はかなりあり、更にヴァルディアの前に立つと凄まじい暴風で体幹を削られる。近づくにつれ、立つのが難しくなり、這いずりつつ爪を召喚すると地面に突き刺して耐える。
(不味いな、簡単にはいかないか)
それでも両手の爪で少しずつ近づいていく。その時、背後からガシャガシャと大きな音が聞こえてくる。西洋甲冑の聞き慣れた音。
「誰かは分からないけど、レイヴンを継いだ人!! 手伝うよ!!」
声……による世界の干渉はできなかった。なので頷く。それだけでレイアは充分だったようだ。西洋甲冑のオーパーツはかなり重いのか、リアを小脇に抱えながら少しづつ進んでいく。
「リア、生きてるかな……」
人の命を天秤にする事は神のする事で、人間がするのは烏滸がましい。それでもレイア(異世界)にとってはリア(異世界)の命の心配が優ったのだろう。
やる事がひとつ増えた。リアは脳内でオーパーツRAVENの機能を探す。
変身もののお決まり。機能の強化や増加が出来ないかと考えた。歴代RAVENの継承者も、立ち向かうべき事に対して新たな力を手に入れてきた。さっきのリア(異世界)が発動した白い装甲も、彼の意思が生み出した能力の一つだ。
(俺に『覚悟』があるのなら!!)
纏え、新たなる力を。
掴め、分つ力を。
流せ、生命力という毒を。
もう、ヴァルディアが呪いになる運命は決まってしまっている。忘れてはならない。これはヴァルディアの呪いの能力により飛ばされた、彼女の軌跡を辿っているだけなのだ。
(分つ力なんて思いつかない。でもそれで良い。引き剥がせば良いんだから。あと必要なのは『命』の力。頼むよRAVEN)
願った時。爪が砕けた。そして。
《ブラック・レーヴェン》!!
場違いな音が鳴る。しかし希望の音だ。
「今のは……?」
戸惑うレイアにグッドサインを送る。レイアは迷った後、飛ばされないようにリアを降ろして背後から支えた。たった一つのジェスチャーでそこまで読み取ってくれる彼女に胸を打たれながらも。
(……戦闘機のように)
ガシャンガシャンと装甲が変形していく。より細くスマートに。そして極限の加速力を出す為に。この程度の風なら超加速で突っ込めばいける。竜巻レベルではないのだから。
「……頼んだ」
レイア(異世界)の声を最後に。
リアは強烈な加速をもってして、ヴァルディアの元に辿り着くと彼女を強く抱きしめた。
『ブラック・レーウェン』。黒い生命力という『毒』。強制的に『生きる力』を与える。それは、死にたい人間すら生かすモノ。だからこそ『毒』たり得る。毒とは別に、全てが悪影響を及ぼすモノではない。
そして飛ぶように跳躍し、風を切って突っ込む。
掴んだ。
(ヴァルディア!!)
掴んだ腕を基点に、ヴァルディアが抱きしめているリア(異世界)を引っ張り出そうと力を込める。
同時にオーパーツから《ブラック・レーウェン》を発動させる。
大怪我を負って生命力を燃やしたリア(異世界)。発狂と同時に呪力を吹き荒らすヴァルディア(異世界)に強烈な命の奔流を叩き込む。気付けをされたヴァルディアは溢れ出る呪力の中で一瞬正気を取り戻した。そしてリア(異世界)も同様。
「生きて」
……リア(異世界)が叩きつけた言葉が。たった一言届いた彼女が、一粒の涙をこぼした。
突風が弱まる。けれども一度吹き荒れた呪力はヴァルディア(異世界)に纏わりついて離れない。彼女と呪力の分離は出来なかった。
「ごめんリア」
ヴァルディア(異世界)がリア(異世界)を手放す。リアは彼を掴むと背後にぶん投げ、レイア(異世界)がキャッチしたのを見ると。オーパーツの機能を発動する。
《渡鴉》!! 『旅立ちの時』!!
元の世界に戻るよ。お前は結局、呪いのまま世界を渡ったのだろう? 渡鴉がリア(異世界)の世界と人生を壊さないように。呪いを全て持っていった。
………………
世界がぐるりと回り、廻り。時と世界軸を超えてリアの精神は元の世界へと帰る。
辿り着いた場所で、再び呪いの塊であるヴァルディアと対峙していた場面へと移った。たた、ひとつだけ違う部分があるとしたら。『核』のように、彼女の胸にオーパーツRAVENの南京錠が埋まっているところ。
拳を構えて……手の中に金属の感触がして。攻撃してくる呪いや魔物を回避しながら手を開くと。
「……救いはあった」
RAVENの変身アイテムの鍵があった。思わず笑みを浮かべてしまう。渡鴉は、きっと呪いの中にいるヴァルディアを運んでくれる。そう願って《縮地》で地面を蹴り、攻撃を掻い潜って鍵を南京錠に突き刺した。
《RAVEN》!!
渡鴉を模した装甲が展開していきながら、粒子となって消えていく。向こうのリアの元に届いて欲しい。願いながら、今度こそ拳を構えて、破壊の魔力を撃つ。
「《皐月華戦・改》ッ!!」
穿ち、呪力はリアの『人気という信仰』を纏った神力と魔力を伴った打撃魔法によって霧散する。凄まじい突風と黒い呪力の奔流の中で、微かにだが「ありがとう」と聞こえた気がした。
「向こうで生きて帰れてたら、いいな」
周囲にはまだまだ魔物が蠢いている。リアは少しだけスッキリとした気持ちを感じながら一歩踏み出した。
(この世界の仲間をより一層大切にしよう。周りで戦う名も知らぬ魔導機動隊員や魔法使いとも縁を作れたらいいな)
さて、油断せずにいこう。




