胎動3
異形5体の銃からは、弾丸と同じ速度の雷撃が放たれる。それを紙一重で避けながらリアは技を繰り出した。
《縮地》を使うまでもなく、普通に接敵して、魔力を溜めた拳を放つ。
「《皐月華戦・改》!!」
異形一体は数秒間持ち堪えるも、限界を迎えて呆気なく消し飛んだ。あまりの手応えのなさに拍子抜けするリアを他所に、消し飛んだ同類を見た他の異形は慌てたように声を発する。
『コイツら強いぞ!!』
『もっと電気銃を放て!!』
当たり前のように喋ったことに驚きつつも、次はダルクが冷静に対処した。電気銃と呼ばれた銃に、魔力弾を当て弾き飛ばすと顔面にゼロ距離で数弾、魔力弾を撃ち込み倒す。そのついでと言わんばかりに隣にいた異形の手足を魔力銃で吹っ飛ばすと、銃口を頭らしき楕円形の触手に当てながら口を開く。
「聞きたい事がある、お前らは……何だ? そして何を企んでいるんだ?」
リアも気になっていた事だ。だから《境界線の狩籠手》を展開すると、一体の電気銃をぶち壊し顔面を鷲掴みにして同じように聞いた。
「企みを話したら命だけは助けてやるぜ」
リアは正直どっちが悪役か分かんねーなコレっと思いつつも問いかける。すると、魔力銃を当てられ戸惑っていた一体が声を発した。
『……我々はミ=ゴ。地球外生命体だ』
数秒硬直したダルクが「はぁ? 宇宙人とでも言うのかよ!!」と当たり前の反応をする。リアもまさかの宇宙人発言に(いやいや、そんな馬鹿な)と思った。そんな彼女達に、信じてもらえない事を分かっているのか少しの補足だけしてミ=ゴは確認するように聞いてくる。
『我々は正確には菌糸類だが、それは今はいいだろう。話せば、仲間は助けてくれるんだな?』
「おう考えてやるよ」
命乞いだろうか、足をかがめて言うミ=ゴと呼称する生命体は電気銃を下ろすと、触腕を広げる。
『我々の目的はヴァルディアの復活!! そしてヴァルディアの『脳』の確保だ!!」
「……」
ダルクは魔力弾を1発胴体に撃ち込む。ミ=ゴは痛みからか呻き声をあげるが、お構いなしにダルクは口を開く。
「ヴァルディアの復活? 脳の確保……? そんな事して何になるんだ? それに、その目的とやらはアラドゥの奴も同じなのか?」
脳の確保という点に顔を顰めつつ、出来るだけ情報を引き出すダルク。そんな彼女にミ=ゴは答えた。
『奴とはヴァルディアの復活までは同じ目的で動いている。しかし復活を果たせば用要らず。始末するつもりだ』
「ふーん、仲間じゃねぇのか。それで? 仮にヴァルディアが復活したとして、彼女の脳みそ使って何やるつもりなんだ?」
『……観測だ。彼女の存在は実に特異であると我々は考えている。そして……彼女の起こした人魔大戦を再現する、我々でも扱えない魔物をどのように使役しているのかを調査するのだ』
「つまり……お前らはその観測とやらの為に、戦争を起こす気だって事か?」
『そうr』
言い終わる前に、ダルクは魔力弾を5発頭部に撃ち込んだ。声もなく、絶命する。しかし魔物とは違うのか、ミ=ゴは灰になる事はなく、まるで溶けるように消えていった。それを見た他のミ=ゴが非難の声を上げる。
『貴様ら!! 助けるという約束はどうした!?』
「考えるとは言った、助けるとは言ってない。リアっちやれ」
『や、やめろ』
色々思うところはあるが……少なくともコイツらを生かす理由は無くなった。ただ、知性ある存在を倒す事に思う所はあるものの、戦争を引き起こすつもりのテロリストレベルで厄介な存在相手に遠慮するのも違うだろうと考える。だから、リアは躊躇する事なく一体の頭部を握りつぶした。一撃で屠ってやったのはせめてもの慈悲である。そしてグシャりと嫌な音が響く中、残る一体は震えながら後退し始める。
『……我々を倒した所で、アラドゥの野望は止められないぞ』
声は震えており、可哀そうな程に身体がガタガタとしていた。だが、ダルクはジリジリと距離を詰めながら口を開く。
「おう、命乞いか?」
『……アラドゥは必ず、ヴァルディアを復活させる。そうなれば困るのはお前らだ。そうだ、だからこそ我々が奴を倒し、復活したヴァルディアを管理しなくてはならない!!』
「でも戦争を起こす気なんだろ?」
『それは……いや、まだ分からなっ、グワァ!?』
魔力銃から閃光が放たれ、ミ=ゴの電気銃ごと腕を吹き飛ばした。血のような赤紫色の液体が吹き出し、ミ=ゴはその場で蹲る。
