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8話 共に生き残りたいから

 俺は遠くからやってくる魔物にサーチをかけて詳しいデータを集め。


「やばい……今までのとは格が違いすぎる……」


 唖然とした。

 今まで相手にしてきた魔物を猫とするなら、今から戦う相手はライオンかそれ以上だ。

 それくらいの強さを持っている。

 そして直ぐにこれから俺の起こすべき行動を判断した。


「リン逃げるぞ! 格が違いすぎる」


 俺はちゃんと知っている、逃げるという判断のできないやつは早死にすると。だから俺は判断できる。


 俺はリンと生き残りたいから。


 直ぐにこの場から離れたいため焦る俺はさっきまでは俺の言うことには直ぐに反応を示していたリンが何も言わないことに違和感を覚え振り向きながら声をかけた。


「おい、どうした?」


 振り返りリンを見た俺は、リンの瞳に言葉を失う。


「お父様は……殺す」


 その目には恨みや憎しみといった負の感情が籠っているように見え、殺気までもが溢れんとしている。

 リンの雰囲気に呆気にとられた俺はただ立ち尽くす。そんな俺が目にも入らないほどのリンはぶつぶつと何かを呟いているようなので耳を傾けると。


「——悪魔の心臓を掴み神をも滅ぼす破滅———」


 よく聞くとそれは魔法の詠唱のように聞こえ背筋に悪寒が走り止めさせようとしたが間に合わない。


「——光を放つ『終焉の雷光』」


 リンは詠唱が終わると同時にさっと右手を伸ばしその手が輝いたように見えたかと思うと、まだ遠くに位置する魔物の近くで爆発がおき空気が揺れる。

 詠唱が終わって爆発が起こるまでは一瞬だった、これがステータスの差だと実感させられたが今はそれどころじゃない。


「やばい……加速した」


 リンはさっきお父様と言い魔法を放った。そしてその前に自分の父は魔王だと俺に教えた。だから今こっちに向かって来るのは魔王。


「タクヤ、ごめんなさい。今向かって来てるのは私のお父様なの……タクヤは早く逃げて……まだ間に合うから」

 

 リンは泣きそうな声で言ってくるが。


「俺だけ逃げるなんてできないよ……あと、もう手遅れだ」


 目の前には爆発を受けても傷一つなく禍々しく体の周りに紅い輝を放つ三メートルはあるのではないかという巨体が俺とリンを見下ろすようにして仁王立ちしていた。


「ごめん……なさい……」

「まあ仕方ないさ、共に今を生き抜こう」

「うん……」


 元々「逃げ切れないのでは?」と思うところもあったのだ。だからこの状況になるのが遅いか早いかだけだと思えばいい。

 最初の草むらでラスボスとエンカウント、もしそんなゲームがあるなら紹介してほしいね。

 よし、かかってこい魔王。この場でゲームクリアしてやる。


 俺が闘う覚悟を生んだ時魔王が呟いた。


「リンの魔力の消滅するところを確認しようとしたが、いつまでたっても消滅しなかった……そこの人間、お前が原因だな? リンには死んでもらうぞ」


 ようはリンを殺すために直接始末しに来たってことか……


「最初っから全力でいくぞ!」

「もちろんよ!」


 先手必勝。


『貫け』


 俺は魔王の足元から無数の根を飛び出させ魔王を襲ったが。


「すり抜けた……」


 俺はまったくの無力だった。


 魔王が透けている? 実体がないのか?


