後話 HUNTING NIGHTMARE④
すみません、ガンプラ作りながら刀語とアマゾンズとニコニコ見ながら古戦場走ってました(投稿遅れた言い訳)
パニックになったレイアが《剣》を召喚して《西洋甲冑》に刺突をかます。突如動き出した西洋甲冑は、慌てたような動きでギリギリ避けると叫ぶように言う。
「あぶな!? まってくれんか!? 私も混乱しとるんや、ちーとばかし話させい!!」
「うわぁぁぁあ」
それでも剣を振り自分の召喚した甲冑の首を落とそうとする彼女を、ダルクは背後から羽交い締めにして止める。
「ちょっと落ち着け!!」
「離して!! 僕は幽霊の存在を否定しなければならないんだッ!!」
「もぉお!! リアっちも手伝え!!」
言われてリアは、オロオロしている西洋甲冑の脛に足を掛けると、転ばせた。「ガシャァン!!」と大きな音が鳴り響き、「はうぁべッ!?」と驚きの大声が聞こえる。
「うわ、なに……?」
そのおかげで一先ずレイアの暴走が止まった。
………………
「でも、幽霊だよね? だって僕、ただの鎧召喚しただけだよ。擬似生命なんてインストールしてない。空っぽの鎧なんだよ? というかやけに訛りのある言葉遣いじゃん。僕、あんな喋り方無理だよ出来ないよ。って事は、やっぱ幽霊ってことになるよね?」
「落ち着いて、大丈夫だから。《結界魔法》なら幽霊からも身を守れるから」
「本当? 本当だね?」
「大丈夫だから、大丈夫」
ガクガクと震えながらリアの右肩辺りに縋り付くレイア。本当に幽霊とかホラーが嫌いなんだなぁと可愛らしい一面にほっこりしているリアを他所に、ダルクは起き上がろうとしている西洋甲冑に単刀直入に問いかける。
「その声と喋り方から察するに、あんたの名前は『セドリア・カルセス』か?」
「カルセス……あっ、ハーディス先生の家名?」
リアの呟きについで、西洋甲冑は片手で頭を押さえながら返した。
「そうやけど……。確かに私はセドリア・カルセスで合ってるし、娘の名前はハーディスやけど、なんで知って……いや、なんや複雑な気分やけど、いろいろと察しはつくな」
「……行方不明者発見と。で、セドリアさん貴方、死んだ筈ですよね? 今の現状やら状況の説明って出来ます?」
「現状は私も訳わからん……でもなんとなく自分は幽霊的なサムシングやって事は、なんとなく心で理解出来た」
ビクッとなるレイアをどうどうとリアが押さえる。その間にダルクは次いで、若干急ぎ気味に質問した。
「OK、じゃあ今最も最優先の事をしようじゃないか。あんたここから出る方法分かる? 長居するような……いや、長居して良いような場所じゃないと思うんだ」
「知らん」
「だよなぁ……。入ってきたドアは開かないし」
「ちょいまち、ドアから来たんか?」
「……ドアってか《門》の扉からだけど。それが?」
「それ、何処に繋がってる?」
「あんたの家、海静魄楽神社の御神体が祀ってあった宮」
「……なるほど、あそこか」
甲冑は座り込み考えるような仕草をしながら、ぶつぶつと呟き始める。
「あの歴史書の魔法が門やとして。封印の神殿が此処ならあるいは。いや、神殿……檻が崩れる事なく健在しているなら、主が必要な筈。それは、希望的観測だけど、今の主は私か? でも魔法が……いや、まて。この身体、召喚魔法で出来てるから魔力に満ちてる? 干渉できるか、やってみよか……。よしっ、そこの白髪の娘ナイスやでホンマ!! ありがとうな!! あとピンクブロンド髪の君ぃ、突破口見つかったかもしれんわ」
「おー? んじゃ頼みますわ。あと私はダルクって名前でーす、よろしく」
「OKやでダルク。じゃ扉に行こか」
西洋甲冑、否ハーディスの母であろうセドリアはそう言うと扉の前に移動して両手をついた。すると、先ほどまで鉄壁のように動く事がなかった扉に、光の亀裂が入る。それは徐々に広がり、最後には爆発するように、空間を包む勢いで広がった。
だいたい、セドリア以外の全員が心の中で「何の光ィ!?」と叫ぶ中、強烈な酩酊感と共に世界が暗転した。
………………
「海底神殿、もとい封印の『檻』の対象、この場合は御神体の半身がそれに当たる。でも、それを君らが倒して、混ざっていた幽霊的存在の私が成り代わった。同時に『檻』に介入できるようになった結果、あの海底神殿の崩壊と同時に宮の魔法が起動し、通路となったここへ強制的に返還される。
