世界軸16
ショウケイが戦いに入る頃。
ニャルは監視している宇宙に異物が現れた事に気がつく。
ニャルの主人でもある宇宙の上に居る、ヨグ=ソトースに地球の騒ぎが向かい身じろぎすらしないようキルエルへと依頼したのに。宇宙に突然、不可思議な物体……神力マシマシだが科学技術で作られた衛星のようなモノ。
「嘘でしょ」
何度でも言うがこの世界の神はあまり強大な力を持っていない。しかし強大なヨグ=ソトースを抑えられる。けれど動き出せば完全に止める事は出来ないし、そもそもヨグ=ソトースの眠る宇宙に飛ぶのもかなりの労力を強いられる。どうする、と思考を回す。敵性だとしたら厄介だ。
「暗躍してないのに……」
人類の味方のような面と行いをしているように見えて。
しかしニャルという狂気は完全には抑えられていないので、そこそこ厄介な暗躍はしてきた。
色んなものごとに介入しては遊ぶ。実験する。神らしく試練を与えてみる。ヴァルディアとどこか、ニャルの持つ狂気は似ていた。純粋に人の輝きに魅せられて楽しかった。
だからこそ自分が滅びる覚悟は常にしている。あの衛星のような物体からピンポイントで神力レーザーでも放たれれば、自分は確実に死ぬ。久方ぶりの死の匂いに笑みを浮かべるもののルーナとの約束が過り、彼女の妹であるレーナは守らなければと思い直す。
どんな悪役でも、どうしようもなく助けられた時は情を動かされるものだ。
「今度から暗躍は控えましょう」
『反省』できるのは『この世界』の神が故。
しかし反省するなら暗躍するなよカスが、と今は『封印』されているルーナに言われた気がした。すいませんカスで。でもカスはカスなりに愉悦を求めてしまうのです。あー人間は美しい。
ニャルの心の中の言い訳も、カスであった。
…………………
一方キルエルも突然として現れた物体に気がつき、同時に天使という一種の『神力』を持つが故……。純粋に驚いた。熾天使よりも強いエネルギーを内包していると。このエネルギーが爆発か神力ビームでも放たれた場合、普通に時間停止膜は突破される。神力とか呪力とか関係なく、単純なエネルギー量で力負けする。
「助けて上司さま!! おい誰か堕天してくるのじゃー!! ルシファー様あたり来いよ!!」
喚き散らしたところで、傍観者はやってこない。どうするのじゃと頭を抱えながら健気に膜を保ち続けるのだ。
…………………
場面をショウケイ達に戻して。始まる前にショウケイは呪力の籠った呪符を2人に渡しておく。神力を減衰、または反射する効果があるのだとか。
それから、作戦は変わらずダルクとレーナは八岐大蛇のターゲット集中。ショウケイはこそこそと仕掛けを作るで決まった。
して、開戦である。
3人は地上に降り立つと、真面に戦うのはアホくせーと卑怯な手を一斉に開始する。まずレーナの魔術で地面を闇を発生させると、八岐大蛇を転倒させた。そこへ魔力の毒を撃ち込み本能を乱す。脳は無いと考えていたが、魔力による毒は効いた様子だ。ダルクは隙を逃さず接近すると、飛び上がり銃で八つ、つまり16個の目を潰した。そんな神業を見せつけると、素早く呪符を貼り付けたC4爆弾を貼り付けた貼り付ける。最後にグラル・リアクターを取り付けた半永久式の雷槍をぶっさすと。
距離を取り、爽やかな笑顔で。
「神様、爆発します!!」
爆音と綺麗な爆炎、暴走したグラル・リアクターの青白い閃光。そしてべちゃりべちゃりと辺りに神力の塊が飛び散った。結構キショい光景である。だが、意外にも胴体だけ残った。割としぶといなと2人は思う。
そんな2人が作った大きな隙を逃さず、ショウケイも呪力を込めた技を発動させた。特に技名とかはない。
無数の黒い鎖が天と地から発生すると、八岐大蛇を縛り上げた。動きを完全に封じた八岐大蛇から少し距離を取ると、地面に手を吐き詠唱する。
「よーし、おじさんも頑張っちゃうぞ。呪砲《隠世ノ抉》」
地面が捲り上がり、浮かび上がった砂やコンクリートが固まって次々と形を成していく。少し時間をかけて現れたのは、巨大な大砲だった。ダルクとレーナは「デケェー」と呑気に見ながら、なんだかんだ彼も英雄なんだなと思う。ついでにダルクは閃いた。今度ライラに作ってもらおう。
