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胎動5


「さっきのコード・レッドの話なんですけど」


「どうしたリアっち、気になるの?」


「はい、本当にあるんでしょうか。超能力なんて」


「さぁなぁ、でも『魔法』があるんだから無いなんて断言できないよな。それがどんな邪法で作られた能力だとしても。それに……」


「ミ=ゴ、彼らの存在ですね」


「あぁ、あいつらなら、やれるかもしれない。そう思わせる程の技術力がある事が分かったからな。

 にしても……超能力ねぇ。本当にあるなら欲しいな」


「え……欲しいんですか?」


「欲しいかと聞かれると、ちょっと欲しいかな。魔法とは違う『力』ってのに興味が惹かれるし。《念力魔法》とか、魔力無しで使えるようになったらもっと強くなれそうだしな。まぁ危なそうだし手は出さないと思うけど」


「そうですよ、危ないですから手を出すのやめてくださいね? それに、これ以上強くなってどうするんですか」


「強くなるのは良いことじゃねぇか、リアっちもそう、私と同じだろ?」


「むぅ、まぁ否定はしませんけど」


「そ、れ、に。リアっちにはドラゴンの血が流れてる。これ以上ない研究材料だし、捕まらないように気をつけろよー? あんなことやこんなことされるかもしれないぜ?」


「分かってますよ」


 とか言いつつも、あんなことやこんなことと言われると色々と想像してしまったリアはほんのりと頬を赤く染め……ダルクがすかさず肘で脇腹をつつきながら口を開いた。


「顔赤いとこ見るに、エッチなこと想像してんな? この、むっつりスケベ!!」


「考えてません!!」


 自分の身体を好き勝手に弄られる事を想像するとゾッとはするが、それだけだ。決してエッチな事は考えていない。


 そんな会話をしつつ考え込みながら2人は進む。事はもしかしたらアラドゥを止めるだけでは終わらないかもしれないと。裏に潜むミ=ゴという存在が不安を加速させる。彼らがもし超能力を研究しているのなら、一体何に使うつもりなのだろうか。


 ……ヴァルディアのように、魔物を操るのが目的か? それとも……ヴァルディアに『そういった力』を与えたかもしれない、いるか分からない存在へアクセスする為だろうか?

 コード・レッド。もしかしたら、今後この研究と関わり合う事になるのかもしれない。ヴァルディアが関わる以上、自身の呪いは発動する。だから余計にそう思うのだ。これは、自分が解決すべきだと。


 しかし……考え出したらキリがなく、架空の敵は増えていく。だから、リアは一旦思考をやめて事の解決に向かう事にした。

 当面の目的はアラドゥの捕縛だ。後のことは彼の件を解決してからでいい。


 そうして次の部屋にたどり着いた2人は、カードキーを準備して突入に備えた。


「またミ=ゴがいるかもしれねぇから、さっきと同じ戦法でいくぞ」


「俺が突撃っすね、まぁ倒せるだけ倒しますよっと」


 拳と脚に結界を張り、強度を高めてから《身体強化》の魔法をかけ、足に魔力を溜め《縮地》の準備をする。突っ込んでぶっ飛ばす準備万端なリアを見て、ダルクは大きく頷くと「3、2、1……」とカウントし、ゼロと言った瞬間にカードキーを通して扉を開けた。そして、飛び込むように突っ込んだリアだったが……目に映る景色を見て思わず動揺した。


「なんだここ」


「リアっち? わぁ……これは」


 戦闘が始まらない事に疑問を感じたダルクも入室し、その光景に驚愕しながら透明化を解いた。


 そこは、まるで魔物の展覧会のようであった。いくつも並んでいる、自分の身長の4倍はありそうな程に大きく、液体で満ちた培養槽には見た事のある魔物から全く知らない魔物まで数えるのが億劫になるほど並んでおり、そのどれもが微弱だが動いている。魔物として生きているということだ。そして隣には培養槽に入っている魔物のものであろう『脳』の入った小さな培養槽が無数のコード類に繋がれていた。


 そして天井には立体的な魔法陣が星々のように浮かび、常に動きながらキラキラと輝いていた。なんの魔法陣か? と問われれば恐らく……『回復』魔法。つまり、ここにいる魔物全てに『回復』をかけ続けているという事だ。そんな、圧倒される光景に足を止めたリアの背をトントンと押しながらダルクが囁くように言った。


