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死者蘇生②


 そうして電車に乗りやってきたウィンターセフト中学。

 校舎は真新しく、最近改装された事が分かりセキュリティは厳重だ。そんな校舎には部活動をしているのか、生徒の運動する声や楽しそうな声が響いている。


「さて、じゃあどうやって忍び込もうか……」


「いや、忍び込もうかじゃないですよ。普通に訪ねたらいいじゃないですか」


「いやぁ、失踪事件の捜査してますって言っても入れてもらえないでしょ」


「探偵の名刺は?」


「使えるかなぁ、ジル公ってそこまで有名な探偵じゃないしな」


 3人でコソコソと話し合っているが、校門の前で話してれば目立つ。だからか、ウィンターセフト中学の生徒らしき女子生徒が訝しげな目線をこちらに向けていた。そこでダルクは2人の背中を押しながらその生徒の前に歩み出た。突然、背中を押された2人と、急に距離を詰められた女子生徒が戸惑う中、ダルクはレイアの肩に腕を回すと。


「いやぁ!! この娘、来年から中学生でさ!! ちょっと学校内を見学させてもらえないかな?」


「はぁ!? この僕が小学生は無理がもごご」


 レイアの口を塞ぎ黙らせる。女子生徒は「あら、そうなんですのね」と納得する。レイアは納得された事にショックを受けいじけるが無視して、女子生徒に先生へ取り次いでもらうようお願いした。


「頼むー、先生に話をついでくれ!!」


「分かりましたわ、少々お待ちを」


 女子生徒が駆けて行くのを見送ったら、レイアが口を開いた。


「どう考えても無理があるよ!!」


「でも通っちゃったね!!」


「うがぁあぁあ!!」


 サムズアップするダルクに殴りかかるレイア。それを側から見守るリア。姦しく、先生が来るのを待つのだった。


……………………


 背が低いというのはあまり利点には思われないかもしれないが、意外と役に立つ場面は多いのかもしれない。まぁ、なにを言いたいのかと言えば、すんなり話が通ったという事だ。


「普通に入れてもらえた……」


「レイア、どんまい」


 校内を案内され、見て周る。レイアの為にいろんな所を説明して周ってくれた。そして特に変なところはなく、平和な校内である。だが、通りかかった掲示板に行方不明の生徒についてという記事が貼り付けてあるのが見えた。女教師がその掲示板を見て、数度瞬きをする。気にしている証拠だ。


 ここが話の切り出しどころかと考えたダルクは、案内してくれている女教師に尋ねる。


「……失踪事件が起きたんですか?」


 知っているが態と知らないふりをして。少しだけ卑怯かもしれないが、そうする事で探りを入れる。女教師は悲しそうに顔を歪ませると口を開いた。


「あぁ、その事件ね。3人も行方不明になっちゃって。私達も夕方から捜索に参加しているけど、中々……足跡が見つからないの」


「なるほどー、時に噂とか聞いたんですけど」


 ダルクは常套句を使う。噂なんて知らない、ただ相手が口を滑らせてくれる事を狙っての問いだった。こう言う事で、この学校内の噂が分かる筈。そして、その問いは成功する。


「誰かから聞いたの? そう……実は犯人は2年前に亡くなった生徒の亡霊だって皆が噂していて困ってるのよね」


「……2年前に亡くなった?」


「交通事故でね」


 目線を伏せて口にするところを見るに、もしかしたらこの女教師は生徒の担任だったのかもしれない。そうとなれば……つけ込もう。そう考えたダルクは、女教師を引き止める。ここが切り札(笑)『名刺』を使う時だと考えた。


「なにかしら?」


「実は私達こういう者でして」


 名刺を差し出す。ついでにリアとレイア(今回だけの特別製)を差し出した。探偵事務所の表記を見た女教師は目を瞬かせて驚く。


「あら、こんなに若い探偵さんが……?」


「お話、聞かせてもらえませんかね?」


 女教師はあらあらと言いながら考え込む仕草をする。目に映る感情は、意外な事に良好の色を見せていた。ダルクは怪しまれていない事に安堵する。


「……失踪した生徒が見つかるなら、そして生徒達の安全の為なら。いえ、まずは校長に話を……」


「先生」


 しーっと唇に人差し指を当て黙っててくださいと暗にお願いする。女教師は少し考えた後、静かに「分かったわ」と言って空き教室に案内してくれた。

 どうやら、生徒の安全を優先して考えてくれたらしい。学校側が探偵を雇ってまで捜索する事はしない。故に、向こうから来てくれた縁を利用しようとするのは当然の流れだ。それから、まぁ主にレイアに対して少し情が沸いてくれたのだろう。小さな子が必死になって調べてくれているという事実は、少なからず心に響く。故に、少し信用してくれたようである。……まだ小学生だと思ってくれている事実に吹き出しそうになるダルクであった。