『我々の《バイオ装甲》が全く役に立たないとはッ!! くっ……貴様らのような強い魔法使いは聞いたことがないぞ』
「バイオ装甲とやらが何かは知らねーが……そりゃ情報不足だな。少なくともここに居るリアっちはちょっと有名になり始めているぜ。それに私も1年前まで、あのグレイダーツ校の生徒会長だったし」
「有名だなんて、えへへ……」
照れるリアを他所に、追い詰められたミ=ゴは吐き捨てるように呟く。
『クソっ、聞いてないぞアラドゥ!! なぜ我々にコイツらの討伐を任せた!!』
逆ギレし始めたミ=ゴに、ダルクは投げやりな態度で言った。
「まぁ、アラドゥさんも私らの強さを測れていなかったってことだな。残念だったなぁミ=ゴさん?」
煽るようにそう言ったダルクは、無慈悲に魔力弾を数発撃ち込み、ミ=ゴの命を刈り取った。
……………………
「……さて、リアっち。とんでもない話になってきたな」
「ですね、まさかヴァルディアの復活を企む奴がいるなんて」
「それもそうだが……マジで宇宙人みたいな奴が協力してるのもヤバい」
「宇宙人……本当なんですかね」
「少なくとも魔物とは違うみてーだしな……信憑性はあるぜ」
ダルクは落ちている電気銃と呼ばれた銃を拾い上げると、空に向かって1発撃ってみる。空に花火のように煌めく雷光が飛んでいく。
「こんな銃見たことねぇ。しかもこれ、魔力全く使ってねぇんだぞ。科学のみで作られている。それはつまり、少なくとも……このミ=ゴって奴らには、私らの知らない技術力があるって事だ」
リアも先のやりとりを思い返して呟く。
「脳がどうたら言ってたのも嘘じゃない?」
「……本当に生きたまま脳みそを取り出す技術を持っているとしたら、ゾッとするな」
リアも想像してゾッとした。生きたまま脳だけ取り出せるというのは…‥あまりにも残酷すぎる。しかも、奴らの言葉から察するに、もう既にその技術は持っている事になる。つまり、被害者が居るという事だ。
ダルクは電気銃を投げ捨て、腕を組み続けた。
「けど、先決すべき事は分かった。ミ=ゴがどれだけいるか分からないが……少なくともアラドゥを止めれば事は収まるって訳だ」
事を簡単にすればそうなる。アラドゥを止めれば、少なくともミ=ゴの野望も止められる。
「それに、たぶんですけどアラドゥはミ=ゴの目的を分かった上で利用してそうですしね。実験の邪魔だって言ってましたし」
「まぁ、普通の魔法使いなら死者の復活なんて考えても実行なんてしねぇからな。無駄だって分かる筈だし。でもアラドゥはやっている。つまり……ヴァルディアを復活させる為に、考えたこともない魔術や魔法にミ=ゴの技術が使われていてもおかしくないって訳だ」
「……なにがなんでも、止めないと。もしヴァルディアが復活したら、今度は倒せるか分からない」
ぎゅっと拳を握りながらキリッとした顔で言うリア。そんな彼女に、自分は割と甘い考えをしているなぁとダルクは思った。ぶっちゃけ、どうとでもなるだろうと考えていた。なんせ、リア・リスティリアという少女にはヴァルディアと必ず因縁の付く呪いがかけられているからだ。つまり、今回のアラドゥとの邂逅もその呪い故のものだろうと思っている。そうでなければ……ここまで情報が出揃う事もなかっただろう。しかし、現状は行き詰まったのも事実。
何故なら、痕跡追跡マシーンがアラドゥの追跡を止めてしまったから。沈黙する痕跡追跡マシーンを持ち上げると、ダルクは「さて、じゃ、どうしようか?」と困った顔でリアに問いかけた。
すると、リアは待ってましたと言わんばかりにニヤリとすると、ポケットに手を突っ込んで言った。
「実はその装置の為に……コレ!!」
「これは……髪の毛?」
「そう、アラドゥの隣にいた少女の髪の毛。これなら痕跡を追跡するのにもってこいでしょ?」
ドヤ顔で可愛くウインクするリアにダルクはフッと笑う。そして肩に手を置きサムズアップした。
「でかしたぜリアっち!! んじゃま、とりあえず追うか!!」
「れっつごー!!」
痕跡追跡マシーンの試験管に髪の毛を入れセットすると、光の矢印が再び浮き上がった。それを見た2人はハイタッチすると、市街地を駆けるのだった。
のだが、途中で立ち止まりリアは言った。
「の、前に……魔導機動隊に報告した方がいいんじゃないっすか?」
