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プロローグ

2025/2/26

テコ入れしました。


 ……どうしてこうなったのだろうか。



 俺こと……リア・リスティリアは立派な魔法使いを目指して鍛錬に励んでいた。


 あの歴史に名を残した魔法使いを目指して。

 ……偉大で有名でそして憧れだった魔法使い、デイル・アステイン・グロウ。大凡、魔法使いだけでなく一般人でさえ殆どの人が知るであろう有名人。


 彼の容姿は長く白い顎髭にオールバックにした長い白髪。渋い雰囲気と知的な雰囲気を併せ持ち、あらゆる魔法を網羅した大賢者である。かつては地上を侵略するかのように押し寄せて来た多数の魔物や魔獣達を倒し、歴史的英雄とさえされている人物の内の一人。


 そんな大賢者にリアは幼い頃、数々の活躍を聞き、著書を読んで大ファンになった。

 それはもう、ありとあらゆるグッズを集めながら自身で魔法の道を進もうと決めたくらいに。特に彼が扱っている場面の多い《結界魔法(ルール・エリア)》を自分も使ってみたい。そんな一心で日々、自分でも頑張ったと言える程に努力を重ねてきた。


 しかし……夢を見過ぎた。もしくは自身のハードルを高め過ぎた結果として当初目指していた目標である魔法・魔術学校への入学を断念。そして1年間も浪人をする事になってしまったが。


 けれども、ここから充分に挽回できる。それだけの自信はあった。


 なぜなら最初に話した大賢者で憧れの魔法使いに数年間みっちりと指導してもらえたからだ。


 結果、魔法の練度グンと上がり。彼の十八番である難関魔法の《結界魔法(ルールエリア)》も習得できた。そして《結界魔法》の『奥義』も伝授してもらい、魔法使いとしては大成出来たと言える程に憧れへと近づけた筈。


 それなのに、どうしてこうなったのだろう?

 自分が一体、何をしたというのか。突如、訪れた出来事に半ば放心気味のリアにデイルは言った。


「ふぉふぉふぉ……いや、すまん」


 朗らかな笑顔で両手を合わせる憧れだった筈の大賢者じじいをリアは歯を食いしばって睨んだ。


 大賢者。もといデイルと出会ったのは本当に偶然で。偶々実家の宿屋に彼が来た時に教えを請うたのがきっかけだ。

 彼は老後が暇すぎてフラフラと国領内を旅していたらしく、時間が有り余っているのか快く魔法の知識のない子供ガキを指導してくれたのだ。


 それだけは感謝しても仕切れない。

 彼に魔法を教えてもらったおかげで成長できたのだから。


 しかし今回ばかりは許容範囲外だ。

 恩人であれ、憧れの人であれ、許せないことはある。というか、もはや許す許さないの範疇に入るような状況ではない。


 リアは長く伸びた黒髪を指に絡めながらため息を吐いた。

 そして幾度も呟いた問いを口にする。


「どうして……」

「ふぉふぉ……まさか戻らぬようになるとはのぅ」


 そう言いながらリアの頭をポンポンと軽く叩くデイル。普段であれば褒められていると嬉しく感じる行為が、今は煽りにしか感じなかった。

 リアは軽くジト目で睨みながら、手の平サイズの《火球》を幾つか生み出しフヨフヨと周囲に漂わせた。熱を放つ球体を見たデイルの額から、大粒の汗が流れ落ちる。


「師匠。なんて言ったか……魔法少女に憧れている、でしたっけ?」


 リアの言葉を受け、デイルはカッと目を見開く。


「そうじゃ!! ピンクのフリル付きドレスにフリフリのスカートの美少女があたふたしながらも、可愛らしいステッキで魔法を使って戦う姿!! ワシは……ワシはそれが見たかったんじゃぁぁあ!! いやっほぉおおい!!」


「だからって弟子に《性転換魔法》をかけるなァ!!」


 リアは問答無用で《火球》をぶっ放した。


 しかし全て透明の膜に弾かれてしまった。師匠が得意とする《結界魔法》。その中でも特に簡単な《結界壁》である。そして《火球》は全て結界に衝突すると霧散して消えた。

 堅牢な防弾ガラスのような膜の向こう側、そこにいるデイルのドヤ顔がよく見えた。人を煽るのがお上手なようだ。


「舐めるな我が弟子よ。その程度でやられる私でh」


 ムカつき怒りに乗せて、とりあえず思いっきり蹴飛ばした。リアだって《結界魔法》の使い手だ。構成式や弱い面などを見て《解呪》という魔法の構成式を破壊する術を使えば、簡単な結界程度、足でも蹴り壊せる。

