表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/226

ウカノ様1


 時刻は朝日が水平線より上がり、小鳥が鳴き始めた頃。


 皆が起き出し、それぞれ寝転がりながら労いの言葉をかける。


「お姉様、リヴァイアサンの討伐お疲れ様でした。格好良かったです……益々、惚れました!!」


「ん、リア姉はやっぱり凄い」


「2人のおかげでもあるさ。頑張ったな、そしてありがとう……俺の為に……」


 わしゃわしゃと2人の頭を撫でると、2人とも純粋に受け取り「えへへ」と微笑んだ。微笑んで、目を逸らした。2人は恐らくウカノ様の事情をリアが知らないと思っているのだと判断し苦笑いを浮かべながらも。


「俺も覚悟はできてるさ。準備が出来たら行こうか」


「その、お姉様……」


「謝らなくていい。必要だったし、俺達がウカノ様に奉仕するだけで今回の代償をチャラにしてもらえるんだ。むしろ有難いくらいだよ」


 神様への借りなんて、普通に考えればもっと大掛かりで大規模で、とにかくたった一回のえっちでOKというのなら安いものだ。

 そう言いはするものの、ルナに代わってクロエも目を伏せる。


「うぅ、リア姉……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、勝手に決めてごめんね」


「俺はクロエが『ウカノ様への借り』っていう恐怖を堪えてまで助けに来てくれた事が嬉しいよ」


 これは全員で戦って、皆で勝ち取った勝利だ。

 というか全員、ウカノ様のパーティーへの参加者であり贄なのだ。謝り合うのは違うとリアは思う。


「じゃ、そろそろ起きるか」


 ウカノ様をこれ以上、待たせてしまうのもダメだ。


 覚悟は……。いつもの覚悟とは違い戸惑いの方が大きいし、戦闘とは違うので純粋に不安だなぁと思いながらも、神様とえっちな事をすると言う非現実的な現状に実感がない。なので、覚悟というものができずにいる。


 というか、どうやって処女を破らずにえっちを……?


 あとは、女としての快楽を知らない。果たして自分の脳は保つのだろうか。やはり少し怖いなぁとリアが思っていると。


「まぁ、元々贄となるのはあっし1人じゃったしな。いざとなればウカノ様に頼んで全て引き受けるのじゃ」


 安心させるような優しい声色でミヤノはリアに言った。リアは軽く頭を下げて返す。

 それから、それぞれがミヤノの用意した巫女服に着替えていた時である。ギルグリアが耳元で囁いた。


「せっかくの機会だし、我と夜伽の練習をせんか?」


「しばくぞ」


「子供を産めと言っているのではない。ただ、愛し合いたいだけだ」


「……んぅ、だめ」


「そうか……」


 シュン……とするギルグリア。何故か心にざわつく罪悪感を抱き、リアは耳打ちをし返す。


「もっと仲良くなったら……考えてやらんでもない。ただ、子供はダメ」


「!! ふっ、精進しよう」


 ギルグリアは変わった。ドラゴンもたった一年でここまで変われるのだ。自分もいい加減、男としての精神に見切りをつけて男と恋愛するべきなのかもしれない。でも、やっぱり女の子も好きだ。そう考えると、男にも女にもなれるギルグリアは理想系……?


 なんて考えていると、左にルナ、右にクロエが両側面から抱きついてきてギルグリアを睨んだ。


「「渡さないから」」


 ギルグリアは目を見開くと、獰猛に牙を見せて笑みを浮かべた。


…………………


 わいわいとしていると、扉をノックする音が一つ。関係者しか入れない場所なので、ホテルの人かな? と思ったリアが扉を開くと。小柄だがピシッとした防刃仕様の黒服を着た友人の姿があった。レーナだ。彼女はリアの顔を見ると「あっ」と声を漏らし笑みを浮かべた。


「警備を潜り抜けて会いに来ました。お疲れ様を言いに来たのですが……」


「レーナ!! 無事で良かった!! 大丈夫? 魂抜かれるとかしなかった!?」


「ご心配ありがとうございます。リアさんの方こそ、リヴァイアサンの討伐お疲れ様でした。私は結局、黒幕は発狂……廃人になってしまったので捕まえたと胸を張っては言えず。それに私の力が至らずリヴァイアサンは復活してしまったので……」


