死者蘇生10
ループモノは初めてなので、初投稿です。
というより、ループはすぐに終わる予定なのでループものとは言えない……。
「どうして俺達がループに気がついていると?」
リアが純粋に疑問に思った事を問いかける。ダルクもそれは気になっているので、耳を傾けた。彼女は少し考える素振りを見せた後「いえ、ここに来るまでに怪しい人、全員にループしたかを問いかけていたのですが」と弁明するように言った。なるほど、結果自分達に行き着いたのかと納得する。
「で、一台の車が挙動不審な動きを見せたから近づいたと?」
「えぇ、そうなります」
「私らが探偵だと気がついているのはなんでだ?」
「情報収集は探偵の基本です。……リアさんとレイアさんは最近そこそこ有名ですからね。リアさんは探偵をしている事を事前に知っていたので、今回もそうなのかなと」
ダルクは表情を見て、嘘は言っていないと思った。なので、一応ここは信用する事にする。有名人なんて、えへへと顔をニヤけさせるリアの尻を小突きながら本題に入った。
「あんたは何度目のループなんだ?」
「これが初めてのループです」
それにしては手慣れた対応をしているなと思ったが、仮に自分が1人でループ現象なんて事態に遭遇した場合、同じような行動をとるなと考えて出かかった疑問の言葉を飲み込んだ。レーナは彼女達に多少の信用を得られた事を確認すると。
「では、そろそろ会議といきましょう」
「とは言っても、キルエルが何かしたって事なんじゃないんですか?」
「今から召喚されるあの球体ですか?」
「あぁ、あいつエルトラ=キルエルって言う名前の天使でさ。時間を操る? らしいんですよ」
「あら、キルエルなら聞いた事ありますよ。でも、アレは確か下級天使の筈。過去に人を送る権能があると聞いた事はありますが……。ならば、タイムリープという部分に疑問が残りますね。キルエルには私達を過去に送る理由がありませんし。それにキルエル自身はまだ門の向こう側にいるのも」
妙に詳しい彼女にダルクが「どこ情報?」と情報源を問う。レーナはにっこりとした顔で情報を開示した。
「隣国で天使を研究している特殊機関の情報ですよ」
「なんで知って……ほんと何者だよあんた」
またレーナを怪しみ始めたダルクをシエルが「まぁまぁ」と宥めながら「もう一度押し返せばいいんじゃない?」と進言する。レーナはそれを聞き「他に方法がなければ試してみる価値はありますね」と同意。一方で、この一年中々に色々と巻き込まれた魔法使いのリアやレイア、ダルクはどこか倒すだけじゃダメな気がすると思いながらも他にこのループを終わらせる方法が思いつく訳もなく。時間も有限だ。だから、ひとまず意見に乗っかり方針を前回のやり直しに切り替える。
「なら、善は急げ。出てきた瞬間に向こう側へと押し返そう。《召喚:ギルグリア》」
「僕も《召喚:オクタ》くん」
呼び出したギルグリアは嬉しさ満開な雰囲気で「リア〜!!」とリアに抱きつき、オクタは興味深そうに空を見上げた。
「久しぶりの登場だが……レイア、これはどういう状況なんだ?」
「……オクタくんは記憶、残ってない?」
「……?」
分かりやすく首を傾げるオクタ。リアもギルグリアに真剣な眼差しを向ける。彼女はリアの目で異常事態を察し、同じく空を見上げながら「ほぉ? 天使か……」と呟いた。
「我を呼んだのは天使を倒す為、でいいのか?」
「どちらかと言うと押し返す、なんだけど。ギルグリアも記憶が無いのか……」
「んん? どういう意味だ?」
リアとレイアは其々に端的に事態を説明する。実はキルエルは一度倒した経験と記憶があり、5時間ほどで時間がループした事を。端的に説明したが、オクタもギルグリアも聡明であったおかげか、一応事態を飲み込んではくれた。そんな中、特にオクタはとても興味深そうにしている。
「時間異常というやつか。考える事は多いな。こういう時、自分のような不確定な存在や、それこそ『澱み』の時のような者が関わっている可能性が高いと思うが」
「レーナさん曰くだけど、キルエルには僕らをタイムリープさせる理由は無いらしい……」
そこで、オクタとギルグリアはレーナに視線を向けた。レーナ自身は2人を興味深そうに観察するような目線を向けている。目に見えて驚いた様子を見せながら口を開いた。
「驚きました、お二人とも、人間じゃないんですね。特にオクタさんは……不思議です」