 空き教室に入り、空いた椅子に座ると「それじゃあ聞きたい事を聞いてちょうだい、探偵さん」と話の探りを受ける。リア達は顔を見合わし、取り敢えず気になった『亡霊』について問いかける事にした。


「亡霊って呼ばれてた生徒について聞いても?」


「えぇ……生徒の名前はチカさん。静かで寡黙な深窓の令嬢って感じの子で。その代わりあまり他の人を受けつけないところがあったけど、勉強もできていい娘だったの」


「そんな子が、なぜ亡霊なんて呼ばれて?」


「失踪事件が最初に起きた時から、彼女の幽霊を見たって言う生徒が多いのよ。主にウィンターセフト中学周辺に住む子供達からね。先生は見た事なんてないんだけど、あまりにも報告が多くて。それから続け様に2人も行方不明になっちゃったから、亡くなった彼女が連れ去ったんだって話になってしまったの」


「幽霊ですか……」


 ダルクが身震いした。幽霊が実際に存在する事を知っているし、魂の存在を信じているからこそ、割と本気でビビっていた。その一方でヴァルディアとの一件以来リアも幽霊はいると考えているタイプなので、真剣に耳を傾ける。


「貴重な情報をありがとうございます。それで、出来ればチカさんの家の場所を訪ねる事は出来ますか?」


「うーん、先生にも守秘義務があるからね。いくら探偵さんでも難しいわ」


 3人は「ですよねー」と声を揃える。簡単に分かれば話は早いのだが、そうもいかないようだ。だが、これで捜査のための線が一つ繋がった。


 ダルクは携帯端末を取り出すと、マリアに『チカって娘、知り合いだったりしない?』と送った。マリアは中学2年生である。知っている可能性はある。それから、失踪した生徒についての詳細な情報を聞いたり、生徒たちから聞いた他の噂などを聞いたりした。


 そうこうしている間に30分ほど喋っていたようで、軽く喉が乾いた。


「今日はありがとうございました」


「いえ、役に立てなくてごめんなさいね」


「いいえ、かなり貴重な情報をいただけたので大丈夫ですよ」


 それから、軽い挨拶を交わして先生と別れる。学校の出口に向かう傍ら、リアは気になった事を問いかけた。


「幽霊とか出てきたけど大丈夫です?」


「大丈夫じゃない。ガクガクしてる」


「幽霊なんていないよ、僕は信じない」


「レイアも大丈夫そうじゃないな」


………………


 それから学校を出て、適当に歩いてみる。


 ぶらぶらとして時間を潰していると、マリアから返信が来た。チカとは仲が良かったらしく、家の場所も知っているとの事。あまり深く掘り下げるのは不謹慎になるので聞かず、ダルクはひとまず家の場所の情報を送ってもらうと、マップで確認する。ウィンターセフトから近いが郊外にある、お金持ちが多い地域の一軒家が表示された。


 それを確認するとポケットに携帯端末を仕舞い、ダルクは2人に問いかけた。


「じゃあ、これからどうする?」


「下手に動き回ってもって感じはするよね」


「その亡霊って言われてた娘の家に行くのは?」


「行きたくないかなー!!」


 レイアが拒否して、ダルクはぶんぶんと首を横に振る。リアは苦笑いを浮かべて了承した。そうなると、さてどこに向かおうかと考えて、リアは時計を確認すると。


「それじゃあ、少し早いけどお昼でも食べに行きますか?」


「いいね、そうしよう」


「僕も賛成」


 皆が了承したので、会話をしながら目的地に向かう。場所はマリアがシエルとよく遊んでいたという複合施設だ。詳細な情報を開示するならば、近くに森があり、そこにもお金持ち特有の別荘地帯となっている。




 そんな複合施設に向かって歩いていた時である。近道を行こうと入った路地裏。そこで、向かい側から歩いてくる人影があった。




 薄暗い路地裏に似合わない、綺麗な長い銀髪だが雨に打たれたかのようにビッショリに濡れている。顔は歳若く綺麗であるが、顔色は悪く目の下に隈が出来ていて、着ている服が病院服のようなものなのも相まり、どこかから逃げてきた病人のようにも思える。足は裸足で、アスファルトを踏むのが痛そうだ。


「……シエルさん!?」


 そんな彼女……シエル・レッドフィールはリア達を見ると怯えた表情で後ずさる。ダルクは癖で目線を追う。すると、リアやレイアのポケットや自身の首元を見ている事に気がついた。そこにあるのは……恐らく十字架である。


