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後話 HUNTING NIGHTMARE ①


 夕暮れ時になると静かな港町が一変し、人々の喧騒と熱気が溢れてくる。外に繰り出せば屋台から漂う芳しい香りが食欲を誘い、出店には人が集って談笑している。

 何処か違う世界にいるような、そんな感覚に包まれるような光景にリアは目を輝かせて……いたのだが。


 30分で疲れた。


 元々ぼっちだったが故に、人混みは苦手であり、更に他のメンツが美少女なのも相まって鬱陶しい程にナンパ男が寄ってくる。時にはしつこい連中に絡まれ、半ギレしたリアが5時間程、効力の続く結界で閉じ込めるなんてイベントも起きた。もちろん解除せずに放置である。


 あと、屋台に対する期待値が異常に高かったのも仇になった。ぶっちゃけ言えば、屋台で出る食べ物は雰囲気を楽しむ為にあるのだと思い知ったのだ。


 かき氷は……削った氷に蜜をかければ家でも食える。たこ焼きは生地が生焼けであり、焼きそばは油の入れ過ぎでギトギトである。これがダルクの奢りで無ければ、再びリアは半ギレし「店を貸せ、俺が作るッ」くらいは言っていただろう。店側からすれば面倒なクレーマーだ。


 そんな訳で、リアの「疲れた」の一言で半ば解散気味となり。

 花火はライラ宅の屋上から見えるらしく、時間までは分かれて自由行動と相成った。


 同じくライラの家に帰らなかったのは、ハーディスが舞うらしい恒例の神楽が見たかったからだ。が、やはり人の波が凄まじく、結果夜の闇に紛れて《結界魔法》で高台を作りそこから観覧した。


 神楽の感想は……言葉にするならば、ただただ綺麗であった。

 ハーディスは神楽用の袖が長い巫女服を着て、あの常にかったるそうにしている姿からは想像できない程にキレのある動きで舞を披露する。両手に持つ扇子は、刀のように鋭く、祭り提灯のライトが美しい影を作る。


 素人目に見てもそう感じるくらいなのだから、勿論のこと周りの熱狂は凄い。成る程、花火や神社の知名度もあるが、神楽目当ての人が多いのだと知った。


 これならば……神への祈祷の為の神楽であるが、ハーディスの舞にも御利益が宿っていそうだと思えた。


 ので、リアも周囲に倣って健康を願っておいた。


 本当に、効果があったかもしれないと感謝するのは、そう遠くない未来の事である。


………………


「いやぁ、残って良かった」

「だね、僕も帰らなくて正解だった」

「特等席で見れたもんな」


 満足そうに、リア、レイア、ダルクは神社の活気ある場所から離れて雑木林の近くを歩く。人の活気は神楽が終わっても途切れておらず、恐らくは日を跨いでも続くのであろう事が窺える。


 ……さて、祭りのメインイベントを楽しんでもまだ帰らなかった理由ではあるが、簡潔に纏めるならばレイアがオクタくんが元々納められていた宮を見たいと言ったからだ。


 そして、リアもダルクもそれには即結賛成であった。どんなにレイアが信用していようとも、どんなに手を貸してくれる存在であろうとも、オクタという魔物とは違う軟体生物が不気味な事に変わりはないからだ。


 そういった理由から再び不法侵入を行い、やって来た離れの宮。元御神体を祀っていた場所。


 開けているお陰か、月の光に照らされた宮周りは、異様な程に明るい。しかし、別段夜目に強い訳でもないので、文明の利器である携帯端末のライトに頼りながら宮の扉を開けた。


 扉を開けば、昼と変わらず、シンと虫の声すら掻き消える。不気味な静寂の中に佇む空間は、録画の仕掛けが焼けた煤の匂いがほんのりと香っていた。


 そんな空間内を照らした時だ。レイアとリアは「ん?」と、既視感を感じた。誰も知らないはずの、文字の仕掛けにだ。


 そして、既視感は直ぐに1つの魔法を思い浮かべた。


「《門》の、旧くて初歩的な方? の魔法陣に似てないか?」

「正確には4次元空間の出入り口を安定させる扉だね。空間固定の術式とも言えるかな?」

「それだ、確かに4次元空間の出口を固定する為に覚える魔法陣に似て……え、なんでそんなもんがここに?」

「……オクタくんが祀られていたんだよね?」


 リアとレイアの視線を受けたダルク。(やっぱ、普通の映像記録だけではなかったか)と考えつつも……流石に首を傾けた。


「私に聞かれてもな。第一《門》の魔法なんざ詳しくねーし。けど似てるってんなら何処かに繋がってるのか?」

「どうだろう……? 試してみないことには……」


 そこで、ふとレイアが壁に触れていつも《門》を開く時と同じように魔力を流した。魔力は焦げた魔法陣の軌跡を辿り青白く光り始める。リアもダルクも、レイアが魔力を流しているだけで直ぐに消えるのだろうと思い眺めていると……突然であった。


 「ガァン!!」と何かの強い力によって宮の扉が閉じる。同時に「ぎゅおん」という風船を捻るような異音が響き、ダルクの足元に1冊の本が……あの澱みから出てきた魔導書が落ちた。《鍵箱》に収納していた魔導書が勝手に出てきたのだ。


