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死者蘇生9


 それからの話。


 天使との対決の一件は、魔導機動隊の特別組織『超常に対する専門組織』が対応してくれたので、割とすんなり話が通った。リアとダルクとレイアはそのおりに、魔導機動隊特組(仮名)からお誘いを受けたのは嬉しい誤算だった。将来の選択肢は多い方がいい。そして天使は建前上は『特殊な魔物』として処理されるそうだが、その日から捜査部を設立し資料を集めて研究するらしい。流石に今は一般人の魔法使いなので、あまり多くは教えてもらえなかった。


 さて、シエルの問題であるが。アールグレスは行方不明になり、エルは現状証拠不十分か無関係という事で仮釈放。少女の誘拐、拉致監禁の件はアールグレスに責任が課せられた。思いがけず無罪となった彼女は戸惑いの視線を虚空に向けていてリアは思わず声をかけたところ、「罪滅ぼしがしたい」との事。だが、焦燥している様子だったので今暫くは休む事を提案しておいた。彼女は彼女なりに、大人なのだから考えて罪滅ぼしをしていくのだろう。リアは何を成そうと、彼女の罪悪感が薄れるならそれが正解だと思う。ただ、被害者には絶対に謝りに行く事は推奨しておいた。謝罪はケジメのひとつだ、必ずやらなくてはならない事だ。それからシエルとの関係だが、魂が宿ろうと肉体の所有権はシエルにあるとの考えから、時々見守るくらいに留めるとのこと。シエルもチカの魂ゆえか、エルの事は第二の母親のように慕っているので、関係が拗れない付き合いが大事だと感じた。


 話を軌道修正して。解放された少女達はこの都市で1番大きな病院で検査を受けながら一月ほど過ごすのだそうだ。一応、クロムも関わっている病院なので信頼はできるし、事件を聞きつけ、ウィンターセフトへやってきたグレイダーツの采配により特殊医療チームが設立。クロムも含めたメンバーで検査に当たる事になった。余談ついでに、この時一応『神話生物』の存在を伝えたところ、グレイダーツはとても苦い顔をしていた。なにか考えがあるのか? と問いかけると、思いつかないからヤバいのだそうだ。この件については後々……いや、今日からでも連絡の取れる英雄全てに伝えるとのことで。割と大事になりそうな予感がした。


 そうなると、当然シエルも暫くはウィンターセフトを離れる事になるのだが。


 ここで、元々マリアからの依頼によって此度の事件への介入が始まった事を思い出し、暫し時間を貰ってジルの探偵事務所に帰り、シエルとマリアを引き合わせた。シエルに起きた出来事や事情を説明し、事細かに何一つ隠す事なく伝えた結果。


「沢山心配したんだからね……。それから、シエルがどうなっても親友なのには変わりないから!! 大好きだよシエル!! あとよろしくねチカ!!」


「うん、ありがとうマリア」


 2人は暫く抱き合いながら小さく涙を流し交流する。また暫し離ればなれになってしまうが、2人の間には確かに絆があった。美しく尊い絆が壊れなくてよかったとリアはしみじみ思う。そしてマリアはシエルを見つけてくれたリア達へと感謝の言葉を送る。


「ありがとう探偵さん!!」


「いえいえ」


「無事に終えられてよかったよ」


 レイアがホッとした様子で胸を撫で下ろし、ジル達3人も同じ思いで見守った。

 感動の再会もいい感じに終わった所で、ダルクはシエルとマリアに連絡先を書いた紙を渡し「まぁ、何かあったらまた頼りなぁー」と笑みを向ける。


 それから別れる前に、シエルは3人の前に歩み寄ると、それぞれハグをする。


「ありがとう、全部リア達がいてくれたから、心折れずに頑張れそう。記憶も、中にあるチカとしての記憶や思い出とも上手く向き合いながら、新しく自分のアイデンティティを探していく事にするよ」


「私も付いてるからね!!」


 マリアはシエルの手を握る。シエルは明るい笑みで「うん!!」と返した。


「まぁ、俺は基本的に暇してるから、ダルク先輩と同じくいつでも頼ってくれよ。あ、トークアプリのアカウント交換しとくか?」


「僕もリアと同じく、《召喚魔法》の布教以外は基本暇してるし、アカウント交換しよ」


 携帯端末を取り出すと、現代っ子らしくトークアプリのアカウントを登録しあった。そこへ、ダルクも「仲間外れみたいだから、私も!!」と間に入る。マリアとは交流は少ないが、彼女とも仲良くできそうだと思う。リアは友達が一気に2人も増えた事を喜び、口元に笑みを浮かべると携帯端末を仕舞った。


 これにて、奇妙な死者蘇生の物語はハッピーエンド……とは少し言い難いのかもしれないが、大凡良い終着点に落ち着いた。天使が野に放たれる事は防げたので、これ以上のエンディングを求めたらバチがあたりそうだ。


