昔語③
元の予定してた話とだいぶ違うけど、脳内プロットではオチまで行けるから続行……
あと最近、改造プラモに挑戦しているので次回投稿未定です。格好いいよねルプスレクス
セドリアは首を傾げ、流し目で睨みながらクラウに問いかける。
「でー? 私達の勉強会を乗っ取って何するつもりなんだよクラウ」
「そう邪険にすんなって、実はここだけの話なんだがな……」
「ここだけの話、に良い思い出がないわね」
「まぁまぁ、ヴァルディアもセドリアも、多少は惹かれる内容だと思うから聞いてくれ」
そう言って彼女はこそこそ話をする為に肩を強引に引き寄せ、顔を突き合わせると、神妙な表情で続けた。
どうせまた面倒ごとだろうと突き放したくなったが、自分達の勉強会を乗っ取ってまで何処に向かうつもりなのかは気になり、セドリアは仕方なく耳を傾ける事にする。
そして切り出された話は、悔しい事に少し惹かれる内容であった。
「実はな、私とデイルの野郎とで、未踏の遺跡を見つけたんだよ」
「遺跡?」
「デルヴラインドの奴が作って秘密裏に飛ばしてた人工衛星を貸してもらって、まぁ遊んでいた時なんだが……」
「人工衛星?」
「どうした? 人工衛星くらい知ってるだろ?」
「そうやなくて、人工衛星を作って飛ばすとかマジか。私の中の『常識』が壊れていくのを感じる。というか国から許可もらったんかいな」
「許可なんて出ねぇから勝手に飛ばしたんだろ?」
「せやろな……」
セドリアは痛む頭を押さえながら「続けてくれや」と話を促す。
「それでな、人工衛星の地上分解能が凄まじくてさ。ついつい自然鑑賞がてら、衛星から踏破が困難な地域を見ていたんだが。ちょうどヒマラヤ山脈の写真を見た時に面白い物が映り込んだんだ」
そう言い、クラウは1枚の写真を取り出す。遥か空の向こう、宇宙から撮影されたその写真には、雪で白に染まる山脈が映っている。その中腹、標高何メートルかまでは分からないがそこそこ高い場所。そこに小指ほどの大きさでしか映っていないが、山の中に向かって張られたように見える大きな石の壁……それと雪が不自然なほど積もっていない石畳が広がっている。確かに、パッと見では未発見の遺跡だと、セドリアは思った。石の壁に見えるソレは、古代文明で用いられる扉のようなものだろうと。
「考古学的にどう思う?」
「……遺跡とは断言できんけど、人工物やろなとは思う。あとは地層と現地調査せな分からんわ」
「ヴァルディアは?」
「それを答える前に一つ聞いて良い? 今から此処に行くの?」
「おうよ!!」
「そ……楽しそうね。私は乗ったわ」
「ちょ、おいっ」
「そうこなくちゃな!!」
ヴァルディアは口元を弧にして肯定の意を示す。そんな彼女を引き止めようとセドリアが苦言を呈そうとするも、クラウが遮るようにヴァルディアの肩を寄せてガッチリ握手をした。逃がさないつもりである。
「しゃーない。私も気にならん訳やないし付きおうたるわ」
やれやれ、と態度で示しながら言うセドリアに、クラウはニマニマと笑みを浮かべる。
「ふんふん、このツンデレめ」
「突くな肘で」
肘でつついてくる彼女の腕を叩き落とし、そこでセドリアはふとリアに思った事を問うた。
「ところで行くのは良いけど、今から電車と飛行機で行くんか?」
当たり前の疑問に対し、クラウは肩を竦め、首を振って否定する。
「んな訳ないっしょ、グレイダーツが《門》を繋げてくれるからそれで行くぜ?」
「そんな高難易度な魔法使えたんかアイツ……ってか今更やけどヒマラヤ山脈言うたよな? 防寒着は?」
「勿論ないよ?」
「普通に死ぬやんけ!! 私やっぱ帰r」
「けど大丈夫!! 私とデイルの魔法でどうにかするから、任せとけ!! それに何か起きても大体の怪我なら治せる奴いるしな!!」
「……信じていいんか? 不安や、とてつもなく不安や」
魔法の成績は普通なセドリアはそう言いながらも、ヴァルディアと共にヒマラヤ山脈へ向かう一団へと混ざっていった。
この遺跡探索から徐々に全てが狂い始めるなど、誰も考えなかっただろう。そうであれば……と、誰も悪くない話ではあるが、それでもセドリアは思い出す度に後悔している。
…………………
《門》を抜けた先にはなんと……春らしい暖かくもカラッとした空気が満ちていた。地面は湿っているが、雪は無い。そんな光景が遺跡らしき場所全てに広がっている。
しかし逆に遺跡の外には、降り積もる雪や、寒々とした吹雪が辺りを満たしていた。なんともアンバランスな光景に、セドリアとヴァルディアは開いた口が塞がらずに呆然と立ち尽くした。
「凄いわ。ねぇクラウ、貴方どんな魔法を使ったの?」
「正確には私は手伝っただけでほぼデイルがやってくれたんだけど。簡単に言えば《結界》の魔法をもっと多様に拡大して使えるようにした魔法……《結界魔法》だ」
「るーる?」
「おう、ここじゃ私とデイルがルールってな。結界内部の温度、酸素濃度や空気圧の調整に、外気温と紫外線のカット等々、色んな効果を練り込んである」