「「「……え?」」」


 この時、三者三様、別の事に気が向いていた。

 リアは閉じた宮の壁に《結界魔法》の力を感じた事を。

 レイアは、焼けた筈の魔法陣が再起動している事に。

 ダルクは《鍵箱》を開いていないにも関わらず、勝手に本が落ちた事に驚いた。


…………………


 取り敢えず、閉じ込められたという事実だけは即座に理解した3人は、中央で胡座をかいて座り話し合いを始めた。


「もう1度聞くけどリア、この結界を紐解くか、もしくは《解呪》するのは無理なんだよね?」

「……《結界魔法》ってのは本来、『壁を作る』っていうよりは『拒絶の空間』を作る魔法なんだよ。まぁ要するに隔たりという概念に強く作用するんだ」

「専門的に言われても分かんねーから結論」

「『拒絶の意思』が強すぎる。言うなれば《結界壁》の数倍の強度だ。まさか、魔力すら通らないとは思わなかった。これじゃ《境界線の狩籠手》での破壊も無意味だと思う」

「魔力が通らないっていうなら……《門》も無理か」

「つまり八方塞がり……じゃあ、恐らく大ヒントであろうコイツに頼るしかねーって事か……」


 ダルクは魔導書を中央に置く。

 事前に、この魔導書がどういう物かを聞いた2人は、取り敢えず見守る事にした。

 彼女は背を床に、無造作に手を離す。すると、パラパラとページが左右に分かれて、1つの魔法が記されたページに行き着いた。


 結果的に適当に開いた事になるそのページには、幾つかの呪文……今で言う詠唱や魔法文字の古き系譜のモノが記されていた。


 驚くべき……いいや、必然か確定した運命なのか。ここにおいて最も欲しい情報と魔法……そして、誰かの残したメモを目の当たりにする。


『《旧き海神の招来》

 ・贄を代償に海の幸を齎す、海の旧い支配者を呼び寄せる。


 《檻の神殿》

 ・旧き支配者の祭殿。及び、神殿の外へ狂気が蔓延しないようにする為の蓋。彼の神性の住居となる。しかし神性持つモノの隔離に用いる場合は、時が経つほどに、狂気の『澱み』が溜まっていく。厄祓いは、純粋な人々の祈りにより為される。


 《絡繰の夢》

 ・旧き神性が外界に及ぼす、魂への無差別な干渉。古来より神殿に引き込んでは、生者に暇潰しを要求する。この魔法を知る者は、神性と話す権利と精神力を一時的に得る。


 《謁見の門》

 ・移動魔法。


 狂気とは、全ての人が持ち得るモノである。つまり余りにも超越した存在と対面した時、人という矮小な存在では精神が耐えられず、潰される。だから魔法に、魔術に頼る他ないのだ。

 しかし、誰しもが魔法の力を持つ訳ではない。義務教育というものが漸く、蔓延し始めたこのご時世である。万人に教えるなど不可能だ。


 ならば人を動かせば共考えた。しかし、繁栄したこの港町を捨てれば、彼らが生きる為の貨幣を稼ぐ術が無くなる。


 だから、だから私は……海の神から狂気と器を隔離した。元々、彼らと言う旧き神は明確な意思を持たないらしく、難しい問題ではなかった。まぁ、だからといって簡単だった訳ではない。簡単ではないのだ。そうして、私は封じる事に決めた。


 仲間と、私の命の奔流をこの魔導書に吹き込み、元々神性が持っていた『狂気』と人々の『澱み』を暗い海の底へ、沈める。海は全てを飲み込み、軈てこの忌まわしき歴史を暗闇の中に消してくれる。


 そう願う。そして、いつしか海の神に精神が宿ったその時、我々の味方である事を祈ろう』


 ツラツラと読み上げたダルクは首に手を回し


「……神話みてぇな話になってきたな?」

「僕も神話みたいだと思う」

「仮にだよ? 神話って決めつけちまうとオクタくんの存在がさ?」

「SAN値チェック入りそうな存在かもしれないって事?」

「1番的確な例えだな」

「……」


 けらけらと笑いながら喋るダルクとは対照的に、レイアはどこか気難しく眉根を寄せた。


……………


 神殿が想像の数倍ヤベー建物で、オクタくんが神話レベルのスゲー存在って事が分かった。

 だけど、真面目な話だからどうするんだといったところで。

 この謎の幽閉状況の打破には至らずに困り果てる。


 そう、この幽閉を打破を……ここから神社に戻る事はできない。

 しかし、出られない訳ではない。


 つまるところ、ここではない何処かには出られるかもしれない魔法がひとつだけあるのだ。


 魔導書の説明文がめちゃくちゃ短い《謁見の門》という魔法が。


 それも、どうやらこの宮の魔法陣を流用、基点にして魔力と詠唱のみで《門》を作れるようだ。


 そう《門》の創造が出来ない人間でも作れるからこそ……今目の前に、黒々と漆黒の扉が鎮座していた。


「常々思ってたけど、先輩さぁ……もうちょっと危機感もとう?」

「本気で行く気ですか? 正直、不気味すぎて僕は行きたくないんだけど」

「仕方ねーだろー。これ以外に突破口思いつかねーんだし。それに取り敢えず行って、ヤバそうだったら引き返せばいいじゃん」

「その時に《門》が開いてればいいですけどねー」

「宮の魔法陣頼りだからね……。流石の僕も、この魔法陣に介入は出来ないし」


 そうして渋る2人の首元にダルクはそっと手を伸ばすと、襟首の布を掴み。


「覚悟決めて、行くぞッ!!」

「まっ!?」

「ちょ!?」


 《門》の扉を蹴り開き、2人を引き摺り込みながら突撃した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 仮にも謁見の門と名前の付いた門を蹴り開けるwww
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