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リヴァイアサン4

次回投稿は当分先と言ったので初投稿です


 ホテルの部屋でレーナに大太刀を見てもらう。ルナとクロエも興味を示しており、覗き込んだ。というよりも、2人に関しては生命線になりうるので、興味は人一倍だ。レーナは刀身を検査し終えて今現在、判明した見解を述べた。


「不思議な事に、この大太刀に微かですが『聖属性』の魔力の残滓がありました」


「魔力が? ミヤノさんの魔力が残ってたのかな?」


「分かりません……。しかし、ご存知でしょうが『聖属性』は基本的には神職が扱う事が出来るものです。そして『聖属性』は長時間の付与は出来ません。幾らついさっき喫茶店で付与したとしても……魔力は短時間で消える筈。なので魔力が残っているのは不思議です」


「つまり今、何処からか魔力を得た、って事になる?」


「というよりも……この大太刀から放っているように感じますね。まぁ『聖属性の大太刀』と呼ばれるくらいですし、微かなキッカケで魔力を纏っても不思議ではありませんが」


 話し合いをする中で、ルナとクロエも考える。『聖属性』は特殊も特殊だ。扱える者は数少なく、リア達は専門外である。しかし実際に魔力が残っている。つまり刀身に流れるキッカケがあった筈。


「……分かりませんね」


 だが、幾ら考えても答えは出ない。クロエも「そうだねルナ姉。でも解明できればリヴァイアサンへの特攻武器になるんですよね?」とレーナに問いかける。レーナは場数を踏んでいる事もあり、まず間違いなくそうだろうと頷いた。微妙な空気が流れる中、リアは大太刀の刀身を鞘に仕舞った。


「とりあえず、原因が分からない以上仕方ない。一先ず、肌身離さず持ってみるよ。レーナ、ありがとうな」


「はい、しかしお力になれず申し訳ありません」


「そんな事ない、レーナの知識は貴重だよ」


「リアさん……」


 リアは身長差から思わず頭を撫でてしまい「あっ、ごめん!!」と謝る。レーナは頬を少し赤く染めて「いえ、リアさんからなら嫌ではありませんよ」と言った。


 ルナは思った。この姉、やはり女誑しである。また女の子を無意識に堕としているな、と。悔しい、もっとその目線を自分にに向けてほしい。いや、そんな甘い願望など捨て去ろう。今すぐにでもベッドに連れ込み、蕩けさせたいと思った。

 クロエも思った。自分も頭撫で撫でしてほしい。もっと甘え倒したい。いっそ貞操を奪って自分という存在を脳に刻みつけてやろうか、と。


 背筋に悪寒を感じたリアは「とりあえず、みんな集まってるラウンジにでも行こう」と3人を促した。


……………………


 英雄会議!!


 今ここに歴史に名を刻んだ者達が4人。更にこの世にはもう二体しかいない、ドラゴンの生き残りが1匹ギルグリア。彼等は部屋の中央にどっしりと構えて会話をする。


 まずはクロムから。


「信者どもの魂を見てみたが、確かに呪いだな。しかし私の魔法ならば元には戻せるだろう」


 しれっと言ったクロムにミヤノは身を乗り出して反応した。


「マジかの!? じゃあ、早くあっしを解呪してくれ!!」


 しかし、クロムは眠そうな目を閉じてスッと息を吐いた。


「いや、確かに解呪はできるが、魔力をかなり持っていかれる上……面倒な事に全員絶妙に呪いが違う。だから、どんな呪いか調べなければならない。鱗を15枚ほど引き剥がしていいか? まずは、痛みで呪いと魂がどう反応するか確かめたいんだが……」


