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胎動10


 いつも通りフルフェイスヘルメットを着けたサーシャとマギアはジルからの頼みと魔導機動隊の指示により、急いで現場まで向かっていた。数分前、学生で体験入隊中のリアとダルクから応援要請が来たという事と、事情の多くは説明されていないが、英雄のひとりと戦闘体制に入ったと聞いた。


 そしてGPSが示す場所に辿り着くと、そこには竜巻でも通ったのかと言いたくなる程の惨状が広がっていた。木々は右に左に薙ぎ倒され、地面は至る所にクレーターができている。大規模な戦闘跡である。


「おーい、ダルクー? どこにおるんやー?」


「ダルクー!! リアー!! 返事をしろー!!」


 2人は歩きながら呼びかける。すると遠くからダルクの声が聞こえてくる。「ここ!! ここにいるぜー!!」と間伸びした声だ。


 声の元まで急いで向かうと、血だらけでグッタリとしているダルクの姿があった。


 「何があったん?」とマギアが聞くと、ダルクは掻い摘んで要約した内容を話した。アラドゥが非人道的な実験をしていた事や倒して捕縛した事を。2人は英雄を捕縛したという事実に驚きながらも確かに身柄を見つけて感心した。


 学生が英雄を倒した。これは大きなニュースになるだろう。


 ……マギアはダルクからデータの入ったメモリーカードを受け取ると、彼女に回復の水薬を飲ませる。一方でサーシャの方はリアの介抱をする為に近寄ったのだが。


「……んっ!!」


「参ったな」


 謎の少女が、リアを守るように抱きつき威嚇してくる。リアは気を失っているのか目を瞑り沈黙している。そんな少女の頭を無理やり撫でた。


「うがぁー!!」


「おー、よしよし」


 強く威嚇してくる様はまるで猫のようだと思い苦笑を漏らすサーシャ。彼女は少女をウリウリと撫でながらリアの口に回復の水薬を流し込む。すると、意識の戻ったリアが目を開き、少女を優しく撫でる。少女はリアの手に擦り寄ると黙った。リアによく懐いているようだ、分かりやすい。


「えっと……?」


「あぁ、サーシャです」


「サーシャさん、介抱ありがとうございます」


「いえ、仕事ですから。それでは、病院まで搬送しますので」


「この娘も一緒でいいですかね?」


「構わないと思いますよ?」


「そっか、良かった」


 遠くから、救急車のサイレンの音が近づいてくる。これで、今回の事件は終わりかと思うと安心感が湧き上がってきた。


……………………


 事情聴取はダルクが変わってくれたらしく……というのも、見てきたものや戦闘の様子などは全てカメラに納めてあるので、マギアに渡したデータが全てを物語っていた。ので、安心して病院に運ばれ、同じ病室にぶち込まれた。アラドゥは後に施設の調査から黒と判断され無事に逮捕された。尚、ミ=ゴは施設には1匹もおらず、何故かカメラにも写っていなかったので証明するのは難しいとのこと。つまり、すべての責任はアラドゥに押し付けられたと言う事だ。彼らがどこで何をしているのかは気になるところではあるが、今考えたところでどうにもならない。


 そんな訳で、この事は一旦置いて。


「いやー、結構無茶しましたね」


「全くだぜ、私ら学生なのにな」


 ギプスで固定された左手を振りながら、ダルクは苦笑を漏らす。次にはいててと腕を押さえ込んで苦笑いを浮かべた。最先端医療を使えば骨のヒビくらいなら速攻で治せるらしいが、変人気質なのかどうせならと自然治癒にする事にしたらしい。そんなダルクはベッドに身体を預けて口を開く。


「でも、私らがアラドゥを倒して、ついでに復活したヴァルディアも倒した。これは魔導機動隊に加入してたら特進級の成果だろうぜ」


「まぁ、加入してたらの話ですけどね。俺らはあくまでも『仮』ですし」


「ほんと苦労が見合わねぇよなぁ。私は別に有名になりたくはねぇし」


「俺はばっちこいですけどね!! 有名になるのが夢ですし!!」


「うるせぇ!!」


 急に声を張り上げたリアに半笑いでそう返すとダルクは穏やかな笑みを浮かべる。それから次にリアの腕の中で眠る少女に目を向けた。


「そんでリアっち、その娘どうするんだ?」


「後でグレイダーツ校長や師匠と相談して、出来れば家で預かるつもりですけど?」


「そうかい、まぁそれが一番、その娘の為になるかもなぁ。んでんで? 名前はもう決めたのか?」


「……ふふっ、決めてます。この娘は『クロエ』って名付けようと思います」


「クロエちゃん……ま、いいんじゃねぇの?」


 ダルクが言うと同時に、器の少女……クロエは半分起きていたようで、半眼で「クロエ?」と呟く。リアは彼女の頭を撫でながら「そうだぞー、君はクロエだ」と言った。すると、クロエは名前を気に入ったのか「クロエ……うん!! ありがとうリア!!」とリアに抱きつき頭を胸に埋める。


