リヴァイアサン7
「ムラムラ……」
「ウカノ様、あのそれは……」
『言葉通りだ。ムラムラするから、力を与える対価としてお主らの身体を要求する』
ルナとクロエはポカンと口を開き信じられないようなものを見る目でウカノの命を見た後、ミヤノに視線を向ける。ミヤノは顔に手を当て「あー」と呆れ声を漏らした。
「ウカノ様……あっしだけでは物足りぬと申しますか?」
『ふふっ、人数は多い方が良い。ミヤノは確かにイヤらしい身体だ。見た目も麗しく綺麗。だが!! 1人では物足りぬ!! それにハーレムは上位存在だとしても『夢』であるからな!! 複数の若い女子に奉仕させるのも、逆に気持ちよく喘ぐ姿を見るのも大好きなのだよ』
「思考が性犯罪者じゃ……」
ウカノの命は力強く力説して立ち上がり目をキラキラとさせた。バイタリティと生命力に溢れている。だが、言っている事はただのセクハラだ。
ルナとクロエは顔を真っ赤にし、身体を抱きしめながらウカノを睨んだ。ミヤノは欲望全開のウカノに苦言を呈する。
「ちょっとウカノ様ぁ、発情しすぎでは?」
『50年ぶりの顕現だからな。欲望は全開でゆきたい』
気持ちは分からないでもない。50年と長い時を眠ったかと思えば、叩き起こされて力を貸せ……と言われれば誰だって欲の一つや二つ要求したくはなるだろう。
だがなぁ……と、ミヤノはジト目をウカノに向ける。正直言えばミヤノは契約時に自分だけと聞いていたので受け入れたのだが、この神は自分以外も毒牙にかけたい様子だ。だから契約が違うと非難する視線を向けて脳内で(失望しました)と念を送るも、ウカノはとても明るい笑顔を浮かべて言った。
『ミヤノの覚悟は気持ち良かったぞ。私に身を差し出す、という事がどういう事か理解しておるようでな。確かに極上の雌を味わうだけならばミヤノだけでも充分。しかし!! 経験から初さが足りん!! ので、ほれ若き女子2人よ、時間はないぞ。どうする? リヴァイアサンを倒しに行ったリアの力になりたいのだろう?』
急かすように返事を要求する。そして、その言葉はずるい。ルナはそう思いながらも問い返す。
「覚悟と言われても……それに、もしかしてお姉様も狙ってます?」
『リア・リスティリア、あれほど性的でめちゃくちゃにしたい顔と身体は珍しい。まさに『雌』を体現しておる。それに強き女子というのもポイントが高い。強い者が何も手出しできずに泣き喘ぐ、想像しただけで達しそうだ。お主も理解できるだろう?』
「お姉様が何もできずにイキ狂い!? それは確かに!!」
「確かにじゃないよルナ姉!!」
クロエが制止の言葉をかける。いや、クロエとて興味が無い訳ではない。寧ろリアとは血が繋がっておらず、仲良くなれるなら身体を許すくらいには信頼している。正直に言うとルナと同じで性的に感じまくってビクビクしているリアは見たい。だが、ウカノの命とやらに情事を握られるのは違うだろうと思ったのだ。こういうのは、もっとムードを大切にしてゆっくりねっとりとしたい。そんなクロエを優しく抱きしめ頭を撫でながらルナは微笑んだ。
「どの道、私達に選択肢はありませんから」
「そうだけどさぁ……」
覚悟の決まった顔に何も言えなくなったクロエ。いや、リアに関しては知らないところでなんか契約させられているので問題なのだが。
しかし、言葉とは裏腹にルナの灰色の脳内に電撃が走っていた。つまり、愛しのお姉様とぐちょぐちょ(意味深)になれるのかと。ウカノの神に脳内で(当然、お姉様と私とのアレコレをセッティングしてくれますよね?)と念を送ると、綺麗なサムズアップが帰ってきた。そんなルナであったが、譲れないものがひとつ。