 リアの足は普通に結界の向こう側に通った。

 勢いを殺す事なく足を振り切りデイルの尻に一撃を入る。ゴキりと骨が軋む音がしてデイルは地面を転がった。

 転がった彼は悶絶しながら苦しげに言葉を吐く。


「ぐぉおおお……くぅっ、さすがに蹴りは堪えるぞ」

「とか言いつつ、めっちゃ元気じゃねぇか」


 リアは鋭い目つきで見下し、デイルは震えて反応する。


「我が弟子ながら怖い目つき……ゾクゾクするの」


 頰をほんのりと赤く染める知的そうな老人が、はぁはぁと息を荒らげ体をくねらせる様。はっきり言ってきもかった。


「きもっ……」


「……弟子のせいで何かに目覚めそうじゃ」


 リアは自分の頰が引き攣るのを感じ、深く深くため息を吐いた。


 ……あえて、もう一度言っておこう。

 自分はついさっきまでこの人に憧れていた。大ファンだった。目標だった。


(それなのに……誰だこれ。誰か俺のかっこいい師匠を返してくれよ……)


 心の中に影が差し、頭を抱えて逃げ出したい衝動にかられながらも、リアは彼に言葉をぶつける。もうそこに師弟としての遠慮など微塵も残ってはいなかった。


「……おいそこの変態」

「もっとじゃ」

「もっとじゃ、じゃねぇええよ!! おいぃ!! これ本当に戻んないの? ねぇ? 来週俺、グレイダーツ魔法学校の入学式なんだぞ?」


 グレイダーツ魔法学校とは、連合された国家アルテイラの都市部にある大陸屈指の魔法・魔術を学べる学校の事だ。なぜ連合国なのかについて説明すれば長くなるので今は置いておくとして。


 先に話した学校が……リアが先月に合格した学校であった。魔法使いとしては目指すべき目標のひとつが、その学校に通う事だったのだ。


 因みにアルテイラの都市部はかなり発展しており、我が妹曰く道路は全てコンクリートで整備され、ビルが立ち並び、大量の車が行き交い、更にコンビニが至る所にあるらしい。コンビニなんて、家からは2km先に一軒あるくらいなのに。


 流石都会だ。しかも新作ゲームが発売日に買えるのだとか。こんな田舎じゃ予約注文しても発売日には届かないどころか最近、宅配範囲外になった。


 まぁ、今その話は置いておいて。


 考え込む仕草をしていたデイルだったが、視線を向けた瞬間、お爺ちゃんが孫に向けるような優しく生暖かい目と口調で言った。


「すまんのぅ、無理じゃ」


 リアはデイルの胸ぐらを掴み、持ち上げながら叫ぶ。

 女になって筋力が落ちたせいか、魔法無しではあまり持ち上がらなかったが。


「ざっけんなぁ!!」


「く、くるし……川が見え」


「ちっ、もういい!!」


 リアは苛つきながら手を離す。

 デイルは咳き込みながらもむくりと起き上がると、目を細め軽快に笑った。


「黒髪美少女の涙目。眼福じゃよ」


 サムズアップする師匠に言われ、自身の頰を伝う涙に気がつく。そうか、涙目になっていたのかと、自分の頰を撫でながら淡々と確認する。


 いや、だって……こんな事になったら誰でも涙くらい流すだろう。


(だって、今までの苦労が全部!! 全部台無しになったんだぞ!!

 目指してたダンディでワイルドでかっこいい賢者には一生なれないんだぞ!? 俺は彼に憧れていた、それは認める。しかし女になってしまっては……男だからこそ目指せた、あの渋さや知的な老人の放つ格好良さは、未来永劫得られないッ!!)



「っうぅう………」


 一度そう考えてしまうと、溢れ出す感情と涙が止まらなくなった。修行の努力が無駄になった気がして、言い知れぬ焦燥感で喉が乾く。

 いきなり本気で泣き出したリアにデイルはあたふたと慌てる。


「え、いやあの……本気で泣かれるとワシの心にダメージが」

「うっく、っう死ねぇ…しねぇぇ……」

「ぐぉおお、泣いている少女に死ねと言われると流石に……ちょっと興奮する」

「反省してねぇ」


 そうして、ひとしきり泣いたら、なんだか段々と泣くのがアホらしくなってきた。

 リアが泣き止んだのを好機とみたのか、デイルはそっと肩に手を置くといつものキリッとした顔で語り始めた。


「……我が弟子よ。やってしまったもんはしょうがないし、このワシでも戻せんのじゃから、すまんが諦めるのだ。だが、しかし逆にこう考えるといいじゃろう。自分は”美少女”になったのだと。お前はワシの目から見ても文句などつきようのない程の美少女であるぞ? 魔法少女の衣装がよく似合いそうじゃ」


 (この野郎)と思ったが、もう怒る気力が湧かいてこなかった。なんというか、この1時間であり得ないほどに疲れた。たぶん《性転換魔法》の副作用もあるのだろう。魔法使いを目指してたからよく分かるよ、うん、と達観しながら思った。それと今は帰って寝たい、そんな気分だった。


「疲れた……もう家に帰って寝たい。でも、母さんになんて説明したらいいか……」

「一緒に帰るかのぅ? どの道ワシ、お主の宿屋に下宿してるんだし」

「うっせぇ気持ち悪い近寄んなクソジジィ」


 リアの言葉に、デイルは目を瞑ってしみじみと渋い声で呟いた。


「これがツンデレか」

「デレてねぇよ」


 何かを叫ぶ師を放置して溢れる涙と嗚咽を抑えながら、1人帰路を歩くのだった。

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