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後談2


 先輩もレイアも、自分が元男だと知ったらどんな反応をするのだろうか。そんな好奇心が湧いたものの、流石にぶっ込む気にはならなかったので口を閉ざす。

 けれど、実際どんな反応をするのかは少し気になる、というのは本音だ。


 まぁ、そんなこんなで……別段みんなとお風呂に入ったとしてもキャッキャウフフな事をするようなメンバーではない為か、各々身体が芯まで温まった段階で風呂を出ていく。

 その中でもリアは1番手であった。いや、この際別に濁す必要は無い……ハッキリ言うといたたまれない空気に耐えかねたからである。主に2人のせいだ。


「デカくても、いい事なんてないのになぁ」


 脇の下の筋肉を揉みながら呟いた。ぶっちゃけ動きまくった後はココらへんの筋肉が特に凝る。次いで肩。

 元々男であったリアからすれば、全員がそうで無いにしても……女性が大きな胸を求める事が解せなかった。


………………


 他のメンバーが風呂に入っている間に、リアは回収した日記の続きを読む事に……しようと思ったのだが。


「ん?」


 2枚のページの四方が、ノリのようなモノで固定されている事に気がついた。まるで袋とじのように。


「……」


 日記に書いてある事は、特に重要そうでは無い日常の内容である。

 ならば……。開けてみよう。

 他人の物だが、ここまで読んでおいて今更、袋とじを開ける事を躊躇いはしない。あと、弁明しておくが好奇心が勝った訳では無い事を強く明言しておこう。


 もしかしたら、この先に……モヤモヤとした心残りへの手掛かりが見つかるかもしれない。そんな思いから、リアはページの破損を極力少なく、端からチリチリと千切っていく。そうして3分の2くらいまで開けた時だ。袋とじの中から、折り畳まれたメモ用紙が滑り出る。


 リアはメモ用紙を手に取ると、無言で開き読み進めた。


………………


『・調査報告書

 悪夢について:多くは『浜辺にて、蛸に似た黒く大きな影に襲われる』といった内容である。

 しかし、過去において奇妙な伝承が残っているのを発見。曰く『水底の神殿で、蛸に似た人型から、夜通し会話や演劇、踊りなどを要求される』といった。


 ・巨大な蛸の伝承

 南に存在する陸地の岩盤に描かれた、紀元前よりも年代が前の地盤に……神殿と蛸を思わせる壁画があった。現地人曰く、海からの恵みと悪夢を等価交換してくれる存在であり、不作であった当時の人々が『神』として崇めていたのだとか。


 ・悪夢は=神殿なのではないか?

 ・海に潜む存在は、神殿のシステムに無理に組み込まれているだけなのでは?


 この港町に残っている記録を見るに、神殿を0から作り始めたとは思えない。

 となると、基盤となる建造物を作った存在がいるのでは?

 ……なにより、海底の地層年齢と半分埋もれた神殿との間には、材質や装飾全てに年代の開きが見て取れた。

 1番あり得ないと思っていた可能性を考えるべきかもしれない。


 ……御神体について、もっと有力な情報が欲しいものだ。この御神体がもし……旧き住人だったなら。この港町に狂気が溢れるかもしれない』


 リアは読み終えると、丁寧に折り畳みノートに直す。それから、少し物思いにふけた。


(……夢か。そういえば、悪夢については結局、原因は分からなかったな。原因。あれ、もしかして、まだ終わってない?)


 単純な話、神殿は確認できてはいない。それが1番の気がかりではあった。それに、この港町で一定の期間に見られる悪夢と繋がりは……あるのだろう。そうなると、もしかしたら……。


(先生のお母さんの現状……少なくとも生死の判明は出来るかもしれないな。あと、オクタくんの経歴も)


 ぶっちゃけ魔物でないなら、オクタくんは謎生物すぎる。敵ではないと分かっていても、大切な友人の側に謎生物がいるというのは、やはり不安に感じるものだ。


 そんなこんなでモヤモヤとしている間に時間は流れ、やがて皆が風呂から出てくる声が聞こえる。リアはそこで一旦、ノートを閉じた。


(……にしても、旧き住人って何……怖いんだけど。やめてくれよ)