「慎重に行くぞ」


 コクコクと頷き、ダルクを先頭に部屋を進む。と言っても、下手に動き回っても意味がない為、培養槽の下部に張り巡らされた多くのコード類を辿る事にした。恐らく、この施設の中枢コンピューターの類があるだろうとあたりをつけて。そうしてクリアリングしながら進む事、数分。


「あ、ミ=ゴだ」


 巨大なモニターとサーバーらしき機械の前でキーボードを器用に操るミ=ゴ一体を見つけ足を止めた。ダルクとリアは囁き声で「どうする?」と相談する。この施設を問答無用で破壊してしまっても構わないが……何の為の施設なのかは、調べたほうがいいかもしれないと考えたからだ。仮に、自由に操れる魔物を作っているなら……この施設だけ、という可能性は少ない。きっと他にも同じ施設を作っている筈だ。


 なので、とれる手段はひとつ。あのミ=ゴは討伐せずに引っ捕え色々と尋問する。


 リアは拳を構え、ダルクは《鍵箱》からら拘束具を複数取り出した。


「「《縮地》」」


 そして、互いに飛ぶとリアが胴体に鋭い一撃を入れたうえ、「オラァ!!」と掌底でかち上げ拳のラッシュを打ち込む。ボコボコに殴られて何も出来ないでいるミ=ゴをダルクが鉄製の拘束具で締め上げていった。


 空中から解放されて地面に降ろされたミ=ゴが、表情は読めないが苦しそうなうめき声を出しながら声を発する。


『ぐぅ、魔道機動隊か!?』


「おう、魔道機動隊だ。おい、この施設はなんだ? 答えないと……」


『こ、答えないと?』


 ダルクがとても優しい笑顔で微笑んだ後、「ここに来るまでに居たミ=ゴは、一体どうなったでしょうか?」と質問する。すると、言葉の意味を即座に理解したミ=ゴは羽根を震わせた。怯えている様子だ。脅しに怯えてくれるなら好都合だとダルクは尋問を始めた。


「さて、質問は尋問に変わってるぜ。もう一度聞くが、この施設は何だ?」


 しかし答えないミ=ゴに、リアがふと問いかける。


「もしかして、コード・レッドと関係あったりする?」


『どこでそれを!? いや、ここに来るまで全てを見てきたか……』


 驚きながら観念したように項垂れるミ=ゴがポツポツと言い出した。


『……この施設はコード・レッドに用いる魔物を作っている施設。そしてアラドゥの求めるヴァルディアの魂に耐えうる脳を研究していた施設だ』


「研究していた……って事は?」


『既に器は完成した。だから、この施設を破壊してもアラドゥを止める事は……』


 そこまで言った時、突然飛来した大刀がミ=ゴの身体を突き抜けた。油断していたとはいえ、即座に反応できなかった2人は機材に突き刺さるミ=ゴを見ながら振り返る。すると、想像通りの人物が立っていた。


「こそこそと……計画の邪魔はさせん」


 大刀を構えて立つアラドゥに、リアは身構えながら叫ぶ。


「来るかアラドゥ!!」


「いや、貴様ら……どうせなら研究材料にしてやろう。良い魔力と身体を持っているからな。特にリア・リスティリア、お前の身体と魂は興味深い」


「うぇ?」


 リアとダルクの顔が青ざめた。懸念していた事が現実になりそうだからだ。

 ……捕まったらヤバい。さっきも言ったが、ダルクもリアも研究材料としてはこの上なく良い素材なのだ。

 だから、ダルクは分かりやすく騒いだ。


「いやぁあ!! リアっち助けて!! 変態だよアイツ!! 私らの身体弄くり回すつもりなんだぁ!!」


 リアも自身の胸を抱き、一歩引きながら「ひぇ……きっしょ……一旦逃げますよ先輩!!」と作戦を提案する。そんな彼女達に、若干苛立ちながらアラドゥが口を開いた。


「喧しい小娘どもが。しかし今は相手をしている暇はないのでな。暫く大人しくしていろ……《深淵門》」


 瞬間、背後で凄まじい風圧を感じる2人であったが振り返れない。アラドゥを前に目を逸らすのは自殺行為だからだ。しかし……まずい、恐らく《門》系統の魔法だろうとあたりをつけ……何を召喚するのか分からないが挟み撃ちにするつもりか? と焦りが出始めた。

 瞬間、突然の事である。ひとつ大きな風圧を感じた次の瞬間、背後から腕や腰に黒い肉の触手が絡みついてきた。触手は全身を縛り上げるように絡むと、背後で開いているであろう《門》に向けて引きずり込む。……ぬめぬめとした感触と生暖かさが嫌悪感を誘う中、2人は抵抗するものの。


