4.
卒業して一年が過ぎた。
あたしの新しい一年はまずまずだった。
わりに居やすい職場で、先輩のアネゴがいろいろ親切に教えてくれる。そんなに面倒くさい付き合いもない。
大学の友達とはときどき会うことがある。だけど、ショーロとは、カフェで別れたあの日から会っていない。人ずてに、ミリリが結婚するという話だけが流れて来た。
なぜなんだろう。大学の友達と会うと、ショーロは今ごろどうしているのだろう、って思う。だけど、自分から連絡する気はない。だって、あたしはショーロに対しては女王になれるって思っていたから、こっちから連絡するのはしゃくにさわるし。
でも、たぶん、ショーロはぼっちゃまだから、女王を認識するまでには、野を越え山を越えなければならないだろうから、ま、たぶん、現生で女王の存在に気づくのは無理っぽい。
つまらなかったらショーロの実家の温泉に行こうと思っていたけど、つまらなくもない。
あの、カフェからの帰りにショーロが「いいよ」て言った、あの言葉だけが耳に残っている。
もしかして、ショーロにはあたしの心の声が聞こえたのだろうか?
ま、まさか~。
あたしはそこまでスピってないけど、でも、なんか悲しいこととかくやしいことがあると、おまじないみたいに『ショーロ、ショーロ、ショーロ』って何回も心の中で言ってみることがある。
その『ショーロ』って声が百万回積もれば、もしかしたら、何か展開があるかな?
ま、まさか~。
そんなことない、ってわかっていながら、あたしは心の中でショーロの名前を呼び続ける。
つまり、ショーロはあたしのおまじない自体になっちゃったんだな。
ある日、トリュフという高級なキノコが、日本では松露と言うことを知った。
あの大学時代の、レゲエヘアだったショーロは、本当は「祥吾」だから、「松露」とは関係ない。わかっている。ショーロのかあちゃんが、ナントカ祥吾って歌手のファンだったからつけた名前だって、恥ずかしそうにうれしそうに言っていた。
『ご!』っていう強い感じがしなかったから、『ロ』って空気抜けたみたいなあだ名になったのかな? トリュフを見ると、おまじないに実態が生まれたみたいな、変な気持ちになった。
社会人になって、ちょっと高級な店に食べに行くことがなかったら、こんなことに気がつかなかったかもしれない。
グリーンサラダの上に、薄くスライスされたトリュフに向かってあたしは、心の中で言った。
『ショーロ、来世で会おうぜ』




