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間話3


 翌日。バイトを終えたリアとダルク、それからクロエとルナもライラ邸に向かう。電車に乗り少し堤防沿いを歩くとその屋敷は姿を現した。まず、大きさに驚く。屋敷の規模もそうだが、ヘリポートから巨大な格納庫、鎮座するシストラム。2人とも流石の超金持ちで天才、そして次期社長の邸宅兼研究施設に驚き、しかしクロエは造られた時の嫌な思い出が過ったのか苦い顔をする。ただ、ルナがいるという安心感からかすぐに顔を綻ばせた。ルナはライラの前に立つとペコリとお辞儀をする。


「今日はお誘いありがとうございます、ライラさん」


「もっと気楽にしてくれ。あとさん付けはなし、今度から君達も遊戯部のメンバーだからな。先輩呼びなら大喜びだぜ」


 ふふんと先輩風を吹かすライラに、しまった出所をしくじったと思うティオ。そんな無い胸を反らすライラに、ルナの影に隠れながらもクロエは挨拶する。


「よろしくお願いします、ライラお姉さん」


 まるで雷に打たれたかのように震えると、んーっと噛み締めてから頼む。


「……もう一回お姉さんって呼んでみて」


 リアはライラを背後から半眼で睨みながら「先輩?」と牽制する。ライラはクッと喉を鳴らして手を引いた。クロエは意外と他人の懐に入るのが得意なようだ。


 さて、今日は何をしていたのか。この天才3人が揃えば、何か開発していても不思議ではないが……。その後、リアは『カラドニウム』という完璧な金属を見せられて素で「マジか、えぇ……」と困惑した。


 それから、ダルクは図々しくも何処からか札束を取り出すとライラと商談を始める。もしかしたら、真っ先に価値を理解したのは彼女だったのだろう。既に脳内には使い道があるらしく。


「取り敢えず、ナイフ。そして弾丸くれ」


 探偵用の装備として、そして彼女は『カラドニウム』が魔法を貫通すると見抜いていた。流石の観察眼にライラはニヤリと笑みを浮かべた。


「お前の銃なんだっけ?」


「コルトパイソン687が手に入ってな。このご時世にリボルバーだぜ、カッケェだろ?」


「んな骨董品よく手に入ったな。ま、わーったよ、4インチね」


「サイズを速攻で当てるあたり、流石」


………………


 ……リアとレイアが出会えば、普通に魔法談義に入ってしまう。そのまま外に行ってしまった2人を見て、みんなで遊ぶにはまだ時間がかかりそうだなと思ったティオは、ルナとクロエを手招きする。


「ティオ先輩?」


「スンスン……何か台所からいい匂いするねルナ姉」


「そういえば……」


「2人の後輩が来ると聞いたからな!! 薬学に魔法薬、あらゆる植物に詳しい我が厳選した紅茶とハーブでお菓子を作ったのだ!! 是非に食べてほしい!!」


「わ、私達のために? ありがとうございます先輩」


「お菓子だー!!」


 思ったより喜ばれたので優しい目をしながら、事前に焼いておいた紅茶のクッキーとハーブティーを用意する。実を言うと、リア程では無いにせよ、ティオは菓子においては意外と作れる方であった。


 クロエは差し出されたクッキーを手に取る。丸い普通のクッキーに見えるが、紅茶の香りが鼻腔をくすぐると、自然と唾液が出る。ゆっくりと口を開きクッキーに齧り付く。


「はむ……」


 サクサクとした食感とバターの香ばしさ、控えめだが丁度いい大人な甘みに、紅茶の心地よい苦味と風味が口の中に広がる。


「んー!!」


「おいしい……」


 ルナも口にして、リアと引けを取らない出来に驚きを露わにした。これでも姉を見習って時々お菓子作りをするルナであったが、もしかしたらティオに教えてもらった方が良いのでは? と思うほどだ。ぶっちゃけ感覚派のリアは教えるのが下手である。