人間じゃないと言われた瞬間、ギルグリアはレーナを怪しむ。
「何故、我が人間じゃないと分かる?」
ギルグリアの人間形態は完璧だ。どこからどう見ても、格好良いタイプのお姉さんにしか見えないだろう。唯一違うとすれば、瞳孔が縦に長い事だが、それはリアとダルクも変わらない訳で。オクタなら触手を垂らす姿から人間じゃないと判断するのは分からなくもないが、ギルグリアを初見で人間じゃないと見破るのは難しいように思う。そんな、訝しげな視線を受けたレーナは、涼しい顔で「いえ、魔力の質が人と違うので」と答えた。人には魔力に質があるとされている。魔法使いはとある到達点に達すると、人の魔力の質まで見抜けるようになるのだとか。実を言うと最近になってリアも目に魔力を纏わせれば見えるようになってきていた。なので、リアは他人の魔力の質まで見れるとは、相当高度な域まで達した魔法使いだなと思いながらも、なら見破れてもしょうがないのかな? と考える。
ギルグリアもリアと変わらず、そう言われれば閉口せざるを得なかった。
そんな2人の代わりに、一応オクタの主人であるレイアは興味深そうに「オクタくんのどんな所が不思議だと思う?」と問いかけた。彼女は「そうですね……」と前置きして。
「魔物ようで魔物で無い姿は、まるで『神話生物』のようだと思ったので。あ、あと、そこのシエルさんも神話生物を内包していますよね」
4人の間に衝撃が走る。シエルは「え? なんで分かるの……」と少し恐怖を抱きリアの後ろに隠れる。シエルの様子に、レーナは眉根を下げる。
「あら、怖がらせるつもりはなかったのですが」
「いや、神話生物を知ってるのかアンタ」
「はい、まぁ……専門の探偵なので」
「専門……ですか?」
「一応、不思議な事象を専門に調査する探偵をしています。なのでこういった異常事態には少し慣れているのです。神話生物というのはいつだって、魔法だけでは片付けられない事態を引き起こしますからね」
4人は後で根掘り葉掘り聞こうと思った。だが、今はこのループを乗り越えなくてはならない。さて、行動方針は決まった訳だが、どうなるかは未知数だ。
………………
ひとまずパーティーが完成した事と行動方針が決まり事を運ぶ為に車へ乗り込む。ギルグリアとオクタは飛べるので外からついてくるとして。微妙に気まずい雰囲気の車内で、リアが話を切り出した。
「レーナさんはどうして探偵を?」
「……探偵を始めた理由ですか。実は行方不明の姉がおりまして」
「ごめんなさい、軽率でした」
リアが謝る中、ダルクは「行方不明って事は生きてる可能性が高いって事か?」と問いかける。
「えぇ、神話生物……というか」
少し言いにくそうにするレーナに、ダルクは助け舟を出した。というよりも、言葉から察する事は充分にできる。
「今回みたいな、超常現象絡みって事か?」
レーナは驚いたような顔で、言葉の意味を読む。
「……というと、もしかして天使だけでなく神話的な事象が絡んでいるのですか?」
「そっちも察してると思うけど……」
「あぁ、シエルさんですね?」
「そう、シエルちゃん」
話を振られたシエルは可愛らしく首を傾げる。というより、事の全ての原点はシエルであり、彼女を中心に物事が始まっている事を理解しているからこそ、レーナの言いたい事も分かった。ダルクは少しだけ心を開く。無駄に美少女で怪しさ満点で警戒しまくっていたが、人間らしい苦労をしているのだと。
「なるほどな、アンタも大変苦労してるんだな」
「そうですね、そこそこ大変な人生ですが……不可思議な事が書かれた魔導書などを集めたり、魔法とは明らかに違う力を目にしたりする事を、実は楽しんでいる自分もいます」
「強かな事で」
「ふふっ、よく言われます。……そういう皆さんはどうして探偵を?」
ダルクは言うべきか迷ったが、まぁいいかと思い口を開いた。
「私は快楽の為だな、アンタよりも不純だよ」
「快楽で触れるには危ない世界ですよ?」
「だから、それなりに力はつけてきたさ。各国に旅をしたこともある。それに、不純だが探偵をやるという事は、人間性に触れる機会が多いって事だ。私は人の未知なる感情や闇に触れるのがとてつもなく楽しい」
「こんな事態になっている、今も?」
「時間異常なんて、こんな機会じゃなきゃ体験できないだろ。タイムリープだぜ、もしかしたら今回の一回きりかもしれないし、キルエルをもう一度倒せば終わるのかもしれないこの現象は、探偵じゃないと遭遇する事はなかった」
