胎動9
リアは残った魔力を練り上げると《境界線の狩籠手》を右手・右腕に装備し殴りかかる。一方でダルクは辛うじて骨折を免れた右手に実弾銃を繰り出すと駆けた。
ヴァルディアは殴りかかるリアの腕ごと黒いスライムで絡め取ろうとする。そこへダルクの弾丸が数発飛来し削りとり隙を生み出し、リアが一撃入れようとした。しかし、寸でのところでがしゃ髑髏の骨が遮り、衝撃を吸収。反撃とばかりに骨のブレードを放ち、リアを後退させる。
しかしここで完全に退けば好機は無い。そう思ったリアは魔力で推進力をかけると加速して再び殴りつけた。だが……ここで思い返す。本当に倒してしまっていいのだろうかと。あの器の少女の意識はまだ残っていると信じている。だから、殴り倒す訳には。
そんな迷いから、リアの拳はヴァルディアでなくがしゃ髑髏を貫いた。ぐしゃりと骨が砕ける音とスライムの水音が響き、そこへダルクがすかさず音速加速装置付きの槍を投擲する。
しかし、槍はヴァルディアが展開したスライムの障壁により絡め取られて、少女を貫く事なく停止する。そんな展開になって、ダルクはリアの胸ぐらを掴み上げると怒鳴った。
「しっかりしろリアっち!! 迷ってたら死ぬぞ!?」
「でも……」
「でも、だって、そんな台詞は後から幾らでも言える!! けど死んでしまったらそれまでだ!! 戦う気が起きないなら逃げろ、応援を呼んできてくれ」
そう言うとダルクは手を離し、《縮地》で飛んだ。確かにダルクの言う通りだとリアは思った。戦う覚悟の無い者がいても邪魔なだけだ。しかし、残り少ない魔力を駆使して戦う彼女を置いて戦線を離脱するなんて事は出来ない。
と、その時。ダルクの周りを骨のブレードが回転して逃げ場を無くし、上から髑髏が噛みつこうと口を開いているのが見える。ヴァルディアは髑髏の上に腰掛け見下すような目をしていた。
「先輩!!」
思いや思考を一旦振り切り《縮地》で飛ぶ。魔力切れの近い先輩にとって、あの攻撃はピンチだと悟った。音速の槍があったとしても、がしゃ髑髏は貫けないだろう。だから、突っ込んで骨のブレードのひとつを掴み砕くと。
「よいっしょ!!」
「ま、まてリアっち!!」
ダルクを片腕で遠くに投げ、戦線を離脱させる。
「一旦引いてください!!
そして握り拳を作り、髑髏の口に向けて一撃を放つ。《皐月華戦・改》は、凄まじい魔力の破壊力を伴って髑髏を貫くも、座っていたヴァルディアはスッと飛び避けた為に当たらずに貫通する。更に、がしゃ髑髏の繋がっていたスライムが結合し再生を始めたところでリアにも焦りが出始めだ。再び増えた骨のブレードが、痛ぶるようにリアの身を斬る。
「ぐぁあ!!」
「リア!! っぐ!?」
ダルクの肩あたりを縫うように骨の槍が一本突き刺さりダウンする。一方でリアは至る所を斬られ血塗れになりながら片膝をついた。
リアの元に歩み寄ったヴァルディアが、顎を右手で支えながら顔を上げさせる。
「く、くぅ……」
「あぁ、いい。その表情」
恍惚した表情で言いながら、リアの四肢をスライムで拘束すると空中に吊り上げた。苦悶の表情を浮かべるリアの頬を撫で、「ふふふっ」と笑う。その時、リアが小さくうめき……キッとヴァルディアを睨むと口を開いた。
「その子の身体を……返せ」
「ッ!! 貴方は本当に良い魂をしているわね!!」
ゾクゾクとした顔で下唇を舐めると、リアの魂を縛る為の『呪い』をかけるために手を翳した。
そんな絶望の間際に……リアの《境界線の狩籠手》の魔力が溶けて再び固まると、銀色の光を爆ぜさせリアの眼前にソレは現れた。
「なに!?」
「これは……!!」
銀色の刀身に、銀色の持ち手、何の変哲もない銀色の柄という点以外は素朴な剣に見える一振り。だが、リアはそれを知っていた。瞬間、リアの身体に残った魔力が《身体強化》をかける。そして一気に右腕のスライムを振り解くと……《境界線の銀剣》のグリップを掴み、周囲を斬り飛ばす。
