閑話
ゴタゴタも片付いて、なんかレイアがドラゴンの力を引き継いで。魔法の研究だーとレイアは久しぶりに師匠であるグレイダーツの元に通いながら、1ヶ月リアと実験をして過ごした。結果を見れば、血が違うので中々に難しい。だが色んな焦りから解放されたレイアはのんびり模索していく方針の様子。
一方で復活した赤龍カラレアはギルグリアと暫く何処かに飛んで行った。まぁ、この時代ではギルグリア含めると2体しかドラゴンは生存していない。そこへカラレアが復活したのだから積もる話もあるのだろう。
話は変わり、ミヤノやウカノ様とは交流を続けている。ウカノ様との夢での再会で語られる昔話はとても面白く興味深く、同時にミヤノの経験談や聖属性の魔法についての談義はとても有意義で楽しい。未知の魔法というものは、いつの時代も輝かしい宝であり財産である。
また、マリアとシエルとの勉強会も積極的に開催している。もっとも、2人とも飲み込みがはやく、実技試験の方は大丈夫な程に習熟は早かった。恐らく、2年生くらいなら普通にくらいつけるレベルだ。
そんな訳で時間は緩やかに流れていき、時期は夏休み手前。2年生の期末テストだ。もう『澱み』の一件が1年前かと思うと、時間は進むのが早いなと思う。あまりにも濃い1年だったのもあり、もう3年くらい経った気さえする。
テストが落ち着くと生徒会の仕事にも参加し、初秋頃の文化祭の計画を練りつつも、エストを含む先輩達はもうすぐ進路決定の時期だ。とはいっても、ファリムは無言キャラながらリアの勉強を見つつ予習復習をするくらいには頭脳が優秀なのと、知見を広げる為に留学を選ぶそう。クロバは遊びと勉強を両立しながら「そろそろ彼氏ほしいなー!!」と生徒会のメンバーらしく優秀かつ溌剌として気楽であるが、一応真剣には悩んでいるのかエストと相談しているのをよく見かける。エストは実力を認められて夏に魔導機動隊に体験入隊し、それから決めたいとのこと。なんでも、家族に倣って就職を決めるのも癪だし旅でもしたいとよく語っていた。
そんなわけで残り少ない時間であるが、時には生徒会メンバーのおかげで慣れて楽しみ方を見出したカラオケにもいくし、皆で対戦ゲームをしたり小さな学園イベントを起こしたり、彼女達との残り少ない学校生活を満喫している。
……正直、短い付き合いだが、この先輩達との付き合いはとても楽しかったし有意義だった。すごく名残惜しくも思う。だからこそ先輩達にとっては最後のイベントとなる文化祭は絶対に成功させたい。
(去年はヴァルディアのせいで散々だったしな)と思いながらも、騒がしい生徒会室での会議や勉強会が終わると、エスト、ファリム、クロバは同じような言葉でダルクとリアとレイア、それから最近クロエの事もあり遊戯部によく出入りしているルナを生徒会室から追い出し、部活動を楽しめと後押ししてくれる。
そう、もうすぐ遊戯部も代替わり。一応、ライラとティオ、ダルクは5年生になる訳で部活に参加できない事もないが……。元々3人での部活動が認められていたのは、ダルクが職権を乱用していたからであり、真面目に活動するとなると5人必要なんだとか。存続の危機である。
「ダルク先輩は進路、どうするんですか?」
部室への道すがら、ルナはダルクに進路を聞いた。ダルクは考えるまでもなく「まぁ、働きたくねぇしなぁ。暫くはジル公の世話になるかな」と答えた。大きな問題児(ただし最高の魔法使い)を抱えることになるジルは、果たして幸なのか不幸なのか。分からないが、愉快犯な彼女といるのは退屈しないだろうなとリアは思う。そんな、不真面目な答えに見えて、しかし一応真面目な様子のダルクを見てルナも思うところがあったのか、髪を揺らしてリアの顔を覗く。
「私もアルバイトを始めるべきでしょうか? お姉様」
「ルナは家で出迎えてくれるだけでいいんだよ?」
「しかし、クロエちゃんには私からもお小遣いをあげたいですし、好きな事を見つけて欲しいのです。お姉様にだって、新しいグラフィックボードなどを贈りたいですし」
「グラボを貰うのは気が引けるから辞めてくれ。でも、ふふっ、そうか。なら今度見学に来るか?」
「はいっ」
イチャイチャし出した姉妹2人を(またか)といった目で見つめながら、レイアも息を吐いて呟く。
「僕もネイトたちに頼ってばかりもいられないし、独り立ちしないとなぁ。先輩、アルバイトの募集って僕も参加できるかい?」
「分かんねーけど、したいならジル公に伝えとくぜ?」
「お願いするよ」
レイアはというと。去年の夏から召喚魔法を広める活動をする傍ら、オクタくんの正体の究明も目的に活動を広げ、またライラとティオとの仲が深まっていた。別に同じ部活動であり、一緒に遊ぶ仲なのだから軋轢などはないのだが、リアとダルクとの時間も大切に、また思い出を作りたい様子だ。
それはまた、リアも同じ。
人生、たった1年でここまで変わるのだ。この先の思い出を沢山作って損はないどころか、生きて行く上での宝物となるだろう。
「レイアさんは可愛いタイプですから、メイド服とかいいのではないでしょうか?」
「あ、いいなそれ。看板娘はレイアになる日も近いかな」
「私が誠意を込めて1着作らせてもらいますよ」
「ん? ちょ、ちょっと待って!! 僕は探偵の方のつもりだったんだけど!?」