 魔王は動揺した俺のスキを見逃すはずもなく俺に手を向けて魔法を放ってくる。


「植物はこう使うんだ『捕縛爆散』」


 魔王の手から現れる植物の根が鋭く伸び俺が反応する間もなく俺の脚を掴み俺は足の自由を奪われる。

 ハッと気づき拘束された足を見るとその植物が足ごと爆散した。


「————ッ」


 足を失った俺はバランスを崩し地面に倒れ無防備となりその間にも根は次々に現れ俺の腕や胴体に巻きついては爆散して体を吹き飛した。

 俺が植物使いでなかったら明らかにオーバーキルの攻撃。俺にまだ命があるのは日光が当たっているおかげで光合成が間に合っているからに過ぎない。


 だがそのこともあって何とか体を再生することができ、俺が手足を再生するのを見下ろす魔王はさらに根を生やし、その根は俺の首に巻き付く。

 流石の俺も首から上をやられたら死ぬだろう。俺の中の時間が長くなるなかリンの声が響く。


『雷光』


 突然光が爆ぜ俺の首をつかんでいた根が消滅していた。


 た、助かった……


 リンは魔法で根を消滅させたようだ。


 そ俺にはリンという頼もしい仲間がいる、それもこの場での救いの一つ。

 この数秒間で実感したレベル差は天と地ほどのものであり、今生きていることが奇跡のようだ。今の状況に恐怖するが、死ぬのが遅いか早いかだけ。


 俺がリンの助けに感謝していると魔王は目を細めて呟く。


「なかなか面白い芸当をしよるな。だが、まだまだだ」


 そう魔王が言い終わる刹那に視界が一瞬で緑に染まり、今まであったリンの魔力が消滅したかと思うと視界が元に戻った。

 何が起きたのか分からないままに消滅した魔力の持ち主の名前を呼ぶ。


「リン!」


 視界が元に戻ったこともあり辺りを見渡し、そして把握する。

 俺の視界が緑に染まったのは黒い結界が俺を囲っていたからで、その結界はおそらく俺とリンを別々に囲い、何故か俺だけその結界から解放された。

 未だに緑がかった透明な結界の中にはリンがいて、そして結界の四方の壁から飛び出したいくつもの槍がリンを貫いている。


「なっ」


 俺は、魔法にまったく反応できなかったことに恐怖しリンの無残な姿に驚愕の眼差しを向けることしかできないようで、恐怖で体が動かない。そんな状況に陥った俺は魔王の目を見てさらに恐怖した。


 まるで虫けらを見ているようだ。


 そして呟いた。


「始末完了、この状況で人間をわざわざ殺す価値必要もない。気まぐれで生かされること喜べ」


 そう言い残すと魔王は結界を解く。すると槍も消えて体中から血を流すリンは意識がないのかその場に倒れ動かない。

 そして俺に背を向けた魔王が指を鳴らすと足元からぼわっと炎が吹き出しその炎と消えるように魔王の姿も消えた。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 あれから俺はリンを回復させようと俺にできることは何でもやった。

 俺の養分や魔力をリンの体内に直接流し込み、傷を塞ぎ、人工呼吸は効果があるかわからないが一応試したら呼吸をし出した。


「あれからもう二日か……早く目覚めてくれよ……」


 魔力が消滅した時点で諦めかけていたが諦めきれなかった結果、奇跡が起きたのだ。

 魔力が今まで通りにながれ呼吸もする、今はぐっすりと眠っている状態までの回復。

 本当に運がよかった、魔王があっさりと帰ってくれたことといい俺のスキルといい本当に……


 ふと喉が乾き大樹で作った桶に貯めた水をみると。


「水が尽きそうだな……どうしたものか」


 水は魔王が去りリンが呼吸しだした後突然の雨に降られてしまいせっかくだからと思い貯めておいた。この事も含めると本当にラッキーだ。


 ん? 今リンが少し動かなかったか? たまにあるんだよなー。いい夢でも見てるのかな?