「剥がす!? 痛いのは嫌じゃー!! それに目がマッドじゃ!! まるでモルモットを見るような目をしておるぞお主!!」


「じゃあ、明日でいいか」


「明日やるのか!? 嫌じゃぁぁあ!! でもお魚になるのはもっと嫌じゃ!! やはりリヴァイアサンを倒すしかないのかのぅ……」


 怠そうにポーションを取り出して飲み下すクロムを見ながら、デイルとグレイダーツ、ギルグリアは其々、意見を口にした。


「クロムには想定している負傷者の治療に当たってもらいたいんだが」


「ならば、魔道機動隊の医療部門と合流しよう」


「まぁ、こっちにいても力を腐らせるだけか。頼んだ」


 珍しく素直でお淑やかなグレイダーツに、クロムは気持ち悪いものを見たような顔をする。グレイダーツは普通にイラッとしたが、まぁ過去の自分を鑑みてしかたねぇかと思う。


 一方、デイルとギルグリアはリヴァイアサンについて興味を示す。


「懐かしいな。昔、討伐隊を組んで倒そうとしたのを思い出したのぅ。して、どれほどの災害を齎すのじゃろうな?」


「少なくとも、我が本気で暴れるよりはマシだろ。だが、逆に言えば我よりも格下……」


「お前に頼むのは癪じゃが、少しは期待させてもらおうかの」


「ふん、老耄は引っ込んで市民の守りに徹していればいい」


 暗にデイルの身を心配するかのような物言いにデイルは此奴も成長しておるのかと感慨に耽る。その事を察したのかギルグリアは舌打ちした。


「まぁ、我もドラゴン体となり、リアと華麗に狩ってみせようではないか」


 尊大な物言いだが、ここにいる全員はドラゴンの厄介さと強さを知っているので、まぁ好きにさせるかと口を挟まなかった。

 さて、会話がひと段落した所で、グレイダーツはため息と共に口を開いた。


「まぁ、結局は成り行きに任せるしかねぇんだよなぁ。私が《戦乙女》を召喚して街を50キロに渡って調査させているが……隠れるのが上手いようで、重要人物らしき奴は見当たらねぇしな」


「じゃろうな。そもそも黒幕ならば建物に引き篭もっておるだろうし」


「もう千体くらい召喚して建物も調査に当たらせたい……が、この国のお偉いさんがそこまでの権限を与えてくれなかったぜ」


 ミヤノが「うむ、それに下手に刺激するのも不味いしの。あとは宗教の自由が中々にネックじゃ。そろそろお上様の会議で強制調査の任は出るじゃろうが、深海教会は古い、末端の信者を捕らえた所で全容は分からんじゃろうしな」と付け加える。


「というか、そもそもの話、リヴァイアサンの復活にミヤノ達へ呪いをかける理由が分からんな」


「あっしは、ただのテロじゃと思っておったが、確かにお魚になる呪いというのは不可思議じゃの」


 そこで、ふとある点に気がついたクロムが口を開いた。


「信者達の呪いは人によって違うが、ひとつ共通して確かなのは『魂を縛る』という点だ」


「魂を縛る?」


「あぁ、『魂縛』はまぁ……簡単に言えば……生贄とかによく使われる術だな」


「マジで!? 我、生贄にされるのかの!?」


「決まったわけでないが……覚悟はしておいた方がいいな」


「嫌じゃぁぁあ!! まだ死にとうない!!」


 ミヤノの声が大きく響く。その時、ちょうど合流したリア達一行は顔を青ざめさせた。リアは恐る恐ると問いかける。


「その話、ルナとクロエにも関係していますよね?」


 デイルは気まずそうにしつつ「リア、目が怖いぞ。落ち着くのじゃ」と嗜める。リアは「落ち着いてるよ。ただ、怒りでどうにかなりそうなだけだ」と返した。


 そんなリアの気持ちなど察さない自分本位なクロムは、端的に「無関係ではいられないだろう」と言った。


「仮にですよ、呪いで『生贄』が発動した場合……どうなりますか?」


「魂縛の呪いは基本的に魂を扱う儀式に用いられる。私の予測、予想でしかないが、十中八九リヴァイアサンの復活の力にされるだろうな」


「リヴァイアサンに吸われた魂を取り戻す事は?」


「私もこと魂の儀式には精通しているが、魂を蝕む類の呪いは根源さえ絶てばどうとでもなる。それに、魂を取り出されても器がすぐに死ぬ事はない、充分に取り戻せる機会はあるだろう。タイムリミットは当然あるがな」