………


…………


……………


 「ジリジリ」と時を刻むように、小さな電子音に似た音が耳元で木霊する。すると、目の前が明滅し始め白く塗りたくるように光に包まれていく。目を開けていられない眩しさから閉じると、暗闇の中で途端に足元がすくむような浮遊感を感じたと思えば、フワリと何処かに着地する感覚がした。


「……ん?」


 次に目を開いた時。リアは自分が車の中にいる事に気がついた。あれ、車に乗った記憶なんて無い……そうぼーっとした頭で考えていると。隣で車を運転しているダルクが目を見開いている光景が見える。まるで、夢の中で微睡んでいる雰囲気だったが次第に運転する手に力が入っていき。


「は?」


 疑問の声を漏らすダルク。急なブレーキにより、車の後部座席に乗っていたレイアとシエルも「うっ」「えっ?」と声を漏らした。リアの目もここで漸く覚める。顔を触り、夢じゃない事を確認して。


「あれ、ここ、どこだ?」


 ダルクの言葉は全員の思いを代弁していた。いつものように、いつもの日常へと戻ったと思ったら……何故か、車の中に居た。突然訪れた非常事態に全員が慄く。ダルクは五月蝿いくらいにどくどくと鳴る心臓を抑えながら携帯端末を取り出して、時刻を見た。不可思議な現象が起きた時の癖……のようなものだろうか。時計には最も近しい、近辺の情報が詰まっている。そして、文字を目で追い息が詰まるような気分で呟いた。


「……12時?」


「え? あれ、今って20時じゃ?」


「私達がキルエルを倒した時間……だよね……?」


 シエルの言葉に顔を見合わせる。血の気が引いていくような感覚がした。


「いや、いやいや……まさか……」


 リアの呟きと同時に、全員が外を見る。空は曇天が支配していて薄暗いが……それは、分かりやすい程に輝いていた。


 巨大な門だ。生命樹のツリーが描かれた門は神聖な雰囲気と厳かな出立をしており、隙間中から今にも開きそうに光を洩らしている。


「キルエルの門……」


「ちょ、ちょっと全員、記憶の整理をすんぞ」


 ダルクが場を仕切り、それから記憶を振り返るが。全員が5時間ほど後の記憶を有しているという事だけが分かった。


「ループ……?」


 シエルが最も確率の高い可能性を示唆する。全員が同じ思いだった。キルエルを倒す前へとタイムリープした。事実は変えようがなく、時計の文字列が真実を突きつける。目眩がしそうな出来事だ。


「……キルエルの力か?」


「あの天使が帰る間際に何か残したって事?」


「分からねぇ」


 珍しく、ダルクが焦燥し、自分の足りない頭に苛立つように爪を噛む。普段見せない先輩の態度に、リアは思考を回すが……魔法以外はからっきしなリアやレイア、そもそも元一般人のシエルではダルク以上に何かを思いつく事が出来ずにいた。


 その時、コンコンっと車をノックする音が聞こえた。リアが窓に顔を近づけ外を覗き込むと。


 黒いドレスのような服装が印象的な少女がいた。長く艶やかな長髪は黒く、黒曜石のように綺麗だが……肝心なのはその顔だった。例えるなら、傾国の美女……が該当するだろう。整いすぎていっそ不気味に感じる程に美しい顔をしており、双眸から覗く妖しく輝く黄金色の瞳に目を惹かれる。元男だとか関係なく純粋に見惚れてしまう、美の化身がそこにいた。


 そんな少女は、にっこりと笑顔を浮かべて口を開いた。


「貴方達、ループした事に気がついているわよね? ちょっと協力してくれないかしら?」


 涼やかな声色は、どこか深い闇の底から鳴り響いているように感じた。ダルクが「誰だお前」と問いかけると彼女は涼しい顔でこう言い、名刺を差し出した。


「レーナ・ヴァンホーテン。探偵をしている者です。よろしくお願いします、若い探偵さん達」


 胡散臭い笑みを浮かべて、ついでに『民間公魔法使い』のライセンスも見せてくる。怪しいが、ライセンスは偽造のしようがない、紛れもない本物だ。


 それを確認したダルクは少し悩む素振りを見せた後、車を降りる。彼女が疑問に思うのは何故私達が探偵だと知っているのかだったが……この異常事態に怪しい奴を逃す訳にはいかないと思った。

 ダルクが降りたのを皮切りに全員が外に出る。


 シエルがレーナと名乗った探偵の顔を見ると「わぁ、美人さんだ」と声を漏らす。レーナはクスクスと笑うと「ありがとうございます」と礼を言った。

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[一言] 一件落着かと思いきや……
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