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2日目⑤決闘

 場所は移り、今は第2演習場と呼ばれる建物にいる。この建物は校内に三箇所同じ建物があるらしいのだが、軽く体育館の3倍はあるくらい広い。だというのに、地面はしっかりとコンクリートで整備され、周囲には膨大な数の観客席まで完備されていた。それだけでも凄いのだが、これ程広いのにも関わらず周囲に被害が及ばないようにと様々な魔法で防御までされている。そのうちの一つは……魔力の感じからしてデイルっぽいものもあった。


 それはさておき。


 レイアとリアは互いに25メートルほど距離を開けて向かい合う。ライラとダルクは魔法に巻き込まれないように、壁際で待機していた。


「立会人としての誓約書を」


 ライラの手からA4サイズの紙が2枚、それぞれの前に飛んでくる。その紙を手に取り、内容は分かっているが一応目を通す。


『   決闘【通常ルール】

《決闘を行う者は、互いに命の危険がある事を覚悟せよ》


【対戦者】レイア・ヨハン・フェルク


【敗北条件】

敗北の宣言、戦闘不能


【勝利条件】

相手の敗北宣言、相手の戦闘不能


【制限時間】未設定


【立会人】

ライラ

ダルク


【特殊ルール】

審判の判定により、命に関わる場合に限り乱入を認める。また、このルールは立会人にも有効である。


【勝利者の報酬】未設定


【追記】腕輪は「戦闘開始」と叫ぶ事が起動コードとなっているから、開始はリアとレイアが腕輪を起動させた時にという事で。カウントはしないからそのところよろしく。from:ライラ


【誓約印】《     》  』


 先輩2人のフルネームが分かった事と、腕輪の起動コードとやらが分かった事以外は、おおよそ予想通りの内容だ。後は、誓約印のところに自身の魔力を流せば完了。

 人差し指の指先に魔力を纏い、判を押すように指を押し付ける。すると、誓約印の《》内に淡く光る自分の指紋が刻まれた。そして、契約の完了した誓約書は再び飛来しライラの手元に舞い戻る。同じくして誓約書に指印を押したレイアの紙もライラの元に戻っていった。


「準備はいいかい?」


「いつでも」


「じゃあ開始しようか」


 2人は腕輪を胸元の辺りまで持ち上げてから、起動コードを叫ぶ。


「「開始ッ!!」」


 キィィインと起動音を響かせ、腕輪の繋ぎ目が薄く緑色の輝きを放つ。同時に、腕から常時魔力が削られていくのが分かった。そして、見ただけでは分からないが、魔力の流れから削られた魔力は全身に薄い膜のように広がっていくのを感じる。これで一応、起動したようだ。

 しかし、例え魔法を無効化するとは言っても過信は禁物だ。油断しないようにしなければ。

 して、最初は……相手の出方を伺う……なんてセコイ戦いはしない。せめてぶちのめす。


 レイアの周回を起点に結界を張る。瞬きの構築である。これでレイアは閉じ込められる。筈だった。


「《召喚:戦乙女》」


 レイアから魔力が溢れる。溢れた魔力は形を作り魔法陣を形成する。


 魔法陣から現れたのは、2体の人影だ。

 その姿は、まさしく神話に出てくるであろう戦乙女そのもの。

 顔は美しい女のものであろう曲線美を描いているが、頭部には額当てが取り付けられ、目元全てに白い包帯のようなものが巻かれている為に素顔は伺えない。風に流れるように靡く長い髪は、眩しい程に真っ白で、風貌も相まってか神々しさを感じさせる。


 それから、上半身を白い西洋の鎧で包んでいるが、下半身に向かって開けていき、スカートのように白い布がふわりと広がっている。そこから覗く足には、ブーツのような金属の靴にグリーブと膝当てが取り付けられている。骨格は女らしさを残す丸みを帯びた体だが、それに合わすように装備された鎧のせいもあってか弱々しさは一切感じない。寧ろ、逆に気圧されそうになるほどの重圧を放っている。


