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世界軸21


 響く誰か分からないが、錠前が拡散するように砕けると、男の力強い声で『認証』と鳴った。


 すると空中から黒い装甲達が現れ、鴉が羽ばたく『バサッバサッ』という音を響かせながらリア(異世界)の身体に「ガシャンッ!!」と甲高い金属音と共に高速で装着されていく。右腰にはさっき出てきた錠前が存在を主張するように装着されている。最後に頭なのだが、これはとてもシンプル。例えるならバイク用フルヘルメットを機械っぽくしただけだ。それが後頭部から展開されていき、最後にバイザーが『ガチャン』と閉まる。


 ぶっちゃけ派手な格好ではない。

 例えるなら、魔導機動隊の突撃部隊、あるいは特殊部隊の装備に少しの遊び要素を足したような見た目だ。


 全身真っ黒の装甲を纏い、黒と金の刺繍が入ったコートをはためかせる姿は、確かにヒーローっぽい。最後に変身が完了した合図『RAVEN』!! と彼を表すヒーロー名が告げられる。レイヴン……『鴉』がモチーフらしい。

 もしくは渡鴉。次から次へと標的を狙っていく彼を皮肉っているようだ……と考えてしまうのは自分が捻くれているからだろうか?


(想像したまんま特撮系の変身だった……。しっかし、うむ……)


 楽しめる状況じゃないのは分かっている。人の命が失われ、冷静さを保ちながらも静かに怒りのマグマを煮立たせているリア(異世界)。彼の気持ちも分かるつもりではある。同じリアなのだから。この世界の『死の概念』は分からない。けれど、殺すと決めたら殺さなくてはならない信念があるのは分かった。


 それにしでも……格好良いものは格好良いと言いたい。この世界の自分が今からどのような戦いをするのか、期待に胸を膨らませる。


「……爪」

《ポイズン・オニュクス!!》


 リア(異世界)が纏う両手のガントレットから3本の爪が飛び出した。日本刀のように大きく鋭利な刀のような爪だ。

 最初に出したという事は、これがメイン武器。


(剣とかじゃないんだ。うん、尖った性能の武器はロマンあるよね!!)


 なんて、どうでも良いことを考えて目を離した時だ。ただ、コートがはためいた音がして。瞬時にリア(異世界)の姿が消える。


 驚く間もなく「ガキンッ!!」と刃物同士が激突する金属音が聞こえてくる。次に、矢継ぎ早で剣戟の音が響いた。黒山羊頭の居る方に目を向けると2人が、高速で斬り合いをしている。時々、瞬間移動のように間合いを複雑に取り合っていた。しかしそれでも、魔力は感じないので魔法ではないのだろうか?


「毒の爪も当たらなければ、この程度」


「お前の剣も当たってねぇだろ」


「わざとだよ。餓鬼の遊びに付き合ってやっただけだ。《豊獣》」


「!!」


 黒山羊頭から「ブワッ」と黒い瘴気が吹き、リア(異世界)を軽く吹き飛ばす。そして空中で身動きの取れないリア(異世界)に、黒い何かが高速で突っ込む。「ガハァ!!」と肺の中の空気を全て吐き出し、地面を凄い勢いで転がっていった。だが、途中で爪を地面に突き刺して減速する。


 黒山羊頭から溢れ出した黒い瘴気が固まっていき、1匹の大きな黒い山羊を形成。召喚系か手強い。能力が分からない以上は慎重になるべきだな。なんて思っていたのだが。


 次に見た時には、空中で身体を捻り爪で山羊をサイコロステーキにするリア(異世界)の姿があった。そのままの勢いを爪に乗せ、黒山羊頭を刺し貫こうとしたのだが、剣でガードされる。


 ここまで来れば、リア(異世界)の変身能力の真骨頂は推測できた。毒による状態異常攻撃と、おそらくは短距離の瞬間……もしくは転移系の移動。毒はまだ爪に効果が乗っている状態しか見ていないが、水状にしたり霧にしたりも出来そうだ。


 なんて推測していたら、予想の斜め上を行った。短時間の鍔迫り合いの中で。


 リア(異世界)のスーツから音が鳴る。


《必殺・毒爪翔》


 爪から毒々しい緑の光が伸びる。それからぐんっとリア(異世界)の爪が多少の物理法則を無視。鍔迫り合いの力関係も無視して、薙ぎ払われた。


 毒の爪による薙ぎ払いは黒山羊頭の背後の建物すら切り裂く。周囲にあった樹木は一瞬で枯れた。いや……光に照らされた範囲の生命体は全て枯れている。


(必殺技は変身ものの醍醐味だけど、毒効果がヤバいな。しかも初見だと避けようがないぞコレ)


 あとは……仲間とか護る対象がいたら使えないな?