「いやいやいや、レーナが卑屈になる理由はないよ!! というか黒幕見つけたんだ……凄いじゃん!!」


「……リアさんは優しいですね」


 リアからとても良い笑顔を向けられて、レーナも笑う。お互いに仕事はこなした。それで良いと心で通じ合った。


 ただ、レーナは此度にまさか介入してくるとは思わなかった、あの邪神について言うべきか迷い……まだ浅い所にしか足を突っ込んでいないリアには黙っておこうと判断して。


 上から下まで見回し首を傾げた。


「ところでリアさん。何故巫女服を?」


「友達なんだしリアって呼び捨てでいいよー」


「と、友達!! こほん。ではリア、理由を聞いても?」


「うん、巫女服なのは……その、これから神様にご奉仕をしに行くところなんだ」


 めちゃくちゃ顔を真っ赤にしながら乙女な仕草で頬を掻くリアを見て、ご奉仕という言葉を察した。しかし、ここは経験と好奇心旺盛なレーナ。話に突っ込んでいく。胸に抱くのは神の遊戯に対する期待と快楽の螺旋である。


「確認ですが……ご奉仕、なんですね?」


「えっちな方のね……」


「やはり性的な事でしたか。むぅ、神様との性行為……私気になります。……私も参加していいですか?」


 ……正直に言えば目論見もある。付けられた邪神の加護とやらを問う良い機会でもあるからだ。だが、純粋に1人の女として、割と20歳と成人になったばかりだが、この人生において年齢=彼氏いない歴のレーナは、ハッキリ言って性欲旺盛であった。


 レーナの提案に「なんかぐちゅぐちゅにされるらしいよ?」「今からでも辞めといた方が……」と否定と説得の言葉をかけるリアの横から、ぬるりと話を聞いていたミヤノがレーナを部屋に引き込んだ。


「神の贄は多い方が良いからのぅ!! さぁ、お主の巫女服じゃー!!」


 レーナにポンと着替えを渡す。レーナは巫女服を見て「見事なデザインと装飾ですね。神様は何故、センスだけは良いのでしょう?」と誉めながらも頬を赤くしながら、するりと探偵装備を外していくのだった。


…………………


 ホテルには報道陣が待機している為、《門》を使ってウカノの命が祀られている神社に向かう。巫女服の美女、美少女が合わせて6人も降り立つ姿はどこか神々しくもある。そんな境内の奥、豊穣の神を祀る為の巨大な宮、その軒先で酒を傾ける神が一柱。


 リアはウカノの命を見た瞬間、思わず目を奪われた。


 この世のものとは思えない美の化身。翡翠色のどんな宝石よりも美しく妖しい瞳に、ルナと同じく姫カットにされた白くも艶やかな白髪。着ている和装と見た目も相まって、大和の国と呼ばれていた地域の民族衣装のようにも見え、例えるならば極限の大和撫子だ。


 この神が、豊穣神ウカノの(ミコト)


 思わず見惚れてしまったリアに気がついたウカノは上品な笑みを浮かべて酒の入った皿を置くと……トンッと地面を蹴ると空を舞い、リアの前に降り立った。急に接近されたリアは思わず身構えようとするが、美しさから毒気が抜け、構えが解ける。ウカノはそんなリアを愛おしそうに見つめ瞳を覗き込み、満足したように頷いた。


「此度の討伐、大義であった」


 頬に手を当て、撫でる。老若男女、誰であろうと魅了するような微笑みにリアの頬が赤くなり……その手をギルグリアが振り払った。


「我が嫁だ、気安く触れるな」


「これはこれは……ドラゴンはいつの時代も傍若無人、大胆不敵だな。これでも神様だぞ、敬いたまえよ」


「ふんっ、神風情が」


「その余裕がいつまで続くかなぁ? 味わった事のない快楽で鳴かしてやろう。黒龍ギルグリア、覚悟するが良い」


 ウカノは気分を害した様子はなく、寧ろ面白そうな反応を見せる。背後でルナとクロエが伸ばしかけた手を引っ込め、よくやったとギルグリアにポンと手を置く。ミヤノは付き合いが長いのもあり(まぁウカノ様じゃしな)と傍観を決め、レーナは邪神とは違う純粋な神とやらを興味深げに観察している。


 そんな時、レーナがウカノの命に出会ったら聞きたいと思っていた問いをひとつ投げた。


「ウカノ様、お初にお目にかかります。私はレーナと申します」


「うむ、レーナ。若く美しい探偵よ、何か聞きたいことがあるのだな?」


「はい、ウカノ様はニャルという邪神についてご存知ですか?」


「ニャル? あー、ナイアーラトテップの事か。あやつとは交流はないからなぁ。私は有名な神ではあるが、奴は影に潜む信仰のいらない不思議な存在だ。私も詳しくは知らない……よく見るとレーナ、邪神の加護が宿っておらんか?」


