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胎動8


 リアが再び手刀で突貫し、アラドゥの隙を探る。一撃一撃の重いぶつかり合いが続く中、ダルクは魔力銃と大口径マグナム銃を入れ替えた。これは自分でカスタマイズしてあり1発の弾丸が大きく、威力も絶大な特別性の銃だ。故に弾丸は6発しかなく、貴重ではあるが出し惜しみしている場合ではない。


 更にもう一丁の魔力銃を腰に差し込むと、音速の投擲槍をもう一本掴み行動を起こす。


 引き留めてくれていたリアに無線機で合図を送る。リアはダルクの合図を聞き、少々無理矢理にアラドゥを押し込むと後退。すかさずダルクが前に出ると大刀の刀身に向けてマグナム銃の引鉄を引き撃つ。


 「ダァンッ!!」と火薬の爆ける音に、凄まじい反動で銃口が上を向きダルクの左手の骨にヒビが入る。しかしタイミング良く同時に振り抜かれる寸前だったアラドゥの大刀と弾丸がぶつかり合い「ギィイン!!」と音を立て、大刀の威力を殺し弾いた。


「《解呪》、そんでもって《雷鳴讃歌(ヒュルトール)》」


 『魔装』を解析し終えたダルクは《解呪》を放ちつつ明確に生まれた隙を見て、右手に持つ槍に雷を纏うと再び音速の一撃を腹に向けて放った。骨が軋み音を鳴らす程の見事な投擲に加速装置が展開、更に雷の魔法で追加加速され、嵐のような風を纏い飛来する槍。それを受け止める為の大刀は弾かれて動かせず、流石のアラドゥは苦い顔をしながら再展開した『魔装』で受け止めた。


 数メートルは吹っ飛び、土埃が舞う。次には「ドォン!!」と大きな破砕音が聞こえて、どうやら一撃は入れられたようだと2人は息を吐きバクバクと高鳴る心臓を鎮ませる。


「いつっ……はぁー、やったか?」


「あれで倒れてくれるとは思えないんですけど」


「私もそう思う」


 骨にヒビを入れるくらいの渾身の不意打ちだったが、決定打かと言われると首を傾げる。あれで倒れてくれるような相手なら英雄になんてなれないだろうと思うからだ。それでも、この戦いで分かりやすい程に強い1発をお見舞いできた。


 しかし、緊張と警戒を解く事は出来ない。


 土埃が晴れていき、ようやく視界が明瞭になっていくと……悔しい事にアラドゥの姿が鮮明に映った。

 槍を左手で掴み、槍の回転と雷の魔法で裂けた皮膚から血を流しながらも健在の様子である。大地を穿つ程の渾身の一撃を受け止める所か、掴んで見せた彼にダルクは内心で(嘘だろ)と戦慄した。


 勝つ為に思い描いていたビジョンがひとつ潰された。その事に歯噛みし、全力で次の一手を考える。ペーネロペイアを起動するか? いや、ただの良い的にしかならないだろう。ならマグナム銃でもう一回…‥ダメだ、右手の骨を犠牲にしてまでは放てない、利き手は生命線だ。しかしこれよりも威力の低い銃弾では決め手が。なら魔法で……リアの拳より強い魔法なんてあるか? 考えれば考えるほど選択肢が消えていく。


 そうしている間に、血を払いアラドゥが踏み込んだのが見えた。来る!! しかし距離はそれなりにあり、幾ら《縮地》でもほんの少し猶予が……そう思いダルクが盾を取り出して身構えた時。靴の底が目の前に迫っていた。


「んなっ!? グハッ!!」


「先輩!?」


 蹴り抜かれて吹き飛ばされたダルクは、背後にある木に全身を打ちつけて止まる。「かはぁ」と肺の空気が全て漏れ、肋骨にヒビが入った。盾は半分に砕け、たったひと蹴りがどれ程の威力をもっていたのかを物語っている。


 しかし、それでも右手右腕の骨は健在。肉も切れておらず、痛みで気絶しそうだがまだ動ける。半ば《雷魔法》で無理矢理に身体を動かして、肺に空気を取り入れて思考を回す。


 リアとアラドゥは再び、殴り蹴り斬りと応酬を繰り返している。時々リアはダルクより伝えられた構造から《魔装》を《解呪》して不意打ちを入れているが、不意打ちになっているかと言われればノーだ、効いている様子がない。更には若干の疲れが出始めているのか、リアの動きが鈍くなってきている気がする。《解呪》には集中力を要する為に頭の回転が落ちてきていた。


 時間も体力もないか……と思いながら、ダルクは『奥の手』のひとつに手をつける事に決めた。

 それは、ある意味で覚悟の現れである。ここでアラドゥを倒さなくてはならないという強迫じみた覚悟、明日も安心して眠る為には仕方ないという諦め、その全てを飲み込んでダルクは一本の注射器を取り出した。中には紅い液体が入っており、妖しい美しさがある。

