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以後語り 終業式


 今日は、3学期の終業式。つまり1年の区切りを示す日だ。


 リアは先生方の話を聞きながら、この節目に思い返す。本当に、色々な事があったなぁと。

 これほどまでに濃ゆい1年は、流石に勘弁願いたいと思えるくらいには……退屈も、そして大きな経験と成長を感じた日々であった。だからこそ(来年は平和でありますように)なんて心の中で思った。


 思ったがしかし。そんなリアの願いは直ぐに潰える事となった。


 先生方の有り難くも長い話が終わり、最後にグレイダーツ校長が表に立つと、こんな事を口にし始めた。


「えぇー、生徒諸君。今年はテロが起き、中々にスリリングな一年を過ごさせてしまった事を詫びると共に……来年に行う予定の楽しい楽しい『行事』を発表させてほしい」


 一区切りつけ、グレイダーツ校長は続けて話を進めた。


「あのテロの件において、君達は力不足や、明確な敵に対して魔法を向ける『覚悟』の大切さを痛感したと思う。だから私も授業でどうにか学びの機会をと考えていた時だ……クソ面倒な事に他の3連合国からこんな通達があった」


 あからさまな溜息を吐き、面倒そうな態度を隠す事なく彼女は言う。


「春休み明けから、他4校との合同授業並びに、魔導機動隊の主導による魔法の実技演習や訓練……まぁ要するにゲームのような催しを開催する。怪我、もしくは死亡の可能性もある為に、参加したい者は後ほど、教室で担当の先生からパンフレットと誓約書をもらうように。


 脅すように死亡の可能性を提示したが、あくまでも『もしも』の話だ。私達大人の魔法使いも監督するから、その点は安心して欲しい。医療体制も万全だ。


 ……優秀な者には豪華な景品もあるし、なんなら卒業の為の論文免除や、単位の贈呈なんかもある。また、多方面へ自身の能力を披露する良い機会だ。将来の為に売り込むチャンスだぜ。

 臆せず引かず、参加する事をお勧めする。以上!! 解散!!」


 話すだけ話すと、彼女は颯爽とその場を去っていった。残された生徒達は疎らに各々の教室へと帰りながら、先程の話で持ちきりである。


 残念ながら、来年ものんびりとは出来ないようだ。だが、リアは思った。


(ふぅむ。有名になるチャンスか? よし、俺は参加するかな)

(売り込むチャンス、いいねそういうの)


 この時点で、2人の参戦が決定する。思考回路は単純であった。


………………


 ところで、話は変わり。

 生徒会選挙の話になるが、エストは無事に生徒会長に選ばれた。

 やはり、日頃の行いが良いおかげか、他の立候補者とは一線を画す程の評差で勝ち上がった。なので……リアとレイアはそろそろ、決めねばならない。勿論、来年の生徒会に入るか否かだ。


「どうするレイア?」


「楽しそうだとは思うけど、同時に大変だろうなぁとも思うよね」


「そうだよなぁ、自分の時間か、生徒会か。なんの役職を当てられるかも分からないしな」


「僕らなら、雑用か庶務じゃないかな?」


「ははっ、それなら気楽そうでいいが」


 そして、2人とも黙り考え込んだ。理由は簡単で、心中で答えの方向は決まっているからだ。『君がやるなら自分もやろう』と。故に相手の答えを待っている所なのだが、中々に切り出せずにいた。


 ので、それをこっそり覗き見していた、次期生徒会会計のダルクは飛び出して、2人の首に手を回し両腕で抱き寄せた。突然の来訪者と行動に驚く間も無く、ダルクの言葉に押される。


「そんな悩むようなもんでもねぇって!! 今年の私、見てたろ?」


「あっ」


 なんとまぁ、心強い言葉だろうか。これほどに気が楽になる言葉など、この人しか言える者などいない。


 なので、2人の返答はほぼ同時であった。


「やるか」


「やるよ」


 こうして第48期生徒会に、リアとレイアの参加が決まった。

 ただ、2人は知らない。今年はとりわけ忙しくなる事を。しかし口車に乗せられた己の自業自得である。


………………………



 3学期の終業式を終え、春休みに入った初日のこと。

 広く、静かな研究室の中に1人の少女の姿があった。彼女の名はライラ、世界中でも指折りの魔導機動隊が贔屓にしている大企業の1人娘であり、次期社長である。


 そんな彼女の眼前には、大きさにして10メートルもない小型のシストラムが佇んでいた。

 その機体にある腕のブレード部分には、Mark.4の刻印が刻まれており、最新機である事が窺える。


 ライラは『決闘補助装置』と同じ形ながらも、別の目的で作っていたARビジョン装置を耳にかけ手をかざす。すると、ARのUIが展開していき、操作プログラムがインポートされていった。予め用意していたプログラムの正常な起動を確認すると、彼女は虚空に問いかける。


