昔語①
最近よく見るRTA風小説、面白いですね
あとMHWIのアルバトリオン延期悲しいので初投稿です
大凡、これまでの経緯や今回の件について話し終える頃には、祭りの賑やかさも収まりつつある時間になっていた。
そうなると、膝の上でぐっすりだった起きたレイアも目を覚まし、セドリアの顔を見ると青ざめた顔で悲鳴をあげながら、態々《門》を開き逃げるように宮を出て行った。
しかし、門を通る途中、振り返るレイアの姿が一瞬見える。彼女の頬と耳元が、何故か少し朱を帯びていた。
「意思疎通できんのに、ここまで怖がられると……ちょっと傷つくわ」
「レイア、大丈夫かなぁ」
リアはレイアの行き先を考え、恐らくライラの家に帰ったのだろうと思った。これなら(別に先輩達に連絡しなくても大丈夫だな。それと後で来れなかった事を謝っておかないと)と考える。
あと、ダルクに関して。彼女にはヴァルディアに関して殆ど情報が知れ渡っているので気にせず続けた。
一通り聞いたセドリアは、若干驚いた表情を見せる。
「やっぱ、アイツ生きてたんか」
それほど驚いた風ではないが、しかしすぐに納得した彼女。
「知らなかったんですか?」
「戦争の終結なんて曖昧なもんやからなぁ。クラウがヴァルディアを殺しに行って終わったって話は聞いたけど、まぁ……幾ら狂ってようが、友達を殺すってのは躊躇う、のかなぁ。確実に殺したとは言ってなかったし」
勝手に解釈し勝手に納得して、彼女は「さて」と前置きし肝心の話に戻す。
「ヴァルディアが生きてたのは分かったわ。そんで君らが狙われてるから、かつて友人だった私から色々聞きたい訳やね?」
「……えぇ」
「ふむふむ」
理由を理解し、状況を知り、その上でかつての友人が、そして世界的な犯罪者が生きていた事を知った彼女の心境は分からない。だが、リアは敢えて察して言葉をかける事は無い。
そんなリアの心遣いなど普通に察していたセドリアは、宮の縁側に座り空を見上げながら呟くように、曖昧な言葉を漏らした。
「なぁ、君らは『真に恐ろしい存在』って何やと思う?」
「……真に、恐ろしい?」
「どういう意味っすか?」
「すまん、普通に意味不明な問いやったな。言い方を変えよう、君らは『宇宙から来訪した存在』や人間が進化する前に存在した『旧い知恵を有する支配者』……なんて神話みたいな存在、本当に居ると思うか?」
「宇宙人とか、UMAとか?」
「ちゃうちゃう、そんなチンケな存在じゃなく……君らが倒してくれた『澱み』やそこらにいる『魔物』なんて「虫ケラだ」と言える程、スケールの格が違う存在が、この世界にいるって言ったら信じるか? って話や」
「『澱み』が虫ケラと言える程に?」
リアはその問いに、昼間戦った『澱み』。そしてオクタ君を思い出し、答えに困った。そのリアとは対照的に、ダルクは自信を持って口を開く。
「居るだろ」
「ほぅ? なんでそう思うんや?」
断言したダルクに興味の向いたセドリアは問い返す。そんな彼女に、ダルクは人差し指で鼻先を突き指すと。
「そり目の前に会話できる幽霊が居るからな。普通に生きてたらまず会わねぇだろ? 会話できる幽霊となんて」
ダルクのもっともな返事に……セドリアは白い歯を見せ笑う。
「……はっはっはっ!! せやな!! 確かにその通りや」
快活に笑い、それからスッと雰囲気を入れ替えるように声色を低くすると彼女は続けて口を開く。
「まぁ、私が言いたいのは……この世で人知を超えた理解すら出来ない存在が居るっちゅー事。そして、人間の精神と理解の外にいる存在とでは『格』が違うんや。
精神的に『格』の違う存在を見た時、人はどうなると思う?」
ここで、ゲーム好きのリアは頭の中で(まさか)と否定しながらも、可能性の一つを挙げた。
よくあるテーブルトークゲームにある設定のひとつを思い浮かべて。
「発狂する?」
「大正解や。ヴァルディアについては細かく話すが、大まかにアイツが大規模な戦争を起こした原因は……発狂……いや、自分の中に潜んでいた無邪気な悪意が箍を外したからやね。『澱み』と対峙した時、君らも少しは感じたんちゃうか? 精神的に蝕まれるような感覚、もしくは誰かが一時的に気絶するような事が」
「……」
「……」
リアとダルクは互いに顔を向き合わせて目を見る。お互いに、言葉にせずとも否定はしない、そう言っているように見えた。そして、リアはポツリと呟く。
「……今更、怖くなってきたわ」
「私らが来る前に、ライラの奴が突然気絶したって話あったしな」
…………………
性善説というものをご存知だろうか。簡単に言えば、人の基本的に、本質は善であるという説だ。
さて、何故この説を出したかと言えば、私は派生した考えを持つからである。
人間は子供の時期は基本的に、悪人か? 善人か?