「あぁ……ずっと居てくれたのか。俺の銀剣……」
拘束から解放されたリアは、ヴァルディアに向かって剣を構えた。この剣ならば……彼女に宿るヴァルディアの人格を切る事が出来る。
「……参る」
「……っち!!」
ヴァルディアが舌打ちをして、がしゃ髑髏をけしかけてくる。リアは流れるような動作でがしゃ髑髏を切り刻む。リアが刻み、ヴァルディアがスライムを放ち、がしゃ髑髏が再生を繰り返す事、数分。ヴァルディア自身の魔力は器の少女に依存している為に少なく、勝利の兆しはリアに傾きつつあった。
「はぁはぁ……」
「厄介ね、その剣。なら、私も全力で!!」
ヴァルディアがスライムを放ち、リアが《境界線の銀剣》で斬り飛ばし迫る。ここで、ようやく剣が届くと思った所で。
「……えっ」
がくりと膝が崩れ落ちる。魔力切れによるダウンがリアを襲った。まさかの事態にヴァルディアの口元が弧を描く。
……………
リアが膝をついた時、ダルクは本気で「やばいな」と他人事のように思った。というのも人生において本当のピンチに陥る事など早々ない訳で。自分はどうやら達観した思考になるんだと思った。
そしてアドレナリンが出ているのか傷口に痛みを感じなかった。だから思考は冷静に。どうすればいいかと次を考える。
「使うか、最後の必殺技」
ダルクは残った魔力を練り上げると魔法陣を展開する。思考の中で魔法の構造を練り上げ、胸にその炎を点火した。
瞬間、ガリガリと体力が削られるような感覚と共に、急速に魔力が回復していく。
そう、これは《魂の渇望》を元にダルクが考案した魔法である。体力を引き換えに魔力を得る最終手段、これを使った以上、自分は1分も動ければ良い方である。体力を使い尽くせば、ダウンして当分動けなくなってしまう。だから、胸に炎が点火した時点で地を蹴っていた。《縮地》の勢いを殺さず、ヴァルディアを蹴り飛ばすとリアの元に辿り着く。
時に突然だが、他人に魔力を譲渡する場合、最も効率の良い方法は何か、を知っている者は以外と少ない。
しかし当然ながらダルクはその方法を知っている。遠くでヴァルディアがゆっくりと立ち上がりながら此方を睨むと中で……ダルクはリアの唇に唇を重ねてディープキスをした。
「初キスだったらごめんな!! ん……んちゅ……」
「……!!」
口からリアの身体に魔力が流れ込み、全身に力が漲っていく。リアは彼女の口づけを受け入れ、魔力の譲渡を潤滑にする。
そんな光景を見せつけられたヴァルディアは、がしゃ髑髏に指示を下す。再生しかけの髑髏は無理に身体を動かすと、2人を飲み込むように喰らいついた。
だが、弾けた。
がしゃ髑髏を内から斬り刻み爆風がスライムごと骨を吹き飛ばす。
そこには銀色の狩装束を纏うリアがいた。長めのマントに所々装甲のついたロングコートのような装束だ。その上から《境界線の狩籠手》を適正サイズにした銀色の籠手を装備し、全てを斬り裂く銀色の剣《境界線の銀剣》を構える。
「《境界線の狩武装》」
新たな魔法を目覚めさしたリアは、がしゃ髑髏を一閃する。斬撃と破壊力を伴った一撃は周囲の木々も巻き込みながらがしゃ髑髏をボロボロになるまで吹っ飛ばした。
そして、歯軋りするヴァルディアの前に音速で移動すると。
「今度こそ、返してもらうぜ」
「リアぁぁあ!!」
叫ぶヴァルディアを袈裟斬りに、銀色の光が駆け抜ける。《境界線の銀剣》は、彼女の『人格』だけを斬り飛ばした。
一拍の悲鳴が響くと、少女の身体がグッタリとしながらリアの方へ倒れてくる。リアは彼女を優しく受け止めると頭を撫でた。
「よく頑張ったな」
「……うん」
器の少女は甘えるように頭を擦り付ける。そこでリアの体力は途切れ、少女を抱えたまま倒れ込んだ。
暇潰しにTS異世界もの書いているんですが、見たいTSと百合のネタがあったら教えて欲しいです