「つまり、リヴァイアサンを解体すれば全て解決か」


 リアの身体からふわりと魔力の鱗粉が舞う。瞳が空色の淡い光を放ち、リアが本気モードに移行した事を示していた。そんなリアをデイルは優しく頭を撫でた。


「落ち着け、ここにはわしらもおる。お主だけ先走っても良いことなどない」


「……」


「ほれほれ、魔力を収めるのじゃ」


 デイルはリアの頬をツンツンと突く。リアはそんな彼に「はぁ……」とため息を吐くと魔力を引っ込めた。


 ピリついた空気が霧散した所で、ミヤノはひとつ提案をする。


「……クロム、ひとつ協力してくれんかの?」


「……構わんが。何をするつもりだ?」


「なに、あっしも『魂』のスペシャリストじゃ。じゃから、器と魂の繋がりを強固にする事も不可能ではない。呪いはよう分からんがの」


「私を前にスペシャリストを名乗るか。しかし、確かに良い手ではあるな」


 リアとルナとクロエが顔を見合わせた。言っている意味がすぐに理解できた。


「生贄から免れるなら、よろしくお願いします!!」


 精一杯、頭を下げる。そんなリアに優しくミヤノは頭をポンポンと軽く叩くと。


「うむ、やるだけやってみよう。あっしも生贄はごめんじゃ」


「私は何をすれば良い?」


「呪いの『鎖』をほんの少しで良い、逸らしてくれんかの?」


「また難しい注文を……まぁ、やるだけやるか」


 瞬間、太陽光のような暖かい魔力が溢れた。ミヤノの魔法が駆け巡り、ミヤノ本人を含めた全員に魔法陣が浮かぶ。どうせなら、全員の魂を強固にしようと考えての事だ。クロムも同じく魔力を放つ。小さな紫色の妖しい光の魔法陣が全員の首の周りを回転する。


 そしてミヤノの魔法が発動する。社を模った不思議な魔法陣が胸に吸い込まれるように入っていき、身体がほんのりと熱を帯びる。


「リヴァイアサンの力は未知数じゃが、やるだけやってみたのじゃ。それでも生贄に巻き込まれたならば、申し訳ない」


「いえ、これで憂いなく戦えそうです」


…………………


 陽が傾き始めて世界は闇に包まれていくが、人の作った灯りという光が街を包み込み明るく照らしていく。


 そんな街をアイルは教会の中から見下ろした。街の人間を全て生贄にする為に、視界の悪い夜に儀式を行う。


 静かに、厳かに、魔法陣を書き足していき、魔力を回すと僅かに集まった魂を基礎に、魔法陣を広げていった。その魔法陣を、ウーラシールの海岸から沖合30キロ先に展開する。双眼鏡で確認すると、アイルは儀式を発動した。


…………………


 ミヤノは詳細を調べる為に魔道機動隊の本部に戻り、その日にリアが捕らえた少女に事情を聞いていた。しかし、少女は焦燥し切った様子で震えており、ずっと泣いている。


「どうしたものか……」


 少女に問いかけても「ごめんなさい……」と謝罪が返ってくるが、自分達に向けてというよりは他の誰かに言っているように聞こえてくる。事前にリアから聞いていたが……推測するに会えると思い込んでいた彼女の親へ対してかと苦い物を噛み潰したような顔をした。だから、最後の手段を持ち出した。ミヤノだからこそ出来ることだ。


「のぅ? もしお主の親の魂が輪廻に乗っていなければ、あっしが降臨させる事ができる可能性がある。あっしの身体を使って、短い時間じゃがお主の親と会わせることが出来ると思うのじゃ」


「……お母さんを?」


 漸く顔を上げた少女の顔は涙と鼻水でくしゃくしゃで、ミヤノは仕方ないのぅとティッシュで拭てやる。拭いながら続けた。


「本来はテロに属した者にそのような事をする義理はないのじゃが。幼いから重罪に課せぬのもある。それに情報というのは宝じゃ、お主がどのような理由で凶行に走ったのか話してくれれば、あっしも譲歩する」


「……ミヤノという英雄は魂を降臨させる。信じて良いの?」


「降臨させる事ができるかは運になるがの」


「……分かった、まず私にこの力を与えてくださった司祭について」


 だが、呪いは裏切りの言葉を封じ込めた。少女の喉に線が走る。次の瞬間、鋭い風が吹き首の肉を裂いた。スローのようにゆっくりと少女が倒れてゆく。血が吹き出し辺りが真っ赤に染まるのを見て。