 そんな彼女達の片方は、身長と同じ長さの槍を握り、もう一人は直剣を握っている。


 レイアは生み出した戦乙女達に命令を下した。


「切り開け」


 主の命令を聞き、戦乙女はリアの結界を切り裂いた。1tトラックがアクセルを全開にして突っ込んでも軽く耐えて見せる結界を。


「初めて見たけど凄いな」


 リアは純粋に思った事をレイアに聞こえる声量で呟いた。賞賛を受けたレイアは自慢するように胸を張りながら、戦乙女に命令を下した。


「行け」


 命令を受けた戦乙女達は、自分を倒す為に高速で接近する。しかし、いくら速くても長距離からだ。此方に来るまでの間に魔法を発動させる事など容易い。


「《結界の大槌(エリアハンマー)》ッ!!」


 空中に広く座標を指定し、円柱形状の大きな結界を作る。そしてその結界を釘を打つ金槌のように2体の戦乙女へと叩きつけた。

 コンクリートが削れる破砕音と、それに伴って吹き上がった土埃が周囲を包む。

 視界が悪い。だがリアは変化を見逃さない。土埃が揺れたのを感じ、自身の周囲に魔力を放出する。


「《回転する粒子結界》!!」


 周囲の魔力を荒のある結界に変え、ドーム状にしながら高速で乱回転させた。防御にと考えられた結界魔法のひとつで、例えるなら硝子片並みに荒い鑢を高速で周囲に回転させているようなものだ。

 そして、この魔法を使ったのは正しかった。煙を切り裂くように2体の戦乙女は、それぞれの武器の鋒をこちらに向けながら跳躍してくる。


 武器が結界にぶつかり、甲高い金属が削られる音と共に火花を散らす。本来であれば、乱回転する結界は武器や攻撃魔法を弾くのだが、戦乙女達の脚力と腕力の前ではその効果も意味がないらしい。


 守りを固めたリアと武器で貫こうとする戦乙女。暫し拮抗していると思われたが、攻めている方が圧倒的に有利だ。

 戦乙女は片足を踏みしめる。踏み込まれたコンクリートの地面からは蜘蛛の巣のようなひび割れが広がる。

 徐々に鋒が結界の中に食い込み、それからギチギチとヒビの入ったような音が鳴り始めた。


「押し込め」


 レイアの命令により更に力が強まったように感じる。このままいけば、この結界は10秒も持たないだろう。


 だが……防御特化だからといって舐めてもらっては困る。


 結界の乱回転するスピードを余分に魔力を流す事で最大にする。そのせいで結界下のコンクリートが風圧と圧力で捲れ上がり、再び土埃が周囲を包む。


 レイアはリアと戦乙女の姿が見えず追加で命令をするべきか迷った。だが既に攻撃命令を下しているのだから大丈夫だと考え、事の顛末を伺う。

 しかし、その考えは間違っていた。ここで追撃指示を出していれば、もしかしたら1撃は入れる事ができたかもしれない。


 リアの魔法が光る。


「《境界線の剣》」


 ブゥウォン!!

 と殴りつけたような風切り音が鳴り、遅れて青白い光が円を描くように煌めく。周囲を隠していた土埃は風圧に押され、リアを中心に一瞬で消え去った。それによって視界が戻り現状が段々と見えてくる。

 そこには鈍い光りを放つ、無骨な直剣を両手に構えるリア。そして胴体を斬り裂かれ崩れ落ち魔力に帰する戦乙女達の姿があった。


 レイアはまさか自身の戦乙女が切り倒されるとは思いもせず、驚き目を見開いた。これでもリアの結界に並ぶ耐久力はある。それなのに一撃で……戦乙女達はもはや動かす事はできず、魔力となって空気中に消えていくのを止められない。


「どういう魔法なんだい?」


 隠す事はないと、リアはレイアの問いに自信満々で答える。


「結界魔法っていうのは、元を辿れば”境界線を定め、壁で阻む"魔法。そして、この剣は全てが俺の定めた境界線でできている。つまり、何事にも侵される事のない絶対の剣。結界魔法の奥義の一つ」


