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後話 HUNTING NIGHTMARE②


 先を暗闇が満たす《門》を通った瞬間、ほのかに柔らかい風のような空気の圧が抜けていく。そして、足をついた場所は……まるで海の底であった。


 光源は何か分からないが、天辺から注ぐ光の渦が辺りを照らし、膜のようなモノで遮られた先には、水中を泳ぐ魚や揺れる海藻などが見える。

 それだけならば『幻想的』で済む話なのだが、何故かまるで水槽に落とされたような、閉塞感のある不気味さがあった。


 そして空気のある内側。自分達がいる場所は、まるで西洋……古代の神殿のような建造が成されている。開けた空間に等間隔に聳え立つ白い石柱には、隙間無くヒエログリフに似た謎の絵文字や絵が描かれており、まぁ、きっと、恐らく、とても重要で、文化財的に凄いんだろうなぁと感じる神聖さがあった。


 と、場面説明的なのはここまでにして。


 ぶっちゃけた話、そんな景色を超越してヤバそうな物体が奥の方に鎮座していた。


 一目にした時、それはまさに『蠢く闇』のようだと思った。

 影を切り取ったかのような約50フィートもある巨大な粘液体は、形状がスライムに似てはいるが、根本的に違う存在だと察した。魔物とは思えない禍々しさを感じるからだ。表面は脈打ち気泡を浮かべては潰れ、光の加減で玉虫色の光沢を放つ。


 畏怖してしまう程の存在を目にした3人は、若干の頭痛を感じながらも、顔をつきあわせてコソコソと会話する。


「アイツと無関係で帰れると思う?」

「どう考えても無理でしょ……さっきから《門》の扉開かねぇーし」

「マジ?」


 横にある黒い扉の取手をガチャガチャとしながら返したリア。それに対してレイアも意見を出す。


「干渉しようとしたけど、どうやら擬似4次元空間自体が無いね」

「次元系は意味分からんから、一文で」

「退路無し」

「分かりやすいな。そんでもって、戦わなきゃいけない流れかコレ」

「俺は魔力結構回復したんで行けますよ?」

「私は戦闘タイプじゃねぇんだよなぁ……」


 リアのいける発言に呆れたような返事をしたダルクは、脳裏に魔導書の内容を思い浮かべる。


(《謁見の門》で此処に来たし、まぁ何か居る可能性は考えていたけど。アレは魔物で良いのか? ここ数日、魔物のようでどこか違うナマモノばっか見てきたからなぁ)


 ダルクの考える戦闘は常に安全で最適な方法である。だからこそ、以前ブリッジをしながら向かってくる女の幽霊のような不確定要素に対しては、結構奥手になってしまうのだ。

 しかし、同時に不確定とは自身で道を切り開くしかないとも言えるわけで。要は、なるようになれ……考えても無駄という事。いつものことである。


「めんどくせぇな」


 そんな彼女の憂いと比例するように、目の前の念液体が脈打った。『澱み』とは違い、此方は余程、スライムに違い動き方をしている。


 そして、動きを見ていた時である。強烈な浮遊感と共に、視界がブレ、音が一瞬消えた。


 ダルクは戦闘向きで無いと自覚している通り、策は練れるがリアやレイアのような武道系の直感力や第六感などは持ち合わせておらず……気がつけば、リアに抱えられて少し高い場所の結界に乗っていた。


「レイア、あいつ遠距離攻撃してくるタイプだぜ」

「だね。でも、弾幕が来る事を懸念して《縮地》で飛んだは良いけど、これなら結界で防いだ方が良かったかも」

「そうだな」


 なんの話してんのお前らとダルクは思った。あと、浴衣でよく《縮地》なんて出来るなと思いながら口を開く。


「説明をおくれ」

「……? 攻撃されたから避けただけですけど」

「なんで反応できんのお前ら怖ぇよ。でも助けてくれてありがと!!」


 ダルクは内心でビビり倒しながら、小さい声で「そろそろ降ろして?」とリアに囁く。


「……よっと、大丈夫ですか先輩?」

「大丈夫……なんでこうも色々巻き込まれんだろうな今日は。浴衣、汚れる前に帰りたい。あと、お姫様抱っことかされたの初めてだわ」

「そうなんですか? 良かったですね?」

「私の初めて奪ったんだから、責任とってよね!!」

「キモい台詞言わないでください」

「……私もキモいと思った」


 ダルクは、そこはかとなく疲れた顔で言った。さしもの彼女も、流石に相次ぐ急展開に辟易しているらしい。しかしだからと言って何もしないつもりはない。

 ふいに風船の捻れるような音が響き、彼女の前方に大きな長方形の筒が落ちる。それは、魔導機動隊でも持ち歩かねぇし、むしろ何処で売ってるの? と聞きたくなる火器……M202(4砲塔のロケラン)だった。