ダルクはニヤリと笑みを浮かべる。どこか勝気なダルクのおかげか、不安に駆られていたシエルは心が落ち着いた気がした。同時に、2人の魔法使いも「そうだね」「そうだな」と同意する。中々に芯の強い3人に、レーナは笑みを浮かべる。
「貴方達に声をかけてよかった」
「そいつはどーも」
ダルクの声色が弾む。リアとレイアも今日初めて出会った、寧ろ出会って30分もしていない彼女を多少は信頼する事にした。
「俺は流れで探偵やってますね。元々、普通の魔法使いです」
「リアっちが普通ならその他は凡人になっちまうぞ」
ダルクのツッコミに、リアは目に見えて照れた様子で柔らかく笑う。
「えへへ、実はあのデイル・アステイン・グロウの弟子です」
レーナの瞳に興味の色が宿る。ほぉと声を漏らして「やはり、前回の結界達はリアさんが展開したモノだったんですね」と納得する。リアはレーナの評価に苦い顔をする。
「頑張ったんですけどねぇ……全てを守るのは中々に難しくて、幾つか攻撃を通してしまったのは自身の至らぬところで……」
「いえ、あの結界のおかげで私は攻撃を免れましたし、恐らく皆さん感謝していましたよ。今回も頼らせてもらいますね」
「励ましてくれてるのか? ありがとうな」
リアとの話が終わると、次にレイアが薄い胸を張って自慢げに口を開いた。
「僕もリアと同じく流れで今回は手伝いをしている探偵だけど、実はハルク・グレイダーツの弟子なんだ〜」
「グレイダーツというと、《錬金術》と《召喚魔法》?」
「うん、《錬金術》は程々だけど《召喚魔法》は大の得意。巨大なロボットも召喚できるよ!!」
「というと、前回……キルエルの真下を飛んでいた白銀の、シストラムでしたか? あれはレイアさんが?」
「ふふっ、そう、あのシストラムは僕が召喚したモノだよ」
「まぁ、それは凄いですね」
レイアは久方ぶりに自尊心が満たされるのを感じる。同時に布教のチャンスと目を輝かせてレーナに詰め寄った。
「君も召喚魔法を覚えてみないかい!?」
「……か、考えておきますね」
レイアの熱意に若干引き際で答えるレーナであった。
……………
キルエルの降臨までにやるべき事は前回のやり直しだ。ちょうど中心点となるアールグレスの家に行き、少しお話をしてから外に出る。話す事は、この事態に関係するかどうかなのだが精神をすり減らした彼が答える事はなかった。
そうして時間を無駄に消費して外に出る。すると、キルエルへと続く門が開き始めた。だが、今回は既に戦闘準備万端だ。そんな時、レーナが興味津々といった様子で口を開いた。
「恐らく、アールグレスさんを過去に送る事が天使召喚の発動条件だと考えられますが、そこはまぁ置いておいて。先の話の振り返りになりますが、私はキルエル以外の可能性も考えています」
「タイムリープさせる必要が無いって話かい? まぁ、確かに過去に何かを送る力があるなら、自分だけタイムリープすればいいからね」
その時、魔導機動隊のシストラムや戦闘機が空を飛ぶのが見えた。誰かが通報したのだろうかと思うが、ここでリアは少しだけ違和感を覚える。だが、違和感の原因が思い当たらずモヤモヤとする。なので、一先ず前回の戦闘での疑問点を思い出してダルクに問いかける。
「そういえば、キルエルって時間系の攻撃してきた……よね? 時間が飛んだように場所を動いていた時と、一度だけ訳の分からないタイミングでレイアのシストラムが墜落しかけた時がありましたし」
ダルクは「あぁ」と今思い出したかのような顔をすると「時間停止なら使ってきたぞ」と答える。その場にいた全員が驚いた。シエルが真っ先にダルクに問いかける。
「なんでダルクは動けたの?」
「なんでだろ……」
ダルクは真剣に考えて、ひとつだけ可能性を示唆する。
「これ、かな」
ダルクの背後で歯車状の魔法陣が組み上がっていく。カタカタと音を鳴らし、やがて巨大な時計盤のような魔法陣を形作るとカチカチと時を刻む音が鳴った。全員が美しい造形の魔法陣に目を奪われている中で、魔法陣を組み上げたダルクは。
「これ、時間停止の魔法なんだけど」
「時間停止……凄いです」
「ほぉ? 人間が時間停止を。それは偉業ではないか」
「時間停止……とても興味深い」
オクタ、ギルグリア、レーナの賞賛を素直に受け取りつつ、ダルクは「たぶん、だからだと思う」と結論を口にする。
