リヴァイアサン3
それから、ミヤノは割と普通な世間話や深海教会との苦労話を始めてしまい、ルナとクロエは聞き手に回ってもらった。大太刀を受け取ったリアは注連縄で背中に担ぎながら、レーナに電話をかける。数コールの後、彼女は電話に出てくれた。
『リアさん? どうかしましたか?』
「こんちわ」
『はい、こんにちわ。あ、もしかして遊びのお誘いとかですか!?』
「……ごめん、今度誘うね」
『違うのですね……』
電話の向こうで物凄くがっかりした声を聞き、とても申し訳ない気持ちになった。だが、申し訳ないながらもやらなければならないことがある。
「うん……そのレーナにちょっと聞きたいんだけど……リヴァイアサンって知ってる?」
『リヴァイアサンですか……。知ってます、というか今私、探偵の仕事でウーラシールにいて、まぁ当事者ですね』
「あれ、そうなの? じゃあ遊びに誘っても無理だったんじゃ……コホン、なら待ち合わせして協力お願いできないかな?」
『いえ、仕事は後回しにして《門》ですぐに向かいましたよ!!』
今度必ず誘おうとリアは思った。一方レーナは自分の事を面倒くさい女と思われたかもしれないと考え話題を進める。
「協力は大歓迎です、私1人では限界が見えてましたので。寧ろ、私から依頼料を出して雇いたいくらいですよ。して、他に聞きたいことはありますか?』
「あぁ、レーナはリヴァイアサンについてどこまで知ってる?」
『そうですね、まず深海に封印された『魚竜』であり、復活すれば核爆弾と同じくらいに厄介な存在で、深海教会が復活させようとしている事ですかね』
「大凡の事情は把握してるんだな」
『今回の依頼は深海教会の内部調査でしたので』
内部調査と聞き、レーナも中々に危険な事をしているなと思い心配になるリア。電話越しにリアの事を察したレーナは「これでも場数は踏んでいるので、大丈夫ですよ」と返した。それから、話を続ける。
「他に知っている事とかあるか?」
『伝説について、ですかね。諸説ありますが、有名なので300年前の封印の戦いが挙げられますね。これには恐らく、神話関連の事情が絡んでいると私は睨んでいます』
「また、神話か……」
リアも考えなかった訳ではないが、ヴァルディアの呪いのように付き纏う神話関連の事象に少々辟易する。しかし、今回は事情が事情なので前を向いて。
「レーナはリヴァイアサンの弱点とか知ってるか?」
『弱点は分かりませんが、鱗や甲殻さえ剥ぎ取れば本体に攻撃が通る可能性は高いですね。ただ、そこに至るまでがかなり難しいのです。天津の鱗というのは伝承に残っていますし、恐らく封印された後も健在でしょう』
「だよなぁ」
果たして、《境界線の狩武装》で討伐できるのか。殴ればとてつもない一撃を放つとしても、攻撃無効という4文字が付いていれば討伐は不可能。というよりも、そもそもの話リヴァイアサンを復活させようとしている深海教会の真意もよく……いや、彼らの目的は恐らく死者との謁見だと当たりをつけている。襲撃してきた少女の一件から考えて、的外れではないと思う。
にしても、死者との繋がりを持とうとする者は多いなとこの半年の出来事の中で思ったリアだった。しかし、気持ちは分からないでもない。自分だって大切な人達を突如失う事があれば……再会を望む。
まぁ、ただ全ては推測でしかない。それに、もっぱら重要なのはリヴァイアサンの討伐だ。復活を視野に入れて行動しているが、どんな存在かは、まだ想定しきれずにいる……だが、この街が滅びるかもしれないレベルだという事は理解している。場合によってはアラドゥとの戦いより厳しいかもしれない。
復活させない為にも深海教会を叩けばいいのではと思うかもしれないが、古い宗教組織なので中々に政府も動けないらしく。歯がゆいものだ。