「ただし、貞操を破らないと約束してくれますか?」
『私は処女を重んじる』
「分かりました、条件を飲みましょう」
古今東西、八百万、あらゆる神がいるとされるが女神であるのに女子を求めるのは、そう珍しくない。神話を漁ればいくらでも出てくる。そして、力を貸してくれる代償として身体を差し出せ、というのはありふれた条件と言えるだろう。だけど、なんか納得できないと思うクロエ。そんなクロエに顔に出ていたのか、ミヤノが頭を撫でながら口を開いた。
「すまん……本来はあっしだけが贄となる筈が、ウカノ様は予想外なほど性欲旺盛なようじゃ……。説得しようにも、既に力を借りている身。恨むなら無力なあっしを恨んでくれ」
「いえ、ミヤノさんは凄く良くしてくれてます。ただ、神様ってこんなのばっかりなんですか?」
クロエの目線を受けたウカノはふむと考え込みながらも。
『まぁ古くから信仰より産まれた存在故に本当に神様なのかと問われれば自分でも少し首を傾げてしまうが……。まぁ、そこは置いておいて。ふぅん、そうだなぁ、幼子に手を出すのは確かに風評的に良くないか? お主だけは例外に外してやっても良いぞ』
「ダメ、リア姉とルナ姉だけじゃない、ミヤノさんも私が守る」
『健気だ……好き、めちゃくちゃにしたい』
「ひぇ」
見た目がロリでも関係ないのかとクロエは純粋な恐怖を抱いた。こいつやべーなと心の底から思いドン引きした。しかし、そんなヤバい奴から力を借りなくてはいけない現状。なんと残酷なのだろうかと嘆きたくなる。もし仮に自分が男ならばこんな綺麗な神様に抱かれるなんてと歓喜するだろう。だが、生憎とリアの事が好きなだけで、完全な同性愛者な訳ではないのだ。それに顔は良くても性格が終わっている。
そんなクロエの心情を他所に話は進んでいく。ウカノの命はルナを招き寄せると。
『では。契約だ。我が力の一部を与えよう』
ルナの手を取り、手の甲にキスをする。瞬間、ルナから魔力が爆ぜた。キラキラと金色に舞う魔力の燐光は、やがて収束するようにルナの元へ集まっていくと巫女服を形成していく。ルナは胸の内側からポカポカとした心地良さを感じ、それから力の奔流を感じ取る。凄い、魔力の補正が何倍にも強化されている。これなら確かにリアの邪魔にはならないと確信できる。それから脳内に使える《封術》の情報が流れ込んできた。少し頭が痛むが、理解した。
『次はお主だクロエ。ふふっ、そんなに嫌そうな顔をするでない。虐めたくなるだろう?』
「嫌そうな顔じゃないです、心底軽蔑した顔です、俗物が」
『私を俗物呼ばわりするか。はっはっは、まぁ間違ってはいないな』
嫌々なクロエも、しかし力を借りなければならない現状を理解している為に、とても悔しそうに手の甲を差し出した。ウカノの命はそんなクロエを愛おしそうな目で舐め回すように見てから、スッと手を取りキスをする。
瞬間、クロエからも魔力が爆ぜた。クロエは自身の中に眠る《召喚:スライム》の魔法がとてつもなく強化されたのを感じ取る。奇しくもヴァルディアの権能の一部が開花した形だ。《封術》も完璧に理解して、簡易的な封印の鎖を出せると確信できた。纏う巫女服は幼い見た目のクロエを着飾り、神聖な雰囲気を放っている。少し大人びて見える。
すると、2人同時に背中に薄く透けた黄金色の社が顕現した。そこからウカノの命との強い繋がりを感じる。力が溢れてくる。
「凄い……これが豊穣の神様の力……」
「温かい……あんなエッチな性格なのに、凄く心地良い」
