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昔語⑥


 リアはふと、絵画の話に入った辺りでデイルから聞いた古い魔法である《護り人の呪い》を思い出した。それから昔本で読んだ『怪物の絵画』という物語の本も。


 あの話に出てくる話と似ているし、館に湖という内容も……デイルが最近腰を痛めた原因として聞かせてくれた湖の館と似ている。


 これは、偶然だろうか? にしては、誰かの意図を感じずにはいられない。


(どっちにしても話を最後まで聞いてからにしよう)


 そう考えていたのだが……。セドリアはここまで話して、「ふぅ」と一息つく。


「この後の話なんやが……絵画がこう、ドロっと溶けたみたいに絵具が溢れてきてな。魔物みたいな化物がそこから這い出てきて大変やったんよ。そんで、それをぶっ倒しながら2人を探す為に一階の探索してたら……白骨遺体と絵画を書いたらしい奴の日記を探索して見つけたんや。程なくして、グレイダーツともヴァルディアとも再会したたんやけど。実を言うと、ここからは絵画に取り込まれたヴァルディアから直接聞いた話やな。さっきの話もグレイダーツから聞いた話を私が掻い摘んで話てるだけやけども。聞いてくか?」


「興味深いので是非、聞かせてください」


「そか? なら続けるな」


 それだけ言うと、彼女は再びストーリーテラーに戻る事にしたようだ。深い沈黙と雰囲気を作ると、ゆっくりと口を開く。

 ここからは、彼女達が経験した事と、ヴァルディアに発生したイベントの話。


………………


「急になんだクソッタレ!!」


 悪態を吐きながら、絵画から溢れて落ちる黒い怪物を魔法の剣で薙ぎ払う。黒い怪物の大凡は、元々絵画に描かれている絵の化け物をモチーフにしているようだ。しかし、剣で真っ二つに切り裂けば空気中に霧散して消えた。


 見た目に反して弱い、けれども絵画から噴水の如く無数に湧き上がり、気を抜けば数に押されそうになる。


「一方的に呼んでおいて、この対応はねぇんじゃねぇの」


「……誰に話してるんや?」


「ここに呼んだ誰かに、だよ」


 目の前の楕円形の触手で出来た頭部を持つ人型の化物を切り伏せ、肩で息をしながらも剣を横薙ぎに振り抜いて魔力の刃を飛ばす。


「駄目だな、キリがねぇ。一旦撤退するぞ」


「撤退って、ヴァルディアとグレイダーツは?」


「アイツらなら大丈夫だろ」


 言葉だけなら投げやりにも聞こえ冷たい印象を感じるが、実際どうにでもなりそうだと思ってしまったセドリアは、自分の感覚がズレている事を自覚しつつも肯く。

 そうして、2人は入ってきた扉の前まで後退する。そしてクラウは自分達を囲うように《結界》を張った。


 そして《結界》が保っている間に、ドアノブに手をかけたのだが……。


「固ったッ!! え、うぉおおドアノブ動かないんやけど!?」


「蹴り破れ!!」


「もうやってるわ!!」


 ゲシゲシと扉を蹴りつけるセドリアの横から、クラウもまたドアノブを捻っては蹴ってを繰り返し。


「なんで? 魔力なんて感じないのに……」


「うぉおお《結界破壊蹴り(ブレイクブレイク)》!!」


 だがそれでも傷すら付かず。

 クラウ最後の一撃にと、岩をも砕く魔力を纏った蹴りを放つも、やはり木製のドアは鋼鉄のようにピクリとも動かない。逆に跳ね返ってきた衝撃波にセドリアは足を取られ転びそうになった。

 一方、渾身の一撃に無傷で耐えた扉を見たクラウは、驚愕の表情で無駄に蹴りを入れ続ける。


「この私の蹴りが効かねーとかマジ!? 魔力も何も感じないのに、っというか閉じ込められたのかコレは?」


「不壊とか勘弁やで。かと言って他の窓とかは……」


「試したいが……前見ろ前、うじゃうじゃ居るぜ」


 結界の中の自分達を襲おうとしているのか、それとも取り込もうとしているのか。百鬼夜行の如く蠢く化け物の大群は、執拗に結界へ攻撃を行なってくる。


「範囲攻撃できる魔法とか使えへんの?」


「やりたいけど……グレイダーツとヴァルディアの行方が分からない以上、ぶっ放すのはまずいだろ? それに状況から見るに閉じ込められたみたいだし、私が使える広範囲魔法だと退路が無いと厳しい」


「でも、現状戦えるのクラウしか居らんし。どうするよ?」


「できりゃ《大発火》で焼き払いたいけど、あとが怖いしなぁ。どうすっか……あっ」


 その時、開けた階段の右側からひとつ、飛び舞い降りる人影が見えた。それを見て、ホッとするクラウを見てセドリアも目を向け、思わず笑みを浮かべた。


「無事やったんやな!! よかった……」


「それに……この状況もなんとかなりそうだな」


 クラウの目線の先には、剣を振り無双するグレイダーツの姿が見えた。

 そして彼女は化け物が群がる前に絵画に剣を突き刺し切り裂く。すると目の前の化け物が数体、空気に溶けるように霧散した。どうやらこの化け物達は絵画が触媒になっているようだ。


