ウカノ様3
疲れ切った身体にまだ仄かな甘さを残す頭。しかし疲労の為か重く、思考があまり回らない。顔は涙や唾液、愛液やウカノの触手が放つ栄養満点な謎の白い液体や速攻で水分補給できるローションのような液体でベトベト。身体も同様にぐちょぐちょとしているが、まぁ汚いというのは失礼な気もするし気持ち悪くはない。
横に顔を動かすと、傷もシミもひとつなく白く滑らかで綺麗な裸体を晒したウカノが窓から朝焼けを見ていた。どこか神秘的で美しい。だが昨日散々、性的な意味で犯されつくされたので、なんとも言えない感情を抱く。神様は情事明けの朝日を見て何を考えているのだろう。これから眠る寂しさか、満足したと心を落ち着けたのか。どちらにせよ、身体を張ったのだから少しは寂しさが紛れたら嬉しく思う。
リアは頭を切り替えて起きようか迷うが、もう少しだけベッドに身体を沈めた。
ハッキリ言おう、女の子の快楽を舐めていた。一度イけば快楽の波がなかなか引いてくれず、その上更にイかされる。早々に体力が尽き、やりたい放題されるまでそれほど時間はかからなかった。更に初体験の破瓜の痛みは媚薬により快楽に変えられて、初めて体験する女性としてのえっちがこんな刺激的になるとは思ってもいなかった。
天井を見ると、梁の上で寄りかかりながら眠るギルグリアの影が見えた。ギルグリアはドラゴン故に性行為というものを基本的にしてこなかったせいか、快楽というものに対して理解も耐性も低く、一度犯されればもう使えなくなった。
ルナとクロエは……言い難いが家族関係はこれから大丈夫だろうか。スキンシップは増えそうだなと苦笑する。
ミヤノとレーナは成人している事もあり、酒盛りしながらウカノに尽くすよう動き、被害を軽減していた。けれど自分から奉仕する2人に褒美として快楽をぶち込んだウカノは中々に鬼畜だと思った。
そんな宴は終始、ウカノの独壇場で終わりを迎え、皆が体力というよりは気力の限界で心の底から眠りに落ちるまで続いた。
そうして昨晩の事を思い浮かべて羞恥よりもウカノへの借りの返却と情事が終わった事に対する安堵を浮かべていると、ウカノは起床した事に気がついたのかこちらを振り向いていた。綺麗すぎる顔に逆光が入り、人ではない独特の雰囲気を増していく。しかし不思議と怖くはなく、過激だが優しい神だと分かっているリアはウカノの目を見つめ返した。
「おはようリア」
「おはようございます、ウカノ様」
ウカノから力が流れたのを感じる。彼女は瞬時に衣服を身に纏う。神秘的な姿から神らしい姿へと変わった。彼女は着替えを終えると、リアの元に近づく。
「《洗滌》っと。汚れはこれで落ちたかな? あとは服だが、まぁ境内に人はおらんしブラとパンツだけでいいだろう。少し話をしないかリア」
「いいですよ」
快く了承すると、リアは疲れの残る身体を起こしてベッドから降りる。《洗滌》の魔法はやはり便利だ、改めて帰るまでに習得しようと決意しつつ、脱ぎ散らかされた衣服の中から下着を引っ張り出すと身につけた。
そのままウカノの後ろを着いて歩き、宮の周囲にある縁側へと腰掛ける。初夏の空気はちょうどいい涼しさで、半裸の身体を撫でる風が心地良い。
心が落ち着いている証拠だなぁと思っていると、どこからともなく熱い緑茶と茶菓子が現れた。ウカノの気遣いに「ありがとうございます」と軽く頭を下げると手に取り、一口乾いた喉を潤した所で、彼女は口を開く。
「昨晩は楽しかった。50年ぶりに刺激を味わえたよ。そして改めてありがとう、この国に潜んでいた災厄を取り除いてくれて」
「感謝なんて……当然の事をしただけですよ」
「……そうか、よし」
頬に朱を差しながら、妖艶な微笑みでウカノは告げる。
「リア、私に仕える気はないか?」
「え?」
「ミヤノと同じく衣食住は保証するし、神としての加護を与えよう。……気に入ったのだ」
だが、言葉とは裏腹に抑揚が弱く、長い髪が顔を隠すように影を作った。リアの答えは分かりきっている、と雰囲気で物語っている。
「ごめんなさい、俺は……俺の居場所に帰ります」
「そうだな、人は居場所がある」
ウカノは茶を啜り、ほっと息を吐くと。
「リア……」
「はい? んっ、んちゅ……」
突然キスをされ困惑する。困惑が伝わったのか、ウカノは唇を離すと明るい笑みを浮かべる。
「偶には訪れてくれリア。もちろん、ルナやクロエも連れて。泊まる所くらいならこの宮を提供しよう」