なので、この大太刀に期待を寄せるのは当然の帰結であった。何か特攻があるのならば利用したい。
「話変わるけど、レーナは天草払の大太刀って知ってるか?」
『おっと、リアさんからその名前が出たことに驚きです。そして知ってますよ、所謂『神器』のひとつです。特に魔物特攻のある『聖属性の大太刀』であり、ミスカトニック大学では収集対象として伝わっています。私も欲しいです、コレクションとして』
「レーナはこういうの好きなんだな。それで、その大太刀、今俺が持ってるんだけど、錆びついてて紙も切れない鈍なんだよ」
『……驚きました。やはりこの国にありましたか……。くっ、先を越されたました。しかし、錆びついていて鈍ですか。ふむ、神器というのは難儀なもので、力の発動には数々の条件がある場合が多いです。特に魔物特攻のある神器には、対象の復活が条件の可能性があります。故に、錆びついていても太刀が『復帰』する可能性はありますが』
「リヴァイアサンが復活してからじゃ遅いんだけどな」
それから、幾つかやりとりをし、リア達の宿泊しているホテルを待ち合わせ場所にして電話を終えた。ふぅと一息吐き、さて深海教会に対しても作戦を練らなければならないなと思いながらリアはデイルに電話をかける。使える力は全て使う、前回の死者蘇生の一件でその事を痛感したリアは、遠慮なんてしない。
『リアから電話とは久しぶりじゃのぅ!! して、厄介ごとかの?』
「話が早くて助かるぜ、実はなぁ」
リアは大凡の事情を説明する。デイルは電話越しに真剣な表情を作る。
『あい分かった。わしの力で良ければ幾らでも貸そう』
「凄い助かる、ありがとう師匠」
『久しぶりの出番じゃからの、バチバチ行くぞい』
やる気のデイルとも約束を取り付けて、次にギルグリアだが。手の甲に魔力を流しコールするように反復させると、ギュンと音を立てて彼女は現れる。
「リア!! 大丈夫か!?」
「うぉっと」
出てきて早々、リアをマントに隠し臨戦態勢に入るギルグリア、恐らく緊急事態だと思ったのだろう。間違ってはいないが、周りの客の目線が痛い。そして大変なのは今ではないので宥める。
「力を貸してほしいのは本当だけど、今じゃない」
すると、ギルグリアはリアの頭を抱き寄せると口を開いた。
「……リア、また厄介ごとか? 我は心配だ、確かにリアは強い。我の血を流し人として上位の存在に至ったとはいえ、しかし人の域を出ていないのだ。我が花嫁が傷つくところなど見たくはない。我は回復魔法が得意ではないのでな」
最近、常識を学び、ほんのちょっとだけ格好良くなってきたギルグリアにそう言われて少しだけ頬を赤くした。遠くで舌打ちをする音が聞こえたが聞かなかった事にする。
「ありがとう」
「我が花嫁の頼みだ。幾らでも貸そう」
「うん、でも花嫁じゃないからね……」
でも、最近は普通に格好良いんだよなと思いつつ……ギルグリアに事情を説明する。すると、彼女はふむと考え込み。
「リヴァイアサンか。我の時代に産まれた魔物のひとつか。関わった事はないが……なるほど。魚竜……竜を騙るか。不遜な魔物だ……この我の手で屠ってやろう」
「頼もしいな」
これで、ギルグリアが仲間になった。店内にいた男性客ら百合の花が咲き乱れるのを見て(いいわー)と思った。
そしてリアは力あるドラゴンがパーティーに加った事に安心感を覚えつつも、次にグレイダーツへと電話をかける。
『こちらグレイダーツ』
「あ、校長」
『リアか? どうした、直接電話をかけてくるなんて珍しい。レイアがなんかやらかしたか?』
「レイアなら修行中らしいですよ。じゃなくて、力を貸してほしいんです」
『あいつ修行してんのか。それで、ほぅ? この私の力を必要とするか。事情を聞こうじゃないか』