 リアは神に祈らないが、しかし幽霊などの科学では証明し切れていない存在を信じていない訳ではない。ぶっちゃけお化けはいると思っており、普通の一般人と同じ程度に恐怖心はある。


 そのためか……この『旧き住人』という単語が気になって仕方がない。しかし考えたところでとどうにかなる訳ではない為に、取り敢えず頭の片隅へと追いやるのだった。


……………


「脱げ」

「なんで?」


 風呂から出てきたライラに開口一番で脱げと言われるリア。意味が分からないと抗議していると、前からやってきたレイアにガッシリと組み付かれた。


「えっ、え?」

「観念するんだ」

「ちょっと先輩!! Tシャツ引っ張らないで……レイアも脱がそうとすんな!! こらっ、うごこ!!」


 無理矢理振り払う事も出来なくはないが、性根が平和主義なリアにとって、まずそんな選択肢が出てこなかった。

 そうして、なすがままに無駄な抵抗をしている間に、Tシャツだけでなく履いていたズボンまで剥ぎ取られてしまう。

 下着だけの姿となったリア。そんな彼女の身体を調べるように、2人の少女は撫で回した。


「リアの肌スベスベ……」

「日焼けしてねぇしシミもない、羨ましいなオイ」

「あ、やっぱり柔らかい……でも形も良くてハリもあるのがなんか腹立つ……」

「腕と足の筋肉は、結構しなやかだな」

「ずるくない? ねぇねぇ」

「中々鍛えているようだな、アスリート体型だぞ」

「やーめーてー!!」


 流石に恥ずかしくなったリアは、身体を両腕で抱きしめ、飛び退くように場を離れる。それから、半眼で抗議の視線を向けた。


「目的はなんですか!? 納得いく説明を期待していいんですよね!?」

「……なに、着付けてやろうと思ってな」

「着付け? 浴衣のですか?」

「そうだ、しかし……その為には体のサイズを確かめないといけなくてな」

「それならそうと言ってくれれば良いのに。って、いやでも、服を剥ぐ必要はないですよね!?」

「うん、ないな」

「えぇ……」


 悪びれる様子もなく、キッパリと断言するライラに、困惑の表情で軽く引くリア。そこに、同じくリアを脱がしたレイアが会話にエントリーしてくる。


「まぁ、まってまって。一応理由はあるんだ」

「へぇ?」

「実はね、浴衣を綺麗に着こなすには、ある一点が邪魔になる事があるんだよ……」

「……」


 何か嫌な気配を察したリアだったが、レイアの行動の方が早かった。


「その無駄に大きな胸だよ!! というわけで、今からブラの代わりにサラシを巻こうと思う」

「どういうわけだよ!?」

「さっきレイアが説明したろ? 浴衣を綺麗に着こなす為には、胸は押さえたほうが良いんだ。スラッと見えるから……まっ、貧乳の我々は必要ないがなァ!!」

「絶対、私怨でやってるよね!? ちょお!! やめっ……」


 ブラまで奪われたリアは両手を胸元でクロスさせて恥部を隠しながら、顔真っ赤でつぶやく。


「なんか色々と汚された気分だ。レイアなんか性格変わったの? ってくらいアグレッシブになってるし……」

「女子なんて3日有れば性格なんて変わるもんさ」


 ドッと疲れたリアはもう、流れに身を任せることに決めた。

 ただ……女性とのスキンシップでここまで疲れたのは初めてだったので、少々新鮮ではあった。


…………………


 ミイラのように包帯でぐるぐる巻きにされるのかと思いきや、レイアとライラは包帯を、胸が苦しくならない適度な強さで巻いて行った。以前サラシを巻くのに失敗した自分とは大違いである。

