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胎動4


 市街地を抜け、山の中に入った。周囲には人工物は無く、本当にこんな場所にいるのかと思い始めたのだが…‥唐突、ミ=ゴが現れた。リアは咄嗟の判断で《戦突長月》で蹴り飛ばすと、2人はサッと草むらに隠れる。


「奴らの拠点が近いって事ですかね」


「だな。コイツの死骸が見つかる前に潜入できると良いが」


 さっきとは打って変わり、コソコソと草むらに隠れながら移動する。ただ、痕跡追跡マシーンの光は目立つ。だから、戦闘は避けられなかった。しかし、ミ=ゴの一体からカードキーのような物が手に入ったので、結果はオーライである。


 そして、何度か静かにミ=ゴを葬り進み続けた時である。山に似つかわしくない、どこか機械的で近未来的な扉が姿を現した。


「明らかにここだよなぁ」


「どう見てもここですねぇ……」


 横に併設されているカードスキャナーのようなものに、さっき倒したミ=ゴから奪ったカードキーをスキャンささると「シュー」と音を立てて扉が開く。


 ダルクが魔力銃を構えながらそっと中を覗き込んだ。


 中はまるで病院のような清潔感溢れる白い壁と床が広がっており、等間隔に設置された照明の光が辺りを照らしていた。


「ひとまず、クリアだな。リアっちー、どうする?」


「勿論、突入っす!!」


「だよな、行くか!!」


 足音を殺し、ささっと中に入り込むと、背後で扉が閉まった。


…………………


『貴様ら、侵入しy グァア!!』


『グォオ!!』


「オラ!! いけ!!」


「残念だったなぁ、《皐月華戦》だよ!!」


 隠れてコソコソ潜入できると思っていたのだが……思いの外、ミ=ゴが多く苦戦した為に、作戦変更。堂々と突撃する事にした。

 しかし、アラドゥに見つかるのは遅らせたい。だからこうして倒しているのである。そして、そんなミ=ゴ達からまた、ラッキーな事にカードキーを何枚か奪い取れ、ホクホク気分で先を進む。すると、左右に鍵のかかった扉が姿を表した。いかにも何かあります、と言わんばかりの扉を、どちらにしようかなと選び。


「右から行くか」


 まずは、右の部屋から調査する事にした。適当に幾つかのカードキーをスキャンさせると、そのうちの一枚が当たりだったのか扉が開いた。扉の先はまるで研究室のような様相をしており、働いているのであろうミ=ゴが目視で5体いた。


 ダルクが《透明化》の魔法を使い、静かに先行した。一方でリアは《縮地》で1番近いミ=ゴに接敵すると、拳で頭を吹き飛ばす。その流れで更に踏み込むと、《紅転如月》で綺麗に蹴り飛ばした。そこでようやく他のミ=ゴが侵入者に気がつくも。静かにサイレンサーの付いた魔力銃の弾光が飛来し、残るミ=ゴ全ての頭を3発で撃ち砕いた。倒れたミ=ゴは遺言も無く溶けるように消えていく。元々静かだった室内に、本当の静寂が舞い降りた。


「クリアー」


「ナイス援護でした先輩」


「ふふっ、ま、私だからな」


 ドヤ声で言いながら《透明化》を解いたダルクがコンピューターのキーボードとマウスに手を伸ばし、操作を試みる。


「それじゃさっそく、家探しといきますかね」


「何か見つかるといいんですけど……」


「コンピューターに紙媒体があるんだ。何かしら重要な情報はあるだろ……」


 ダルクがコンピューターを探る中、リアは周りに散らかるように置かれた書類に手を伸ばし目を通す。そして、手に取った1枚は当たりのようだった。


「……脳に『魂』を宿す実験、研究者アラドゥ。なんだこれは」


 そこに書かれた異常な内容に胸がムカつくような気持ち悪さを感じながら、読み進めていく。


 人の脳だけでなく《錬金術》で作り上げた脳に人格を……つまり『魂』を宿すという実験はかなり繰り返させれているようで、試行回数には第173回実験結果と書かれていた。そしてその実験で、脳に誰かは分からないが人の魂と呼べるモノを宿す事に成功したと書かれている。後は、メモのように簡潔に『これからヴァルディアの器を作る実験に移行する』と書かれていた。


 魂の証明は、クロムが既に行なっており眉唾ものの話ではない。つまり、これが本当なら……考えただけでゾッとする内容だ。


 そう考えながら、次の紙に手を伸ばす。そこにはまた、別の実験内容が書かれている。


 人の脳と魔物の脳を使った実験……。魔物に人の意識、魂を宿らせ、操る実験。著者の欄には短くC2と書かれており恐らく倒したミ=ゴの誰かがこの実験を行っている事が分かった。それから、この実験の例があの人格の宿った魔物なのだと察する。


 そうして、アラドゥが多くの人を殺めている事実を知り、失望をするリアにダルクが声をかけた。


「ダメだな、ここは実験の記録しかねぇ。しかし、生きたまま脳を取り出す、または《錬金術》で作るってのは、中々にエグいな。しかも魂ってなんだよ……幽霊なんていないに決まってんだろ」


「……幽霊怖いんですね」


「こ、怖くねぇよ!! ただ、物理攻撃が効かないから嫌いなだけ!! もう、いいから次の部屋に行くぞ!!」


 そう言って立ち上がり歩いていく彼女の背を追い、隣の部屋に入った。そこは個人の個室のような様相で、資料の入っているであろう棚とノートPC、簡易ベッドが置かれていた。誰の部屋かはなんとなく察しがついた。