忙しい中、事情を聞いてくれるだけでもありがたいと思いながらリアはここに来てからの一幕を掻い摘んで語る。電話の向こうでグレイダーツが唸った。
『なるほど、宗教問題にリヴァイアサンか。実は、リヴァイアサンは英雄の中でも問題にはなっていた時期があってな』
「そうなんですか?」
『あぁ、神格を持った古代より存在する魔物……世界を滅ぼし得る存在がいる事は問題だろ? だから一時期、クラウも一緒にパーティーを組んで魔物駆除に乗り出したんだよ。でもリヴァイアサンは封印されていてなぁ、解く訳にはいかずに封印はそのままにしておくつもりだったが、深海教会か。厄介だな』
「はい、とても厄介です。それで……」
『良いぜ、ただ、私は単体火力はそれ程高くない。《錬金術》での錬成による組み換えや私の必殺技でぶっ飛ばせなかったら市民の避難に尽力する事にしよう。あと、ついでにクロムも連れてくるぜ』
「ありがとうございます!!」
『おう、すぐ行く』
電話を切ると同時にリアの隣に扉が現れ、グレイダーツがひょっこり顔を出した。後ろでは引きずられながらやる気の無さそうなクロムがむくれた顔で口を一文字に結んでいる。そこへ、話を遠くから聞いていたミヤノが席を立ち、手を振った。
「グレイダーツ!! クロムもおるのか!! 久しぶりじゃのー!!」
「あん? あれ、ミヤノじゃん」
「む、ミヤノから邪気のようなものを感じるぞ」
「クロム正解じゃー!! あっしも呪われてのぅ、もしもの事があれば頼りにさせてもらうぞい!! というか、なんじゃお主が来るならルナとクロエに力を借りる事はないかもしれんの!! にしてもお主ら、見た目若いのぅー!!」
「お前もなぁ」
「ま、吸血鬼だからな」
ルナとクロエは、集まった人達を見て、リアの人脈って意外と凄いなと思いながら、今回も私たちの出番はない? とむぅ……とした顔でコップのジュースを啜る。すると、ふわりと頭に手が置かれ撫でられる。
「2人も頼りにしてるよ」
「お姉様!!」
「リア姉!!」
2人はリアに抱きつき深呼吸をする中で、慣れたリアはヨシヨシと頭を撫でる。ミヤノに生暖かい目を向けられて苦笑を浮かべた。
そんなリアの隣に、また扉が現れる。見慣れた扉から出てきたのは、英雄の中でも分かりやすく歳をとっているデイルだ。デイルは店の中の面々を見て「同窓会かの?」と呟いた。ミヤノはデイルの登場に更にテンションを上げた。
「デイルー!! 久しぶりじゃ!!」
「うむ、久しぶりじゃ。メールでのやり取りはしておったが……相変わらず元気で若いのぅ」
「ほら、あっしは巫女じゃからのぅ!!」
巫女は『万能』の類語ではないと心の中でツッコミを入れるリア。デイルも同じ事を思っていたのか、はたまた自分だけ歳をとっている事に哀愁を感じたのか。どこか黄昏た雰囲気で「巫女さんなら仕方ない」と呟いた。
「にしても、いつも思うのじゃがこの耳はどうなっておるのじゃ?」
デイルの手がミヤノの耳に触れる。ミヤノはこそばゆそうな声を漏らした。
「んぬっ、デイルや。耳は敏感じゃからやめるのじゃ」
「え、昔は散々触らしてくれたじゃないか?」
「昔は昔じゃー!!」
ポカポカとデイルをミヤノは叩く。リアはもしかしたら、ミヤノさんは昔デイルの事が……と考えて微笑ましく思った。
一方、そんな和やかな空気の中で、ここにいるルナとクロエを除いた全員が同じ事をひとつ思っていた。(ちょくちょく時が止まっているな……)と。どこかの誰かが時を止めているようだが、出来ればこの場に連れてきて手伝いをさせたいなと思うのだった。
…………………
リアたちが準備を着々と進めていたある時。
