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リヴァイアサン8


 ウカノの命は去り行く3人を見て息を吐いた。神様、なんて大層な呼ばれ方をしているが、自分は古来より信仰で生まれ運命を決めつけられた哀れな存在でしかない。だから、自分の事など神様なんて思っていないし、実際本当に神なのかも曖昧で自分自身も分からない。だから、人らしく欲望だけは忠実であろうと思っての性欲解放な発言だったが、まさか受け入れられるとは。中々に強い女子だと感心した。


 ……この戦いが終われば、また長い眠りに入る。夢現のように眠りの中で現代の移りゆく世界を見る事はあるが、やはり退屈なのは変わらない。だから、ありったけの性欲を発散してから気持ちよく眠りたい。その為の要求だったので通った事は喜ばしい。素直に楽しみにさせてもらおうと思う。


 その為にもこの国を滅ぼしかねないリヴァイアサンとやらはきっちり始末しなければいけない。


『運命……なのだろうな。この場に都合良く力ある者達が集ったのは』


 もし『神様』が本当にいるのならば、今こうしてリア達を揃えてみせた者……まさに『運命』をそう呼ぶに相応しいと思った。


 そこでふと、思い出す。


 50年前に顕現した時に出会った1人の少女の事を。

 ヴァルディア・ソロディス。

 世界を魔物の渦に飲み込んだ大罪人。彼女は海底に封じられていたリヴァイアサンの存在に気がついていた。そして人魔大戦中のこと。ミヤノの協力で顕現していた自分に近づいてきた。理由は……当然、リヴァイアサンの復活と自分の力を奪う為だ。いや、だった、の方が正しいか。


『『人の希望の象徴。美しいわ。でも眩し過ぎて疲れるから貴方の力はいらない。リヴァイアサンとの戦いは貴方達の未来に譲るわ。きっと、美しい魂の輝きが観れるでしょうね』……か』


 一語一句覚えていた。それ程に彼女の言葉には言い知れない、澱んでいて暗く冷たい、しかし確かなる『覚悟』があったから。

 そうして、彼女は何もせず立ち去った。こちらからすれば何しにやってきたんだと思う一幕だった。……そして時間は経ち、英雄達が戦い、傷つき、希望を見せ、ヴァルディアを倒した。彼女が消えゆくと同時に大軍の魔物も消え去り、世界に平穏が戻った事を知り安堵したと同時に、彼女との邂逅は誰にも話さないでおこうと思った。あの薄暗くも確かに神の力の一端に触れていた彼女は、結局人の絶望と希望の光を見れたのだろうか? 世界の脅威となった彼女はどんな景色を見たのだろうか? 地獄か、人の生き様か。発狂していながら冷静を保つという離れ技をしていた彼女は欲しいものが見れて満足したのだろうか。


 1柱の神と呼ばれる存在として、そして今の戦いを見ながら少し気になった。同時に思う、今『覚悟』を抱いて戦う者達。力のあるなし関係なく美しいと。ヴァルディアの見た景色の端っこかもしれないが、なるほど……これは惹かれるなと思う。人の命の輝きはこれほどまでに尊いのか……。


 そんな昔を思い出しつつ、前を向く。海岸沿いに張られた巨大な結界には何度も大波が打ちつけてくる。破れればこの街は瞬く間に水底に沈むだろう。しかし、ウカノの命は感じていた。人々が希望を抱いていると。ある意味、小説の中のような出来事、このような戦いは一般人など人生で一度あるかないかの景色だ。そして街は無事だが、深海教会により倒れた人は数知れず。人々から魂を吸い取った圧倒的なリヴァイアサンの恐怖はある筈。魂だって取り返せると決まった訳ではない。なのに……集う魔法使いとリアという少女に希望を送っている。戦う者に希望を見出している。


『いい傾向だ。これならば……あの神器、天草払の大太刀もきっと起動するだろう』


 ウカノが勝てると見込む一端、天草払の大太刀。中々に難儀な性格をしている神器だが、ウカノですら感じる希望の光ならば。古き世の一巻き、八岐大蛇の時のように邪悪を払う一助となるだろう。


 ならば、この戦いの勝利は決まったようなものだ。だから、先に御供物の酒を煽り息を吐いた。


『私も、人になりたいものだ』


 力を与えるのではない。この力を振るって人々を助けたい。出来れば、眠りたくない。だが、所詮信仰がなければ消えてしまう身。眠るのは食事と同じであり、そうしなければ消えてしまう。


『ミヤノに頼んで、月1でいいから身体を借りる事はできないかなぁ』


 星空を見上げながら、再び酒を煽った。どちらにせよ、『神は最後には傍観者になる』。


……………………………


 少し余裕が出来たので、繋がりっぱなしの携帯端末に話しかける。


「ところで先輩、こっちに来て戦ってもらうことってできます?」


『うーむ、魔力無いから無理だな』


「レイアやライラ先輩、ティオ先輩は……?」


『ライラとティオは戦闘向きじゃねぇだろ。あとレイアなぁ。ライラから連絡来たんだが、幽霊見て発狂して引き篭もってるってさ』


「死者蘇生の一件があっても、まだ怖いんだ……」


 リヴァイアサンの目玉から血と同時に人の魂らしき人影が数体出て来た。それを見て、まぁ普通にホラーだなとリアは思う。神話的事象のおかげで幽霊に対する耐性はできたが、レイアが怖がるのも無理はない。しかし同時に人質のようになっていた魂の幾つかが先の攻撃で解放された事を意味し、少し安堵する。


