リヴァイアサン10
アーマードコア6トロコンしたので初投稿です
エネルギーと魔力の奔流がリヴァイアサンの周囲で渦を巻きながら広がっていく。ミヤノの鎖やルナの凍りを退け、ドクンドクンと脈打ちながら魔力とエネルギーを溜めている……ように見える。
恐らく、爆発に似た範囲攻撃だろうとリヴァイアサンのこれまでの流れから見当をつけたリアは結界を張ろうとしたが。
「……大太刀?」
カタカタと大太刀が揺れ、ピンっとリヴァイアサンに鋒を向けた。まるで意思を持っているようで、自分を使えと言っているように感じた。そして己の力で巨悪を倒せと。
「信じていいんだな?」
大太刀は答えない。ただ、刀身に黄金色の光を揺らめかせる。リアは大太刀に更に聖属性の魔力を叩き込んだ。すると、大太刀は嬉しそうに黄金色の光で刀身を倍以上に伸ばす。途端に祝詞のような台詞が頭に浮かんでくる。
リアは強く大太刀を握りしめると振りかぶる形に構えて唱えた。
「天草払いたまう大太刀よ、全ての魔を無に帰さんと、黄金の光で鎮め、決して向かうことのないよう力を示せ……!!」
振りかぶる寸前、自然に漂う魔力を急速に吸収して巨大な光の刃を纏った大太刀は、リアの流れるような一振りに合わせて光刃を飛ばした。リヴァイアサンの纏う光と光刃が衝突し「ギィィイン!!」と拮抗音を轟かせながらぶつかり合う。だが、大太刀の力の方が上だったらしく……光刃は駆け抜ける。
ドーム状に広がっていた光は途絶え、リヴァイアサンが変わった姿で現れる。
尻尾の方から徐々に白い皮が剥けていき、さっきまで散々傷つけた場所が完璧に治癒している。
「脱皮!?」
「隠し技は回復だったか、しかし阻止できたようだ」
見るからに脱皮であり、おそらくリヴァイアサンの急速回復系の奥の手なのだろう事は分かった。だが、その脱皮も中間付近で止まっており、更に……ちょうど頭の下……首付近から大量の血を吹き出していた。光刃はどうやら、運良く首元を通り抜けていったらしい。そして脱皮に力を使っているのか回復が追いついていないようだ。
遠くから退避していたあのシストラムが青白いスラスターの光を吹かしながら、両腕を合わせた。新たな武装をライラが開発していたのか、合わさった両腕の隙間から巨大なエネルギーブレードが形成された。そして青白く光る刃を、シストラムはリヴァイアサンの傷口に突き刺した。そのままゆっくり時計回りに突き進む。スラスターを全力で吹かしても流石に中々焼き切るのが難しい様子だが、それでも確実にそして着実に切っていく。そのパイロットの意図を理解したリアはギルグリアの頭を撫でた。
「いくぞギルグリア!!」
「我の魔力も大太刀に渡そう!!」
リアは再び天草払の大太刀を起動する。リアの黄金色の魔力にギルグリアの紅く禍々しくも、頼もしい魔力が溢れ出し巨大な光の刃を作り出す。最早、大太刀ではなくバスターソードである。
「我がリアの身体を掴んでおくから、両手でしっかりと握りしめろ!!」
頭の上にいるリアの下半身をギルグリアの両手が優しく掴む。これによりギルグリアの爪系統の魔法は使えないが、分かっている。ここは自分が決めるところだ。
「せんきゅー、じゃあ最終ラウンドいくかァ!!」
加速して勢いを乗せる。両腕に纏っている《境界線の狩武装》のガントレットから魔力が吹き出しブーストをかけながら傷口に突き刺した。
一機と2人の行動を見ていたミヤノ、ルナ、クロエもそれぞれ動く。
ミヤノはリヴァイアサンの頭を札で呼吸を塞ぎ、更に札から封印の鎖を飛ばして頭に巻き付け固定する。一方でクロエはスライムの龍に胴体を噛み付かせると上昇を始める。胴体はくの字に曲がり、リヴァイアサンの抵抗を防ぎながらもリア達をアシストする。そしてルナは慎重に繊細な魔力操作で、しかし大胆に魔力を使いリヴァイアサンの傷口を凍らせて回復を阻害。更に、海水を巻き上げて無数の槍を作ると突き刺していった。天津の鱗は魔法と物理攻撃を防ぐ。だが、焼けて爛れた鱗で聖属性の乗った特別な氷の槍は防げなかったようで、歪に絡み合うように突き刺さる氷の槍により遂に動けなくなる。