 ただ、必殺の言葉通り凄まじい一撃。


 だったのだが、吹き飛んだ黒山羊頭は空中を蹴ってくるりと着地した。着ている服の汚れを叩いて払う姿には余裕が見て取れる。ただ、ほんの少しだけ苦悶の表情を浮かべた。


「この私が、気分が悪いだと?」


「必殺の毒で気分が悪くなる程度かよ……」


「……ッチ、餓鬼。この神の気分を害する事ができたのだから誇るがいい。しかし遊びにも飽きた。これでも忙しい身なのでね。帰らせてもらうよ。《権能:豊獣万歓》」


 剣を地面に突き刺した黒山羊頭。すると、まるでさっき剣を形を作った時のようにドロリと溶け……一瞬だけ苦悶の表情を浮かべる人の顔が現れ……スライムのように爆ぜてから集まり形を成す。姿形はさっきの黒い山羊と同じだが、身体と角が大きい。そんな山羊に追随するかのように、数えるのが億劫になる程の数の黒い山羊が湧いて出てきた。周囲を見回せば、戦闘音を聞いて駆けつけてきた黒服達が巻き込まれて溶かされていく。生贄のよう……いや、黒山羊頭が態と黒服が来るのを待っていた。生贄にする為に。


「生贄を必要とする邪法……。逃すか!! 精神力消費ッ!!」


『認証』《必殺:渡鴉ノ毒》!!


 両手の爪に毒々しい紫と赤の光が収集していく。足元には緑の光が迸る。


「はぁぁぁあ!!」


 爆風と共に、リア(異世界)はほぼ音速で爪を振り翳し瞬間移動する。そして黒山羊頭の目の前で、全ての光が混ざり合い何重もの爪による光の軌跡が戦場を彩った。溢れ出した山羊の殆どは余波で斬り殺され空に消えていく。


 これは当たった。リアですら思うも。この世界には魔力ではない瞬間移動や転移がある事も知っている。リア(異世界)は手応えを感じなかった。


「逃げられた……」


 残ったのは黒山羊頭が着ていたの切れ端。本当に遊ばれていたのだと思い、血が滴る程、唇を噛むリア(異世界)。見ているだけしか出来なかったリアも、複雑な気持ちで戦いの終わりを見届けた。


………………


 変身を解いたリア(異世界)は、緩やかに倒れて床に伏せる。さっき精神力消費と言っていたが、その反動だろうなとリアは考える。


 大丈夫だろうか。リア(異世界)の顔を覗き込んだ時。トンっと靴音が聞こえ、どこからともなく少女が現れた。


 ピンクブロンドの髪色を見た瞬間、あぁ『異世界のダルク』だとリアは察した。彼女はリアとは異なりフード付きの短いコートでラフな装備をしていた。ただ、背中にはそこそこ重そうなリュックを担いでいる。


「先輩……」


 しんどい筈なのにリア(異世界)はゆるゆると正座した。


「お疲れ」


 労いの筈なのに、言葉に棘があった。


「えっと、その……」


 心当たりがありまくる。それはリアとて分かることだ。彼は言葉を濁しモニョモニョしていると、ダルク(異世界)は深くため息を吐いた。


「私は証拠集めしてたんだよ」


 切り出しは緩やかだ。けれど棘は取れない。


「ある程度の証拠を回収したから、助太刀しようと機会を伺っていたんだけど。あのさぁ……お前が1つでも必殺技を使ったら、毒で戦闘に介入できないの。分かる? 解毒できてもキツいもんはキツいの」