「なるほど『なんでも切れる』ってわけか」


 今度はレイアが純粋な賞賛を口にする。そして賞賛を受けたリアは内心で喜びつつも、油断する事なく剣を構えた。


「じゃ、そろそろいくぜ《身体強化》」


 全ての筋肉、血管に魔力を巡らせ全身を強化する。

 奥義とは言っても当てなければ意味がない。更にこの剣は形を保つだけでもかなりの魔力が消費される。その点では普通に結界魔法を使うよりは燃費も悪く難しいものだ。しかし短距離であれば、あらゆる魔法を斬り裂くこの剣は無類の強さを得る。そして相手は召喚術と錬金術を使う、どちらかも言えば遠距離戦向き。つまり近距離戦が不利だ。

 だからこそ接近戦闘に持ち込む事にした。それに例え他の魔法で攻撃されたとしても、小さな結界であれば目だけで座標を指定し構築できる。接近するのは不可能ではない。

 だから小細工は無しだ。真正面から行く。


 と、考えていた。けれどリアが考えている事は、もちろんレイア自身も分かっている事だ。だからこそ対策をしていない訳がない。


「接近なんてさせるか。開け《武器庫の門(ゲート・アーモリー)》。全砲門よ」


 空に琥珀色をした小さな扉が出現。その数は瞬く間に増え、たった数秒で優に百を超える数になる。それから「ガチャリ、ガチャリ」と空中の至る所で鍵の解錠音が鳴り響いた。


 解錠音を鳴らした扉は其々、何かに内側から押されるように開く。


 そして扉の向こうから姿を現したのは、黒く鈍い光を放つ筒状の棒。大小大きさや長さは様々だが、扉から出てきた物全てが同じものである。

 リアはそれを見た瞬間、咄嗟に急ブレーキをかけて自身の前方に《回転する粒子結界》を張った。普通の結界は簡単に突破される以上、この結界が最適解だから。


 その判断にレイアは右手の人差し指を上に向けながら言う。


「その判断は間違ってるぜ」


 スッと彼女が指を振り下ろすと同時に、棒の先が一斉にこっちへ向いた。そして閃光が煌めき、無数の弾丸が飛来する。

 それは予想通りマズルフラッシュだった。銃器から撃ち出された弾丸は周囲に着弾し始める。そして結界の中へと、1発の弾丸が地面を掠めるように飛来した。


「……んなっ!?」


 数十発の弾丸は結界を抉るように削りとった。乱回転する結界を削る、それは鉛玉の弾丸では不可能な筈だ。

 この結界はそもそも物理的な物を”弾く”事を主軸においた結界だ。自慢ではないが、レイアの召喚した戦乙女ならまだしも、ただの銃弾ごときに削られる訳がない。


 リアは動揺を抑える為に一度全ての感覚を遮断して、視力だけに意識を集める。極限まで高まった集中力は、時間さえも緩く感じさせた。

 そして色を失った灰色の視界の中で、空気を揺らしながら迫ってくる弾丸に目を向ける。


 その1発は太陽の光すら反射しない、薄い鈍色の弾丸であった。

 だが、それは鉛玉ではなく全て『魔力』でできていた。


 集中力の途切れとともに灰色の世界から急速的に色が戻る。

 それから時間の感覚も加速していく。そのせいで結界を抉る弾丸の圧力に一瞬押されそうになるも、どうにか崩壊するのを防いだ。


 なるほど。


 まず、魔力のみで構成された弾丸。この特性は教科書くらいでしか読んだ事はないが、総じて『魔力弾』と呼称されているものだ。これは言葉通り魔力の弾丸で、撃つ際に必要な火薬すらも魔力で代替わりしたものを指す。

 そして、この魔力弾を形作る上で少なからず魔力を『圧縮』しなくてはいけない。魔法において『圧縮』という技術は錬金術にカテゴライズされ、必要なのは空気と魔力のみである。圧縮された事により周囲の魔力を少なからず巻き込む。そう構築する事で少量の魔力でも構築力、速さ、回転力、貫通力を保ち続ける事ができるのだ。


