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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Short Story

僕のトモダチ

作者: 土湖園あさ


「ユノ。」


記憶の初めはノルの優しい声。



届きそうにないノルの頭は空に向かって溶けてしまう様な気がした。僕の手はノルの頭に触れるには小さすぎだ。


昔からだからだろうか。


ノルの身長の高さはあまり気にしなかった。



【僕のトモダチ】



そっと微笑むノル。


いつも側に居てくれる僕の大切な友達。


これからもずっと一緒なんだ。


(いつから一緒にいたの…?)


時々不安になる。聞くことも出来ない。だから自分への質問は心の底に沈めてある。


「…ユノ。」


「もうユノってば、僕の膝で寝てしまうんだもん。足が痺れちゃったよ。」


痛いのか嬉しいのか分からない表情で微笑みかけるノル。僕はどうやら夢を見ていたようだ。


「ごめんね、痛かったよね。あまりにも寝心地が良くて。」


いつまでもノルとのんびりした時間を過ごしたかったが、大分日が暮れはじめた。


「そろそろ帰るね。今日もありがとう。また遊ぼうね!」


いつもノルは小川が流れ、草木が生い茂る場所に必ず居る。


いつも…これからも、ずっと…


(また遊ぼうね…)


しかし、帰ろうとする足とは反対に僕はその場に倒れ込んでしまった。少し頭がクラクラする…


「ユノ!大丈夫かい?少し熱があるね…」


するとノルは自分の手から水を出した。


「僕の血…いや、水を飲むと良いよ。あっという間に治る魔法の水だからね。」


意識が朦朧としていた僕は、ためらいも無く水を飲んだ。


「本当だ…少しずつ元気が回復してきたみたい。ありがとう、ノル。」


まだ心配しているノルを説得させ、僕は一人で帰った。


―そこに見知らぬ影がひらりと中を舞った。



今日もノルの所へ行く。


それがいつもの日課になっている。


気付いていたかの様にノルは、僕の来る方向を見て立たずんでいた。


「ユノ、今日は何して遊ぶ?」


微笑みかけてくれるノル。


僕だけのノル…


「今日は森を探検しようよ!」


「森は駄目だ。」


いつもは全て受け入れて遊んでくれるノルが初めて断った。それも見たことのない険しい顔で…


「どうして?この森は安全なんでしょ?」


前にノルが言っていた。


この森は安全だって…


「とにかく今は駄目なんだ。違う遊びをしよう。」


(小鳥さん達が危ないと知らせてくれたんだ。今ユノを森に連れていくわけにはいかない。)


少し気になったが、ユノはノルの言うことを聞き、違う遊びをした。




「花冠だよノル!」


どうやらユノは花冠を作ったようだ。僕の頭にのせようとしたが、目すら届いていない。なので僕が代わりに自分の頭にのせた。


「ふふ、有難う。僕も出来たよ。はい。」


今度は僕がユノの首にお花で作った首飾りをかけた。


「ありがとう!」


ユノと初めて出会ったのは夕暮れの森。


そう、いつも僕が居る場所…



―そこで寝ているのは小鳥さんかな?


僕はそっと草を横にした。


そして君と出会った…


(とても可愛らしい子だ。)


そして男の子は目を開けた。


すると立ち上がり、遊びたい仕草を僕にした。僕は嬉しかった。だって初めて友達が出来たから…


こうして僕達は、毎日決まった時間に遊ぶようになった。


この出来事はユノは知らない。


僕しか知らない記憶。

これからも、ずっと…



思い出したかの様にノルは現実の時間に戻った。


(おっと、少し思い出に浸ってしまったみたいだ。まだユノと遊んでいる途中なのに…)


「ユノ、今度は川で…」


ノルが言いかけたその時、何処からか視線を感じた。


(おかしいな…森以外は大丈夫だと思ったんだけど…)


ノルは立ち上がりユノの手をとり、その場から離れた。



俺のノル…

苦しい…遊びたい…喉が…

紅く燃える月明かりが俺を変えた。



「ユノ…よく聞いてくれ。」


「…うん。どうしたの?」


ノルは二度目の真剣な眼差しで僕を見た。


「これから原因が解るまで絶対にお花畑と森には入ってはいけないよ。」


何となくノルの言う事が分かった気がした。僕も少し寒気がしたんだ。


「分かったよ。もう森とお花畑には行かない。」


「いい子だねユノ。じゃあまた明日、いつもの場所で会おう。」


「うん!またね。」


(ばいばい…)


そしてノルといつものようにお別れをした。



皆が夢を見ている夜。


とても静かで寒い夜。


―狂ったのは、月と俺


突然、うなされている様な声が聴こえたノルは目を覚ました。


「何だ?」


するといきなり森から少年が飛び出した。


そして涙をこぼして吸い上げる。


一瞬にして…


(君は…あの日の子だね。)


そう…それは今日と同じ紅い満月の夜中。


昔、僕の首に跡を付けた子がいる。すぐに逃げてしまったけれど。


その子が再び現れた。


そして今、僕の水を吸った。


全てが一瞬の出来事。


きっともう、この世界にはいられないんだ。


(ユノ…これから君と一緒に遊べなくなるね…少し寂しいな…いつかまた…)



―俺は…狂ってノルを…


どうして?


俺はあの日から全く血を吸わなくなったはずなのに…そう決めたはずなのに…


だから紅い満月はあまり好きではない。


ノルを見掛けてからいつも隠れて見ていた…でもどうすれば友達になれるのかが分からなかった。


(本当は君と…ごめんなさい…)


そしてその少年も血が薄まり空へと消えた…



「遊ぼうノル!ノル…?」


僕がいつもの様に遊びに行くと、見覚えのある友達が倒れていた。


水が無くなり動かないノル。


「どうしたのノル?大丈夫?」


返事が帰る訳もなく、ユノの声はコダマと共に元へと帰る。


「嘘でしょ?そんな…ねえ、僕の血を飲んでよ。ほんの少し水が入ってるよ。ねえ、お願い…」


君に流れている水を僕に飲ませてくれた様に、今度は僕が…


しかしノルが息を吹き返すことはもうなかった。



この空間は僕達二人だけの世界。


そう思っていた。そうであってほしかった。


でも違った。僕以外にも君を傷つけられる者がいたんだ。


(もう君と遊べないなんて…)



夢が溶けていく…


木が微笑みかける…


二人だけを包み込む様に…




「もうユノってば、僕の膝で寝てしまうんだもん。足が痺れちゃったよ。」


「ごめんね、痛かったよね。あまりにも寝心地が良くて。」


「そろそろ帰るね。今日もありがとう。また遊ぼうね!」




END 僕のトモダチ




最後まで読んでくださり有難うございました!



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