薄暗い教会の中で、祈る者がいた。シスター服を着た若い少女であり肌には『白い鱗』が生えている。彼女は獣のように縦長になった瞳を大きく開くと、口元を歪ませる。背後には巨大な祭壇があり、中央には紫色の炎がユラユラと揺らめいていた。更に教会の頭上には魔法陣が描かれており、しかし描かれた文字は文字化けのようになり、バグっているように見える。
「もう少しですよ、父さん……アイルは教会を滅ぼし、リヴァイアサンを復活させて……必ず会いに行きます」
幹部しか、いや最高司祭しか入れない教会は閑散としているが、辺り一面に散らばった資料の束により少し狭く感じる。
少女……アイルは孤児であった。
多宗教が入り混じるウーラシールでは、孤児は珍しくなかった。暗い事情のある宗教では性行為を神聖なものとしている組織もあり、孤児問題は社会問題としてウーラシールの課題の一つにもなっているが、宗教の自由を謳っている為に潰すのは中々難しく、魔道機動隊も大っぴらに動けずにいる。
そんな情勢なので、ウーラシールでは孤児に対して、面倒や生活を見てくれる施設や支援が多数あり充実はしている。当然、里親制度もあり……そんな中で1人の男がアイルを引き取った。
優しい男だった。アイルの事を本当の娘のように扱い、育て上げてきた。誕生日の日にはプレゼントを送り、クリスマスにはケーキでお祝いをする。普通のキリスト教徒であったが、アイルに宗教を強いる事のない、一般的に見ても良い父親だったと言える。
しかし、そんな父には秘密があった。彼にはリヴァイアサンという魔物の血がほんの少し、そう噂や伝承レベルという、本当に流れているのか不明なくらい少しだけ、流れていたという。いや、本当は流れてなんていなかった筈だ。強大な魔物の血など、どうすれば流れるのか。過去にリヴァイアサンの生贄が卵を産み付けられて帰ってきたとの伝承があるがそのせいかと思う。そして当然ながら古くから存在する『深海教会』はそれを放っておくほど、穏やかな宗教組織ではなかった。
リヴァイアサンの加護を手に入れ、復活させる。そして街の人間を生贄により上位の存在へと至る。中には神になれると本気で信じている教徒もいる事だろう。
そんな組織に狙われた、平凡な父親は魔道機動隊に相談して護衛をつけて貰っていたが、まるで暗殺するかのようにある日、忽然と姿を消した。
アイルは悟った。というよりも、通う学校で知った『呪い』の存在に興味を持ち、こっそりと作った父親の生死を常に占う水晶が、黒く染まった時に瞳から光が消えた。
父親はあっけなく死んだと分かった。だが、心が強かった彼女は、亡骸は恐らく深海教会にあるのだろうと思い、悲しむより先にすぐさま行動を起こした。魔道機動隊に捜索は任せて……無謀な事に深海教会へと侵入という名の入信をしたのだ。だが、亡骸は既に火葬され喪失感に打ちひしがれる事となる。
そんな時に、彼女はリヴァイアサンの本当の力を知る。リヴァイアサンは、生贄と引き換えに死者と会える『権能』を与える。信者の多くがそれを信じており、与えられる経典には詳細な情報が記されており……。信じたアイルはこの教会を乗っ取る事を計画した。彼女は信仰とは無縁な人生を送っていたが、ここでリヴァイアサンという神を見出したのだ。信者なんて全員道具にすぎない、利用してやると黒い感情が湧き上がる反面、死者に会いたい一心の彼らを哀れにも思った。
当然、自分も。
父親に会う、その一心でリヴァイアサンの加護を探り当て、そして彼女は信者に力を与える存在へと至った。加護なんて呼ばれているが、本当は呪いの一種だ。リヴァイアサンが自身の復活の為、そして自身の傀儡とする為に加護を与えて、自身が復活する為に動かす。無意識に刷り込まれる意識により、信者はより過激となった。
