1学期1
ルナは真剣に考えていた。セリアから貰ったチョコレートをどうリアの口に入れようかと。料理を作るのはリアの仕事だ。つまり、こっそり混入作戦は使えない。
つまり、こっそりでないなら意外といけるのでは?
逆転の発想。部活見学でそれ程、時刻も遅くない。リアが帰ってくる前に事前におやつタイムとチョコレートに抹茶ラテでも用意しよう。
ルナはそうして、リアを罠にかける準備を進めた。
………………
「ただいま、先に帰ってたのか」
「はい、今日は生徒会の仕事も早くに終わったので」
「ん、頑張ってるんだな」
愛しむような視線にルナは頬が紅くなる。それからリアが手を洗いに行った隙に、チョコレートと抹茶ラテを準備してテーブルに置く。リアが戻ってくると、自然な態度で「お姉様、おやつにしましょう!!」と自然に座らせる。
よし、ここまでくれば完璧だ。
「ありがとうなルナ」
「いえいえー。では、お姉様。いただきましょう?」
後は口に、入れ入れ入れ。よっし入った!!
「美味しい、セリアさんにお菓子作りを習いに行くのもいいかもなぁ」
感想を言いながら抹茶ラテを飲む。ルナはドキドキしながらリアの変化を待つ。しかし、いつまで経ってもリアが発情することは無かった。
「お姉様」
「どうした?」
「身体が熱くなってませんか?」
「熱く? いや、炬燵の温度で丁度いいけど?」
「あれ?」
「うん?」
これ以上、下手に追求すればバレる可能性がある。そう思い口を噤む。
(セリアさん、効いてませんよー!!)
………………
翌日。
場所は2/A教室。今日は身体測定の日であった。早々にルナは測定を終えると教室に帰ってくる。
そして教室の隅で一人本を読んでいる生徒に目を向ける。そう、友人であるセリアだ。彼女の周りには驚く程に女子生徒はいない。まぁ、理由は明白なので疑問には思わない。
軽くため息を吐くと彼女の元に近づく。席が隣なのでどのみち行くのだが。
セリアはルナが近づいてきた事に気がつくと、本から顔を上げニコリと微笑んだ。
「あら、身体測定は終わったの?」
「終わりましたよ?」
「ふふっ、去年と比べて変化はあったのかしら?」
分かってて言っているのなら、なんとも意地悪な質問です。
「変わってませんよ!! 本当に悲しくなるくらい!!」
ルナは自身の胸に手を当て渋い顔をしながら机に突っ伏した。ついでに突っ伏す前に恨みを込め、セリアの大きい胸をひと睨みして。
セリアはその視線に気がついてはいたが意に介す事なく口を開いた。
「まぁそんな事より。今私が最も気になっているのは一つよ」
「そんな事って、長年の私の悩みを!!」
「焦っても仕方ないわルナさん。それに今は成長期なのだから、気長に待てば成長するわよ」
「大きいからこその余裕ですか」
目に涙を浮かべながら悔しがるルナに、思わず「話が進まないわね……」と呟く。その呟きをルナはしっかりと聞き取っていた。
「分かってますよ、セリアさんが聞きたい事は」
「なら聞かせてもらいましょう」
漸く話が進み、先程までとは打って変わってワクワクと、それでいてうっとりと色香を漂わせた表情で、セリアはルナが口を開くのを待った。そして、そんなセリアの顔をチラリと見た何人かの男子が思わず赤面してしまったのは仕方ない事なのかもしれない。彼らくらいの年頃の男の子は、思春期の真っ只中なのだから。
ルナは無意識にエロティックな表情をしている彼女に、小さくため息を吐き出した。
「聞きたいのはチョコレートの件ですよね?」
確認の為に問い、セリアは「早く結果を聞かせて?」と肯定で返す。答えの分かっていた問いであったが、しかしこれで第一声が決まった。
「ご期待には沿えませんよ?」
セリアに説明を行う。昨日リアの口に入れたのに、特に効果が無かった事を。
最後まで話を聞いたセリアは、珍しく眉に皺を寄せ、唸りながらぶつぶつと呟き始める。
「私の薬が効かなかった? いやそんな事ある筈がない。なら配分を間違えた可能性も、それはもっとないわね、何度も確認して作っているし。なら原因は何なのかしら? 分からない」
「セリアさん?」
セリアは鞄からノートとシャーペンを取り出し、薬の原料や脳に作用する要素を洗い出す。だが、不備などあるはずがない。まず、自分で実験しているのだから。
「おかしいわね」
セリアはシャープペンシルのペン尻を下唇に当てながら唸る。
それから、考えが纏まったのか、ゆっくりと口を開いていく。
「まさか、いえ、私の媚薬で発情しない理由は一つしかないわね」
前置きしながらセリアは結論を口に出した。