 それを肩に担ぎ、自分の悪運に対しシニカルな笑みを浮かべながら言う。


「んじゃま、やるか」

「うぃっす」

「そうだね」


 疲れと疲労と楽しみの花火に遅れそうな現状に若干苛立ちながら、戦意増し増しで、本日2度目の戦いが始まろうとしている。


 同時にリアは(厄介ごとに巻き込まれてる時に急ぐと、碌な事態にならねぇな)と一つ教訓を得るのだった。


 そして、ダルクの担ぐミサイルが火を噴いた事で戦いの幕が上がる。

 爆音と共に飛来する弾頭を目掛け、念液体が迎撃の為に高速で球を飛ばすも、近くで爆発を起こして大きく揺らいだ。


 若干の蒸気を発しつつ、揺らぐ粘液体は『シャラ、シャラ』と鈴に似た音を立て……ブチギレたのか、視界を埋め尽くす程の弾幕を、リア達のいる場所に向けて放つのだった。


…………………


 《結界壁》で飛んでくる球から身を守る。結界に阻まれた球はぶつかると弾け、コールタールのようにどろりと粘り付いた。貫通はせず、結界が解けることも無い。案外、普通に防げた事に拍子抜けしながらも、次の問題点をあげた。


「視覚を塞がれるのは不味い、どうする?」

「私を戦力として数えないでくれよ? 精々、銃火器ぶっ放すくらいしか攻撃手段持ってないんだから」

「僕も、リアと違って本体の自分自身は貧弱だし……」

「いやいやいや、さっきの攻撃に反応できる時点でおかしいから!!」


 ダルクはツッコミながらも隙を見て、担いでいたM202を結界の影から全発射する。ロケランの衝撃や反動を魔力で相殺しているあたり、彼女も大概、凄い。


 そんなダルクを横目に見ながら、リアは右手から肘まで《境界線の狩籠手》を纏うと、軽く屈伸して体を伸ばし、握り拳を作る。


「……体積少ねぇし、突っ込んで殴ってくるわ」

「援護はいるかい? 今回ばっかりは僕は戦力にならないけど、軽い露払いくらいなら出来そうだけど?」

「大丈夫、殴って吹っ飛ばせば倒せるでしょ。それよりも……レイアは魔力を温存しておいてほしい。あとは、できたら《門》が作れるか試してくれ」

「ま、そうなるよね。了解だ任せてくれよ」


 リアは無言で最初に通ってきた《門》の真正面全体に結界を張り、レイアはロケランを撃ち尽くして満足げな顔をしていたダルクを素早く姫抱っこして離脱した。


「ひとこと言ってからやれよォ!!」


 そんな怒りの声が聞こえた気がしたが無視して。リアは気持ちを入れ替えた。ギルグリアをぶん殴る時(修業)と同じ、本気モードである。


 まぁ、故に大々的な演出がなされた謎のフィールドと粘液体との激しく劇的な戦闘……なんてものは無く、終幕は一瞬であった。


 リアはその場から《縮地》で横に飛び退き、空中に《結界壁》を張ってから再び《縮地》で飛ぶ。瞬き一つとも言える時間の中で何十回もの跳躍し、最後の着地で大きく体を捻り《一刀睦月》を放つ。飛び散る弾幕は手刀により生じた衝撃波に吹き飛ばされ、斬撃そのものは念液体を縦から真っ二つに切り裂いた。そこから接続、《結界の大槌》で上から衝撃を加え、左右から《結界壁》で挟み逃げ場を無くす。


 そしてリアは、足を突き刺す勢いで、粘液体の真正面に着地する。


 レイアならば反応出来たであろう一瞬の近接。

 そしてリアは着地点から強く踏み込み、籠手を纏う右手で掌底の型を作ると打ち放った。


「《葉月華掌》ッ!!」


 繰り出されるのは、広範囲を衝撃波で吹き飛ばす威力の掌底。

 衝撃の奔流は上下左右に張られた結界を破壊しながら、粘液体を塵のように吹き飛ばした。そして四方八方に飛び散りながら後方に吹き飛び体積を減らすと、何度か脈動した後、静かに泡を立て蒸発するように消える。


 一撃で葬れた事に満足したリアは、籠手をそっと撫で《境界線の狩籠手》を解いた。


「ふ──っ」


 別に見てる人はいないのだが(なんか今の俺、めっちゃ格好良かったのでは)と、若干興奮気味のリアは、目を閉じて優雅に方向転換して歩き出す。その2歩目くらいの時である。


 何かが片足首を掴んだ。

 慢心増し増しのリアは勿論、受け身なんて取れる状態ではなく。


「ぐべっ」


 バランスを崩して、盛大に転び、床と熱いキスをした。

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― 新着の感想 ―
[一言] だるくさんに一番似合わなそうな( ˘ω˘ ) >> M202 どこで使い方を習った(cv.玄田哲章)
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