ま、なんで幽霊になれたんやろ? とか、なんかご都合主義多くね? とか思わなくもないけども……帰ってこれて、しかも宮内なら幽霊状態で顕現できるみたいやし、まぁ万事、上手く事が運んで万々歳、ハッピーエンドやな!!」
宮の中で胡座を掻いて座る細めの初老の女性は、半透明の助けた衣服を確認しつつ、ケラケラと笑う。召喚された《西洋甲冑》はどうやら、此処に戻るための魔力としてつかわれたらしい。
それから時々、宮の壁に刻まれた魔法陣に淡い光が走るのが見える。どうやら宮自体が『幽霊を顕現させる魔法陣』として機能しているらしい。
いや、本当のところどうなのかは知らないが……とリアが思っていると、当人は気楽そうな顔でこちらに細い目線を向け心配そうに聞いてくる。
「ところで、白髪の娘……レイアちゃんやっけか? 気絶してもうたけど大丈夫なんか?」
「……さぁ? でも起こさない方がいいでしょうね」
「せやなー、私の見た目完全に幽霊やしな」
本当に幽霊が居るという現実を目の当たりにしたレイアは、リアにしがみついたまま気絶するように意識を失ってしまった。そんな彼女に膝枕をしながら、事が複雑すぎて半ば思考を放棄したリアは溜息を吐いた。
レイアの顔色は若干悪く、悪夢に魘されるように寝息が荒い。そんな彼女の髪を撫でながら、リアは口を開く。
「……幽霊で納得していいのかな」
ライラに見せれば「非科学的だ、実験させろ」とでも言いそうだ。逆にティオは幽霊という存在がどういう構成なのか物理的に調べてくるか、あるいはレイアと同じく恐れるか、そのどちらかだろう。
リアは普通に幽霊の存在は信じるので問題無いと言えば無い。
「……私に言われても困るがなぁ。ところでさっきからやけに外騒がしいし、君ら浴衣着てるしで……祭りかなんかやってんの? あとダルクちゃんはなんか戻った途端に出てったけど」
「先輩の行動は読めないんで分からないですけど、多分戻ってくるとは思います。あと今日は……祭りの日で合ってますよ」
その時、低く響くような爆音が空に轟き、色鮮やかな火の花を咲かせた。
やっぱり、花火の時間には間に合わなかったかと落胆する。が、しかし宮からでも見えるくらい大きく、そして綺麗な花火であり、空と地を明るく照らしては消えていく。
そんな花火をセドリアは懐かしそうに眺めながら。
「……大祓の祭りか。そうか、そうか。なんか偶然とは思えないタイミングと幸運やな。取り敢えず、薬師如来さんに拝んどこ、奇跡をありがとう」
そう言うと、彼女は今の本殿がある方向を向いて手を合わせる。幽霊が手を合わせ感謝する光景は、誰がどう見ても……。
「幽霊が仏像に拝むのは、なんかシュールっすね」
「はっは、私も拝んでから思うたわ」
邪気ゼロなセドリアの笑みに、リアも自然と口元を緩ませる。
なにはともあれ。一つの街が脅威から救われ、犠牲となった人は幽霊だが戻って来れた。
自分達に大きな怪我などはなく、寧ろ戦闘においては良い経験になった。
彼女が言う通り、結果が良ければ全て良しだとリアは思いながら、火花の舞い散る空を見上げた。
………………
その後の話、ダルク先輩はどうやら神楽を終えたハーディス先生を呼びに行っていたらしく、幽霊としてだが親娘は再会する事が出来た。何を会話したのか、と言えばハーディス先生の一方的な愚痴の嵐と「まぁ、別れの挨拶くらいは出来そうでよかったよ」という少しデレの入った台詞くらいである。
そうして十数分後、ハーディス先生は仕事の為に戻って行った。
……さて、本当に、運良く事が運び全てが解決した。過程はどうであれ、結果は最良である。
ならば……あとは、何故か俺の命か体を狙っている『ヴァルディア』について問うだけだ。
っていうより、本当に何で狙われているのか意味が分からないのが最高に不気味で仕方がない。元男だからとかなら分かるが、レイアも狙われている点を見るに違うだろう。
なら、英雄の弟子を殺す為? しかしそれならば最初学園に侵入させたスライムの時点で達成出来た筈である。
だから、当時のヴァルディアを知れる絶好のこの機会、逃す手はない。
そう考えて、リアはグッと拳を握った。
それと……後でバレるかもしれないが、日記を読んだ事は内緒にしておこうと思う。