「脳が反応しなかった」
いきなり説明し始めたセリアにルナは首を傾げるが、セリアは気にせずに続ける。
「そして脳が反応しなかった理由は一つ『快楽を知らない』ってところだと思うわ。これしか考えられないもの。ねぇ、貴方のお姉さん1日だけ貸してくれないかしら? 貸してくれたら女の子の快楽を脳に刻み込んで立派な牝にしてあげるわよ? そしたら、私の媚薬もちゃんと効果があるって証明できるわぁ、うふふっ」
「昼間っから何を阿呆な事言ってるんですか!?」
とても良い笑顔をしながら、丸聞こえの声量で欲望を垂れ流すセリアに、ルナは周りの事など気にせず大声でツッコミを入れる。そのツッコミは、ある意味全ての生徒の代弁でもあった。
「まぁ断られるのは分かっていたけど」
「ならば最初から言わないで下さい…….というか、お姉様が許可する訳ないじゃないですか」
「まぁそうね。私も無理矢理っていうのは嫌いだし。それにしても、いやはや、まったくもって面白いわね、貴方のお姉さん。まさか、この歳で全くシた事がないなんて。それに、穢れを知らない女の子って、字面だけでなんだか興奮してくるわ」
「シた事がない」という言葉のニュアンスから聞かなくても言いたい事が想像でき、ルナは思わず顔を赤くしてしまう。それとは別に媚薬が効かなかった他の原因が、なんとなく考察できていた。
だって、お姉様は元男なのだから。
脳が反応しなかったというのはつまり、そういう事なのだろう。言ったら絶対面白がるだろうし言いませんけど。
そして、ルナはジト目を向けながら「お願いですから下ネタは自重して下さいよ。だから友達できないんですよ?」と、生徒会の役員として、また1人の友人としても注意をした。
その注意に対してセリアは「うふふ」と不気味に微笑む。が、目は笑っていなかった。
と、その時。
「キーンコーンカーンコーン」と軽やかな鐘の音が響いた。教室の壁にある時計を見ると、短針は12を指している。
「もうお昼ですか」
「今日はどこで食べるの?」
セリアは友人が少ない為に、結果いつもルナと共に昼食を摂っていた。一応言っておくが、ルナもセリアと昼食を食べる事は嫌ではなく、普通に楽しんでいる。
しかし、今日は別であった。ルナは弁当箱を取り出しながら断りを入れる。
「ごめんなさい、セリアさん。今日はお姉様と食べる約束を……」
「……っえ」
セリアは美人な顔をキョトンとさせ、口を小さく開いた。
しかし、直ぐにルナの言ったことを理解すると、引き攣りそうになる頰を無理やり歪ませ笑う。
「そう、残念、ね。行ってらっしゃいルナさん」
お弁当の入った風呂敷を虚ろな瞳で見つめるセリア。よく見れば、薄っすらと涙が滲んでいた。
ルナはそんな彼女を見て(日頃から少しでも変態発言を自重すれば、友達なんて簡単に増えるでしょうに…….)と思いながらも、顔には出さずに口開いた。
「もう……セリアさんもご一緒しますか?」
「いいの?」
「最初から誘うつもりでしたし、嫌なら別に良いですが」
「ふ、ふふっ、ならお供させていただきましょう」
「まったく……」
そうして、セリアとルナは共に席を立ち、2/A教室を後にした。
実は、日頃からルナとセリアを誘いたいグループなんかも数多くあるという事を、セリアはともかく、以外な事にルナも気がつかないでいるのだった。
昼の鐘が鳴ってすぐルナはセリアと共に1/A教室を訪れた。その時にリアはレイアを昼食に誘い、レイアも二つ返事で「お供させてもらうよ」と了承する。
良い感じのベンチに座る。気持ちのいい風とほんのり暖かな日差しが射し込む。ここで読書をでもすると気分が良さそうだ。
そうして。まったりと昼休みは過ぎて行く。
ルナが連れてきてくれたおかげで、リアはセリアともだいぶ打ち解けてくることができた。向こうからメールアドレスの申請をしてきたので、リアは速攻でOKして交換した。メアド欄が埋まり喜びで舞い上がる。
それからセリアに教室内でのルナの様子などを聞いた。やはりルナは人気があるようで兄として誇らしく思う。それとは別にレイアとは調合などの話題において色々と話が合ったようで、後半は2人で盛り上がっていた。少しだけ疎外感を感じたリアだったが、ルナが必死に話題を振ってくれたので寂しくはなかった。ごめんな、コミュ障な兄でと思う。でも必死に話を振ってくれるルナはなんだかとても可愛かった。
一方でレイアは会話がひと段落して途切れた時にふと、足元近くの地面に目を向け。何かが染み出しているのか、地面が濡れていた。