「ちょ、まっ!!」


「この、変なとこ触るな!!」


「クソ、卑怯だぞ!! ちくしょう、テメェの野望めちゃくちゃにしてやるからなァ!!」


「変態!! ヴァルディア大好きな変態!!」


「最後まで姦しいなお前ら」


 抗議や暴言も虚しく、また抵抗も無意味で。2人は騒がしいまま、背後の《門》に引き摺り込まれるのであった。


………………………


 服に侵入してくる触手を引きちぎりながら足掻いていると、不意に空へと放り投げられた。

 2人して落下しそうなところを、リアが《結界魔法》で足場を作り着地する。格好つけてスーパーヒーロー着地をし、地味に膝を痛めた。


「うぇえ、ぬめぬめして気持ち悪いぃ……」


「私もぬめぬめだぜ、最悪……んっ?」


「……え?」


「……これマジ?」


 そうして連れてこられた空間を見て、たまげる。


 空は青、晴天広がる雲ひとつ無い爽やかな光景と反転し、大地には地獄のような光景が広がっていた。


 赤茶けた広大な大地に集う、無数の『魑魅魍魎』。


 全てがおそらく魔物であろう姿と、数の多さに思わずゾッとする。数を数える余裕なんてない、ぱっと見でも万はいるであろう群れは、統率が取れているのか綺麗な隊列を成していた。中には見た事ない魔物もおり、種類だけでも数千は居るかもしれない。


 そんな場所に放り出された2人は互いを抱きしめ合いながら「「ひぇえ……」」と情けない声をあげた。


「いやいやいや、やばいって!! リアっち《門》開けれない!? 私は逃げたいぞ!!」


「試してはみたんですけど……」


 リアは《門》で空間を繋げようとするが、この空間は赤茶けた大地で完結しており、他の空間と繋がらない。つまり、ここがダルクの《鍵箱》の内部のような、人口の4次元空間だと理解した。そして、ついでにギルグリアを召喚できない事も分かる。空間が隔てられているから《契約》が発動出来ないのだ。ただ細い繋がりは感じる為、外とは少なからず繋がるところはありそうだが……全く、こういう時に使えないドラゴンである。その事をダルクに説明すると、彼女はそっとリアから離れて口を開いた。


「マジか……帰れないのか……。援軍呼ぶのも絶望的と」


「まだ、大地に立って改めて《門》で探ればワンチャン……」


「リアっち、あそこに突っ込みたいと思うの?」


「俺に自殺願望はないっす」


 この魔物の群れに突っ込むなど阿呆のする事だ。

 2人は胡座をかいて座り、顔を突き合わせて「どうしよう」と呟く。


「態々、アラドゥのやつがここにぶち込んだって事は……ここなら下手に動けないと思ったからだよな」


「間違いなくそうでしょうねぇ」


 ダルクの言っている事は的を得ていた。事実、アラドゥは2人が何も手出しできず大人しくなるしかない空間、つまりはここに幽閉するのは理にかなっている。誰だって万はいるであろう魔物の相手などしたくはないだろう。だからこそ、同時に疑問も浮かんだ。


「この魔物達、なんなんですかね?」


「さぁ? と、言いたいところだけど、先の情報を鑑みるにおそらく復活したヴァルディアへプレゼントでもするつもりなんじゃねぇかなって思う。だって、ここまで統率がとれてるって普通はあり得ないもん」


「ですね、蠱毒みたいに潰し合いになる筈なのに」


 魔物は同じ魔物同士で殺し合う時もある。互いに潰し合い喰らい合い、強くなろうとする種もいる。未だ未知の多い生態も謎の存在なのだ。それが、こうして人が指示したような行動をとる事などあり得ない。だから、これは恐らく……認めたくない事だがひとつの可能性があった。


「って事はつまり、ミ=ゴが魔物を操る術を見つけたってコト?」


「それが本当ならヤバいな、あれがまとめて攻めてきたら都市一つは滅ぶぞ。魔導機動隊で対処しきれるとは思えねぇ」


 ダルクが両腕で自身を抱きしめ、身震いする。リアも想像して、その地獄のような様相に血の気が引いた。

 では、そうならないようにするにはどうすればいいか? 答えはひとつしか思いつかなくて……深い深いため息を吐いた。


「はぁ……となればやっぱり」


「やるしかねぇよな、ここから出る為にも」


 2人は同時に立ち上がると、背を伸ばし準備運動を始めた。ダルクは準備運動をしながら頭の中で武器をセレクトしていき、リアは単純に真っ直ぐ行くつもりでいた。


 そう、2人はこの万を超える魔物を倒す事に決めたのだ。何時間かかるか分からない、だがほっとく訳にはいかない。この場を無視した場合を想像し、最悪を想定する。もし街に進攻したらと考えれば、戦うという選択肢しか残らないのだ。