『それはそうだ。これでも神と呼ばれる存在の端くれなのだからな。では、3人よ、怪我をせずリヴァイアサンを沈めてくれよ。あれは人の世にいてはいけない厄災だからな』
物凄く微妙そうな顔で頷くクロエ。ルナは目がギラギラしていて性欲に忠実だった。そんな2人を見ながらミヤノは手を差し出す。
「では、飛行の仕方も分かると思う。行くとするか」
「はい!!」
「行きましょう」
ルナとクロエもふわりと浮かび上がる。そして決戦の場に飛んで向かうのだった。
………………………
ギルグリアの高速飛行にしがみつきながら、リアは携帯端末を取り出すと電話をかける。電話の相手はワンコールで出てくれた。
『あい、大変な事に巻き込まれてんなぁ、テレビ中継見てんぞリアっち』
「うぇ!? テレビ中継されてんの!? まぁいい!! なら話は早いっすね!! 時間止めて先輩!!」
『時間なぁ、今魔力無いんだよなぁ……キルエルー、ちょっと頼めない?』
「キルエルといるの? ちょうど良い、頼む!!」
遠くの方から小さく「面倒くせ」と声が聞こえた。ダルクは携帯端末をスピーカーモードに切り替える。
「おい遠くで面倒くせって聞こえたぞキルエル。お前、ここで時間止めなかったらゲーム機に触ろうとする度《皐月華戦》で顔面しばくからなァ」
『だってよキルエルー、ん? 10秒が限界だってよリア、頑張れぇー』
瞬間、時が止まった。10秒もあれば充分だ。全ての水のカッターに座標を指定し正方形の結界を展開。そのまま収縮し叩き潰す。時が止まっていればただの水の塊だ。易々と潰せる。
「あと9秒」
「我も攻撃しよう」
リヴァイアサンの目玉の前に《門》を開き、ギルグリアから離れて4秒使い《皐月華戦・改》を眼に向けて直接撃ち込む。破壊の魔法は衝撃を時間に止められる。もう少し近くに《門》を開いた方が良かったかもしれない。まぁ、なにはともあれ、鱗が絶対防御を誇るなら、眼などを攻略するかと考えての行動だ。それに眼は基本的な生物の弱点だ。魔物が生物かは判断に困るがそこは置いておいて。ギルグリアは《紫点画消》を落としてから《龍の爪》をリヴァイアサンの眼に向けて30発放った。鋭い爪撃は特殊合金をも割く威力だ。
後5秒。リアもギルグリアの攻撃に乗り、《境界線の銀剣》を引き抜くとリヴァイアサンの眼に向けてぶん投げる。ブォン!! とマッハで飛んでいくが《門》を通過した辺りで時間停止に飲まれて途中で静止した。
後2秒。この後、起こりうる魔力の暴力を抑え込む為に、リヴァイアサンを取り囲むように結界を張る。魔導機動隊や撮影しているらしいテレビ関係者を守らなくてはならない。
そこまでしたところで、リアはため息を吐いた。
「あれだな、俺の弱点見えたわ。対人ならまだしも、大型を相手にしたら技のバリエーションが少ない。自分でも《時間停止》できるようになりてぇなぁ」
「我はその歳でこれ程までに魔導に精通した者はいないと思うが? 流石、我が嫁だ。さす嫁」
「褒めてくれてありがとよ」
嫁発言をスルーして。《門》を閉じる。
そして時は動き出す。
まずは《皐月華戦・改》より早く飛来した《境界線の銀剣》が目玉を貫いた。その次に矢継ぎ早に迫り来る魔力の暴力と龍の爪の斬撃が全て目玉に叩きつけられる。銀と紫が結界内を満たした。うーん、見えないけどダメージ入ってんのかなと心配になるリアだったが。収束するように魔力が晴れると、グシャァ!! と眼から血を吹き出して暴れるリヴァイアサンの姿があった。
確実にダメージが入っている。リヴァイアサンは痛みからか暴れ津波が生まれる。水飛沫が舞って、海水の雨を降らした。
いつか男の娘ものも書きたい