事が事である。最早、学生がどうこうできる問題を超えている気もする。そう考えてのリアの提案に、ダルクも少し考えてから気だるそうに言った。
「確かに、一応指示を仰ぐかー」
今、こうして調査しているのは魔導機動隊へ特別入隊しているからである。忘れそうになっていたが。だから、面倒だけどジルへ定期連絡をすべきだと思い、ダルクは携帯端末を取り出した。
……………………………
携帯端末をスピーカーモードにして、ダルクがジルへ連絡する。そして、事の経緯を説明し終えた時であった。
『ミ=ゴなら俺も昔、相手にしたことあるぜ』
「マジで言ってる?」
『あぁ、あいつらは魔物とは違う。しっかりと知性も理性もある不思議な生き物だ』
それから、ジルからミ=ゴについての詳しい詳細を聞いた。曰く研究好きな奴で脳について詳しい事や、ジルの遭遇した事件で実際に脳の入った『管』を見た事があるとか。しかも、その件の事件において彼らが魔物を操る術を研究していた事を知り、更には魔物に人の脳を入れる実験をしていた事も知ったらしい。悍ましく、猟奇的で狂気的な事件の詳細を聞いて、彼らの言っている事は本当だったのだと思い再びゾッとしつつも、2人は世の中には知らない事もあるんだなぁと少し感心した。そして、ミ=ゴという生き物の存在を認める。彼らは魔物とは違う生き物であり、人と同じく知性ある存在なのだと。あと、これは、国の問題にもすべき事柄だ。ミ=ゴなんて生き物は……極論だけど殲滅した方が良いと思った。そんなリアを他所に話は進む。
『だから、奴らとやり合うのはおすすめしないぞ。魔導機動隊に任せて、今回は撤退した方が良い』
ジルの言うことは最もだ。しかし、リアにとっては引けない理由が出来てしまっている。
「ヴァルディアが関わる以上、俺がどうにかしないとって思うんです」
ヴァルディアとの因縁があるなら、自分が断ち切らなければならない。そんな覚悟の決まったリアにジルはため息を吐いた。
『引けないって事か。しかしなぁ』
そこでジルは言葉を切って、心配そうに言う。
『英雄、アラドゥが関わっているなら、生半可な実力じゃ手が出ないぞ。彼の実力は、さっき仕掛けた時に分かっただろう? デイルさんやグレイダーツさん達、他の英雄に任せるのも考えに入れた方が良いと思うが』
「まぁ、師匠がいれば確かに心強いですね」
言わんとする事が分からない訳では無いのだ。英雄、アラドゥを捕まえる。自分に出来るかと言われれば……分からないとしか言いようがない。しかし、だからといってここで引くのは、どこか心にしこりが残るのも事実。ので、リアはひとつ提案をした。
「なら今日一日だけ、調査をさせてください」
最大限の譲歩である。今日一日、満足いくまで調査したら後は任せるという事だ。これなら、自分も納得できる結果に落ち着くと思っての提案である。だが、一応監督官でもあるジルの心配は止まらない。
『むぅ……』
と、ここで割り込むようにダルクが口を開いた。
「まぁ、任せろよ。私もいるし引き際は弁えてるからさ」
ジル考える唸り声が数秒間聞こえた後、再びのため息と共に優しい声が聞こえてきた。
『……本当に危なくなったら引くんだぞ、2人とも。俺も俺なりに魔導機動隊への報告やらしとくから。
……はぁ、よし。後の事は俺に任せて、満足いくまで調査してこい!! それとダルク、リアさんに怪我させる訳にもいかねぇから、お前がしっかり引き際を判断するんだぞ?』
「おう、任されたぜ」
そう言って通信を切る。これで魔導機動隊への報告も済んだ。後は動くだけである。ダルクは痕跡追跡マシーンを持ち上げつつ口を開いた。
「ってな訳で急ぐぞリアっち。私らの手で、あのスカしたアラドゥを捕まえて、ニュースの一面を飾ってやろうぜ?」
ダルクの言葉に、リアは強気な笑みを浮かべると頷いた。
「いいっすね、それ。俄然、やる気が湧いてきました!!」
有名になる事に余念の無いリアは、今月最高のやる気を出すのであった。
それにアラドゥにどんな信念や想いがあるのかは分からない。だからこそ、知りたいと思った。彼の想いを。そして想いは調査をしていく上で分かるだろう。
それはさておいて、ヴァルディアの復活だけは必ず止めてみせる。決意新たに、リアとダルクは駆け出した。
もうすぐサンブレイクの発売日ですね(遅れる言い訳




