表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/226

以後語り7


 交流会まであと1週間と迫ってきた。もうすぐ忙しくなるし、生徒会の仕事も増えていくであろう……そんなある日のこと。


「……ふぅ、真面目に仕事してると全力で巫山戯たくなるからダメだな。今度、授業中に花火でも上げるか……」


 ブツブツと物騒な事を呟きながら、ダルクは部室へと赴いていた。今日の生徒会もつつがなく終わり、暇が出来たから顔を出そうと思ったのだ。


「うぃーっす、来たぞー?」


 部室の隠蔽システムを突破し、遊戯部の部室に訪れると、ひょっこり顔を出した……のだが。


「あれ、誰もいねぇ」


 部室には誰も居らず……けれど「ジジジ」と機械音を鳴らす謎の物体が鎮座している。勿論、興味をそそられたダルクは物体に近づいた。


 端的に言えば『剣』である。大きな謎の機械に突き刺すように立ち、無数のコードで繋がれているが……どこからどう見ても『剣』だ。ただ、無機質というよりは繋ぎ繋ぎで出来ており、所々光ってもいる箇所もある為、正確には機械で出来た剣とも言える。


「……なんだこれ、十中八九ライラの持ち物だろうけど……。なになに? 伝説の剣かな?」


 ふと呟き、なんの気無しに指で突く。すると凄まじい静電気が「バチンッ」と音を立てて走り、ダルクは「痛ってぇ!?」と叫んで飛び上がった。


 同時に、パキンと嫌な音が響いた。試験管が砕けたようなその音は、明らかに突き刺さる剣から鳴り響いたものだ。


 ダルクの額に汗が滲む。実に嫌な予感がしてきた。

 そして、ダルクの感じる嫌な予感は、基本的に当たるものであった。


 「ゴォン、ゴォン」と剣から重い音が鳴り始める。音は徐々に大きくなり始め、剣の周辺の空間が蜃気楼の、又は陽炎の如く歪む。ダルクは知っている。それが不完全な空間魔法による歪みと似ている、特に《鍵箱》の失敗と似たような状況だと。


 だから、弾けるように部室の外に飛び出した。


 そして次の瞬間には「ドガガガッ!!」とコンクリートを削る音が部室に轟き……部室の扉を壁ごと突き破るように、銀色の物体が飛び出した。


 例えるならば……機械の蛇だ。頭だけでも3メートルの高さがある蛇は、チリチリと音を立てながら、銀色の鱗を光らせる。頭や顎は銀色の外殻に覆われており、眼には赤い光が灯っていた。歯や牙には特殊な金属を使っているのだろうか? 角度によっては黒く鈍い色を放っており……噛まれたらおそらく死ぬだろうと思える程の鋭さを持っている。顎の噛む力などは想像したくない。


 そんな機械の怪物の眼がダルクを見据えた。ダルクは嫌な汗を増やしながら、後退り……。


「勘弁してくれよ……ッ!!」


 踵を返し、全力で逃げ出した。


 瞬間、機械の蛇は「シュゥゥウウ!!」と鳴くと、周りの壁や天井を抉りながらのたうつようにダルクを追いかける。凄まじい質量の暴力である。全長は何センチあるのか分からないが……少なくとも数十メートルはあると考えた方がいいだろう。なんでそんな物が部室に置いてあるんだ? そう思いつつ、ダルクは焦りにより怒る間もなく、走る。


「追ってきてるよ!?」


 振り向き際に閃光弾を投げる、無意味。

 ロケランをぶっ放す、廊下の天井が崩れ、壁が爆風で抉れる中でも蛇は無傷。異常な硬さだ。


「やべやべやべやべやべッ!!」


 立ち込める土埃の中、赤い眼の光りが煌めき、自身に向かってのたうち迫る。センサーの類で自身を追っているのだと分かった。

 そうしてダルクはなす術無く、廊下の曲がり角にたどり着いた、その時。


 最近、少し伸びた黒髪をヘアピンで留めるなんて小さなお洒落をし始めた頼れる後輩……リアが片手をあげて「あっ、先輩」と手を振った。


「救世主はいたッ!!」


「……? 何の話を? それより、さっきから凄い音が鳴ってい……」


 「ますが」とリアが口にするよりも早く、機械の蛇が頭を出した。リアの思考が一瞬停止する。次いで目を見開き、ポカンと口を開きつつも……思考が再起動した。


「どう↑いう状況!?」


 上擦った声で驚くリアに、ダルクは素早く抱きつくと涙目で叫ぶ。


「リアっち、《結界魔法》!!」


「もう張ってるわ!!」


 機械蛇の頭が結界の壁にぶち当たり、ガガッ!! と削れる音が響く。軽くtはありそうな体当たりに、リアの結界が揺らぐも、破れる事はなかった。安心と信頼のリア製結界が久しぶりに役に立った瞬間である。


