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文化祭と魔王⑤


 リアは跳躍してぶん殴る前に、おそらくだがレイアかギルグリアの方が早くにヴァルディアへ近接するだろうと思考する……までもなく、既に飛んでいるのでどうしようもなかった。

 だから、こうして構えて《縮地》で飛ぶ準備をしているのは、自分が攻撃の二の矢になる為と、敵を観察したかったからだ。


 ……グレイダーツ校長が盾で守ったおかげで校長室は崩壊する程の損傷を受けてはいない。しかし肝心の本人は、ヴァルディアの間合いに入られてしまい、何の魔法かは不明だが一瞬で無力化されてしまった。早く助け、安否確認と治療をしなくてはと思う反面、不気味なほどに静かに佇むヴァルディアの間合いに飛び込むのは不策なのではと、冷静な自分が警鐘を鳴らす。


 だが……おそらく飛び込む事になるだろう。なぜなら、彼女が口から血を吐き倒れる瞬間をレイアは見てしまったからだ。飛ぶ寸前のレイアを見た時、一見冷静そうに見えたが……脳に血が上っているのか、呼吸が乱れているのが分かった。

 あと、ヴァルディアを見る目が殺意に溢れている。そして一言も発さない。彼女はどうやら本気で怒ると……無言になるらしい。


 こうして刹那の思考の後、一刻の状況は滝から落ちる水の如く、即座に流れゆく。


 ……先に攻撃を仕掛けたのは、ギルグリアだった。


「《龍の剛爪》」


 魔法というよりも、鉄より硬く鋭い爪による、超高速の斬撃を伴った物理攻撃であった。確かに、魔法の対策はして来ているであろう彼女に対しては、下手に魔法を打つよりも物理の方が決定打になるかもしれないと思ったのだろう。だが、そんなことは向こうも考える事だ。


 全ての攻撃が、素通りした。


 空を切った斬撃はヴァルディアの背後の瓦礫を綺麗に斬り刻み、確かに攻撃した事を証明している。それなのに、彼女には……いや、斬撃を食らった跡はある。しかし、全てが一瞬で塞がったのが見えた。服すらも修復されている。


 けれど予期できた事態だ。

 物理が無効と分かったギルグリアは、拳と口に魔力を瞬時に溜める。


 しかし、ヴァルディアはギルグリアが魔力を使う時を待っていたらしい。


 手の届く距離にいるギルグリアに向かって、軽く両肩を押した。


「邪魔な蜥蜴さん、暫く何処かに行ってて。《深淵門(ヤミノソコ)》」


 彼女が呟くように詠唱すれば《門》のような異様な空間がギルグリアの背後に現れる。闇が渦を巻いたような《門》からは、悍ましい気配がヒシヒシと伝わってきた。


 そして小さな赤子のような手が無数に伸び、ギルグリアは渦に捕らわれ、声を上げる間もなく「ガオンッ」と渦が閉じる音と共にその場から消えた。


「これで、邪魔者は消えたわね」


………………


(……ヤベーなおい、魔法も物理も無効? クソゲーのラスボスかよざけんな)


 リアは直感的に、彼女がグレイダーツやクロムのような特殊な方法で寿命と老いを遅らせている人間ではないと思った。


 物理も魔法も無効……ならば《境界線の籠手》の『破壊』は効くだろうか?


 それが出来れば、彼女を構成する魔力ごと破壊出来るかもしれない。そう考えてみるも、向こうがどのような対策をしているか不明な点が懸念であった。


 だが、怒りで行動しているレイアが既に、左右から挟む形で、『魔力』と『炎』を纏った剣を持つ《西洋甲冑》で攻撃を仕掛けようとしている。ついでに、事前に仕掛けたらしい小さな《門》から伸びるオクタくんの触手が、グレイダーツを回収したのが見えた。


 物理と魔力の両方で斬る事と、熱による攻撃の有効性を確かめるという試みを思いつき、更に隙を見て重傷者を撤退させた手際に、リアは舌を巻いた。

 それから友人の機転に(ほんとうにスゲーよ、流石すぎるわ)と思いながら《縮地》で空を跳躍した。


 レイアもリアが動くタイミングを待っていたのか、アシストするようにヴァルディアの両腕を《西洋甲冑》の刀剣で斬り飛ばし、自分は開きっぱなしであった小さな門に滑り込みながら、心臓に向かって短剣を投げつけた。

