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世界軸20


 扉を開くと、暗闇が姿を現す。下へと階段が続いている。こんな所に地下への入り口が? 疑問に思うリアとは裏腹に。リア(異世界)は考え込み2〜3秒程か、黙祷のように目を瞑ってから足を踏み出した。覚悟を決める、そんな動作に見える。


 リアは異世界の自分がとった行動に「あぁ」と納得する。察しの良さとは、時に厳しい。これから見なくてはいけない『かもしれない』。身構える時間はあるが、嫌なものは嫌なのだ。


 それでも進まなくてはならない。2人のリアは極力静かに階段を下っていく。……リアは幽霊みたいなもんなので静かに降りる必要はない。


 軈て、鉄製の扉前に辿り着いた。二重の鍵穴に、古い金庫などで使われるダイアル式の鍵。リア(異世界)はコンコンとノックをすると微かに怯えたような呼吸が聞こえた。


(やっぱり……)


 リアは万能マスターキーで鍵を開け、ダイヤル式は適当に数回左右に回してから、答えが分かったと数秒で開けた。


 鉄扉を開くと事前に資料にあった、館の主人が引き取った少女4人がいた。まだ、幼子と呼べるくらいの年齢だろう事は分かる。その中で最年長らしき少女が皆の前に出るとリア(異世界)を睨む。自分の統治された世界では、そうあり得ない現実にリアは思いっきり顔を顰める。


 ただリア(異世界)は少し違った反応を見せた。部屋をぐるりと見渡し……。


 顰めた顔が真顔になる。2人のリアの心は一致していた。あれ、思っていたのと違うくね?


「手錠をしていない? 拘束器具もない。内装も……トイレがあるのは分かるが。シャワーもある。しかも小綺麗なベッドまで」


 リアも思った。幼子趣味というから、もっと酷い扱いなのかと思ってみれば。そんな事はなさそうなのだ。普通に生活できる部屋、監禁されてはいるが奴隷のように酷い待遇では無いように思う。


 呟いてからリア(異世界)は少女達に向き直る。警戒し方、怯え方から、最近連れて来られたのかもしれないと推測する。


「信用はしなくて良い。ただ、俺はこの館の者ではない。頼む、傷つけはしないから……叫ぶのはやめてくれないか?」


 ……リア(異世界)が13歳なのもり……あとは、ぶっちゃけ見た目は女の子なのもあるのか。信用はされていないが少女達の警戒が薄らいだように見える。リーダーらしい少女は背後を一瞥した後で小さく頷いた。


「ありがとう」


 リアは部屋に足を踏み入れると、調べるのは一つだけとベッドに向かった。触り、鼻をスンッと鳴らし匂いを嗅ぎ、首を傾げる。


「性的行為の痕跡が無い? 幼子趣味って、てっきり……。事前情報と食い違い違ってる……? なら幼子が必要な理由……目的は生贄あるいは精神を消費する『魔術』か?」


(へ? 魔術あんの?)


 基本的にリアの世界における『魔術』の扱いは『呪文を詠唱する』『一定の魔法陣を用いる』『発動に必要な条件を満たして魔力を流す』『儀式的手順による発動』など、そこそこ手間をかけて最後に魔力を流す事で発動させる魔法と同じ現象を起こすこと。


 だが彼の移動手段は物理的であったし、彼が殺した黒服も銃火器を持っていた。魔術があるということは『魔力』の存在の証明だ。しかし彼も彼等も魔術を使用した所を一切見ていない。どころか空気中に魔力の残滓がカケラも無い。


(俺の世界より、魔術の扱いが難しいのか?)


 考え込んでいると、リア(異世界)はコートの内側を少し漁り。来た扉に戻る前に、距離をおいて少女達に向き直る。


「飴玉だ。怪しいと思うなら食べなくて良い。あとで、必ず助けが来るからそれまで耐えていてくれ」


 受け取るかどうかの確認すらせずに、リア(異世界)は階段を登って行った。けれどリアは見ていた。少女達がしっかり飴玉を受け取ったところを。


 人徳はあるらしい、そう思いながら急いで異世界の自分を追った。


…………………


 特筆すべきも、語るまでもなく。黒服達を瞬殺していくリア(異世界)は、中央にある少し大きめの鍵穴が付いた扉の前に辿り着く。彼は扉を撫でた後、コートから聴診器のような道具を取り出して扉に当ててから数秒。


「……」


 標的がいるんだろうなとリアは思った。だから彼は突入の仕方に迷っているのだろう事も分かる。扉を蹴破る程の脚力はなく、かと言って道具を使えば10秒は時間がかかる。万能マスターキーとて音は少し鳴る。


 最も警戒する事は、反撃と魔術なのだろう。この世界の魔術がどういうものなのか分からない。ただ……碌なモノじゃない。今までの経験がリアに緊張感を伝える。幽霊状態じゃないリア(異世界)は、自分の何倍も緊張している様子だ。


 考える素振りを見せ、ため息を吐いて。

 彼の選んだ選択は『2丁の拳銃』であった。左手にはずっと使ってきた普通の拳銃。しかし右手に握る1丁は、異常にゴツくて重そうな拳銃である。黒曜石のように黒く、銃身には金色の文字が刻まれていた。なんと書いてあるのかは不明だが……。