「なに!? なにがどうなってんの!? 説明し……の前に離れろ暑苦しい!!」


「ぐぇっ、そんな強く押し返さんでも……美少女の抱擁なのに……」


 ダルクは冗談を言いながら離れる。少し心に余裕が出来たようで、事の成り行きを振り返ると……。すぐさま携帯端末を取り出し、スピーカー状態にしてからライラに電話をかける。彼女はワンコールで出た。まるで電話がかかってくるのが分かっていたようだ。そして開口一番に言った。


『私がトイレに行ってる間にやってくれたなダルク』


「今どこ!? っていうか何アレ!?」


『あー……今はトイレからすぐの廊下だが、見つからないように隠れている。そしてアレだが、機械蛇だ』


「見りゃ分かるわ!! で、何故に暴走してんだよ!!」


『あの蛇を召喚する剣は……私が研究している『機械による《鍵箱》の再現』の完成形でな。暴走しているのはお前が触れたから防犯システムが作動したんだよ』


「私のせいか!? そんなもん学校に置いとくなよ!!」


『仕方ないだろう、寮で作るわけにはいかなかったんだから』


「というか……また、どうしてあんなの作ったの?」


 ダルクのふとした疑問に、ライラは電話の向こうでニヒルに笑うと『私も決闘大会に参加したいからな。武器を作ってたんだよ。暴走しちゃって今やべー事になってるけど』と冷静に言った。そんな彼女にリアは問いかける。


「それで、校舎が崩壊する前に止めなくちゃですが、どうやったら止まります……?」


『部室にある剣を台座に強く差し込むんだ。そうしたらセーフティーがかかる』


「つまり、この状況で部室まで行かなくちゃいけないという事ですか……」


 ため息を吐きながら機械蛇に向きなったリアは「まぁ、やれるだけやってみます」と協力を表明。ダルクはというと、自分のせいになりそうなので「じゃ、取り敢えずスピーカーモードのままにしとくから電話に出とけよ!!」と言って携帯端末をポケットにしまった。


 機械蛇は絶えず、頭を結界にぶつけて暴れている。あの中に生身で入れば、質量によってミンチになる事は必須……。ならば。


「《結界魔法》、180枚くらい!!」


 リアは結界を拘束具のように機械蛇の周りに展開すると、動きを封じる。ミシミシと嫌な音を立ててはいるものの、暫くの間ならば完全に拘束できるようだと胸を撫で下ろした。のも束の間。


「え゛っ!? なんか小さい蛇出てきた!?」


 突如、機械蛇の後方から何百と列になって、直径2メートル程の小さな機械蛇が押し寄せてくる。これにより、せっかく《結界魔法》で作った部室までの通路を埋め尽くされてしまった。


「ちょっ、なんですかアレ!?」


『見た通り、小型の機械蛇だ。千体まで召喚される』


「千体!?」


『大丈夫だ、倒すと自動的に逆転送されるようになっている。つまり、倒せば消えるぞ。がんばれ!! 特殊な合金使ってるからめちゃくちゃ硬いがな!!』


「丸投げ!!」


『あっ、因みにデカい方は自爆システムが組み込んであるから攻撃しない方がいいぞ』


「マジかよ!?」


 流石のリアも叫んだ。

 そして、それを聞いたダルクは、胸元の鍵をグッと握り……両手にロケットランチャーを召喚。それから口を大きく開くと、覚悟の決まった目で言った。


「すぅ……はぁ……突撃ィィイ!!」


「先輩!? あぁ、もう!! 《境界線の狩籠手》!! っと《宿地》!!」


 自暴自棄になり突っ込んでいったダルクを追うようにリアも駆け出した。

 小さな機械の蛇は、ロケラン2、3発でどうにか停止させられるようで、ダルクは惜しみなくぶっ放す。一方でリアは一体一体、丁寧に《境界線の狩籠手》で倒して進む。そうしてダルクが60発ほど撃ち終えた頃だろうか。弾が無くなり、手榴弾を投げ始めた彼女は暗い目で言った。


「間に合うかこれ?」


 彼女に言われてリアは結界に目を向ける。少しだけ亀裂が出来ていた。機械蛇の力は相当に強いらしい。一方で、壁や天井は崩落寸前。次に暴れられたら完全に崩れるのは目に見えている。というか、ダルクが爆発物を使う度に若干崩れていた。


「かと言ってデカい方倒すのはダメだし。被害を最小限に抑えるには仕方ない、か」


 リアはダルクにちょいちょいと耳寄せをして、思いついた作戦を伝える。ダルクの目に光が灯った。いける、2人で目配せし頷く。


……………………


 ぶっ飛ばして、次の小型蛇が召喚される前に通る。それが作戦である。

 最早、作戦というよりはただ、押し通るだけの策でこの難所を突破する事にした。


「いくぜ……《皐月華戦・改》ッ!!」


 リアが拳を振るうと、ドッ!! と破壊の嵐が吹き荒れ、機械蛇達を巻き込みながら突き抜ける。この一瞬で機械蛇数百を瞬時に破壊……同時に、壁や天井のコンクリートまで粉々になったが、コラテラルダメージというものだ。問題を解決する為の仕方のない犠牲である。