 そんな注射器の針を腕に刺すと、中身を身体に流し込んだ。瞬間、ドクンと心臓が跳ねる。


「耐えれるかな、私の身体は……ドラゴンの血に」


 呟いた時には視界が少し揺らぎ……瞳孔が縦に長くなった。効果は充分だなと喜び、骨の痛みが引いてきた所で動く。


 右腕をぐるんと回し円を描くと、巨大な魔法陣が背中に姿を現した。時計盤のような幾何学模様と歯車模様をカチカチと鳴らす魔法陣は、徐々に組み上がっていくように形を成していく。『必殺技』の下準備である。


 その間に、ダルクはマグナム銃を一旦ホルスターに仕舞うと槍二本を取り出して構える。全身に雷を流し筋肉の反応速度を上げ、ついでに《雷鳴讃歌》で槍に雷を纏うとリアとアラドゥの間に割り込む。


 「バチンッ!!」とアラドゥのソウル・ブランドを槍二本で受け止めたダルクは、さっきのお返しとばかりに蹴りを放つ。雷を纏った蹴りは『魔装』を貫通し、アラドゥに少しの痺れを与えた。そんなダルクの背を乗り越えて顔面を殴ろうと飛び上がるリアを、アラドゥは痺れる腕で大刀を手繰ると受け止めてみせる。全く効いている様子はないが、ダルクにとってはそれでよかった。意識を大刀に集中させるのが目的だからだ。


 アラドゥがダルクの背に浮かぶ魔法陣に訝しげな視線を向ける。しかし、追撃と突き出された雷の槍を対処するのに追われて視線が逸れた。前後から挟撃するように攻撃してくる、まるで双子かと言いたくなる程の高連携を見せつけてくる彼女達に少しだけ舌を巻きつつも、アラドゥはソウル・ブランド一本で対処しきってみせた。


 その時、背後の魔法陣から『ゴォン』と鐘の音が鳴り……ダルクの魔力がスッと無くなった。否、一瞬でほぼ全ての魔力を消費したのだ。


 瞬間、不思議な事が起きた。


 音も無く、1発の弾丸が飛来しており『剣戟纏い』も『魔装』も超えてアラドゥの手を貫き、ソウル・ブランドを遠くまで吹っ飛ばしていた。


 何が起こったのか分からないといった様子で驚愕に目を見開き視線を横に滑らせたアラドゥが見たのは、いつの間にか槍を手放し大口径マグナム銃を両手で構えているダルクの姿。口元には笑みが浮かんでおり「今だ」と言ったのが見えた。


 次にアラドゥは頬に強い衝撃を感じ目線を戻すと、地面に向けて殴り抜く寸前のリアの姿が見える。避ける間すら無く《境界線の狩籠手》の『破壊力』は、『魔装』の甲冑を砕き骨にまで轟いた。


 そして。


「うぉおりゃァァァァア!!」


「ぐぉおおおお!!」


 リアの拳のラッシュが打ち込まれる。流石の『魔装』や『剣戟纏い』でも、逃げ場の無い拳のラッシュまでは止め切れず、リアの拳は打ち込まれる度に確実なダメージになった。アラドゥは脱出を試みるも《結界魔法》で足元は拘束され《縮地》は使えない……いや、そもそも倒れた体制では身を捩る事しかできない。


 そして、リアが最後の一撃とばかりに右腕を振り抜けば……地面にクレーターが出来上がり、アラドゥの意識を刈り取った。


………………


 デイルやギルグリアのおかげで対人経験は多かったが、こうして本当の意味での対人は初めてだった。尚、ヴァルディアとの対決は別とする。あれは未来から来た自分の功績が大きいからだ。


 だからこそ思う、よく戦えたなと。先輩がいてくれたのもあるが精神的に未熟な自分が、相手の殺意に惑わされず戦えたのは成長と言えるだろう。


 そうして、痛む身体に鞭を打ち、アラドゥを拘束具でぐるぐるにしていく先輩に「お疲れ様です」と声をかけた。そこで気がつく、ダルクの綺麗な瞳の瞳孔が縦に長くなっている事に。見覚えがありまくる、何故なら自分と同じ形をしているからだ。


「あれ、なんで!?」


「あー、さっきドラゴンの血を取り込んだからだなー。うむぅ……短時間で治ると思ってたんだけど、戻らないところをみるに、ずっとこのままなのかなぁ」


 ダルクの顔をガシッと掴み瞳を覗き込みながらリアは口を開いた。


「……大丈夫なんですか?」


「ま、まぁ、大丈夫でしょ」


「本当に?」


「う、うぅ……なんかあったらちゃんと言うから」


 ちょ、近い近いと顔を真っ赤にしながら言うダルクだったが、現状本当に大丈夫かと言われれば大丈夫ではない。ドラゴンの血と言っても、取り込んだとはいえ少量であり、リアのように回復力はほぼ無く……骨にヒビが入っているので絶対安静である。それに、どんな副作用が起きるかは不明なのである。そこんところは少々怖いと思った。


 だから、アラドゥを完璧に拘束し終えた彼女は手足を放り出して寝転がった。もう何もしたくなかった。完全に疲れたのだ。《鍵箱》の維持が出来てるのが奇跡レベルで魔力も消耗してしまったし、気絶しないのはドラゴンの血のおかげだろう。


