以後語り4
晴天により過ごしやすい気候の中、リアはある場所に向かっていた。それはアイスクリームジェラート専門店……の裏で探偵事務所までしているジルの所だ。
なぜジルの所に向かっているのか。答えは単純、アルバイトをしに行くのだ。勿論、表のアイスクリームジェラートの方である。
バイトをしようと思った理由、それは新しくゲーム機が発売するからである。お小遣いに頼っても良かったのだが、なんとなく自分で稼いで買いたかった。特に深い理由は無い。だが、あえて言うならアルバイトを経験したいという気持ちからだろうか。
そんなこんなで、駅前まではすぐに到着するのだった。
……………
「それじゃあ、これ制服になるから、よろしくね」
「はいっ、頑張ります!!」
ジルからフリルの付いたエプロンを受け取り、更衣室に入ると一息吐いた。
人生初のアルバイト。緊張しない訳はない。
だが、同時に思うのだ。
(今の俺ならば……いける、接客!!)
この一年で色々と自信がついたのもあるが、1番はやはり……女の子になった事、だろう。客観的に見て、自分の容姿を武器に出来るようになったリアは、弱々だったコミュニケーションを克服したのだ。それに、男性と女性の両方の気持ちが分かるのも強みである。あとは臨機応変に、対応出来れば万々歳。
(頑張るぞー!!)
女物の服なのに手慣れた手つきで着替え終えると、姿見の前で一回転してみる。若干メイド服っぽい上着に、スカートタイプの服だ。腰に巻くタイプのエプロンがチャームポイントである。
(……普通に可愛いな。でもなんでサイズぴったりなんだ?)
ピンクブロンドの髪をした先輩が脳裏を過るが……考えない事にした。
……あえてひとつ、文句があるとすれば、スカート丈が短く太腿がよく見える事くらいだろうか。
……………………
「いらっしゃいませー!!」
来店の挨拶は笑顔が大切だとジルさんが言っていた。ので、リアは爽やかに微笑む事を心がけて挨拶をする。
それから注文であるが、聞き逃さないように全力で集中しつつメモをし、繰り返し注文を確認する事を忘れない。これをするだけで、注文ミスが無くなる。
配膳の際には一言、ごゆっくり等の言葉をかけるようにした。それだけで客に好印象を与えられるらしい。午後から来たダルクが熱弁していたので間違いは無いと思う。
そして、午後からは途中参加したダルクも混じって接客をした。
お客がお帰りの際は「またのお越しを」などとリピートのアピールを忘れずに、また腰を曲げ丁寧にお辞儀をして見送る。
男女共に、そんな感じで接客をしたが。いけそうな客には配膳の際にさりげなく指が触れる、胸が当たるとかのあざとさを発揮させ、女性客には「お嬢様」と呼びキザったらしく、でも紳士的な雰囲気で相手をするなどの工夫を加えて頑張った。
そうして1日目のアルバイトは終わったのだが、中々に好調な滑りだしではないだろうか? 失敗は、少なくとも無かったと思うし、店内で見ていたジルさんからもグッドサインをもらったくらいだ。
まぁ、何はともあれ。晴れやかな気持ちで閉店時間を迎えたリアは、緊張を揉み解きつつ、穏やかな気持ちで初日を終えるのだった。
…………………
その日SNSで可愛い店員がいると、アイス専門店が話題になった。というのもこの街は、ある意味で学園都市のようなものだ。つまり、訪れる客は思春期真っ只中の男女や、成人間近の学生等、若い人間が多い。
そんな彼ら彼女らだからこそ、突如現れた美少女に目が惹くのは仕方のない事だった。そこへ、縦長の瞳孔を持つ空色の瞳と、艶のある黒髪は皆が魅了される程に神秘的であった。あと、髪が揺れるとシャンプーのいい匂いがする。
更に、午後からは活発で明るい雰囲気のピンクブロンドの髪をした美少女も加わり、どこかチャラチャラしていないメイド喫茶のような独特な雰囲気を店内を満たし……その日のうちにリピーターとなった客もいたくらいだった。リアは気がついていなかったが。
主に男ウケを狙ったかのような2人だったが、女性に対してはまるで執事のごとく紳士であったおかげで、女性客からの人気も上々。
また、当然のことながらジルの作るジェラートの味も評判になっていた。また、以前から休みがちだったのもあって、幻のスイーツのような扱いを受けていたからこそ、今日一日の営業により訪れた客も多かったのだ。
こうして、誰からもWin-Winな結果となった。のだが……。
「一月だけの契約だったけど、もう少し続ける気とかないかな?」
「えぇ……?」
「頼む!! シフトは不定期でも良いから」
「おいジル、その契約には私も含まれてる?」
「不思議なことにお前も人気だよちくしょう!! 採用!!」
「やったぜ」
「俺も、まぁ今は大丈夫です。頑張ります!!」
短期バイトの筈だったのが、長期化するのは、当然の結果であった。そうしてダルクとリアのアルバイトが始まったのだが、そこにレイアが加わるのは時間の問題である。
そうして、春休みは過ぎていく。
……………………
「にしても、リアっちの接客あざと過ぎだろ。そういう演技とかも出来たんだな」
「まぁ、元男ですし」
『精神的に女の子』を楽しめるようになったのは良い事だと思う。