 ただ練度が高いだけの魔力弾ならば全く脅威はない。それが、レイアの作ったものというのが問題だ。結界を削っている事から常人を超えた精度だと分かる。精度が高ければ構成に余裕ができ、より少ない魔力で作れる他、周囲の魔力を取り込むという特性もまた高くなる。結果、俺の結界を構築している魔力を多く奪い、更に今のように大量にばら撒いても恐らく10分くらいは絶えずに撃てるだろう。それにリロードも必要ないから隙ができる事もない。


「どちらの魔力が先に尽きるか、勝負といこう」


 両手を広げて口元を三日月状に歪めるレイア。

 暗に「自分の勝ちだ」言われた気がしたが、悔しい事に何も言い返せない。


 こうして防戦一方に徹しているから安全だが、このまま行けば魔力が無くなるのは自分が先。それに、この場から動こうにも周囲は魔力弾の雨だ。結界を解いた瞬間には蜂の巣にされる。つまり、立ち止まったのは悪手であった。


 あと、レイアもただ弾をばら撒くだけで済ますとは思えない。いや、確実に何かを召喚してくる。だから考える時間は……。


 削られた結界の再構築が間に合わず、一発の魔力弾が頬を掠った。頬を一直線に痛みが走る。思わず痛みのある箇所を手で触れるも。不思議な事に血は流れていない。それは忘れていた……魔力弾が掠ったと同時に腕輪の機能が発動し、全てを”ただの魔力”に強制変換したらしい。


 恐らくそのせいなのだろう。たった1発の魔力弾が、リアを更に危機的状況へと陥れた。


「ゴッソリ持ってかれた!?」


 急激な魔力の減量を感じ思わず叫ぶ。

 確かに、魔力弾ですら瞬間的に魔力へと変換して、人体への殺傷能力を無くしたのは凄い。めっちゃ痛いからダメージは受けるようだが、それでも本当に凄い。

 けれど残りの魔力の内3分の1は持ってかれた気がする。さすがに燃費が悪すぎるというレベルじゃない。これほど魔力を消費するなら正直、結界に無理してでも《解呪(ディスペル)》を発動させたほうがマシだ。なんせ、普通に《結界壁》を1000枚以上構築するのに必要な量の魔力を持って行かれたのだ。自分ならその半分以下の魔力で結界に解呪の魔法を纏わせる事ができる。


 それにもう考える時間だとか言っている暇もなくなった。魔力が持たないのもそうだが、なにより、このまま防戦一方では負けが確定するのだ。

 なんなら遠距離攻撃という手も無くはないが、レイアなら防ぐだろうと自信を持って言える。それに、無駄な魔力の消費は避けたい。


 どうする?


 目つきを鋭くしレイアを見る。空中に魔力が滲み出ているのが見えた。魔法陣はまだ展開されていないが、やはり何かを召喚するつもりなのだろう。


 残された時間の中、必死に解決策を探す。そして頭に浮かんだのは一か八かの賭けだった。


「……すぅ」


 息を吸い、気持ちを落ち着かせる。

 落ち着いた心で、覚悟を決めた。


 《回転する粒子結界》に残った魔力を大量に突っ込み、別の結界魔法へと再構築を始める。

 それから、魔法を発動させる前にもう一度身体を強化する。特に脚力。


「……《身体強化》」


 血が熱く燃え滾るように感じる。限界ギリギリまで強化された筋肉は熱を持ち、もう無理だと悲鳴をあげているようだ。だが、それでも止まることなく、巡る血液は満遍なく身体全体に魔力を行き渡らせる。自身の定める限界の最後まで強化したところで、血液中の魔力を止めた。


 一撃。


 全身から痛みを感じ身体が軋むように揺れる。

 限界を超えると筋肉が切れるかもしれない。なので1分持てばいい方だ。だから一撃で決着をつける。


 残った魔力を片手に集めながら、リアは決闘らしく決め台詞を口にする。ピンチに格好つけるのは、勝ちフラグだと信じて。

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