彼女らのサポートを受けつつ、リアもリヴァイアサンの傷口に大太刀を刺し貫くと半時計と周りに動いた。シストラムの青いスラスターの光と大太刀の黄金と赤がグルリと半周する。切り削り切った肉体は鎖と龍の力で引き剥がされ、触手のように結合しようと伸びる肉片はルナの魔法で凍らせて朽ちていった。
ここまでくれば、もう硬いところなどない。切り開いた傷口を更に押し広げるように、青と黄金の光はグルグルと回転を繰り返していく。
やがて、リアとシストラムが互いが視界に入る程に削り切った時。黒い瘴気のように澱んだ魔力を纏う巨大な骨が姿を現した。おそらく……この骨がリヴァイアサンを形成する根源だと直感で理解する。
「ここが致命!! ギルグリア、行ってくる!!」
「我も援護を!!」
リアはギルグリアの頭から飛び降りると聖属性の魔力を大太刀に叩き込んだ。すると刀身の光が収縮していき黄金色の刃へと変貌する。天草払の大太刀もここが最終局面だと理解している様子だ。
「終わりだぁぁぁあ!!」
大太刀を振りかぶり、刀身を骨に斬りつける。パキッと音が鳴り骨に罅が入ると同時に、大太刀を押し返そうと澱んだ魔力が吹き荒れる。カタカタと音を鳴らして大太刀が離れかけるのをリアはガントレットから魔力を吹かして抑える。その時、ギルグリアの両脚の爪が大太刀の刀身を上から押さえつける。翼を上向きにして紅い魔力を吹かし推進力に変える。結果、少しだけ刀身がグッと進むが。
「ぐぬっ!? 押し返してくるか!?」
「WRYAAAAA!! ぶった斬れろォ!!」
すると、あのシストラムが空から舞い降り、両腕のブレードを大太刀の上から叩きつけた。スラスター全開。また、少し押し込めた。
同時期に、ミヤノ、ルナ、クロエも刀身の真上に舞い降りると、両腕を大太刀に向けて聖属性の魔力を叩きつける。巫女服から噴射するように聖属性の魔力が吹き、黄金色の魔力の鱗粉が周囲を舞う。
誰もが息を呑んだ。色んな人々が色んな感情を抱き、しかしこの言葉が1番多かった。そして、その場の皆が叫ぶ。
『いけぇぇぇえ!!』
声援は大太刀の力に変わり、大太刀自身も黄金の魔力を吹き荒らす。
「うぉぉぉおおお!!」
リアは自身の身体の限界を越える勢いで魔力を噴出し推進力を全開にした。もうここで……ここで自身の保身で怖気づくなど、英雄を目指す自分には相応しくない。
そして「ズガガガガッ!!」と骨を斬り砕く音を鳴らして大太刀は突き進むと、一直線に斬り抜ける。
黄金の軌跡を残しながら、大太刀はリヴァイアサンの頭と胴体を断ち切った。
海に落ちていくリアをギルグリアが回収して、シストラムのパイロットは皆にグッドサインを送りながら即座に離れた。
ミヤノは次に起こる事を予測しており、事前にルナとクロエに伝えてある。クロエのスライムの龍はそのまま胴体を咥え空高く登ってゆく。頭部を掴んでいたミヤノの鎖が頭を引き寄せ、ルナが完全に凍らせた。凍らせた事により魔力の循環が完全に停止。そして頭部に罅が入り、ピシピシと音を鳴らす中。最後の仕事とミヤノは結界を張り。
「《爆》!!」
札が爆ぜリヴァイアサンの頭部は完全に砕け散り、長年溜め込まれた澱んだ魔力が荒れる。それを結界で抑え込み聖属性の魔力で中和した。
「ふぅ、さてルナとクロエ。最後の仕事じゃ」
「はい、心得ております」
「うん、これで……最後だね」
3人が空を見上げた瞬間、雷雲の20倍は重く轟くような爆発音が襲う。リヴァイアサンの最後の一撃は空で果てた。だがこれで終わりではない。鼓膜が揺さぶられる中で、3人は空から澱んだ魔力と瘴気だけとなり最後の抵抗と不完全な形で再び降下してきたリヴァイアサンに、3人は手のひらを向けると。
「《聖》」
「《解》」
「《律》」
「「「《清浄の大鳥居》」」」
聖属性の魔力のみで構成された巨大な鳥居が姿を現す。鳥居の中央には黄金の魔力が渦を巻き、そしてリヴァイアサンの澱んだ魔力と瘴気を吸い込んでいく。