分かりやすく上唇を舌で舐めたウカノにリアはジト目を向けた。
「とか言って、またえっちする気ですね?」
「ふはははっ」
笑って誤魔化すウカノに、仕方のない神様だと思うリア。だが、今彼女が感じている寂寥感を考えると言葉の重みは自分が思っているよりもよっぽど重たいのだろう。
50年もの眠りというのは、どれ程のものなのだろう。話を聞く限りだと、1年に1度くらいは誰かの身体を借りる事で一時的に顕現する事くらいはできるらしいが、自分の知らぬ間に景色が変わり、歴史が変わり、信仰が変わり。時に力を貸すが、移ろいゆく全てを傍観するしかない『ウカノの命という神様』に憐憫を……覚えるのは失礼だろう。けど、抱かずにはいられなかった。
ミヤノさんは、だから此度の戦いで身体を差し出す事を躊躇わなかったし、神様と人という隔絶した力の差はあれど、ウカノ本人を1人の『人間』として接していたのだろう。
それに、彼女の信仰は広い。特にこの国では1番信仰されていて、分社も多い。
だから……。
「あの、ウカノ様。俺は……お友達になら、なりたいです」
神様と友達になりたい。側から聞けばなんと失礼な言い草だと思われるだろう。けれど、昨晩を通してウカノという神の温かな気遣いや人間性、また人一倍寂しがり屋だと分かったからこそ自然と出た言葉だった。そんなリアの提案に、ウカノは嬉しそうに笑う。
「はははっ、ズッ友という奴だな!? うむ、私とリアはこれから輪廻の輪に乗るまで、友達だ!!」
握手をして、次に抱きしめてくるウカノを抱き返す。こんなにも嬉しそうにしてくれるなら有難い。あとは、ルナやクロエも話を通せば友達になってくれるだろう。
「50年前にも多くの友達が増えたが、殆どは会いにきてくれぬ……」
寂しそうに呟くウカノ。その言葉を気配を完璧に消し柱の裏で密かに聞いていたミヤノは。
「ウカノ様」
「おわっ!?」
「びっくりした、おはようございますミヤノさん」
驚く1人と1柱に、軽い様子で手を振った。服は既に綺麗な巫女服を纏っていてる。
「2人がなかなかに仲睦まじかったので、少し出遅れる形に。おはようございます」
「うむ、よく眠れたかミヤノ?」
「えぇ、あんなに疲れたのは久しぶりです」
長年の親友のようにお互い柔らかい笑みを浮かべる。長年仕えてきたからこそ、遠慮の無さがそこにはあった。
そんなミヤノは、視線をリアに移すと小さな宮の模型を取り出すとリアに手渡す。
興味深そうにウカノも覗き込む中、精巧に作られたそれに魔術が施されていることが分かったリア。
「ウカノ様が寂しくならないように、私も長年研究してきたんですよ。ふぅ、50年ぶりに顕現した今、漸く『繋がり』を施す事が出来ました」
「繋がり?」
「夢への自由な『アクセス』です。神の見る夢へ精神体で侵入する《門》の創造とか色々問題を乗り越えて研究してきたんですよ。それでリア、寝室にインテリアとして飾って……ウカノ様に偶にでいいから、夢の中で会いに行ってあげてくれないか? 当然あっしも行くよ」
「つまり、ウカノ様の夢に入り込む魔法道具ですか?」
「概ねそんな感じじゃ」
「おぉ!! マジでかミヤノ!!」
ウカノは口元にこれでもかと弧を描きニヤける。余程嬉しいのかミヤノに抱きついてくるくる回る。
「ウカノ様〜、嬉しいのは伝わりましたからくるくるしないでください〜。まぁ、ウカノ様が『夢を見る時』にしか繋がらないので毎日とはいきませんが」
「それでも……寂しさが紛れるのなら嬉しいんだ」
リアは手元の模型を優しく撫でる。ルナやクロエも、嫌がりはしないだろう。身体を許し合った関係だからこそ、そこに神と人との遠慮は少ない。
「分かりました。俺は全然構いません。ウカノ様、夢で会える日を楽しみにしていますね」
「ありがとう!!」
「おわっ」
子供のように抱きついてくるウカノは昨日あれだけ情事に及んでいたとは思えない無邪気さを醸し出している。余程嬉しいらしい。
そうして騒がしくしていると、騒がしさに起き出した皆がぞろぞろと外に出てくる。お互い身体の隅々まで見ているので、今更真っ裸を見ても羞恥心が湧かない。
リアはウカノの背中を撫でながら抱き返した。友達の願いは、出来るだけ叶えてあげたい。
それと、やっぱ家族としてルナとクロエとヤってしまったのはダメだわとウカノを強く強く抱きしめた。
「ど、どうしたリア? ちょ、痛い痛い!! 関節がゴリゴリなってる!!」
…………………