大砲は黒い瘴気を発しながら、何の前触れもなく砲身を轟かせる。ぶっ放された呪力の塊は八岐大蛇の本体よりもデカい。背後の建物も地面も、なにもかも抉り吹っ飛んでいった砲弾。その直線上にいた八岐大蛇は。
ショウケイの無数の鎖に繋がれている、人の形をした黒いモヤのようなモノを残して、綺麗さっぱり消え失せた。
「ヴァルディアっすよね?」
「なんか……しょぼいな?」
「でも私の魔導書ビクビクしてますし。あれはあれで不味い代物ですよ」
呪力の砲弾ゆえに、残るモノは呪力由来。
しかし3人はどこか違和感を感じる。なにかイレギュラーが起こっているような感覚。けれどショウケイは一先ず作戦通りに。錫杖を振ると吹き飛んだ神力が集まっていく。
幻想的ともとれる光景に2人は思わず見惚れた。人生で初めて大海を見たような感動だ。今度時間があればショウケイに色々と聞いてみよう。なんて考えていると、ショウケイも準備が整ったようだ。
3人はすかさずサングラスをかけた。
ショウケイは眩しいってレベルを超えて太陽かよって光を放つ錫杖を握りしめ、腕を引き、地面をドンっと力強く踏みしめると。
「あばよ」
錫杖をぶん投げる。見事なフォームと偏差撃ちにより、錫杖はヴァルディアに衝突する。
ダルクは自分の持つ中で最も硬い大盾を取り出し3人の前に立つ。勿論、ショウケイとレーナも盾を支える。
呪力と強烈な神力がぶつかり起こるのは、魔力と残った神力の拡散爆発。エネルギーの奔流がうねりをあげて、神社の周辺を吹き飛ばした。
………………
土埃が散る。1メートル先すらも見えず、土埃を吸わないように袖を口元に当てながら3人は口を開いた。
「やった……でいいのか?」
「呪力を消し飛ばす為に、遺体の神力を使うって作戦でしたけど……」
「手応えはあったがなぁ」
前を見据える。次に何が起こってもいいよう、警戒を解かずに構える。すると、突如風が吹き砂埃を全て消し飛ばす。
地から突き出たのは、紫色の腕と手だった。
「あれは……」
ショウケイは感じ取る。神力で吹っ飛ばした上で残るとしたら呪力の残滓くらいだと思っていた。本来ならばそうなるべきなのだ。しかし、風を吹き荒らして現れたのは、腕と手。
「ほら、ショウケイさんがフラグ立てるから何か残ってるじゃん!!」
「俺のせいか!?」
「……」
レーナの持つ魔導書がバイブレーションする。もうブルッブルと震え始め、勝手にページが捲られていく。レーナは自分の持つ魔導書『的確的書の呪禁』の効果を知っている為に、バグったのだと思った。的確的書の呪禁と呼ばれる魔導書は巻頭にて、持ち主の技量と周囲の観測において『的確』な提案を5つ上げる魔導書だ。これにより念じる事で自身の記録した魔法陣へと辿り着き、魔力を流すだけで魔法が発動する仕組みになっている。
この、一風変わった魔導書が判断できずバグった。つまり、あの腕だけの存在はそれだけ異質なのだと。
「やばいかもしれないですよ」
「だってよショウケイさん。で、貴方が1番詳しいんですから、アレの説明してくださいよ」
分かるわけねぇだろとショウケイは言いたかった。神力と呪力というエネルギーを見分ける術と観察眼は持っている。その上で分からない。
……3人が立ち止まっていると、紫色の手がぴくぴくと動く。ギョッとして無言で見つめる。
腕の周囲に、小さな光の点が生まれた。光の点は徐々に膨れ上がり、マグマに見えるがマグマよりも明るい液体を球体にしたような……そう例えるなら太陽のようなモノを浮かべた。
戦えるけれど戦い慣れてはいないレーナは固まるが、鋭い勘を持つダルクと腐っても英雄なショウケイは動く。
「ショウケイぃ!! ゲート開いて早くぅう!!」
「《門》ォォオ!!」
3人の視界と場面が切り替わる。次に起こるのは、滅びの光だ。周囲を薙ぎ倒すのではなく、溶かして解かして崩壊させていく。幸運だったのは、紫色の手が出した光球が空まで届かなかった事。想像しただけで鳥肌が立つ。