「時間停止の魔法を扱える者は、時間が停止した空間で動ける術を得る。恐らくは、キルエルも『この世界の魔法の法則に則った時間停止』を行ったって事だと思うぜ」
「魔法陣が複雑で中々に覚えるの難しいよね……」
リアの言葉は全員の思いを代弁していた。だから、ダルクは代わりにと魔法陣に手を突っ込み、歯車をひとつ取り出した。幾何学模様の魔法陣は少し複雑だが、覚え易い形をしている。
「これだけでも覚えておけば、恐らくキルエルの時間停止には対処できる。残り時間で全員、まぁ出来れば覚えてほしい」
レーナは携帯端末を取り出すと写真で撮影してから眺め始める。リアとレイアは元々、春休みの間にダルクから時間停止の魔法を教えてもらっていて、一部覚えていた事もありすんなりと頭に入った。ギルグリアとオクタは元々頭のスペックは高いので一度じっくり眺めると手のひらに魔法陣を浮かべる。ただ、元一般人のシエルは焦った様子だ。
「ちょっと、私には難しいかも……」
リアは不安に駆られるシエルの肩に手を置くと優しい微笑みで「君の事は何度でも俺が守るよ」と告げる。シエルはそんなリアの手を取った。
「うん、今回も頼りにしてるよリア」
「任されました」
レイアも友情を深める2人に割って入って「僕も守るからね!!」と伝え、レーナも「まぁ、私の腕の見せ所です」と自信ありげに答える。
そして、ついに時間が過ぎて、キルエルが降臨する。しかし前回のような穏やかな登場ではなく、門を突き破るように荒々しく、レーザーを撒き散らしながら現れた。そのせいで魔導機動隊の戦闘機が数機堕ちる。リアも予想していなかったわけではないが、面倒な事になったと思いつつ《結界魔法》で周囲を守る。
「……行動が違う? もしかして、キルエルも記憶持ち?」
「それだと、厄介だな」
瞬間、空を煌々と炎が焼き晴らす。ギルグリアが飛び上がり、キルエルに火炎を吐いて押し返していた。翼や触手が焼ける匂いが地上まで漂い、妙な血生臭さに胸焼けがする。
その時、キルエルの目がグルンと動きリア達を捉えると、反撃とばかりに一際大きな光を放つ。強力な熱量を持った1発は結界を溶かす為にレーザーのように放たれる。リアは必死に結界を保とうとするも、一瞬の張り直しの間際でレーザーを通してしまった。
「しまっ!?」
レーザーは結界内に入ると拡散するように広がり範囲攻撃を開始した。瞬きひとつの間に変わる戦場。リアは咄嗟に《境界線の狩武装》を纏い回避し、レイアはオクタと共に大盾と水の盾で回避を試みる。レーナはまるで未来が見えているかのように軽やかなステップで回避する。そして、どうにかレーザーを回避し、ギルグリアが門の向こうにキルエルを押し返すのが見え、すかさずオクタが空に触手を召喚すると扉を閉め……。
「って、シエル!!」
この場で最も回避に適していない人物を思い出し視線を戻すと。
シエルを抱きしめながら回避をしたらしいダルクの姿が見えた。
しかし、右片腕は袖の部分で焼け焦げ、骨と肉が見え血が滴っている。地面には焼け焦げた跡と共に彼女の腕らしきモノが落ちており、本人は顔に脂汗を浮かべながら荒い呼吸を繰り返す。
「ぁぁぁぁあッ!! くっそ、くそくそ……!!」
痛みから声を上げ恨み言を呟きながら、シエルを解放し、腕を抑えうずくまる。震える手で胸元の鍵のネックレスを左手で握り《鍵箱》を起動すると注射器を取り出し、口でキャップを外して千切れた腕の近くに突き刺して中の薬液を流し込む。
「先輩!!」
リアも彼女の元に駆け寄り、身体を支えるように肩に手を置く。レイアも駆け寄って、心配そうに顔を覗き込んだ。冷静沈着なイメージだったレーナも、流石に汗を垂らしてダルクを見守る。ダルクは痛みが少し和らいだのか、勝ち気な笑みを浮かべると。
「大丈夫……じゃねぇ!! これ引っ付くかな?」
千切れた腕を《鍵箱》で収納するとヨロヨロと立ち上がる。しかし、血を流しすぎたのか倒れそうになり、リアは素早く支える。
「はぁはぁ……まだ、終わってねぇぞ」
ダルクは空を見て呟く。全員が再び空に目を向けると。ちょうど、門を蹴破るように再びキルエルが現れた。翼はボロボロでヘイローは割れているが、弱った様子はなく。確かな怒りを感じる。まだパワーは有り余っている様子だ。そんなキルエルが再び出現した瞬間、門はポロポロと光となって消えていく……。