リアはその日の昼に、メディアからのインタビューに答えた。ウカノからの強い要望により巫女服で受け応えた。自分が活躍するのを夢で楽しみにしたいらしい。事件に巻き込まれるのは勘弁だが、これからも運命の如く付き纏うであろう『ヴァルディアに関する事象』……乗り越えて打ち破り、完全に消し去らない限り続くだろう事に少し辟易するが、人生の目標は有名になる事なので、力の限りを尽くす所存だ。
そんな訳でインタビューでは自身の力を誇示するだけでなく、大太刀の事や、勇気あるシストラムのパイロット、ルナやクロエの名は伏せたが他の魔法使いの協力や魔道機動隊の皆が居たからこそ、とグレイダーツやデイルに語った事と同じような台詞を喋り終えた。その時、当然ながら魔法についての質問も飛び出したので、まぁ隠す事でもないかと思い『デイルの弟子』と告げ、一悶着あったのだが、概ねグレイダーツの紹介のおかげでスルスルと話は流れていった。明日にはネットでも新聞でも記事になり、最も早くだと夕方のニュースにはなるらしい。
「……はぁ、今回は俺1人の地上波デビューか」
……有名になりたい、という心はあるが流石にエゴサーチする気になれなかったリアは携帯端末の中にあるSNSアプリに触れず、会話アプリを開く。通知数が凄いことになっていた。
主にレイアから。そしていつもの部活メンバーに生徒会の人達まで色んな人に心配をかけたようだ。だが、皆して最後には『格好良かった』と言われ少し照れる。全員に返信を終えるとレイアの項目を再び開いた。
レイアは参戦したかった様子で、しかし幽霊の類に怖気づいた自分が情けないとか自虐が多かったので、言葉にする方が早いだろうと電話をかける。
『あっ、あのリア……?』
「レイア!! 俺は君の事を親友だと思ってるし『相棒』だと思ってる。だから、次何かあったら頼るよ!! だから、恐怖を乗り越え向かおうとしてくれた『勇気』にありがとう」
『うぅ……リアぁ……』
「それに幽霊はいるって証明されちゃったし、今更怖がる事ないでしょ」
『あーっ!! 考えないようにしてた事を!! でも分かってるよ、この世はままならないね。まさか生きている間に幽霊の存在を証明されるとは思ってなかったよ』
「そうだな、不思議がいっぱいだよ」
お互いにくすりと笑みを浮かべる。良かった、レイアは思ったよりも大丈夫そうだ。
「あっ、それで本題なんだけど、今からこっち来れない? 流石にこの距離を《門》で開くのは難しくてさ」
『ん? 大丈夫だけど』
「なら来てくれ!! 紹介したい神様がいるんだ」
『ふーん、かみさ、神様!?』
ウカノの命は今日1日活動してから再びの眠りに入るらしい。今はミヤノの用意した美味いものを食べ、飲み、酒を嗜んでいる。グレイダーツやミヤノから人魔大戦のその後の話や、ルナやクロエの学園生活、とても気に入ったらしい自分の事、ドラゴンのギルグリアから歴史のあれこれを肴にして。なので、せっかくだから親友を紹介したいのだ。ウカノは大の美少女好き、レイアを一目見ればきっと外見も内面も気に入るだろう。レイアは可愛いからね。
そう考えていると、電話の向こうから聞き慣れた先輩の声が聞こえてきた。
『私らも行っていいか?』
「ライラ先輩?」
『我も我も!! ウーラシールといえば豊穣の神であろう!? 豊穣とはつまり魔法薬や薬草!! 是非に神様に聞きたい事がある!!』
「ティオ先輩も……」
『私も行きたいなぁ、リアっちにどんな事したのかウカノ様から直に聞きたいねぇ』
「なんでいるんすかダルク先輩。そんで昨日の事何処で情報仕入れたの……」
『私は何処にでもいて、何処にでもいない。何でもは知らないけど知ってる事は知ってるのさ』
「なんかの哲学ですか、まぁいいですけど怖いので詮索はしません。じぁ、ウーラシールの海岸沿いホテルのロビー集合で」
通話を切ってから思う。なんだかんだで、皆の顔面偏差値は物凄く高い。ので、ウカノ様またムラムラしないだろうか……50年ぶりの性欲の発散が1日で足りるとは思えないリアは……ま、いっかと考えるのをやめた。
ただ、彼女達も夢に呼べれば……知識量が途轍もないので暫く暇になる事はなさそうだと思う。
(魔道具の量産……ミヤノさんに頼んでるけど、先輩達ならどうにかできないかね)
万能な彼女達の知識があれば、そう思わずにはいられない。そんな時、ホテルのロビーにレイアのよく使う質素なデザインの両開きの《門》が姿を現した。




