室戸さんは凄腕ライフハッカーⅡ
昼休み。
お弁当を食べ終わり、一息ついていた。
横を見ると頭の上にクロを乗せた室戸さんが本を読んでいる。
朝、猫を抱えて通学してきた僕は色々な人からアレヤコレヤと声をかけられた。
でも横にいる彼女は頭に猫を乗せているにもかかわらず、誰も注意を払わないようだ。
そういえば隣同士の席になったのに、実際に会話したのは今朝が初めてだった。
ジッと彼女の横顔を見る。
女子としては短い髪(ボブ?ベリーショート?)は艶のある黒髪。
常に無表情の顔はおそらく笑顔ならもっと男子に人気も出たことだろう。
まあ、笑ったところ見たことないけど。
気がつけば彼女がこっちを見ていた。
目があって、気恥ずかしさを覚える。
思えば目があうのも初めてだな。
「今朝のことだけど」
照れ隠しに思わず話しかけていた。
「その猫の未来がわかったの?」
「……違う、ソースコードを読んだ」
「えっと、そのソースコード?に車にひかれるって書いてあるの?」
「……違う、ソースコードにはクロの規範が書いてある」
規範?
「クロのソースコードをシミュレートすると今日は高い確率で塀の上で寝るを選ぶ」
「まあ、たいていの猫は塀の上とか屋根の上で寝てるよね」
「そう」
「じゃあ、ひかれないんじゃない?」
「昨日の雨で側溝に水が溜まってる」
「ん?」
「そのせいでネズミが出てくる」
「うん?」
「クロはそのネズミを追いかけていつもと違う行動をとる」
「ネズミを追いかけて車道に出るの?」
「そう、クロが助かったのはあなたのおかげ」
ここで話は終わったとばかりに、彼女の視線は本にうつってしまった。
腑に落ちないことはたくさんあるのだけれど、一番気がかりなのは猫は名前で呼ぶのに僕のことはあなたということ。
なんだけど。
彼女と普通に会話できたから、まあいいか。