 そんな彼女の横にリアも三角座りで寄り添うと口を開いた。


「勝ちましたね、先輩のおかげです」


「リアっちもね」


 パッと軽くハイタッチして互いを労う。勝てた事は奇跡でなく自分達で引き寄せたものだと実感しつつ……リアはその功労者であるダルクに問いかけた。


「それで、どうやってアラドゥのソウル・ブランドを吹っ飛ばしたんですか? 俺もアラドゥも反応出来なかったんですけど」


 リアの集中力は、あの時限界まで引き出されていた。全神経が過敏になり、第六感すら働いていた。故に、余程の不意打ちが来ない限りはダルクの弾丸にも反応出来た筈なのだ。それなのに、自分もアラドゥも反応出来なかったのが不思議で、どんな手品を使ったのかとワクワクしながら返事を待つ。


 そんな彼女に微笑みを浮かべながら、ダルクはとんでもない事を言った。


「あぁ、私以外の『時』を止めた」


「……は?」


「全魔力使っても1秒しか止められなかったけど……」


「いや、えぇぇえええ!?」


 まさかの発言に、リアは大声で驚いた。《時間魔法》の頂点《時間停止》をこの先輩は実行したというのだ。驚くなと言う方が無理であった。

 そんな馬鹿なと理性が訴えかけるが、ならばどうやってアラドゥの手を撃ち抜いたのか説明しろと言われれば、時間を止めたと言われた方が納得はできる。


「本当に……本当なんですか?」


「お、おう。驚いてんな」


「驚きますよ!! 時間止めですよ? 魔法使いの頂点とまで言われている魔法ですよ!?」


 驚きは興奮に変わり、リアは彼女に詰め寄った。さっきの比じゃない程に顔を近づける。がっしりとダルクの顔を両手で固定して、睫毛が触れ合いそうな距離で瞳を覗き込む。「え? え? まって近いから……」とダルクが困惑する中、ゆっくりとリアは言った。


「俺にもじっくりと教えてください……」


 割と欲望に忠実な彼女に疲れと照れから、ダルクは目を逸らして言った。恥ずかしかったのもあるが。


「じ、じゃあ今週末にでも」


「絶対ですよ?」


 そう言うと顔を離してニンマリと笑うリアに、力に貪欲だなぁと思うダルクであった。


……………………


 リアが《治癒》や《錬金術》を用いてダルクを癒している間にふと、アラドゥを倒した次にしなくてはならない事はと考えた2人は、あの幼い『器』の少女の事を思い出した。


「あの娘、どこ行ったんだろ?」


「さぁ? 施設にいるんじゃないっすか? 先輩の応急処置が終わったら俺が探してきましょうか」


「あぁ、じゃあ頼む……ん?」


 と、言いかけた所で異変が起きる。

 地面が小刻みに揺れて、施設の上空に青白く美しい、五芒星と月の模様を描いた魔法陣が浮かび上がった。魔法陣は暫く回転しながら煌めくと、徐々に収縮していった。


 すると次の瞬間「あはははは」と少女の軽快な笑い声が辺りに響き。「ドンッ」「ドンッ」と破砕音も鳴り……施設の壁を突き破ってソイツは姿を現した。


 夕陽をバックに立つ彼女は、あの『器』の少女だった。しかし……顔には加虐的で獰猛な笑みを浮かべていて、あの少女の面影などどこにも残っておらず、黒いオーラを纏っている。そこでダルクとリアは悟った。


 (ははーん? さては時間稼ぎの為に誘き出されたな私達?)と。


 そして、それはつまり器の少女に対する何かしらの実験が成功した事を意味する訳で。行動や表情を見るに、あの器の少女ではない人格が宿っているのは初手で分かった。


 そんな少女は一定の距離まで近づく。リアは咄嗟に《結界壁》を張り、彼女が来るのを拒んだ。すると、少女は「くひひ」と笑うと口を開く。


「久しぶりね、リア、ダルク。あぁ、綺麗な『魂』……。輝きは全然曇っていないわ、素敵」


「お前……ヴァルディアなのか?」


 まるで娘を見る母親のような、しかし不気味な微笑みを浮かべる彼女。リアの中で警戒心が高まる中、彼女は口を開いた。


「本体は死んでいるから、正確には残留思念のひとつでしかないのだけれど……えぇ、ヴァルディアよ?」


 少女が結界に手を翳せば、黒い粘液状のスライムが張り付き魔力ごと溶かしてしまった。それから……地面から黒いスライムが泉のように広がるとコポコポと音を立てて幾つもの骨が浮き上がってきた。次第に骨は組み上がっていき……あの文化祭で見たがしゃ髑髏が現れる。


「先輩、動けますか?」


「動くしかねぇだろ……」


 2人は揃って飛び退き距離を空けると、お互いに戦闘準備に入る。その時、少女の顔が一瞬だけ冷静なものに変わり『声』を確かに聞いた。「助けて」と。

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