同時に、彼女もこの呪いを利用する術を手に入れてリヴァイアサンの加護を利用する事にする。リヴァイアサンの加護は確かにリヴァイアサンの為にあるが、彼に気に入られた者には神に等しい能力が与えられると分かり『夢』を利用して接触を図った。深海教会が管理していた『深海魔魚竜との接触』という魔導書を使い、実際に謁見したのだ。そして、白い鱗を手に入れる。気に入られた証拠である。否、恐らく魔物ではあるのに神格を得た事で『知恵』を手に入れたリヴァイアサンは、アイルのなさんとする事を理解していたのだろう。会話はできなかったが、アイルも同じ波長のようなものを感じたので間違ってはいないと考えている。だから、相互利用というわけだ。ただし、今だけの。
同時にアイルは教会内での地位も上がり、崇められるようになっていく。よりリヴァイアサンに近しい存在として、信者はアイルについていけば死者に会えると本当に信じていた。あわよくば神になれるとも。
……この世界は残酷であり、理不尽である事をアイルも信者も知らずに、計画は進んでいく。
「計画は熟しました……リヴァイアサンとの取り引きも順調ですね。確実に『呪い』は広がっています」
血に濡れた手で父親に会うのは、違うだろうと心に残った善意が訴えかけてくるが、もう後戻り出来ないところまできた。
進むしかない。
だが、アイルは知らない。
英雄の道を歩む者は、理不尽に理不尽をぶつけるくらいやってのける事を。そしてなによりも、怒らせたらヤバいやつがいる事を。
しかし、彼女はもう準備を終えている。『加護』を得た信者全員が無意識に蝕まれていた『魂』を使い、リヴァイアサン本体の神格をより強固にして復活の為の力を与える『深海魔魚竜の招来』を。あとは、手を汚す覚悟を決めるだけだ。
……………………
ホテル前でレーナは携帯端末を弄る。リアから頼りにされるのは友達の少ないレーナにとっては嬉しく感じていた。だが、浮かれた気分を振り払うように、自身が動く理由を思い出し喝を入れる。
(にしても、私に依頼してきた魔導機動隊員……本当に魔導機動隊だったのでしょうか)
この世界には神の代行者、使者、そして人を利用した遊戯を嗜むとされる『ナイアルラトホテップ』又は『ニャルラトホテプ』等と呼ばれている神格がいる。ミスカトニック大学に入った者の何人かは知らずに接触した事はある筈だ。レーナも時々、そのニャルらしき人物と接触した事はあり、彼又は彼女が介入したのであれば、深海教会とリヴァイアサンの一件もニャルの遊戯のように思えてならない。
人を駒にして賽子を振るうのは神の特権である。が、神格のあるリヴァイアサンは恐らく賽子を持ってはいないだろう。何故なら、リヴァイアサンはただの古き者だから。盤上という世界の外は知っていても、結局は神になりきれない、水槽の中にいる魚と同じだ。だが、愚かな人は例え神が意図しなくても滅びようとすることがある。今回は……介入があったと考えれば……緊急を要するからだと察する。善も悪も神には関係ない。ただ、人が滅ぶ事を好まない神格がいるという事だ。
(ですが、リヴァイアサンのその力は絶大。もし復活すれば……クトゥルフも目覚める可能性がありますね)
レーナの真の目的は、リヴァイアサンの復活に他のカルマがマイナスに傾いている神格が介入するのを防ぎ、黒幕を見つけ出し確保、それか討伐する事。だから、リヴァイアサンはリア達に任せてしまっていいだろう。自分の力の限界は分かっている。
(神は恐らくリアさん達英雄の資格ある者には賽子を振れない、だから常に決定的成功を出せる可能性のあるリアさんは……希望ですね)
言うなれば物語の主人公。その資格がある。まぁ、だからといって、変に意識してしまうのは勿体無いと思う程には人柄に惹かれてはいる。彼女は一言で言えばとても可愛らしい人だ。褒められると分かりやすく照れて、家族や友達の為に本気で怒れる人。だから、短い期間の付き合いだが信頼できるとレーナは確信している。