 そんなほわほわとした平和な空間に、ドンッと足を鳴らして立ち入る者がいた。


「お姉様!? 誰ですかその幼女は!?」


 お見舞いに来た妹のルナである。一連の会話をこっそり聞いていた彼女は、思わず大声で問いかけながら詰め寄った。

 リアはこっそり聞いていたなと察しながらも、ルナにクロエを紹介する。


「仕事先で保護したんだ。少し特殊な出立の娘だけど、いい娘だよ」


「そうじゃありません!! 保護したのは良い事だと思います。しかし……まさか妹になさるのですか!?」


「妹に……? そうなるのかな?」


 ダルクに会話をパスするリア。ダルクは鬱陶しそうにしながら、投げやりに「そうなるな」と肯定しておいた。途端に頬を膨らませるルナ。


「ずるいですー!! 私もお姉様に甘えたいですー!! 最近出番もありませんでしたし!! このままでは私のキャラが薄れます!!」


 言わんとする事は分かるので、リアは苦笑い半分、微笑ましさ半分の表情を浮かべると、両腕を広げて受け入れる体勢をとる。


「ほら、ぎゅーってしてやるから飛び込んでこい」


「お姉様!!」


 目をキラキラさせたルナは迷いなど一切なく飛び込んだ。リアはそんなルナの頭を優しく撫でながら抱きしめる。


 久しぶりの姉妹のやりとりに……クロエが反応する。分かりやすくリアとルナをチラチラと交互に見ると、ルナの頭に手を伸ばした。


「およ?」


「あら?」


「……ん」


 そして、ルナの頭をクロエが撫でる。ルナも可愛い娘に頭を撫でられるのは満更でもないらしく、大人しく撫でられている。確執のようなものが解れた気がした。

 一方で彼女らのやりとりを見ていたダルクは、クロエなりの処世術かなと思い、まぁここで手を入れるのも違うだろうと傍観に徹するのだった。

 それから、暫くして。


「それにしても、本当に心配しましたよお姉様」


 たくさん撫でられたルナは満足し、今度はリアの頭を抱きしめ撫でながらそう言った。事実、リアが入院したと聞いて焦り急いで駆けつけ、こっそりやりとりを聞いて今に至る。ルナの心がよく伝わり、リアは口を開く。


「確かに無茶したなぁ。ごめんよ」


 リアは素直に謝罪した。そこへ、すかさずクロエが口を挟む。


「でも、リアは私を助けてくれた。私の為に……ありがとうリア。お父さんを止めてくれて」


 クロエはお礼を口にし、無表情な頬を引っ張り頑張って笑顔を作ってから、リアの胸に顔を埋めた。


「アラドゥは捕まえないといけない奴だったからな。クロエには申し訳ないが」


「そんな事ない。私じゃ、何をしても無駄だったから。リアやダルクがいてくれたから私がいる」


「そうだな。そこのダルクお姉ちゃんにも感謝しとけよ〜」


 またウリウリーと頭を撫でていると、ルナが疑問符を浮かべ質問する。


「アラドゥ? あの、英雄のアラドゥですか?」


 隠すことでもないので素直に「そう」と肯定すると、ルナは途端に口元に手を当て驚愕の表情を作る。


「え? えぇぇえ!? そんな人と戦ったんですか!?」


 ルナはリアが傷ついた理由が思っていたよりも外れていて。戦ったという相手も相まってかなり驚いた。だから、リアは一応なぜ戦ったのかをかいつまんで説明した。ダルクも途中、合いの手を入れて。ルナは黙って説明を聞き終えると、リアの身体をクロエの上から抱きしめた。そうして暫く抱きしめ続けると離れ、それから。


「もう、本当に無茶ばかりして。でも、お姉様らしいですね」


 リアの頬を優しくなでながらルナは言う。リアは少しだけ気恥ずかしいなり、目を逸らした。だから、ルナは少しだけムッとする。


「目を逸らさないでくださいお姉様」


「……いや、近い近い」


「近くて何か問題が?」


「無いけど……うぅ、今日は強気だなルナ」


「……当たり前です。心配させた分、お姉様に甘えさせてもらいます」


 そう言うと、ルナはそっとリアの額にキスをした。リアは強く伝わる親愛に、心からの安堵を浮かべる。一方、勢いでキスをしたルナは顔を真っ赤にするのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一話前の19だけサブタイトルの数字が⑲になってない [一言] サイコロを振ったかは分からないけどやっぱり引き取るのか~ ヴァルディアとの因縁の呪い?も多少関係していたり?
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