『ちなみに、幽霊はバッチリカメラに映ってるから、これ色んな方面から怒られそうだな』


「半笑いで言ってる状況じゃねぇんすけど」


 今回の一件により、幽霊信じない派は全員黙する事となる。割と世界規模でとんでもないことになっているんだなと再確認した。

 そう話していると、幽霊のうち2体が近寄ってきた。形は人型でしかなく、男女の区別もできないが、それぞれ女性の声でこう言った。


『ありがとう、あなたのおかげで解放された。それに中に残っている人達も貴方を見て応援している』


『この恩は忘れないよ』


「他の人達もしっかり解放するから安心して戻りな!!」


 サムズアップしてから手を振ると、幽霊2体も手を振って街の方に戻って行った。こう言ってもらえると闘う気力、戦意が上がるというものだ。そう思っていると、水どころか氷を差し込むような事をダルクが言った。


『ところでさぁ、たぶん全国放送でリアっちの下着姿映ってる訳だけど……大丈夫か?』


「へ? あっ……」


 そう言われて顔がカァーッと赤くなる。大丈夫か? の言葉に本気の心配を感じる。大丈夫な訳ない、普通に恥ずかしい。


 だが、事態は恥ずかしがっている場合ではなかった。リヴァイアサンの目がある程度、血を噴き出すと塞ぎ始めた。まるで逆再生のように元に戻っていく。ダメージは確実に与えた。だが、そのダメージをものともせずに再生できるとは思っていなかった。


「はぁ!? 治癒してる!?」


 ギルグリアも驚いている様子で「あれだけの攻撃を受けて再生できるのか……」と呟いた。そして、再び空に水の玉が出来る。


「水のカッターに味しめやがったな!!」


 出来るだけ水のカッターに変化する前に結界で叩き潰すが、月明かりとシストラムの灯りだけでは視界が悪く、遠くで展開されればよく見えない。唯一、良かった点を2つ上げるとすれば、近接された時に「ギュイイイ」と怖気の走る回転音が聞こえる所だろうか。しかし水故に目視が難しいのは変わらず、時間が止まってでもくれないと高速で飛来する水のカッターへの座標指定が難しい。試しに結界で防いでみたら、やはり《解呪》と同じ効果を纏っているのか結界は拮抗しながらも削れていく。5秒程の時間の猶予が出来ることは分かったが、四方八方から来る水のカッターを受け止めて叩き潰すのは至難の業だ。


「かと言って、リヴァイアサンの前から消えたら魔道機動隊やテレビ中継のヘリに向かいそうだな」


「《門》での一時撤退は出来ないという事か。どうする、また逃げ回る事になるぞ」


「くそっ、どうする俺……」


 これは、まずいな。どうする? 焦りから呼吸が荒くなる。再び時間を止めて攻撃を打ち込んでも、再生されては意味がない。それに水のカッターから逃げ続けながら一点集中して攻撃するのは難度が高い。


 ……と、悩んでいたその時。


 ヒヤリとした風が背中から吹き抜けた。同時に「お姉様」「リア姉」と聞き慣れた妹の呼び声が聞こえてくる。


「ルナ、クロエ!? なんでここに……」


 まさか追ってきたのか、なんで!! 危ないのに!! 別の焦りからすぐに背後へ振り返ると。淡く黄金色に光る巫女服に身を包み、背中に薄く透けた黄金色の社を顕現させたルナ、クロエ、そして神社のような大きな宮を顕現させたミヤノがいた。


「なにそれカッケェ!! なんかキラキラしてるぅ!?」


「はいキラキラしております。して、お姉様……なんて破廉恥な格好をしているのですか!! 取り敢えずこれ着てください!!」


 ルナがリアに手をかざすと、魔力が爆ぜた。黄金色の魔力の破片はやがてリアの元に収束していき、黄金色の巫女服に変える。《境界線の狩武装》の銀色のガントレットが、黄金色に変わる。同時に、胸の奥からポカポカとした感覚と魔力の操作がより鋭く出来るようになったのを実感した。


「お、おぉ?」


 困惑するリアを他所に、ルナは手を翳す。


「説明は全て終わってからします。なので、お姉様は少し休んでください。お姉様の活躍はまだまだありますので。《凍れ》」


 ルナから魔力が流れ……いや魔力だけでなくどこか神聖なパワーのようなものを感じる。そして瞬間、全ての水のカッターが凍りついた。パキンと音を立てて粉々になり、空にキラキラと氷の破片が舞う。リヴァイアサンは何度も水の玉を浮かべるが、その全てが自動で破壊されていく。


「嘘ぉ!? まじで!?」


 更に入れば最後、波に飲まれて死にそうな程に渦を巻いた海が……パキパキと音を立てながら凍り始める。波すらも氷に変えて、暴れるリヴァイアサンをも飲み込んでいき、海は完全に凍り続ける。やがて霜が降りて、真冬のような冷たい風が頬を撫でた。海上に広範囲の氷の大陸が出来上がる。


 静寂が訪れた。


 確かにルナは《氷》《凍》系統の魔法が得意だが、ここまでの効力は無いはずだ。これにはリアだけでなくギルグリアとて目を見開いて驚いた。


「えぇ……」


「なるほど、これが『ウカノの命』の力の一端か……」


「ウカノ様のブーストすげぇ、この戦い終わったら必ずお参りに行くわ……ご利益ご利益……」


 いや、リアはお参りどころか性的にぐちょぐちょにされる事が確定しているのだが。ルナとクロエは罪悪感からそっと顔を逸らした。ミヤノは苦笑している。3人は同じ事を思った、この事は直前まで言わないでおこうと。


 そんな、罪悪感増し増しのルナだったが、リアは早速、ウカノの力を使いこなして浮かび上がるとルナを抱きしめた。


「とにかく、ありがとうなルナ。助かった!!」


「あぁ、お姉様の力になれて、私は幸せです」

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― 新着の感想 ―
[一言] リアさんは自分の貞操危機をまだ知らない( ˘ω˘ )
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