「ティガ、今大丈夫か?」


『イエス、マスター。万全です』


 外部スピーカーから、AIであるティガの返事が返ってきたのを皮切りに、ライラは口を開いた。


「それじゃあ、Mark.4の自動展開・搭乗テストを始める。リアクター起動……HUD展開、試作コックピットスタンバイ。《情報の保管庫》に接続・脳内空間認識システムOK、『搭乗開始』」


『リアクターからの出力正常、浮遊バーニア正常。──展開』


 ティガの指示により、ほぼ同時にMark.4はドックから空中分解し、ライラに向かって飛来する。まず初めに椅子が彼女の足元に滑り込むと一時的に姿勢を固定し、空中に浮遊。それに合わせて、試作中である衝撃を吸収する特殊な合金のが彼女を包み込むように前後からドッキングする。中は勿論空洞であり多種多様なボタンや操作レバーがあり──ここがコックピットになる。


 そこから骨組みが展開し、合わせるようにシストラムの各部位は空中でドッキングしていった。他のアームも一切頼らず、大型のネジ類は自動で閉まり、固定器具等も自動でセッティングされていった。


 コックピットの立方体にも、専用の胸部アーマーが取り付けられ、人型に近いフォルムになった。しかし、マニピュレーターの代わりにブレード状の手足が取り付けられている点は変わらず、キメラのような見た目は変わらない。


 そうして時間にして30秒。全ての工程を終えたシストラムは最後に、強く6つのカメラアイを光らせる。カメラアイの光が、リアクターが正常に稼働した証だ。


 ……そんなコックピット内では、奥行きを生かした前面モニターが前方の風景にUIや機体の状態、各種情報を表示し、他のモニターはその面に合わせた風景を映し出す。


 操縦席は、かなり狭くなり、完全に1人用となっていた。

 そして操縦レバーは左右2つに分かれ、スラスター類は足で操作できるよう、インターフェースも一新されていた。


 少ないエネルギーをバーニアから噴き出しながら浮遊するシストラムは、随分と小型化したが、より一層の改良が見てとれる。


『システム、オールグリーン。起動完了しました』

 

「操作プログラムも正常だな。上々の出来じゃあないか」


 コックピット内で腕を組みながらニヤリと笑うライラに、ティガは気になっていた事を聞いた。


『ひとつお聞きしたいのですが、何故Mark.4を作ろうと?』


「ん? ほら前にテロ事件あったじゃん?」


『イエス、つい最近のトップ記事ですね。リア様とレイア様の活躍が光っていました』


「そー。それで欲しくなったんだよ。自分用のバトルスーツ。Mark.1〜3とグラル・リアクターの売却でかなりの儲けが出たしな。不謹慎だが、あのテロのおかげで商品アピールにもなったし」


『要するに、リア様達に感化されたと? 成る程です。しかしマスター。リアクターを売ったのはやはり不味かったのでは?』


「といっても、こっちでセキュリティー管理できてるしな。分解しようもんなら勝手に機能停止。シストラムを除いた別電源に接続しても停止するって説明したうえ、向こうの技術屋は構造の解析すら進んでないようだし。

 大丈夫だろ」


 実際かなり念入りにセキュリティーを強固にしてある為、本当に問題はない。


 また、シストラムMark.1〜3も想定通りに、戦闘力の高い魔導機動隊員や魔法使いの運搬に派遣、一般人の救助に役立っているようだった。またリアクターから供給されるエネルギーの別流用が起きていない現状、特に言うことは無し。


 と、ここで思い出したかのようにライラは言葉を付け足した。


「あぁ、あとな。新年度の為ってのもある」


『制作理由ですか? そういえば『決闘補助装置』の量産もされていますね』


「そうだ。新年度は……イベントが盛りだくさんだからな」


『やはりマスターも参加なさるので?』


「おう、一応そのつもり。レクリエーションでもやろうかなって考えてるよ。会社の製品の宣伝だ」


 ちょっとした企業サプライズか、もしくはシストラムを使った見せ物でもすれば、他校へのデルヴラインド製品への知名度拡散にもってこいだろう。そう浅く考えながら、ライラは言った。しかし、予想を遥かに超えて『グラル・リアクター』や『シストラム』が評価されている事を、彼女はまだ知らない。

続 か な い

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[気になる点] 続かないんかーい! [一言] それダルクに仕事押しつけられるパターンじゃね?
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