「探偵は私で間に合ってまーす。にしても、顔面偏差値の高い4人……か。バンドとか組んだら最高じゃね?」
「駅前だし、ちょっとした活動をやるのもいいかも?」
「私、実はキーボードならできます」
「リアはビジュアル面でもボーカルやらせたらいけそうだな?」
「先輩の方がいい声してません?」
「私はギターかベースでいいよ。脇役だが必要だろ?」
「バンドか……僕はドラムかな? 召喚魔法の応用でリズムを最初に設定して甲冑を纏ったら完璧にできるよ」
ワイワイガヤガヤ。平和とはいいものだ。
…………………
とある休日のこと。レイアとティオはライラの家に訪れていた。理由は特に無い。明日、バイトが終わればリア、ルナ、クロエとダルクも訪れる予定である。リアは折角だしキルエルも誘ったのだが……「……確かに友達を作る事は先の天使生において無駄ではないが……嫌な胸騒ぎがする」と言ってネトゲに戻ってしまった。この時はただの断り文句だと思っていたのだが、しっかりと聞いておけば良かったと思う事になる。
腐っても天使である。天使の胸騒ぎとは、つまり凶兆の予感である。
しかし、平和を享受し始めホワホワとした気持ちで日々を過ごしているリアは特に疑問に思う事はなかった。
そうして3人が前日に集まったのは、単にリア達と休みの都合が合わなかったからなのだが、集まると自然と工房に足を運ぶ事になる。ゲームなどをして遊んでもいいが、やはり開発して1年経過したシストラムを改良したい気持ちが優秀な魔法使い達の頭脳を誘うのだ。
「さて、研究も佳境に入った『金属X』だが、これより加工実験を行うぜぇ!!」
『ようやくですねマスター』
「ティガもよくやってくれたな。それで名称『金属X』……」
「ヴィブ○ニウム……」
「その名称はまずい」
「凍結の対策はしたか?」
「鉄板ネタ。その辺は断温度塗料を開発したぜ」
「うむ。このやり取り楽しいな。やはりマーベ○スは作品は名作だ。それで話を戻すが、一応注文された合金や宝石のインゴットを作ってみたぞ……」
「ティオ先輩も普通に錬金術の才能ありますね……でも、ふふん!! 僕の出番だね先輩!!」
「ここからは錬金術の分野だからなぁ、期待してるぜ後輩」
「もし、この金属を錬金術で加工する過程で、『金属X』の物質構造を構築する事ができれば」
「夢が広がる」
「同時に技術は一歩、前に進む訳だ」
話は変わるが。
今、世界は宇宙から資源を採掘しようと4連合国は宇宙開発や事業に力を入れ始めている。中でもライラが次期社長となるデルヴラインド社は突出しており、元から広大な宇宙ステーションを持っている事、某ロボットアニメも頷くグラル・リアクターを動力炉とした、理論上人さえ搭乗できれば無限のエネルギーで活動できるシストラムを開発した事。つまり、このグラル・リアクターとシストラム技術を宇宙に上げるつもりなのだ。
ただ、問題が一つ。宇宙デブリ等に耐えられる装甲を作る事が難しい。
そんな時、現在の社長である社長でありライラの父ディオが、娘に一つの贈り物をした。
誕生日の日に執事のリュガルより届けられた小さな箱と手紙。読んでみると短く『宇宙で採れた、元素不明の金属を贈る。ダイヤモンドよりも貴重だぜ、頑張れよ』と、まるで挑戦状のように送られたのが、仮名称『金属X』。鈍い銀色を放つも黒に近い冷たい金属。それは熱、凍、打撃から斬撃、魔法による攻撃、最新鋭のレーザー技術でさえも物質の振動により吸収し『無に返す金属』だった。なるほどダイヤモンドよりも貴重な訳だ。どう加工しようとしても、エネルギーを吸収してしまう以上、何も出来ないのだから。
それからは、もう実験の毎日だった。その折、魔法による攻撃は吸収できずとも、魔力による粒子の振動を起こせる事が分かったライラは真っ先にレイアを頼った。錬金術の技術で少しでも成分分析ができればと。ついでに暇を持て余していたティオも呼んだ。確かに自分は金属については詳しいつもりだが、物質の調合や解析においては彼女の右に出るものは少ない。薬にも金属はある。
そして結成されたチームで、金属Xの組織構造を分析し、構造から優秀な頭脳達とAIの最先端であるティガより導き出された、現存する魔力合金を用いた擬似的な『金属X』の加工成形実験が今始まる。
「ヴィブラニ○ムはまずいが、『金属X』じゃ味気ないのも事実だな。実験の前に正式名称決めるか」
「先輩、出番ですよ」
「レイア!? 厨二病は卒業したのだが!? しかし!! 私が決めて良いというのなら、この世紀の大発明の名付け親となろうぞ……しばし待て」
ティオは少し考え込んでから、片目を瞑ると呟くように言った。
「『カラドニウム』」
『失礼、ティオ様。もしかしなくても伝説上の武器であるカラドボルグから名前をお取りになられましたか? 硬い稲妻とも呼ばれますよね』
「ティガ!? 恥ずかしいから解説しないで!! というかなんで分かるのだ!?」
『もう1年です。皆様の事は少しづつ分かってきました』
ライラはティガの頭を「偉いぞー」と言いながら撫でる。一方で、携帯端末でカラドボルグって何? と一通り調べたレイアは頷いた。
「うーん厨二病。でもいいんじゃないですか先輩。カラドニウム」
「私も良いと思うぞ、じゃあティガ、会社のデータベースに登録してくれ」
『了解しました』
「なんか釈然とせんのだが!!」




