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死者蘇生⑤



 あの時、チカと呼び止めようとした女性。チカ・グレイシスの母であるエル・グレイシスはとある著書の一冊を大切そうに取り出して文字を撫でる。


 『肉体とは、魂の器である』。


 クロムという英雄であり医療分野でも有名な魔法使いが提唱した絶対条件であり、故にいかなる手順においても死者蘇生は不可能とされる言葉でもある。なぜなら、肉体は死した瞬間から魂の形が崩れるから。短時間ならば蘇生の可能性はある。しかし心臓が止まり時間が経てば腐る、劣化する、衰える。なんでもいいが、肉体は滅びゆくものだ。

 それから魂と肉体には結び付く為の『記号』のようなものがあり、だからこそ錬金術による人体の部位を作成して繋ぐ際に一定の確率で拒否反応が起こるとされている。未だ、完璧な臓器移植が難しい理由付けにも使われている。


 だが、逆に言えば肉体さえ用意できれば死者は蘇生できると言う事だ。けれど、肉体とは魂の器という言葉の通り、違う肉体に魂が入れば当然拒絶反応を起こす。


 そして肉体を用意すると、言うのは簡単だが実行しようとなると、やはり不可能という壁にぶち当たる。そもそも人体錬成自体が高難易度の術である。更に、魂をこちら側に引き戻さなくては死者蘇生とはなり得ない。他にも肉体の魔物化という問題もある。解決しなくてはならない問題をクリアする以前に、挑む資格すら無かった。けれど諦めがつかず、医学書をかき集め図書館で人体錬成について学んでいた時である。


 とある女性が、ある魔導書をくれた。


 英語で書かれた写本らしく、直訳すると『エイボンの書』とされるその魔導書には『神』なる存在とこの世界にいるらしい『ショゴス』と呼ばれる生き物の存在が記されていた。


 そのショゴスに目をつける。不定形の化け物ではあるが、どんな肉体にも変化できる。つまり、肉体さえ準備できれば如何なる魂の形であろうと変化できるという訳だ。そこで……エルと夫のアールグレスは、他人の肉体を用いる術を見つけ、禁術に手を出した。要するに、肉体を用意できないなら他人の肉体を使えば良いと考えたのだ。その悍ましい考えのまま、研究を続けるうちに意思のないショゴスの召喚に成功する。そのショゴスを用いて他人の身体を乗っ取る事で、足跡を残さずに誘拐するという方法である。唯一、弱点があるとすれば、神聖な存在に弱い事だ。ショゴスは奉仕種族と呼ばれる存在であり……基本的に『神』には逆らえないらしい。ショゴスロードなるモノや、意思のあるショゴスは別らしいが、使うのは意志も何も無いショゴスである。……この弱点がチカを人間ではないという事の証明にならない事を祈りたい。


 そんな時。魔導書をくれた女性から研究施設の提供を受けた。流石に怪しいと思ったエルとアールグレスは、女性の目的を問う。すると、彼女は言うのだ。



『死者蘇生が見たい』



 本音はどうか分からないが、藁にもすがる思いだったのもあり提供を受け入れる事にした。そうして研究と魔導書を解き明かす事1年。可能性を見つける。


 俗に言う『神』なる存在。外なる神『ウボ=サスラ』と呼ばれる一柱は、始まりと終わりを司るらしい。つまり、輪廻転生とは別の解釈であり、死者の魂の多くが死後ウボ=サスラの元に集うのだとか。始まりと終わりとはそういう事なのだろう。


 もしこの神が本当にいるとするならば、使わない手はない。


 この神をどうにか利用できれば……『記号』となるチカの骨は持っている。探し出せるかもしれない、チカの魂を。その為の《門》を創造する方法を模索し、魔導書から糸口を掴んだ。こちらが出向く程に大きな《門》はいらない。魂を引っ張り出せればそれでいい。そして、難航を重ねて2度の開門に成功した。しかし一度は失敗してしまった。下準備が足りなかった。なので、次は記号となるチカの骨を触媒に開門する。そして二度目でチカの魂を捕らえられた、筈だ。筈と断言できないのは、その後で彼女が研究施設から逃亡してしまい……自分の事を母親だと認識もしていないらしいからである。チカの魂は宿った筈だが、記憶の方はあやふやなのかもしれない。それでも逃げ出したのは、自分達のことを敵だと思ったからだろうと推測している。


 そして、最後に。笑いながら彼女が持ってきた、全く別の魔導書に記された……天使。時を司る熾天使とされる『エルトラ=キルエル』。彼女を召喚できれば、そもそもチカの死をなかった事にできるかもしれない。過去に戻り、事故を未然に防ぐのだ。しかし、魔導書の文献に、この天使の習性が記されており、召喚するのはとても危険であるとされている。魂を集めるのが趣味であり、人間を見下す性質らしい。もし召喚してしまえば大惨事になりかねない。

 だが、アールグレスはチカを取り戻す為に召喚の研究を始めてしまい、先日必要な『賢者の石』を魔導書をくれた女性から貰い受け、いつでもこちらに引き出せるまでになっている。儀式は簡単で、太陽の出ている日に必要な召喚陣を組み、賢者の石を等価交換にして呼び出す。賢者の石の原動力となる『処女の血』は、誘拐した娘達から取り出した。


 だが、ここまできて……正直言うと、もうエルは引き返したい気持ちでいっぱいだった。


 罪の意識、何も知らない一般人を巻き込んでしまっての『死者蘇生』など、本当にチカは受け入れて喜んでくれるだろうか?