 ダルクは早速、ノートPCに触ると、《鍵箱》からハッキングに必要な器具を取り出し、パスワードを破る作業に移る。リアは暇を潰す為に棚を漁った。棚には実験記録が記されたファイルが多数あり、そのどれもが冒涜的で非常に気分が悪くなる内容ばかりだ。特に、生きた人間から脳だけを取り出すという実験は、決して許されることではない。そう考えていると、パスワードを破ったらしいダルクがリアの袖を引っ張った。


「リアっち、ちょいちょい」


「……? なんか見つかりました?」


 ダルクの隣から顔を覗くと、ホムンクルスを作る実験の内容とアラドゥらしき者の日記が記録されていた。


『ヴァルディアの魂を宿らせ、固定させる器として人型のホムンクルスが必要だ。脳に魂を宿らせるだけでは真に復活とは言えない。それに『肉体とは魂の器である』、クロムの言う説が本当ならば必ず必要になるはずだ。しかし、実験は難航している。それは、ホムンクルスの魔物化という問題だ。


 そこで、私は考え方を変える事にした。


 ミ=ゴの技術力を借り、魔物化した存在を分解し灰になる前に生体パーツを繋ぎ直す。繋がっているようで、それぞれ分離する事のできる生体パーツで構成するのだ。これにより、魔物化した脳無しのホムンクルスが完成する。あとは、ヴァルディアのスペックに耐えうる脳を入れるだけだ。これもミ=ゴに頼むと快くやってくれた。


 しかし、魔物という未だ未知の存在を相手にしているために中々に難航した。ミ=ゴは、魔物に人の脳を食わせ魂を宿らせる事に成功したようだが……私の求めるモノは、人型の魔物なのだ』


 それから、愚痴と共に実験の記録が流れたが、次に見た資料から雰囲気が変わった。


『実験38回目で奇跡が起きた。ようやく、灰にならないホムンクルスが完成した。身体は幼い少女のものだが、ヴァルディアの器としては充分だ。後は脳を入れると、問題なく起動した。


 ……残るはヴァルディアの魂の召喚だが、悩んでいたところ、ミ=ゴの一体から興味深い古代の文献と石板を受け取った。そこには死者と交信している様子が描かれており、その交信の為の呪文と魔法が刻まれている。古い魔法だが、読み解けば一個人の魂を特定し降臨させるのに大いに役立つだろう。問題は、その方法だ。通常の降霊術と同じように、人に降臨させなくてはならない。

 だから私は巨大な脳の錬成に入った。これでようやく道筋が見え始めた訳だ。死者の国から彼女を……』


 そこまで読んで、ダルクがポツリと呟いた。


「つまりどういうことだってばよ」


「……あのヴァルディアに似た少女が、ヴァルディア復活の為の器って事か」


「しかも灰にならないホムンクルス……つまり、人工の魔物を作ったって事だぜ? 思っていたよりもやべーな」


 と、そこまで2人してアラドゥはやべーと言い合っていた時である。ダルクはふと、PCの中に隠すように置かれたファイルが目についた。

 アンノウンと態々名前の書かれていないファイルには当然のように厳重なるロックがかけられていたのだが、彼女はUSB端末を差し込み事前に用意していたパスワードクラッシュを用いて数秒で解除、その中をクリックする。


「……コード・レッド?」


 中に入っていた数枚のファイルの1枚に唯一記された名前を読む。リアも興味を持ち隣から画面を覗き込んだ。そして、ダルクはその『コード・レッド』というファイルにアクセスした。すると、数枚のファイルと写真に動画データと研究資料、観察記録が展開されていく。


「これは……魔物の脳データ?」


「いや、それだけじゃない。人体実験のデータもある。しかもこれ……嘘だろ? 魔物の脳に宿る『魂』を人に移植して混ぜ合わせて『超能力』を得る実験……」


「魔物の魂……」


 2人は苦い顔をして見つめ合った。互いに言わんとする事は察せられたが言葉が出ない。これは、異常な実験だ。それをアラドゥも知ってるが止めようとしていないところを見るに黙認しているか関わっているのか、それは分からないが。ひとつだけ明確な目的が出来た。


「この施設は、いやアラドゥの持つ全ての施設を破壊しなくちゃならない。こんなの非人道的で、冒涜的だ」


「あぁ、人を冒涜しすぎている。あ、出るのちょい待ち、研究データを外部SSDにコピーしてるから」


「人が格好良く出ようとしているところを。もうー……」


「まぁまぁ、アラドゥを捕まえた時に証拠は必要だろ? よし、OKだ」


 データを全てコピーし終えたダルクは丁寧に《鍵箱》へ仕舞い込むと立ち上がる。


「んじゃ、まずこの施設を壊していくとしますかね」


「でも、絶対アラドゥ出てきますよねぇ」


「そりゃ、ヴァルディア復活を目論む英雄……いや、もうテロリストか。この施設は意外と大きそうだからな。手放すのは惜しいだろうから出てくるだろうが……逆に誘き寄せるのにピッタリじゃねぇか? 爆弾仕掛けようぜ爆弾!!」


「爆弾持ってきてるんですか?」


「うん!! 沢山あるよ!!」


 呆れるリアの前でダルクは満面の笑みを浮かべるのだった。それはそうとして、殺しを躊躇わない彼に勝てるだろうかと少し不安に思うリアだった。

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[一言] その爆弾、威力過剰だったりしない?
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