 先に突っ込むのは阿呆と言ったが訂正しよう。しかし、別に変な正義感に駆られた訳ではない。妹や友人に親……2人とも、護りたいと思う存在がいるからこその行動だ。


 こうして、2人は準備運動を終えると最終確認に入った。


「リアっち、これティオ謹製の『体力回復ポーション』と『魔力回復ポーション』、それと耳にかけるタイプの無線通信端末だ。一応渡しとく。あとは撮影用ドローンを飛ばしてっと」


 ダルクは魔導機動隊に提出する用に、カメラのついた自動撮影ドローンを数機飛ばしながら、リアに水薬と小型無線機を手渡す。リアは有り難く受け取って、小型無線機を装着した。


「さて、私は空から撃つくらいしか役に立たないから……地上はリアっちに任せる形になるけど、いい?」


「良いも何も……突っ込んで直接ぶちのめすしか魔力を温存しながら戦う方法ありませんから……まぁ、めっちゃ行きたくないですけど。ぶっちゃけ俺、虫とか苦手なタイプなんだよなぁ」


「あぁ、分かる分かる。私も無理だもん。見ろよあのデカい蜘蛛みたいな魔物。あんなのと真正面からやりたくないね」


「うわ、本当にいるよ。ゴキブリ型とかいませんように……」


 遠くまで見渡しながら、リアとダルクは揃ってため息を吐いた。正直、なんでこんな事になったんだろうと思い……だけれど余裕のある不敵な笑みを浮かべながら。


「でも、逆に殲滅して出てきたら格好良いうえ、アラドゥに一泡吹かせられるかもしれねーしな」


「ですね。それに……これだけの魔物倒して、アラドゥまで逮捕できたら……もう英雄名乗っても許される感じしますよね」


「人魔大戦の一幕みてぇだもん。名乗って良いよ」


 リアが右腕に《境界線の狩籠手》を纏い、ダルクが天に指を刺しレーザー式の魔力銃と無数の爆弾を《鍵箱》から引き出した。ダルクはそのうちの一丁を無造作に取ると、適当に発射する。ついでに爆弾も投擲し起爆して数百体の魔物を吹っ飛ばした。ズドンとここまで空気の揺れる感覚が伝わり、熱風が頬を撫でる。


 すると、今までジッとしていた魔物が動き始める。統率は取れているが、間違いなく攻撃した自分達のみを狙っての動き方だ。

 そして飛べる魔物は空に……こちらに向かって飛んでくる。まるで蜂の巣を突いたかのようだと思いながら2人は深呼吸して。


 もうしのごの言っていられなくなった場面で、覚悟を決めた2人は揃って言った。


「「いくぞッ!!」」


 そうして後に魔導機動隊の上層部から高く評価され、新聞の一面を飾るようなニュースにもなる一戦が幕を上げた。


 ダルクは空を銃火器と共に《念力魔法》で飛びながら攻撃を始める。一体一体、正確な狙いをつけて魔物を撃ち落とし確実に数を減らしていく。時に隙が出来ると地上の魔物にデカい弾丸を撃ち込み十数体単位でぶちのめした。


 一方で、リアは空から襲撃する様に落下しながら拳を振るい《境界線の狩籠手》の『破壊力』で魔物を塵に変えて着地。それから、獰猛な笑みを浮かべつつ乱舞するように攻撃して、時に魔物を頭から掴み上げ投げつけると数体纏めてぶっ飛ばしたり拳で弾丸のように突っ込んだりを繰り返す。ドラゴンの血が戦いにより活性化して回復力が増え、両目に淡く青い輝きを灯った。


 自分達が力尽きるのが先か、魔物が滅びるのが先か。根比べの開始だ。

最近、うまく文章が書けないのだ

おそらくスランプなのだ。次回投稿は遅れるかもしれないのだ

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[気になる点] スランプじゃなくて夏バテかもしれない [一言] 念力使えるようになったら手の届かない醤油とかソースとかドレッシングが簡単にとれる( ˘ω˘ ) ついでにポテチで手が汚れない!(庶民的な…
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