「メディック!! 急ぐのじゃ!!」


 魂が離れるのを魔法の鎖で阻止しながら医療班員を呼ぶ。駆けつけた隊員は急いで少女を運び出し治療室に移送した。


 しかし、ほっとしたのも束の間。ミヤノも身体に違和感を感じた。


 汗のように、赤い液体が滴り落ちる。強い目眩がして、強烈な吐き気が襲う。


「なん……」


 近くにいた、同じく『呪い』を受けている隊員が倒れた。鱗の隙間から血を滴らせ、倒れた衝撃でグシャリと血飛沫が舞う。そして、魂がふわりと身体から離れようとしていた。ミヤノは即座に状況を把握、最悪の事態が今ここに起きているのだと理解する。


「《稲荷神の社》!!」


 小さな金色の社が現れると、そこを中心に黄金色の魔法陣が広がり駆け抜けていく。そして範囲内の全ての魂を身体に縛り付ける。呪いの拮抗勝負が起き、引き裂かれそうな魂を稲荷神の力が優しく保護していきながら傷を癒していく。しかし社の魔法が届かない隊員までは対応しきれなかった。


 空に無数の霊魂が飛ぶ。人の形をした魂の群れは全て海に引かれていく。この街で呪いを受けた全ての人々の霊魂が抜けていく。


 ミヤノも魂が引っ張られるのを感じながら急いで屋上まで駆けると展望台に到着する。手で円を作り、魔法でレンズを作ると覗き込んだ。


 沖合、予測30キロ〜先。紫色の不気味な魔法陣を中心に魂が海へと入っていくのが見える。


「復活するのか!?」


 その時、強い地震が起きた。ミヤノは倒れそうになりながらフェンスにしがみつき耐える。街の中心より海に向けて巨大な鎖が何本も地面から現れた。海の方にも鎖は確認でき、鎖達は沖合30キロを中心に集まっていた。快晴の青空を思わせる澄んだ青の光を放つ鎖は街を破壊していきながらも、邪悪を塞ぎ込もうと必死に拮抗する。2次被害が心配だ。しかし……。


「これが、噂に聞く封印の鎖……」


 ギシギシと嫌な金属音を響かせる鎖だったが、次の瞬間。ガシャ!! と音を立てて鎖は外れていく。強い力により引き千切られるように。


 その時、空を見れば魔道機動隊の戦闘機やシストラムが飛んでいくのが見えた。戦闘機が海上に向けて照明弾を放つ。ミヤノは逸る気持ちを抑えて神社に向けて駆け出した。今は一刻も早く戦闘員の支援に回らなければならない。その為にも、ウカノ神の力を借りなければ。自分の出来る手で、天津の鱗を攻略できればあるいは……。


 しかし時間は無常にも過ぎていき、青白い影がのそりと浮き上がる。淡く光る鎖が全て外され、それは復活する。


 全高160メートルもある巨体が顔を上げた。全長は影から計算して恐らく400メートル。甲殻や鱗、皮は青白く艶やかでとても300年眠っていたとは思えない。しかし魂を吸収していく姿は不気味である。そして物語や伝承に伝わるドラゴンのような顔の形をしたリヴァイアサンは、鋭利な牙の生え揃った口を大きく開く。海水が音を立てて流れていき、長い眠りから覚めた怪物は寝起きにとんでもない攻撃をかまそうとしている。


 魔力反応が高まっていく。口に光が集まっていいく中で、魔道機動隊の攻撃が始まった。エネルギーブレードの付いたシストラムが切り付け、電磁加速砲の付いたシストラムが砲撃。だが、リヴァイアサンはどこ吹く風と受け流しチャージを続けた。


 光の眩さで、街が照らされる。まるで真昼間のように明るい。


 やがてチャージを終えたリヴァイアサンの口から、光は弾丸のように放たれた。


 光の奔流の塊は海を駆け、海面を蒸発させながら街に向かって高速で進んでいく。


 そして。


「《境界線の結界》ッ!!」


 デイルは術式増幅の杖を使い、全力で結界を張る。薄く黄金色をした結界が、街の中心から半径10km、高さ7000mのとてつもない大きさで、海岸沿いに展開していく。


 やがて、運命の帰結である。結界とリヴァイアサンの攻撃は衝突する。

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[一言] ルナとクロエは大丈夫だったのかな
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