長い、とてつもなく長い年月の間に溜め込まれた澱んだ魔力と瘴気は鳥居を通過すると同時に聖属性と衝突し中和され、清浄な魔力と空気に変化し駆け抜けていった。これでリヴァイアサンから溢れた魔力が、また別の亡骸を元に魔物へと転じる事を防いだのだ。当然、リヴァイアサンの復活の阻止も。
そして『呪い』も消えた。
荒れた海は穏やかに波を打ち、上がっていた水位が下がって砂浜が見えてくる。砂浜は捲り上がり、元に戻すまでに時間は要するだろうが……それでもデイルという英雄の魔法により街には一滴も浸水していない。
魂を抜かれた人々は、ゆっくりと目を開いた。勿論、生身の身体で。リヴァイアサンの中から見ていた光景を、不思議な事に全て覚えている。それから肌の鱗や皮膚の変化は消え失せており、いたって健康体だ。そんな中、誰かが一言つぶやいた。
ありがとう、と。
それは、関係のない人や深海教会の信者も変わらなかった。いや、信者にとっては自身が信仰していた神があのような化け物と知りショックを受けた事だろうが……また新たな神を見出し寄辺とするか、心を癒し信仰を止めるか。被害者の心も含めて、時間が解決してくれるだろう。
また、グレイダーツと魔導機動隊の迅速な対応により、テロに加担したと思われる信者は概ね逮捕された。呪いさえなければ、怖いものなどない。ただの一般人と変わらず易々と拘束していく。これからじっくりと此度の過程を絞られるだろう。
こうして、全世界で生中継された、ある意味で怪獣大決戦は幕を下ろす事となる。
ここにいるメンバーで誰か1人でも欠けていたら成せなかった。
そして過去に大太刀を作った若者より、脈々と受け継がれた破魔の歴史がまた一つ更新されたのだ。
……………………
ホテルスタッフが対応に追われる中、ギルグリアはリアをお姫様抱っこしながら部屋へと戻った。魔力切れと無理に使った聖属性という特別な魔力により重度の疲労感でダウンしたリアを布団に寝かす。そうしたら、直ぐにすーすーと寝息が聞こえてくる。ギルグリアは左手でリアの頬を撫でながら、右手で髪をかき上げる。そしてルナとクロエが戻ってくる前に額にキスを落とす。
「ますます、気に入った……そして格好良かったぞリア。よく頑張ったな」
目元には出会った時には考えられない程の柔らかさがあり、まぁ女体化しているのもあってか絵になる光景である。
と、寝顔を眺めていると、聖属性で纏っていた巫女服が溶けるように消えていった。ウカノ様の加護も役目を終え、リアは下着姿に戻った。薄く黒い花柄の下着は、リアの恥部を隠すにはとても頼りない。こんな姿を全世界に晒してしまったリアを思うと、仕方なかったとはいえ……。
「まったく……だが目的のためならば自身を厭わない判断は……やはりデイルの弟子なのだな」
リアの横に寝転がり、ギルグリアはリアを抱きしめた。ギルグリアも今は見目麗しい女性。そして互いの柔らかな部分がぶつかり合い形を変える様はどこか扇状的だ。
しかし、手を出すのはここまで。
1年前までなら襲っていただろう。けれど、1年の付き合いでリアの人となりを知り、今の人間の世界をより詳しく知り、純愛というものを知ったギルグリアは、無理矢理は嫌だと思っている。愛しているということの意味を理解したのだ。
でも、大切な花嫁が傷つくのはやはり、心にくるものがある。これ以上、危険に首を突っ込むのは止めてほしいと思う。
だから、抱きしめるだけ。許してはもらえないだろうか。そんな事を考えているうちに、ギルグリアも眠りに落ちていった。
……………
「あーっ、ずるいギルグリア!!」
「まったく、油断も隙もありませんね、クソドラゴ……」
ルナの汚物を見るような目から剣呑さが消えてため息と共に目を閉じた。
「ルナ姉?」
「……。はぁ……。そんな幸せそうな顔されたら、引き離せないじゃないですか……」
ルナもまた、1年の時を経て確実に心が、精神が、大人に成長していた。