 例え死者蘇生に成功しても……ショゴスの肉体を持つ彼女を人として生活させる事は出来るだろうか?


 そもそも、この研究がバレてしまえば、自分達は檻の中。チカを育てる人がいなくなる。


 いろんな不安が押し寄せて、押しつぶされそうになる。そんな時に、エルトラ=キルエルの存在を知り……アールグレスはより、研究自体を『なかった事』にする為、まるで何かに取り憑かれたかのように研究に没頭する。


 ……そんな中エルは、胸騒ぎよりも、心がざわつく。不思議と、天使の召喚をしてしまえば取り返しがつかない気がした。けれど、アールグレスは立ち止まらない。自分の声が届かないところまで精神を追い詰めてしまっている。


 もう、ここでいいじゃないか。チカの魂を他人に宿らせる事は出来たはずだ。そう思い立ち止まりたい自分とは違う。


 だから、チカを連れ戻さなければならない。彼女の存在があれば……アールグレスも考えを改めてくれるかもしれない。


 そんな思いから、彼女を捜索する事、7日目。ついに姿を見かける。彼女はまるで友達とショッピングするかのように、ラーメン屋で楽しそうにしていた。その様子を見て……シエルという少女への罪悪感でいっぱいになった。自分達の勝手な研究と実験により、人生を狂わしてしまった。だから、声をかけるのを少し躊躇い、彼女らのやりとりを眺める。


 時折、見せる笑顔がチカの顔と重なって見えて、やっぱり魂はここにあるんだと確信する。


 しかし、後をつけようとしたその時。彼女らは魔法使いだった。瞬間移動のような魔法でその場から離脱してしまう。思わず叫び引き止めようとしたが、伸ばした手は空を切る。


 それから、どうしようかと考える。彼女らの能力ならば研究所に辿り着くのは時間の問題だろう。また、研究所に戻るべきだろうか? チカの魂を取り戻す為の依代となる筈だった少女達はまだ保管してある。彼女達を元の生活に帰す事も考えなくてはならない。意思のないショゴスが入り込んでいる為、純粋な人間とはいえないが、身体機能に問題はない筈だ。それに魂には記憶が宿るともされる。記憶は……きっとそこにあるだろう。それはチカも変わらない。


 だから、チカを追う事にする。どこにいるか分からないが、検討はつく。そこで待ち受けてみよう。どんな罵倒が来るか、今から心が痛いが仕方のない事だ。それでも……チカの魂と会話できればそれでいい。


…………………


 チカの家にやってきた4人は、早速電子キーにハッキングして侵入する。今回は他人の家なので、完全に不法侵入である。ささっと調査してサッと出ようという事で、まずはリビングの調査だ。


「おーこれは、また……」


 リビングはテーブルや椅子、ソファなどが壁際に追いやられていて、巨大な錬成陣が描かれていた。

 それを見て、錬金術に詳しいレイアが反応する。


「これは、人体錬成の陣だね」


「まーた、人体錬成かよ」


 うんざりした顔で言うダルク。夏の一件で人体錬成と関わったのもあり、シエルの件は碌でもない奴の仕業だと思った。そんなシエルではあるが。リアが気にかける。


「大丈夫?」


「うん、なんかひどく安心する。ここが私の家って感じ」


 案外大丈夫そうだが、発言は少し気になるところ。私の家という事は、やはりチカの記憶もあると言う事だろうか? 少し考察しながらリアは「大丈夫そうなら良かった」と口にする。


 一方、調査しているレイア達。レイアは両腕に魔力を巡らせると、徐に錬成陣に手をついた。瞬間、バチバチと雷のような閃光と音を立てて錬成陣が光る。それから数秒で光は収まり、ふむと思う。


「この錬成陣、真新しいね。あんまり使われてないみたい」


「こんなにしっかり描かれているのに?」


「錬成陣はしっかりしているけど、応用が出来てないからね。これで人体錬成しても、腕くらいしか出来ないと思うよ。それに錬成陣を触れば何回くらい使われたか検討はつくしね」


「流石だなぁ」


「えへへ……」


 照れ笑いを浮かべるレイアは可愛かった。それはそれとして、シエルは怖がった様子でその光景を見ている。


「怖い?」


「普通、家に人体錬成の陣なんてないと思う……」


「そりゃそうだ」


 なんか感覚が狂っていたなと思うリア。別になんか怪しい事している人の家なら人体錬成陣くらいあるだろと思っていたが、普通はないよなと改める。


 ダルクは一通りリビングを見回して、うんと頷いた。


「人体錬成陣しかねぇな!! 次行くぞ次ぃ!!」


「寧ろ人体錬成陣がある事に驚こようよ……」


「普通に恐怖だよね。チカさんの家族は、何をしていたんだろ?」


「それも含めて、答えは2階にある筈だぜ。シエルも覚悟はいいか?」


「大丈夫、覚悟は完了している。……リア達には勇気を貰ってるから。それに、チカの事、家族の事をもっと知りたい。やっぱり、ここが私のオリジンだと思うの」


「チカの記憶の原点って事か。シエルの事情もここから分かるかもな」


 そうして、4人はぞろぞろと2階に移動した。

クトゥルフ関連は10年前の知識でほぼ忘れている(肝心なところ)

オリジナルの天使は戦闘シーン書ければいいなと思って……あと黒幕はだいたいあの神ですね

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― 新着の感想 ―
[一言] どの神だ(゜ω゜)? (クトゥルフよく知らない)
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