そう思っていると、遠くから一党が顔を出した。グレイダーツとデイルは顔がバレている為に、出会う人々から称賛されて少々やり難そうにしているが、だからこそ分かりやすい。リア達に気がついたレーナは《門》で空から降り立ち、肩肘をついた。英雄は当然反応したが敵意は感じなかったので放置。リアが突然の登場に驚く中、ゆっくりとレーナは口を開いた。
「召喚に応じ参戦しました」
「あっ……」
ゲームのセリフだと1発で分かり、ユーモアを感じたリアはふふっと笑みを浮かべ「あぁ、私がお前のマスターだ」と手を差し伸べた。レーナは「よろしくマスター」と返し手を握ると立ち上がる。
「久しぶりレーナ」
「えぇ、リアさんもお変わりなく安心しました。それで、早速ですが天草払の大太刀を見させてもらえませんか」
ぶっちゃけ、この神話という世界に突撃してから様々な物品を見てきたレーナの目は肥えていた。ので、新たな神器となれば興奮するというもの。話し方からレーナの感情が伝わり彼女の人柄をまたひとつ知れたと嬉しく思いながら大太刀を渡そうとした時。
突如。銃声が響いた。
フロアにいた客がビクンと身体を震わし止まる。凍った空気の中で、突如として数人の黒いフード付きの服を被った人型の存在が現れる。そんな中、主犯らしき銃を持ち魔法陣を纏った男が口を開いた。
「このホテルは我々、深海教会が占拠した!! 爆弾で今すぐ建物を崩壊させる事も可能だ!! だが、我々は優しい。死にたくなければ1箇所に集まれ!!」
リアは思った、この男不運すぎるなぁと。
瞬間、ふわりとグレイダーツとデイル、ギルグリアから魔力が溢れた。
すると、男はリアを指差して叫ぶように言った。
「そこの巨乳の娘、こっちに来い」
「あ?」
「は?」
「……すぞ」
ルナとクロエ、ギルグリアがキレた。瞬間、青白い光が男を包み急速に上昇し天井に頭が突き刺さる。それをクロエが結界で叩き落とし床にめり込ませた。レーナは《縮地》で近づくと全員の銃を蹴り落とし、回収して《鍵箱》に仕舞う。更にギルグリアは男を地面から回収すると握り拳を作り思いっきり振り抜く。男は全身の骨を粉砕しながら壁を貫いて吹っ飛んでいった。
リアは行動が早すぎると苦笑しつつも、他の深海教会の者達を結界で拘束した。
恐らく、他エリアにいる教徒もミヤノの魂の感知により特定され、グレイダーツの召喚した西洋甲冑が拘束しただろう。建物はデイルの結界が薄く膜を張り、仮に爆弾が爆発しても崩れはしない。ついでに客全員にも結界を与えて爆発にも耐えれるようにしておく事も忘れない。これで人質の保護は完了だ。ただ、クロムは鱗の生えた人間に興味を示し、結界で拘束された信者達を観察しに行った。隣で鱗がベリっと剥がれる音と小さな悲鳴が聞こえ、そういえばこの人も大概マッドだよなとリアは思った。
そして素早く、迅速な制圧にフロアにいた人々が拍手を送る。
………………
この後、魔導機動隊が来て感謝を贈られた。そしてその日にニュースになり、リアは表に立って報道のTVカメラに笑顔で手を振って口を開く。
「……応援よろしくね」
街の人もリヴァイアサンの脅威は知っていた。しかし、大きく動けない政府と魔道機動隊に痺れを切らしてもいた。だから、魔道機動隊よりも若く頼もしい魔法使い達を……半分は高齢なのだが……を応援する。
それからヴァルディア、アラドゥ、死者蘇生。色んな事に関わった人々がニュースを見て、リアに応援と声援を送っていた。
そして……数々の思いを受けたその時、リアが気が付かない程にふわりと仄かに、鞘の中で天草払の大太刀の錆びついた刀身が光を放った。
スランプです




