2.
ショーロが、目パチ病になった、と言ってきた。
ショーロの場合、言っていることの意味がわかるまでが一苦労だ。
「それなに?」と、聞くと、まず、自分の持っているバッグを目の高さに上げて
「せんしゅー。買った」と言う。
あたしが「それ」っと言ったものが、バッグだと思ったらしい。
「ちがうちがう、目パチ病て何?」と改めて聞くと
「目、パチパチすると音がする」と言う。
「してみて」と言うと、10回くらい目をパチパチパチパチやり始めた。
でも、音なんて聞こえない。
「音なんか、してないよ」
というと、「ね。変でしょ」という。
「何が?」
「音してないでしょ」
ここまでの会話で、あたしは腰がくだけそうになった。
「じゃあ、病気ってどういうこと?」
と聞くと、
「え? われ病気?」
と聞き返す。
「だって、目パチ病って言って、『ビョウ』ってのは病気ってことじゃあないの?」
と確認すると。
「ああ、そのことか」と言って、ずるりと落ちそうな迷彩色パンツをずり上げながら
「パチパチが人には聞こえてないみたいだけど、われには聞こえるなり」
とのたまわった。あたしは会話をする気がなくなり、とげとげが頭から出てしまった。
「あ、わりいわりい。パチパチというより、バチバチかな?」と、確かめるようにまた目をパチパチした。そして、あたしに「聞こえた?」と確認した。
「聞こえないよ!」
あたしのとげとげで、少し声が荒くなる。
「やべ、やっぱ、われ聞こえてる」
ショーロはいつも楽しそうに見える。『やべ』って思っていないことは確かだ。
「どうする気?」
「どうしようもしねえよ。だってこれ、説明するのふかのー」
と、へへへと笑った。あたしは、その顔を見て、もう、どうしてそんなことで楽しめるのか理解できなくて、だんだんまた腹が立ってきた。
「われのこの頭の中の音を録音できたらいいんだけどな」
とショーロがしょうもないことを言う。返事する気がしない。
「それ、できるようになったら、われ、ノーベル賞だぞ」
そう言い捨てると、ショーロは飛行機みたいに、手を広げて、「ぶーん」と言いながら行ってしまった。