「喜んでもらえたならなりよりだ!!」


 そうして、3人は皆が揃うまで静かなお茶会を開催するのであった。


……………………


 レイアがカラレアの魔法を引き継ぎドラゴンの血を造血、取り入れて覚醒してから、それほど月日は経っていない。だが、研究は進んでいた。元々、継承したのは記憶と経験。得難いそれらは、レイアを一つ上の魔法使いへとランクアップさせた。というわけで、2人揃っての軽い修行が始まる。


「まぁ、軽い修行っていうよりも僕の新しい魔法に付き合ってほしい」


「あの、魂がどーたらのやつ?」


「うん。カラレアの知識のおかげと、やっぱり幼い頃から修行してきたからかな。感覚を掴むのは早かった」


 それは君が天才だからだよと思ったが、リアは口にしない。努力の量も、自分に引けを取らないと分かるつもりだから。


「んじゃ、お披露目会の栄誉ある1人目になろうじゃあないか!!」


「ありがとうリア」


 2人とも距離を取り向き合う。互いに準備OKの意味で頷くと、レイアは胸の中心でカメラのトリミングポーズを指でした。手印、というやつだろうか? どちらかというと呪術的な手順に驚きながら見ていると。


「《魂静世界『紅夜行』》」


 ゾッと背筋が震え喉が鳴った。ギルグリアと出会った時のような果てしない重圧。重い、呼吸すら忘れてしまいそうで眩暈がして、しかし次の瞬間には……『天と地が廻った』。


 立っている。それは分かるが宇宙を思わせる漆黒と魔力の鱗粉が星々のように交差しながら高速で回転し、思わず目を瞑る。


 次の瞬間、重圧が消えた。どこか肌寒く、初夏にしてはカラッとした空気が肺に入ってくる。直ぐに目を開くと。


「……」


 まず、今は昼の筈なのに、空は夕方と夜の中間点。茜色に群青色が侵食し始めた美しい空だ。

 そして地上。夕陽に照らされた逢魔時。踏みしめる地面はコンクリートから乾いた土の感触がして、辺り一面には綺麗な黄金色のススキが地面を覆い隠して風に揺れている。突然の世界の変化に驚きを隠せず……同時にある事に気がついた。


(魔力が……感じられない)


 魔力切れ……であっても、魔力というものは搾りかす程度には残っているものだ。つまり、産まれてから初めての感覚。自分は今、魔力が『無い』。


 不思議な感覚である。本来あるものが無いというのは……。


 力が無いという事で、酷く恐ろしく身震いする。ただの無力な一般人になった……というよりも、今までの努力が無駄になる事の方に恐怖を抱いた。だが、これまで培ってきた精神ゆえに落ち着いてはいられた。


 手印を解いたレイアの雰囲気は変わっていないが……。リアは軽い口調で問いかける。


「結界を構築して、領域内に魂の《規則》を再現する魔法、みたいな感じ?」


「似て非なるもの、だね」


「そうか……でも一つだけ確かな事だな。綺麗だよ、レイアの『景色』」


 レイアは……本音を言うと、姉弟子に修行としてこの世界に引き摺り込んだ。その時の……直ぐに普段の目つきに戻ったが……一瞬のとてつもない怪物を見る様な目が忘れられなかった。


 だから、リアからの賞賛は涙の味がするほどに嬉しく感じる。同時に魂に関する魔法だと教えてはいたが、ここが自分の魂の風景だと言い当てた事に驚く。


 故に、友として彼女には全てを説明して全てを見せたい。これが親友として手に入れた力の一つだと見せつけたい欲が出てくる。そして、リアは快く聞いてくれる事も分かっていた。


「ここは、どちらかといえば魂の心象風景に引き摺り込む魔法……だね」


「ん? つまり俺から魔力が消えたのは?」


「ここが僕だけの世界だから。現実の時間はとても、とてもゆっくり流れている」


「簡単に説明すれば、まー精神世界か……?」


「その認識でいいよ」


 レイアがスゥと息を吸い、右手を横にバッと伸ばす。すると、空間に罅が入り、破る様に西洋甲冑が現れた。そして罅は連鎖する様に四方八方に広がり、一呼吸という短時間でリアを囲う。リアの背に冷や汗が伝う。これは……勝てるのか?