 そして、吹きぬけになった通路を2人して《宿地》で駆けると、部室前にたどり着いた。部室の入り口はデカい方の機械蛇が占領しており、瓦礫もあって、かなり狭いが……どうにか通ろうと試みる……。


「……!? うそ!?」


「どうしたリアっち?」


「胸と尻がつっかえた……通れねぇ」


「嘘だろ?」


 リアの胸はまだ成長しているのだろうか。その大きさは期待を裏切らなかった。それでも、ぎゅうぎゅうと体を捩じ込み通ろうとするリアだったが、胸が痛くなってきたので諦めの溜息を吐いた。


「ここからは、先輩の役目っすよ」


「締まらねーな」


「うるせぇ、早く行ってください」


 足元に隙間を開け、ここを通れと指示をする。ダルクはやれやれといった様子でリアの足元を這って進み……やっとの思いで、部室にたどり着く事が出来た。


 部室は……ものの見事に破壊し尽くされていた。テレビは割れ、ゲーム機は砕け、ソファは破れ、パソコンは煙を上げている。だいたい月日にして3年くらいだろうか?

 愛用していた数々の品が無惨な姿に変わった様子は、流石のダルクも少しばかり思う所があり、ショックを受ける。だが、悲しんでもいられない。すぐに機械蛇の召喚元となっている『剣』の前に走り寄る。


「こいつを押し込めば、この騒動も終わる!!」


 そして、剣の柄に触れたその時。案の定「バチンッ!!」とダルクに電流が走る。思わず剣から手を離した。


「痛ってぇ!! なんで帯電してんだよこのクソッタレが!!」


 悪態を吐きつつも、どうしようもない。選択肢は一つしかない為、覚悟を決めて再び剣の柄に触れる。バチバチと静電気が走り、髪の毛が逆立つ。周囲には青白い光が迸っている。


 そんな彼女に、リアは扉の前でつっかえながらグッと拳を握ると叫んだ。


「いっけー!! 先輩ィ!!」


「あぁ!! やればいいんだろォォオ!! あぉん、バチバチ痛い!!」


 ダルクは渾身の力で、剣を台座に押し込んだ──。


………………………


 機械蛇がいなくなり、廊下を静寂が満ちる。機械の剣は動力を失い、静かに鎮座していた。そんな中で、グレイダーツは崩れそうな壁や天井を見てため息を吐いた。


「めちゃくちゃ、やってくれたな……」


 騒動の元となった遊戯部の部室を訪れ……あまりの惨状に頭を痛めながら言った。壁や天井の破壊具合もさる事ながら、部室一部屋がほぼ崩壊している。

 部屋の中では、ボロボロのソファに仲良く寝っ転がるダルクとリアの姿があった。だが、寝っ転がっているだけで、起きている様子。たぶん、惨状を見て放心状態になっているのだろう。


 もうすぐ決闘大会や交流会があるというのにこのしまつ。なぜ、平和なはずの学校でこんな事が起きるのか。コレが分からない。そうして再びため息を吐いたグレイダーツに話しかける者がひとり。そう、事の元凶であるライラだ。


「修繕費は私が出そう、騒動を起こして申し訳ないな校長殿」


「……今度から勝手に作った地下室でやれ」


 グレイダーツはそう言うと《門》を開き帰って行った。どうやら修繕費を全持ちする事で許してもらえたようだ。良かった、とライラは胸を撫で下ろし、功労者2人に近寄ると話しかける。


「お疲れ様」


「ほんと、疲れた。私が使った弾薬代を請求する」


「俺は魔力切れです……部屋まで送ってください」


「はっはっは、任せたまえ。そのくらいの報酬なら当然出すさ」


 ライラは金の入った封筒でダルクの頬を叩き、部屋に隠してあったパワードスーツを着るとリアをお姫様抱っこして持ち上げる。


「俺そんなに重くないと思うんですけど」


 態々パワードスーツを着るほどでもないと不満を言うリアに、ライラは穏やかな声で言った。


「ほら、胸がデカいから」


「関係ないっ」


「関係あるだろ、さっきつっかえてたし。あと……こうして持ち上げて思ったんだが、尻もデカいな」


「セクハラッ!!」


 最近、女の子になった自覚ができてきたリアは……赤面しながら叫ぶ。余談だが、お姫様抱っこって謎の安心感があるんだなと新たな発見をした。

続きを考えて一年くらい

TRPGなら面白いかなって思えるストーリーは思いつくも、明確なプロットは完成せず……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 胸と尻がつっかえたと聞いて思い浮かんだのが尻壁だった( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