「はい、此度のリヴァイアサンの一件で黒幕を捕まえようとした時に出会いました。その時に……」


「あの神の通達役が加護を? ふむ……まぁ、邪神とはいえ加護ではある。危機的状況で君を救ってくれると思うぞ?」


「……疑問なんです、なぜ加護をつけられたのか」


「こればっかりは私にも分からん。神とはいえ全知全能ではないのでな。所詮は豊穣を司っているだけだ」


「そう、ですか。貴重な情報ありがとうございます」


「いいよ、じゃあ話はここまでにして、そろそろ……」


 ギルグリアを除く全員がウカノの言葉にごくりと喉を鳴らした。


 ウカノはタンっとバックステップで距離を取ると、この場に集う美女、美少女を眺めて、うっとりと妖艶に微笑んだ。


「ミヤノよ、よくこれ程の上玉達を……。ギルグリアとレーナの参加は嬉しく思う。感謝する。此度の酒池肉林は満足できそうだ。しかも、ミヤノ以外は全員処女ではないか!!」


 ウカノの言葉にリアは(レーナって処女なんだ……)と思い視線を送ってしまい、ニコリと笑顔で返させる。少し身震いしたので彼女の男女関係には突っ込まないでおこう。それはそれとして、代表であるミヤノは恭しく頭を下げた。


「それはよろしゅうございますウカノ様。それで、朝からおっ始めるのですか?」


「当たり前だ、夜まで待てる訳なかろう!! 今日1日は長いぞ……!! の、前にルナとクロエよ、前に伝え忘れていたことがあるのだが」


 心当たりがないのか、2人は首を傾げる。


「ん、なにウカノ様」


「心当たりがないのですが」


「いやな、処女膜は破らんと約束していただろ? あれには少し語弊があってな。私は『処女膜を再生』できる。だから普通に全員破るぞ。終わりの際に治す予定だ」


 ギルグリアとミヤノを除く全員が「え?」と呟き腹を撫でた。撫でてはみたものの他の女性陣の驚きとはまた違い、TSした元男のリアからすれば処女膜を破られる重要性を理解しきれずにいる。だが、それでもルナとクロエが自身を思ってくれていたことに胸が熱くなった。いざとなれば……元男として、自身の身を差し出してウカノ様に満足してもらおうと思う。この無駄に育った乳を使う時が来たのかもしれない。


「は、話が違います!! お姉様に処女膜が破れる痛みは味わって欲しくないから、頼んだのに!!」


 すると、ウカノはすーっとルナの元に近づき、耳を摘むと鼓膜に向かって「それだけではないだろう、ルナよ」と囁いて離れる。


「確かに処女膜というのは女子にとって大切なモノだ。私とて女神の1人、よーく分かるとも。けれどルナ、お主が阻止したいのはリアに『自分以外の人間からの行為で、リアが喘ぐ姿を見たくないから』だろ? ネバネバと纏わりつく粘着質な良い独占欲だ」


「ぐぬっ、それもあります……。しかし、お姉様はこと性に関しては無関心でした。ですから、狂ってしまはないか心配なのです!!」


 ルナの表情が苦々しいものに変わる。そんな思惑もあったのかーとクロエは思いながらも、自身もこの世に生を受けて1年も経っていない。果たして『快楽』とやらについていけるのだろうか。ルナがこれほどまでに恐る女の特権を思い描き、未知ゆえの恐怖から身震いする。


 一方で、ルナは険しい顔つきのままリアの手を取り後ずさった。


「《契約》の魔法で縛った方が良かったかもしれませんね……!! 私は使えませんが!!」


「怯えた顔も可愛いなぁ」


 ウカノは余裕の笑みだ。だが、リアはここで思い至る。そもそも、ウカノ様って『ついてるの?』と。


「ウカノ様、その失礼を承知で問いたいのですが……どのような遊戯をご所望なのでしょう? 処女膜云々の前に男のアレついてませんよね?」


「ついておらんが、女神なりの遊び方があるのだ」


 桃色の柔らかそうな唇を、紅く艶やかな舌で舐める。どこか蠱惑的でいて、獲物を待つ蜘蛛のような雰囲気に呑まれそうになった。そんなリアの恐れを抱いた表情に満足したウカノはくるりと方向を転換する。


「まぁ、そろそろ立ち話も飽きてきた頃だし、宮にて話をするとしよう。あぁ、あとルナよ。もし逃げたら……リアの理性を壊すからな」


「!!」


「……普通に怖いですよウカノ様。それとルナ……よしよし大丈夫だから」


 ルナが若干、涙目になっている。リアの事を思っての僅かな抵抗にウカノは興奮したように「はぁ」と息を吐く。こういう自身を顧みない、綺麗な兄妹愛というのは実に美しいものだ。神故に輪廻転生の輪に乗れるか分からず、この先経験する事のないかもしれない『人の愛』はいいなと思い……心中で哀愁を漂わせた。


 一方、リアとクロエはそんなルナの頭を撫で慰めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] セ○クスバトルでウカノ様を倒せば何とかなる可能性も微レ存……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