「リアっち、レイア、十字架出して」


「え、なんで今?」


「いいから」


 ダルクは2人が取り出した十字架を素早く回収して、自身のネックレスもろとも《鍵箱》で仕舞う。すると、シエルから怯えた表情が消えると同時に彼女は倒れ込んだ。


 駆け寄り、声をかけるリアとレイアを見ながらダルクは考える。彼女は何故こんなところにいるのか。何故、病院服を着ているのか。そして何故、十字架に嫌悪感を抱いたのか。


 探るべき事が多いなぁとため息を吐きつつ、ダルクもシエルに近づく。リアに抱き抱えられて上体を起こした彼女はポツリとか細い声で一言。


「お腹、空いた……」


 微妙な間が流れる。失踪した人を発見したはいいが、お腹空いたと言われてどうすればいいのか分からない2人の代わりに、ダルクが場を仕切る。


「《鍵箱》!!」


 ギュルンと音が鳴り、ドスンとジルの車が姿を現した。また、パクってきたのである。そして、車を出して行う事はひとつ。


「取り敢えず、着替えよっか?」


 シエルに確認を取ると、彼女は小さく頷いた。そうして、車の中にシエルを担ぎ込むと、ダルクの予備で持ち歩いていた青いワンピースに着替えさせる。パンツやブラ、スポーツシューズもダルクのものとピッタリだったので、応急処置として着用させる。両手足に力が入らないのかだらんとしていてそれなりに時間を要したが、無事着替えさせる事が出来た。ついでにバスタオルで髪を拭いてやり纏めてポニーテールにした。彼女の色素が薄いのも相まってか髪型も服もよく似合っている。


 ……しかし、髪を拭っている時にも感じたが、薬品の匂いが濃い。もしかしなくても、どこかの病院か施設から逃げてきたのか? ここから1番近い病院は郊外に一軒あるなと推理しながらも……。気になり目を瞑る彼女に向けて、徐に十字架を取り出すと近づけてみる。すると、ブワッと鳥肌が立った。明らかに反応しているが、これがどういう意味を持つのかは不明だ。ダルクは訝しげにしながらも十字架を仕舞うと、シエルに向けて栄養ゼリーやドリンク、カロリーバーを差し出した。


「ほれ、今から飯食いに行くけど、その様子じゃ緊急を要するみたいだからな。食え、力が出るぞー?」


「あり、がと」


「あまり急いで食べなくて大丈夫だからね?」


「喉に詰まると危ないからゆっくり……」


 シエルはどうにか腕を動かして、カロリーバーを掴みモソモソと食べる。車の中にカロリーバーの粉が溢れまくるが、まぁジルの車なので大丈夫だ。


 しばらくして、ダルクの差し出した食べ物全てを食べ切るとシエルは「ふぅ」と息を吐いていっぷくする。顔色も幾分か良くなった。だから、そろそろいいだろうかと考えたダルクが話を切り出した。


「君がシエル・レッドフィールで間違いないよな?」


「……?」


 間を置いて首を傾げるシエル。それから彼女は静かな口調でこう言った。


「私は、えっと……チカって名前だと思う。あぅ、その……名前しか思い出せないの」


「え?」


 3人は顔を見合わせる。『チカ』、さっき聞いた亡霊の少女の名前と同じである。しかし、どこからどう見てもこの娘はシエルだ。顔写真と瓜二つなのだ。姉妹がいるなんて話は聞いてないし、シエルはひとりっ子の筈。ならば何故、この娘は自らを『チカ』と名乗るのか?


「記憶喪失なのか?」


「うん、そうなるのかな?」


 記憶喪失の失踪者、シエル。彼女に何があったのか調べなくてはならない。まずは、どこかから逃げてきたのかを目下、調べなくてはならないが……追っ手がいるのかも分からない。保護するにしても、情報が足りなさ過ぎる。そう考えた彼女は運転席に移動すると。


「取り敢えず、飯食いに行こうぜ」


「いや、ナチュラルに運転席に座りましたけど、免許は?」


「……」


 ダルクはニコッと笑顔を浮かべた。リアが拳をコキリと鳴らし、レイアがグッと肩を回した。


「レイア、先輩を引き摺り降ろすぞ《身体強化》」


「了解。犯罪者にはなりたくないからね《召喚:西洋甲冑》」


「ちょ、冗談。持ってるって!!」


 魔法を使ってでも降ろそうとする2人に危機感を覚えたダルクは急いで免許を取り出すと2人に渡した。2人は免許を見て……それでも偽物じゃないかと疑う。案外、信用のないダルクは心の中で少し泣いた。そんな彼女達を見ていたシエルは愉快な人達だとクスりと笑みを浮かべる。

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[一言] 信用の無さに定評の有るダルクさん
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