そう問われれば大抵の人間は子供だから、自我の形成がまだだから……などの理由から『善人』に分類するだろう。
だが、子供には無邪気という『悪意』と『残酷性』が存在している。
例えばだ、誰しも子供の頃に、道を這いずる蟻を見て、無意識に踏み潰した経験くらいあるのではないだろうか? そんな話を提示すれば、大凡の大人は『でも、子供だから』か『どちらとも言えない』と判断する。恐らく、無意識に蟻を踏み潰した子供の行動を『完全な悪意』から来るものとは考えない筈だ。
しかし、私は常に疑問であった。本当に悪意なき無邪気などあるのだろうかと。そもそも、無邪気という感情自体が悪意なのではないか。
民族学者が故に、心理学や倫理、道徳学を学んできた自分はそこから1つだけ結論を出した。人は産まれながら、自我など関係なくどちらも有していると。
どんな偉人であろうと、どんな偉業を成したとして、そこに絶対の善性は存在しない。
だが、別に悪意のみに置いた話ではない。悪があるように善も同時に育っていく。それが、自我の形成というものは。
子供から大人になるという過程で、人間は本音と建前の使い方を考えるようになる。つまり、悪意や悪行を隠す術を覚えるのだ。
良い笑顔をする人が、心の中ではドス黒い事を考えている。しかし、その黒い事は彼にとって『悪』ではない。
「……つまるところ。ヴァルディアの子供のような無邪気な心、本性は……私らが考えているよりもヤバくて、そして行動力は子供が蟻を踏み潰すよりも早かった。まぁ、アイツの場合は発狂というよりも、サイコパスになったと例えた方が正しいかもしれんが。
んで、魔物が溢れかえるまで、誰もアイツの変化に気がつかんかった訳や」
ため息を吐いて、セドリアは説明にひと段落をつける。リアは夜空を見上げるセドリアの瞳に、様々な感情が渦巻いているように見えた。
日記を勝手に読んだからこそ知っている。セドリアはヴァルディアと友人であった事。そして、気がつけなかった、止められなかった事を後悔していることも。
そんな悲壮感を醸し懐かしむ彼女を見ながら……ふと、リアは当然の疑問を浮かべた。
「じゃあなんで、俺やレイアが狙われるんだ?」
死んだと思わせて暗躍していたのなら、そのまま潜んでいれば今もまだ生きる伝説である英雄達に目をつけられる事など無かった筈だ。それなのに態々、己の存在を主張してまで、田舎の……まぁ男から女になった変わり者だが……自分を狙ってくる理由が分からない。
「そこやがなぁ。私がヴァルディアというひとりの人間を正しく見れていた事を前提に、なら多分やけど分かるで」
「分かるんですか?」
「……当時私らの世代が異常やったのもあって、そこそこ長い説明になってしまうけども、聞いてくか?」
「勿論」
「じゃあまず。ヴァルディアの根暗な趣味と、今私が最も会いたくない回復魔法使い……クロムとの思い出話から始めよか」