「……はい、すいません」


「おかげでターゲットには逃げられたし。任務は半分成功だな」


「不甲斐ないです」


 項垂れるリア(異世界)。そんな彼にダルク(異世界)は頭を撫でた。


「はぁ……しゃーない。切り替えてけ。また山羊案件だからな。これから仲間達で大規模調査もする。挽回してけばいいさ」


「先輩も助けてくれる?」


 うるっと上目遣いのリア(異世界)。こいつ、あざとい仕草を平気でやりやがると思っていると、ダルク(異世界)にも効いたらしく。ほんの少しだけ狼狽えたのが分かる。


「か、可愛……じゃない。当たり前だろ? んじゃ警備部隊が来る前にずらかるぞ」


「あ、まって先輩。地下に囚われた少女達が……。助けに行くって、言っちゃったんです」


「……何度でも言うがなリア。私達の組織は慈善事業じゃねぇんだ。それに行方不明者なら、警備部隊が保護するだろうよ」


「分かってるんです、ですけど」


「はぁ……あーもう!! 安心しろ、後で私が見に行ってやる!!」


「お願いします!!」


「んじゃ、今度こそ撤退だ」


 サムズアップすると、彼をダルク(異世界)は軽々しく担ぎ上げて駆け出す。疾風と呼ぶに相応しい速度で離れていく彼女を、魔法が使えないリアは必死に追いかけた。


 この世界、本当によく分からなくなってきたな。


…………………


 事務所で短いやり取りを終えたリア(異世界)。ジル(異世界)からは、おねショタかな? と言いたいくらいヨシヨシと慰められ、少し元気を取り戻していた。ダルク(異世界)が白い目で見ているのでやめてほしいが、何度でも言う、この子13歳なんだよなぁと。それからジル(異世界)はダルクの持ち出した資料を見ながら呟く。


「なるほどな。山羊に新しいメンバーが出来たって事か。殺し損ねたのは痛いな。にしても、やっぱ謎の宝玉らしき記述はあるのか」


「その宝玉みたいなのが、力の根源っぽいって推測しか出来ないのが痛いよね。捕まえれたら尋問もできたんだけど」


「うぅ、俺のせいです……」


「リアは悪くない。変身して勝てねぇなら仕方ない」


 リアはジル(異世界)がテーブルに広げた、ダルクの持ち帰った証拠の数々を見ながらも、この世界の難題が何なのかを考える。

 テーブルにはダルク(異世界)の持ち帰った道具や日記らしき書記もあるが、残念ながら触れないので、彼等の動向を見つめるしかできないのが歯痒い。


 ただ、あの黒山羊頭には背後に大きな組織がいる。彼等の目的はそこの調査や或いは壊滅や殲滅。そして宝玉とやらの回収なのだろう。殺し屋とは言いつつも義賊的な立ち位置にいるのだなと思う。


 それに後ろ盾の話をするなら。ジル(異世界)……いや、ジルはリアの母親からの依頼だと言った。後ろ盾となる、この世界の母親の立ち位置もしりたいところだ。


(俺の世界の母さんも、大概だもんな)


 元気いっぱい、今は世界を駆けるデザイナー。若々しくて歳とってるの? 本当に? と周囲に言われる母を思い出して苦笑した。


 さて陽は沈み、営みの夜が始まる。そんな中ジル(異世界)は財布を持ち出し。


「っしゃ、じゃあ焼肉行くぞ!!」


「焼肉!! 私も行っていい?」


「高い肉禁止」


「高い肉しか食わないんだよなぁ!!」


「だから嫌なんだよ……」


「あ、けど、その前にリアの依頼を片してくるわ」


「リアの?」


「そ、また生贄になりそうな幼子がいてな。性的趣味じゃない、けど悍ましい事に使われそうだったんだがギリギリ助かった。まぁここはリアの手柄だ」


「その、しっかり保護されたか確認したくて」


「そういうことね。気をつけて行ってこいよ。警備部隊に見つかると面倒くさいから」


「あい。さっさと行ってくるわ。いつもの焼肉屋に集合な!!」


「リア、ダルクが来ないように違う所にしようか」


「殺すぞ」


 ダルクの一言には、軽い殺気が乗っていた。


…………………


 焼肉るんるんな彼等について行っても、今日はこれ以上の収穫はないだろう。だから、ここでリアは一旦、今の自分の状況を考察する事にした。


 ジルの事務所のソファに座り。


 確定した情報ではないので、これだと決めつけるのは良くないが……。なんとなく、リアはこの世界は『本物』の可能性があると考えていた。

 『呪力』にばかり焦点が当てられた今回の一件。そして元々やってきた自分の遺体。これらは全て『時』も『時空』も……『世界』すら越えてやってきたのだ。ならば『時も時空も吹っ飛ばして、あのヴァルディアが元々いた過去に来た』……無いとは言い切れないのではないだろうか?


 つまり、自分は今『本物』を体験しているかもしれない。


 例えるなら記憶か魂。それをここに飛ばされた。幽霊の存在は証明されたので無いとは言い切れない。


 言うなればリア(幽体)だ。


 自分の肉体はどうなっているのかの問題は、分からないので脇に置いて。


 ならば、見るべきものもは……ヴァルディアの体験ではなく。この世界軸のリア・リスティリアの人生なのではないか?


 なら……なんとなくだが、この世界軸のヴァルディアかリアは近いうちに死ぬ。呪力の塊としてヴァルディアはやってきたのだ。嫌な予感しかしない。


 「だから見届けてほしい」。自分の世界へやってきたヴァルディアの勝手な『呪い』が、そう言ってる気がした。

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― 新着の感想 ―
全体的に見るとシリアスなんだけど変身の辺りでリアさんの男の子の部分が出てきてるなぁw
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