「なるほど、絵画壊せばいいんだな? 私達もいくぞ」


「おう、いくで……って、おい。なんでサッカーボール持ってんの?」


 何処から取り出したのか分からないが、何処からどう見てもサッカーボールな球体を手に持つクラウ。この状況でなぜ? と当然の疑問が浮かびセドリアはツッコミを入れる。すると、彼女は含み笑いをすると口を開いた。


「この前、サッカー部のヤベー奴が教えてくれた必殺技を使うぜ」


「……答えになってないんやけど」


「まぁ見とけよ。まずは……《結界崩壊波》」


 クラウは自分達を守っていた結界を崩し、その破片を強烈な勢いで拡散する。突然の反撃に化け物の大半は対応出来ずに消え、残りも蹌踉めき反撃は来ない。


 その隙にクラウは軽くボールを蹴り上げると同時に飛び上がり、明らかに物理的法則を無視した動きで横に回転しながら叫ぶ。


「吹き荒れろ、我が暴風ゥウ!! ザ・ブレイクバスターァァア!!」


「その口上いるか?」


 足とボールに魔力が流れ、光り輝く。そしてグレイダーツのいる反対側へと、彼女はボールを蹴りつけた。

 すると、セドリアの元まで届くほどの豪風が吹き荒れる。そしてボールは化け物達を貫き部屋を暴風で滅茶苦茶にしながら、最後は部屋の壁を突さ……るどころか、貫通して奥の部屋までつい進み、嫌な轟音を響かせた。


「よぉーっし!! んじゃグレイダーツの援護行くぞ!!」


「……うん」


 コイツのやることにツッコミを入れるのは人生の無駄だと、セドリアは悟った。


……………


 ヴァルディアは絵画に引き込まれた事を理解しつつも至って冷静に、そして悠長に歩みを進める。


 場所は……どこか分からない。屋敷と同じ廊下に見えるが、先が見えない程に奥まで続いていた。後ろも同様である。


 唯一違う場所を挙げるならば、壁に飾られているのが絵画ではなく写真らしきモノだという事か。


 写真は古ぼけており、しかし歩みを進める毎に新しくなっていっている気がする。そんな写真に写るのは風景と、家族らしき集合写真や個人を撮影したモノなど多岐に渡った。

 だからこそ、これらの写真は飾るよりも普通のアルバムに仕舞う様なモノではないかとヴァルディアは思った。


 それから、これは感覚としか言いようがないが、屋敷にはどこか物悲しくも懐かしい、そんな雰囲気を感じる。


 そうして、無限に続く廊下を歩んでいた時だ。

 日差しが変わり、窓から差し込む光に目が霞み、思わず瞬きをした次の瞬間である。


 背後に気配を感じて、振り返る。そこには白と黒で描かれた絵画のような、1人の少女が立っていた。髪は短く背は低い。顔立ちは幼く、恐らく10代前後の少女だ。


 ヴァルディアは突然現れた謎の少女に大凡の検討をつけ、余裕綽々と話しかける。


「あら? ようやく黒幕のお出ましかしら?」


 ヴァルディアの問いに、少女は無表情で口を開く。


『ここは神隠しの画廊。そして私は作られた語り部(ストーリーテラー)


「私は黒幕かどうか聞いたのだけれど?」


 全く怖気ずに言い返す。少女はそんなヴァルディアの言葉に首を傾げた。


『私は……語り部に過ぎない。黒幕は貴方が見つければいい』


「……意味が分からないわ」


 ヴァルディアの言葉に若干、苛立ちが混じる。普段は人に見せない、あからさまに怒気を顕にし剣呑な気配を漂わせた。


 しかし、少女もまた表情ひとつ変えずに返す。


『私は所詮作られただけ、貴方達に干渉は出来るけど全ては知らない』


「なら、貴方は何者なの?」


『私はこの画廊を作った人間の、作品のひとつ。そしてこの館に誘われた存在に賽を振らせる者。貴方は、今回の物語の贄に選ばれた』


「ふーん……」


 実際のところ……隠してはいるがヴァルディアはこの状況を楽しんでいた。目に見えた何者かの『悪意』や『憎悪』、そして『親愛』をこの少女から感じるからだ。


 相反する雰囲気を持つ彼女は、一体何を提示するのか。


『……貴方はもう、この館からは出られない。でも、貴方には2つの選択肢が与えられる』


「へぇ、聞かせて?」



 生贄になったらしい自分に与えられた選択肢を、ヴァルディアは胸を躍らせながら聞き手に徹する。ここで初めて、無表情だった少女の眉根が動いた。

 しかし、すぐに元の無表情に戻ると、可愛らしく指を突き出す。


『1つ、貴方は……自分を生贄にする条件として、扉の開閉も支配できる。これによって、共にやってきた友人や親類を今すぐに脱出させられる。


 2つ、貴方は絵画達に封じられた『冒涜者』で遊ぶことができる。この場合は……貴方の友人や親類が『館の主人』に辿り着くのを妨害する事が可能。また、館に取り込んで自分と同じ『生贄』にもできる。


 どの道、貴方は死ぬけれど。その間は私と同じ語り部になるの』


「なんとまぁ……」


 と、出かかった言葉を途切れさせ、ヴァルディアは俯く。髪が目元に影を作り、表情を隠す。そして、沈黙が舞い降り数秒が過ぎた頃、ヴァルディアは頭を軽く振り、髪を振るうように目元から退けると、悦びの宿る鋭い眼光と、弧を描く口元で可憐に微笑んだ。

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[一言] ヴァルディアなら選択肢を無視して他の選択をしそう感ある
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