「リンが目覚めた時のために魔物でも狩っておきたいところだが……」


 リンのお守りもしないといけない。 ちょうどよく魔物が現れないかなー


 小さな期待を胸に魔力感知の範囲を広げてみると。


――五百メートル先に狼種三体


「きたあああ! この距離なら行ける」


 魔力を込め地面を踏む。


『大樹』


 踏んだ所から樹が生え俺を高い位置に運んでいき


 この辺かな。


 続けて魔力を込め魔法を放つ。


『樹矢』


 放たれた三本の樹がこちらにまったく気付いていない狼種全てに貫通し地面に突き刺ささり命を奪い去る。


「命中。いい調子いい調子」


 後は回収っと。


『大樹』


 手より生えた樹が狼に絡みつき回収していく。


「やっぱり便利だなー」


 回収を終えた俺は足元から生やした樹の処理を行い元の地面に戻した。


 環境を守ることは地球温暖化対策になるからね。ここ地球じゃないけどな


「さて、食料の確保もできたことだし。後は待つだけだな」


 とリンの寝顔を拝見しようと思いリンの方を見る。


「あ……」


 そこには寝ていたはずのリンがおらず、代わりに意識を取り戻したリンが立っていた。


「うそ……だろ……」


 幻覚かと思い目をぱちくりしているとリンに飛びつかれた。


「ほんとだよ?」


 とっさの出来事に驚き受け止めきれず地面に押し倒しされ、その馬乗り態勢のままでリンは満面の笑みで告げる。


「助けてくれてありがとう! 大好き!」


 もう言葉が出ない、脳の処理が追いつけずにいるようだった。

 そして言葉が出ない代わりに涙が止まらない。


「どうしたの? なんで泣いてるの?」


 少し不安そうな表情で聞いてくるリンの顔が涙で歪んでよく見えない。


 何か言わないと。


 言葉を探すがなかなか見つからない。


 早く……何かを……


 そうして、どれくらいたっただろうか、やっと思いを口にできた。


「ありがとう……」


 俺の精一杯だった。

 もう目覚めないのではと何度も不安に押しつぶされそうになった。

 だがもう不安はない。目を覚ましてくれた、それだけでこんなに喜べるのは初めてだった。


「ありがとう……生きていてくれて……」

「ごめんなさい、心配かけて……」

「リンと生きている、それだけが幸せなんだ」


 涙ながらに見るリンの顔が赤く染まっている。目覚めたばかりだからかな?


「とりあえず、安静にしとけよ?」

「う、うん。その前に……その……」


 もじもじする小動物的なリンを見ているとリンは耳元まで口を寄せて言った。


「愛してます」

「俺もだ!」


 即答!

 この雰囲気の影響もあるかもしれない。それでもなんだか共に過ごしているうちに俺はリンのことが気になり出していたいた。最初出会ったときの気持ちは忘れたがこの際関係無い、男は好きだと思う者からの告白には即答しやがれだ!


「子作りしよ?」

「任せとけ!」


 え? 俺なんて言った?


「優しくしてね」


 え……マジで?

 こんな所でするのか? だめだろ!

 ここは森の中だぞ? ベッドがあり安全な空間でないとマズいだろ……

 前言撤回、聞きなおそう。


「冗談だよね?」

「冗談よ」


 答えながらしゅんとなるリン。


「そーゆーのは環境の整った場所でやろうな」


 とフォローを入れると表情が和らいだ。


 無事に帰ったらいっぱい楽しませてあげるとするかグヘヘヘ。


 少し休んだら森を抜けるために動き出そうと決めたところで思い出す。


「あ、そうそう。リンのために食べ物を確保しといたぞ」


 食べ物に反応したリンを目を輝かせて俺を見てくるのでリンには俺の上から降りてもらい御馳走する。


「さあさあお食べ」

「いただきまーす!」


 おいしそうに食べるリンを見て幸せな気持ちになる俺だった。


「タクヤ、病み上がりの私にあーんして」

「しょーがねーなー」


 俺は魔物の肉を小さく噛み千切りそれを口に含みリンの口に口渡ししてやると変な雰囲気になり、結局俺とリンは森の中であったにも関わらずいくとこまでいってしまった。


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