 最後にヴァルディアの首を斬る為の攻撃パターンも組み込んでいたようだが、攻撃の前に彼女の回し蹴りが《西洋甲冑》を蹴り砕いた。だが、短剣は胸元に命中する。


 物理と魔法の両方を無効化するのは無理なのか、はたまた熱が有効だったのか。肉の焦げるような匂いが微かに漂う。


 そして彼女の斬り飛ばされた両腕からは勿論、血は出ていなかった。代わりに飛び散るのは『澱み』のような黒い液体である。焼け焦げた匂いは、その溢れ出た液体によって直ぐにかき消えた。


(……人を攻撃する覚悟とかは、魔法使いを志した最初の日からしてきたつもりだったけど。こんな事を考えてしまうのは不謹慎かなぁ。お前が、人でなくて良かったと思ってしまったよ)


 ヴァルディアはレイアの攻撃の素早さと、自分の空を舞う腕を見てほんの少し硬直する。


 リアは明確な隙を感じ取った。


 そして最高の攻撃の場を作ってくれた親友に感謝をしつつ、天井を強く蹴って《境界線の籠手》で大きく拳を握り込む。


 放つは夏休みの終わり頃に特訓したひとつの奥義。

 が、完璧に習得したとは言い難い奥義でもある。


 この奥義は下方に向けた凄まじい破壊を生み出す。それはつまり、加減を待ち構えば周囲は吹き飛ぶし、数多くのクレーターを作ってしまう。

 ……結果的に、流石の田舎であっても、周囲への被害や音が大きく訓練できる機会があまり無かった。それでも《結界魔法》で空に足場を作り特訓しては、勢いで墜落し骨を折りかけたり、肩を脱臼しかけたりしても、一応は習得まで磨いたのだ。


 ……やれる。自信を持って、リアは大きな隙を晒す代わりに鉄槌を叩きつけるが如く、凄まじい破壊の魔力を握りしめて拳を振り下ろした。


「《神無淡月》ッ!!」


 「ゴォンッ」と魔力の光が吹き荒れる。破壊という一点に特化した魔力は床に、まるで満月のようなクレーターを作り、次いで床にヒビを入れ、鉄骨をへし折り、遂に床を砕き抜いた。それから、一階まで一直線に急降下していく。


(床が抜ける可能性を失念してた阿保か俺わァ!!)


 リアは姿勢の制御に、全て打ち砕くまで続く《神無淡月》の型の維持と、様々な瓦礫や破片から自信を守る為に《結界魔法》を使うのに精一杯なのと、瓦礫や塵のせいで視界が悪くて正直、ヴァルディアを脳天から叩き潰して以降は、この拳の下に彼女がいるのか分からなかった。

 しかし、途中で止まれる魔法なら、それは奥義の域ではない。


 鼓膜を揺さぶる程の破砕音を響かせながら、やがて一階まで辿り着き、地面に拳を叩きつけた。拳の中心からは大きな円状のクレーターが出来上がり、土埃を巻き上げて止まる。


「ゲホッ、ゴホッ……」


 リアは拳を退かし、ヴァルディアの存在を確認する為に埃を振り払う。


 (この一撃で倒れてくれれば……)と思うが、おそらく確実に生きているだろう。そうでなければ50年前、確実に誰かが殺している筈だ。


 警戒しながら、ぐっと拳を握りしめる。銀色の大きな籠手が、頼もしく銀色の淡い光を放った。

SAN値が削れまくって、ちょっと心も身体も調子が悪いので、次話は遅くなるかもしれません。

でも、ぶっちゃけ終章だし、読んでくれている人も2、3人くらいだろうから気にしなくてもいいか(開き直り)。


あと伏線回収忘れたら話を修正しますね……。

まぁ、正直にぶっちゃければ鬱感情が抜けずにこの話の着地点予定の優しい世界が書けない

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― 新着の感想 ―
[一言] もちろん壊れた校舎の修繕費は校長のおごりですね( ˘ω˘ ) おっふ
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