「こんな薄い膜に……凄いやん」
「ほんと……」
セドリアが結界に触れると、結界の表面は脈打つように波紋を作った。
「な、大丈夫だったろ? んじゃ遅れないようにみんなのとこ行こうぜ!!」
語尾に星がついてそうなくらい陽気な口調で言うクラウ。まだ、たった1年の付き合いだが、褒められて気分が高揚しているのだという事は手にとるように分かった。混沌の世代でも、まだ心は少女らしい。
そんな可愛らしい一面に、ヴァルディアとセドリアはクスリと笑い合いながら、後に続いた。
………………
デイルに挨拶しておこうと思ったが、どうやら彼はまだ使い慣れていない特殊な結界の構築で魔力切れを起こしダウンしたそうで。今は予め用意されていたベースキャンプの中にあるお布団で寝ているらしい。
それはさて置き、一部の何をしに来たのか分からない阿保が遊び始めたのを他所に、遺跡目当ての何人かは大きな壁面の前で各々、調査を始めた。もちろん自分達も、その中に混ざって壁を眺める。
大きく聳え立つ黒い壁は、明らかに地層とミスマッチであり、異物のように感じる。どうにも、この山を切り崩して作ったというよりは、他の場所から巨大な石を持ってきたと言われた方が納得できる。
それから、表面は鑢がけされたのかと思うほどにツルツルとしており、遺跡の入り口というよりは何かを書き記す為の石板のように感じる。
そんな壁をペシペシと叩いていたのは、綺麗な金髪が特徴的な生徒であり、学園内でも有名人の1人であるグレイダーツだ。
彼女は腕を組み、考え込んでいる様子だったが、こちらに気がつくと陽気な笑みで手を振った。
「やっと来たか。話し込むのはいいが」
「結界には時間制限がある。お前達、時間は有限だぞ」
「てめぇクロム、割り込んでくんな」
そういえば姿が見えないと思っていたクロムは、どうやら一足先に来ていたらしい。もう勉強する気なかったのかよと、若干恨めしい視線を送ってると、クロムは目にかかる髪を耳にかけながら口を開く。
「まぁ、そのだな……私も好奇心には弱いと言う事だよ」
「素直に謝れや」
「うるさいぞグレイダーツ」
横目でメンチを切る2人。セドリアはそんなクロムに(まぁ、コイツらしいか)と寛大な心で許す。どちらにしても、自分もまた好奇心でここに来たのだ。彼女に文句は言えない。
そうして、自分もまた黒い壁に近づく。最初はただ黒いだけだと思ったが、近づいてよく見れば所々、渦に見える特徴的な紋様が見える。それか手で触れると、刺すような冷たさが手のひらに広がっていく。ついでにと軽くコツコツと叩いたところで、セドリアはこの壁の材質に心当たりを浮かべた。
「この感じ、この硬さと音は……黒曜石っぽい?」
「お前もそう思うか」
隣で呟きを耳にしたグレイダーツが同意してくる。それと同時に同じ疑問も浮かべた。
「こんな所にこんな大きな黒曜石は、ちょっと変じゃないか?」
「ヒマラヤの造山帯は火山活動は少ない筈だしな。そうなると、やっぱり誰かがどっかから持ってきたって事になるが……」
「こんなデカイ黒曜石を切り出して運ぶ? 無理だろ……と言いたいが」
そこで、セドリアは過去に調査した魔法文化を記したメモを取り出すと、目的のページまで巡る。
「あった、18世紀頃の魔術記録だ。浮遊系統ならこの頃から一部の地域で用いられている。ただ1番、謎なのが……なんでこんなモノをここに? って事かな」
「私は墓かなんかだと思ってたんだけど?」
手帳を覗き込みながら、クラウがそう言いつつ。
「仮に誰かが魔法ではこんだなら、何ならかの痕跡か魔術式が仕込んであるかも? ならば、いっちょいきますか!!」
「ちょっと待て下手に魔力を流すのはっ!!」
クラウは手に魔力を漲らせると、撃ち込むように壁を平手で叩いた。すると、手から放たれた青白い魔力の奔流は、まるで光を吸い込むように壁の中へ吸い込まれていく。瞬間、何処からか凄まじい突風が周囲で巻き起こり、自分達を襲う。
結界の内側である以上、風など巻き起こりようがないのに。
風が吹き荒れる中、クラウの叫び声が聞こえる。セドリアは堪えながら微かに目を開けると、彼女の手が壁に減り込んでいくのが見えた。脈打ち水面が如く揺れる壁面、そこから無数の黒い触手が巻きつき始めている。さながら、柔らかいスライムのようだと思った。
「うぉ、あっ、あっ、吸われるぅう!!」
「早く手を離っ」
「クラウ!?」
「ぬぉおお」
グレイダーツはクラウの腕を掴み引き離そうとし、セドリアは吹き飛ばされそうになる前に彼女の服を掴む。ヴァルディアは、腰に腕を回して引き離そうとした。
だが風が背中を押すように吹いたその時、クラウを含め取り巻く4人全員が浮遊感を感じ……視界は暗闇に包まれる。その中で、ヴァルディアだけが無機質な声を確かに聞いた。
『……顔料には触れるな。彼、彼女らを理解しようとするな』
(……忠告?)
考える間はなく、ヴァルディアの意識は暗闇に飲み込まれる。