「この世界にいる僕達は所謂、『魂』や『精神体』みたいなものなんだ。だから、互いに怪我をすれば現実にも反映される。唯一、違うのは……魔力や魔法、魔術や呪術を持ち込めるのはこの世界の主人である僕だけという点だ」


「はぁ!?」


「しかも、ここは魂の心象世界だからね。僕のやりたい事全てができる!!」


「チートじゃん!!」


 ぶっちゃけ魔力無し魔法無しでこの軍勢に迫られたら勝てる見込みはない。リアは微かな恐怖と圧倒的に理不尽な魔法。同時に、これこそドラゴンが人生を賭けて作り上げた魔法の極地なのだと理解する。習得するのは並大抵の知識と経験と授業では辿り着けない場所。リアは親友が少し遠くに行ったように感じた。


「認めるよレイア。今の俺にはこの魔法を突破する方法は無い」


 悔しいが、この魔法は本当にチートだ。《境界線の──》魔法も大概、凄まじい効果を持ってはいるが、対価となる『魔力』が無ければ発動できない。


 ……そうだ、対価。この魔法の対価は魔力と『制約』だけなのか?


「おーっと、レイアさん。この魔法、実はそんなに維持する時間は長くないのでは?」


「ッ!? 流石、気がつくかい?」


 リアはニヤリと笑みを浮かべると、レイアは困ったように頬をかいた。その時、ピシリと音が鳴り空に亀裂が入る。


「だいたい3分?」


「うん、僕の再現度じゃそれくらいが限界」


「なるほど、つまりその間まで死なないように逃げればいい訳か」


「おっと、そう上手くいくかな?」


 リアが言うと、周りにいた西洋甲冑がドシドシと音を立てて近づいてくる。ぐるりと囲み逃がさないように拘束する為、リアの手足を掴む。


「ドラゴンの血を取り込んだから、筋力で逃げれる……とも考えたけど。レイアが絶対の世界だけあって、西洋甲冑も特別なのか」


 しかし、空の亀裂は増していき、遂にポロポロと崩れるように消え始めた。どこか幻想的な光景に不思議と嫌な気分では無い。目の前の少女には、今は絶対に勝てない魔法を手に入れてしまったが、それでも。


「見つけるさ」


「うん?」


「カラレアと君の作った魔法に勝つ方法を」


「ふふっ、リアなら余裕で超えてきそうだね」


 嬉しそうに笑みを浮かべるレイアは、崩れゆく景色も相まってとても綺麗だ。その時、甲冑達の拘束力が消え、地面が廻る。白と黒が入り混じり、世界が消えて……息を吸い込んだ瞬間。


「戻ってきた?」


 ライラの邸宅の海沿いの景色が見える。ジトリとした湿った空気と、強い日差しが辺りを照らす。ふと携帯端末を取り出して時計を確認すると、1秒すら過ぎていない。まるで夢のような時間だった。


「どうだったかな?」


 顔を下に向けると、自慢げな雰囲気を纏ったレイアが髪を揺らして感想を問いかける。


「最高の体験だったよ」


 だから素直に賞賛した。同時に、レイアの《魂静世界》はどうしようもなく自分では習得できない、歴史と経験が刻む魔法だと悟る。隣を歩いていたと思っていた親友が一歩先を行ってしまった。その事実に『焦れよ俺』と本能が訴えかける。だから……。


 レイアの手を掴む。突然の事に驚くレイアに宣言する。


「待っていてくれよ。俺も、俺だけの『究極』を作ってみせるから。勿論、人生を賭けて」


 レイアは頬を赤らめる。そして「待ってるよ親友」と、今日1番の笑顔でリアの手に優しく自分の手を重ねた。

長編どうしようかなぁ

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[一言] 時間制限有るとはいえ強すぎぃ!
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