 ……どこでそんな技能を身につけたのか気になったが、流石に聞かなかった。特にに、レイアの方はかなり拗らせている感じがしたので絶対に言ってはいけない。


 それから、自分に合わせて用意してくれたらしい紺色の浴衣に着替える。帯はライラが巻いてくれた。

 そんなこんなで着替え終え、鏡の前に立てば、しっかり着物を着こなす自分の姿が写り、これまた新鮮な気分になった。


 流石に、ここまで良くして貰えば文句など言えない。


 にしても……結構似合っていて驚きである。前までは女装をしているようで女物の着衣にかなり拒否反応があったものだが、最近その辺の感覚が死に始めていた。そのせいもあって、女物の服をコスプレ感覚で楽しめるようになっていた。

 つまりは、男ならば一夏の思い出作りに誘いたい程度には、今の自分は綺麗だったと言えよう。


(やっぱ……『女の子を楽しみ始めている』よなぁ)


 口調も性格も変わらない。しかし、そんな変化を受け入れつつある。着飾って遊ぶ事を、楽しいと感じている。そんな自分に、思わず苦笑していると。


「よぉ……」


 くたびれた様子のダルクがおぶさる形で腕をまわし、肩に顎を置いた。背後に視線を向ければ、桜柄の綺麗な着物が見える。


「リアっちだけだと傍観してたら、私にまでサラシ巻きに来やがったぜ。全く……」

「着物貸して貰えたんだし良いじゃないっすか」

「そうだけど……」

「寧ろ、好意的に構われたんだし……先輩としては嬉しいのでは?」

「……察しの良い後輩は嫌いだぜ?」


 そう言う彼女の口元は、ほんのり綻んでいた。口ではどうこう言っても、嬉しかった事に変わりはないらしい。


…………………


 レイアと先輩2人が仲良く着付けをしている中、髪を櫛で解き枝毛を直していたリアの隣にダルクが座る。


「出掛ける前にちょっといいか?」

「なんですか?」

「長い時間取らせないから、ちょっと情報共有をな」


 そう言って彼女は、透明なプラスチックの保存ケースを取り出してテーブルに置いた。その中にある物は記憶に新しい。


「……あの骨、ですか?」

「さっきライラに聞いたところ、しっかりとティガが解析を終えてくれてたらしくてな。鑑定結果が出た」

「……結果は?」

「人骨」

「そうですか……」


 奇跡を期待してはいたが、やはり世の中は残酷なようだ。そんなふうに考えて、さてハーディス先生になんと伝えればいいのかと考え始めたリアだったが、そこでダルクが待ったをかける。


「まてまて、確かに人骨である事に変わりはないんだが少し妙でな」

「……妙? どう見ても骨ですけど」

「いや、形じゃなくて成分がおかしいんだ」

「骨の? 骨って主成分なんでしたっけ? カルシウム?」

「骨は主にリン酸カルシウムで出来てる。って、別にそこは良い。肝心なのは、この骨の構築成分の半分が……マグネシウムと炭酸カルシウムだったところだ」

「……あの。無学ですいません、違いが分からないです」


 急にカルシウムの雑学を持ち出されても、知らぬのが普通である。ただ、まぁ《回復》系統の魔法を専攻するなら、近いうちに勉強する羽目になるのだろうとは思いつつ、相槌を打った。そんなリアに、ダルクは分かりやすく一言で纏めた。


「要は、珊瑚だよ」

「珊瑚? なんで?」

「それが謎なんだよな。一応骨の報告はここまでで。肝心な話はこれからな。私は今日、先生に調査の進展は伝えない事にした」

「骨が先生のお母さんの物だという確証が無いから?」

「分かる? その通りだ。探偵は不確かな情報は伝えられないからな」

「俺的には、伝えた方が良いと思いますけど。たとえ不確かでも、その骨は先生の家に置いて行きたいですし」


 違う可能性が高い。しかし、逆に言えば可能性はゼロではないのだ。

 そして、これによって残酷な現実を突きつける事になったとしても。

 1番、真実を知りたいのは先生だ。情報は共有しておくべきだろう。それに、結果的にまた別の発見に繋がるかもしれない。


 そんな思いからの発言だったのだが、ダルクは何となくそう言うのを予測していたらしい。


「リアっちなら、伝えるだろうなとは思ってたよ。だからまぁ……調査結果を伝えるのは、帰る時にしよう」

「……分かりました」

「よし、これで話は終わりだ」

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