 そしてサプレッサーは無い。恐らく、サプレッサーでかき消せる音量や威力を超えているのだろう。


 リア(異世界)はマスターキーという名の拳銃を鍵穴に向ける。


 「ドゴォン!!」とおよそ銃声とは思えない重音が轟く。跳弾とかそんなもの心配するレベルじゃない威力……というか反動で骨が砕けるんじゃないのかと思う威力。しかし心配して見れば、扉を蹴破って室内に突っ込むリア(異世界)の姿が見えた。


 自分も、と踏み出したところで。

 リアは喉奥から胃液が込み上げるのを感じた。


 匂いだ。

 濃密な血と死の匂いがする。それは喀血事件の時に経験した匂いと同じで。しかし違うのは親愛など無く、悪意と独善が渦巻いていること。


 砕け散った扉を覗き込む。血塗れの床と壁。覗き込んで更にキツい血の匂いに顔を顰める。


 そして……それは居た。


 歪な貴族服を着た異形。

 異様に巨大な黒山羊の頭部。しかし両目は無く。眉間に大きく赤い目玉がギョロギョロと動き、獲物を探るようにリア(異世界)を舐め回すように見ている。

 下半身は人の形を辛うじて保っているのだが、至る所が変形しているのか服の形がおかしい。


 最後に3つの悪意。


 」並びが統一されていない乱れた鋭い歯には、肉片と血がこびりついていて。片手には喰らっている途中なのか、辛うじて人だった肉塊があった。


 中央には円状に魔法陣が描かれており、今から何かを施されるのだと確信できる、1人の幼子が横たわっていた。



 ……精神的な最大限の嫌悪。悍ましい。



 自分の世界では、悪意の中にも善意があった。流石にヴァルディアは……いや、あのヴァルディアですら良き時代はあったのだ。狂っていただけで、違う狂っていたからこそ。


 目の前の異形には、それすら無いように思う。


「……キッショ」


「遅かったな、殺し屋」


「……幼子の精神で実験して、肉体を喰らって。神にでもなろうとしたのか?」


「もうなった、私は人類の一歩先にいる」


 ギリっとリア(異世界)が歯を食い縛る。もう喋りたくないという気持ちが伝わってきた。


 ……この世界の母さんは、こういう元人間を潰して回っているのだろうか?

 ふとそんな疑問を浮かべた。自分の世界のノルンは、おっとりしているように見えても、心の芯……正義感の強い女性だ。後から知った祖母クラウ・リスティリアとの関係からも窺える。そして、正義感の血脈は確実にリアとルナへと引き継がれている。


 自分も参戦したい。心から願った。けれど、これは記憶の世界だ。展開を見守ることしかできない。


 無造作に黒山羊頭は食べかけの肉塊を投げ捨てる。そして血塗れの手を幼子が横たわった魔法陣に向けた。リア(異世界)とて見逃すはずはなく早撃ちで目玉を狙うも。振り払うように黒山羊頭は片手で弾いた。


 リア(異世界)が、大型の拳銃を向けた時。閃光が強くなり目を細める。


 バチバチと雷のような光を立てながら幼子の身体が溶けていく。冒涜的な光景を見慣れていないリアは今度こそ口元を押えた。人の溶ける光景など見れば誰だってこうなる。吐けないだけで、生身なら胃の中身をぶち撒けている光景だ。


 そして黒山羊頭は、溶けた身体の表面をなぞると引き抜く。ゴウっと風を轟かせて現れたのは、フランベルジュ。黒々としていて、まるで今まで食べてきた人間の怨霊が渦巻いているとすら思える、冷たさを感じた。


 黒山羊頭は空気を撫でるようにフランベルジュを横に振る。そして、風圧とはまた違った、強烈な圧力の波動が突き抜けた。


 リア(異世界)は当然、まともにくらってぶっ飛ばされる。悲鳴すらあげれない重い一撃だった。

 壁を破り、隣の部屋に転がる。だが、痛む身体を無理矢理動かしているのだろう。肩で息をしながらも即座に立ち上がり、バックステップをとる。リア(異世界)が立っていた場所にはフランベルジュが突き刺さっていた。


「くはっ、くそ。神なんていねぇんだよ。偶像の贋物、成り損ないがよ」


「その成り損ないに翻弄されているではないか」


「……幼子の命を弄んで得た力をひけらかして、楽しいかよ」


「楽しいね」


「クズがよ!!」


 吠えるように言った後。

 リア(異世界)は。首にかけてあったネックレスを引きちぎった。ネックレスには『鍵』が通してあった、


 鍵を空中に向ける。すると、物理法則とか全部無視して突然ゴツくてどこか機械じみた黒い『錠前』が現れた。空中に浮かぶ錠前に、リア(異世界)は叩きつけるように鍵を突き刺す。


 あの……なんの錠前と鍵?


 鍵を差し込まれた錠前から機械音で『認証』と鳴った。溢れ出すのは、リアの世界にあるどんなエネルギーとも違う。未知だけど勇気づけられるような綺麗で明るいパワー。


 そして、この世界の『特別』で『真の力』が解放されるための言葉を……リア(異世界)は叫ぶように告げる。


 歴代を連ねる子供達の希望の象徴。ヒーローが持つ『覚悟』の言葉を。


「お前はここで倒さなくちゃならない。あの世に行って少女達に詫びてこい!! 『変身』ッ!!」


 しかしリア(異世界)は、もう遅れたヒーローだ。だから、弔いの為の戦いしかできない。その思いはとても伝わってくるけれど、リアはポカンと口を開いた。


(は……? え、変身……?)


ベルトだとやっぱ不味いのかなと思い修正しました。

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