5話 俺は誓う
俺は見ていた、カナが魔法を行使し攻撃する姿を……そして攻撃される姿も……
あの時ゴーレムの放った黒いレーザーがカナの胸を貫きカナは血をまき散らしながら地面に倒れ動かなくなった。
「邪魔だくそやろお!」
やっとの思いで雑魚魔族の隙間を縫うように走りなんとかカナの元へたどりつきそっと抱きかかえる。
「血が……嘘だろ……」
カナは呼吸をしておらず悲惨な姿となっていて即死のようだった。
クソッ……なんなんだよ。なんでだよ。なんでこうなるんだよ!
ゴーレムに対する怒り制御の利かない溢れ出す感情のままにカナをそっと地面に寝かせてゴーレムに向き直ると、そこにゴーレムはいなかった。
ゴーレムの体はバラバラに引き裂かれて、ブロックのようになってそこらじゅうに転がっている。
これはノブアキの魔法か……
「おいカナ大丈夫か?!」
ノブアキが遠い場所から駆け寄って来ているが途中から視線の先がカナから俺に移っていきどこかおぞましいものでも見るかのような視線を送ってきて一言。
「タクヤ……てめーよくもカナを見殺しにしやがったな!」
「ま、待てそうじゃない」
突如、俺は遠くに吹き飛ばされた。ノブアキが魔法を使ったようだ。
「痛てぇ」
痛みを口にしながらノブアキのいる方をみるとユウとコハルが戻って来ていて、周りにいた魔族共は全て殺されたようで胴から切り離された首などの残骸が大量の血とともに地に転がっていた。
俺は歩いてノブアキ達のいるところに戻ろうとしたが、今度は爆風によって吹き飛ばされる。
コハルの魔法で俺に掛かる重力を減らし、ユウの魔法の爆発で吹き飛ばされノブアキの魔法が俺を飛ばすスピード上げ、そのせいで俺の身体が地面に落ちることなく遠くへ飛んでいく。
吹き飛ばされる瞬間に見たコハルとユウの目には恨みの炎を宿しているようだった。
なんで、こん……な……め、に……
吹き飛ばされる俺は、ノブアキ達の姿は見えなくなったところで俺は意識を失った。
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意識が覚醒した。
「ここは……」
俺の知らない場所だ……
俺は記憶をさかのぼりここがどこなのかを考える。
砦から木が生えているような場所は見えなかった、つまり俺は砦からは視認すらできない場所まで飛ばされたのか……ここは砦からだいぶ離れた場所だ、そして周りにはたくさんの木々があるから、ここは森か。
やっと状況判断終えたが森には危険がいっぱいだ。
グルルルル
ほらあそこには三本首の狼みたいなのがいる。
見てあれ、一見木のように見えるけど少し動いてますよ……
「もうだめだな……」
目の前の状況に絶望を覚えたが今の俺の脳は冴えていた。
いや、まてよこの状況を乗り切ったら俺は強くなれるんじゃ……
その時俺の感情が黒く染まるのを感じ。
「あいつらに絶対に復讐してやる」
そして俺は生きて帰り、復讐することを誓った。
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「大地の神よ恵の力を我に!『大樹』」
足元から木が生えて俺を乗せて高く成長していく。
「いい眺めだな」
慣れない詠唱をしてだいぶ高いところから周りを見渡すが人里はもちろん森の終わりも見えない。
「どんだけ森の深部にいるんだよこれ絶対あいつらだけの力じゃないだろ」
森に飛ばされて約二時間俺は水の確保を最優先事項とし川を探している。
「あった……川だ!」
探し初めて十五分俺はとうとう南西の方角に川を発見した。
こんな時に植物魔法が役に立つとはな植物魔法万歳!
一旦魔法の効果を解いて地面に降り。
「ここから川まではだいぶ距離があるな……」
と悪態をつきながらも生き残るためなら仕方ないと心に訴え歩き始めた。
歩き始めて約一時間―——―俺は追われていた。
「や、やべぇ魔物の数が多すぎる!」
三本首の狼が一匹だと思い狼の死角から根っこで串刺しにしたが尋常じゃない狼の生命力に驚かされた。
そしてそこで俺は初めて狼が一匹だけではないことに気づかされ、そこからは逃避行動をひたすら行っていた。
「大地の神よ恵の力を我に!『大樹』」
足元から生える木に乗り高いところまで避難を試みるが。
「なんで上って来れるんだよ」
狼共は万能な種のようだ。地面に垂直に立っている木を平な地面を走るかのように難なく上ってくる。
「これでもくらえ!」
俺は木を片足で軽く踏みつけ大樹から次々に固有魔法の関係上、常時発動している根を生やし枝分かれしながら分裂し狼を串刺しにしていき俺を追ってきた全ての狼を捕らえた。
「まだ生きてんのかよ! だが動きは封じた! 死ねぇ!」
今度は正確に狼の三本ある首を一つずつ貫いていき
「やっと倒せたか……」
全ての狼を殺した。
今回の戦闘で分かったことがある。
安全な場所はどこにもねえ……辛うじて木の上が地面よりかは少しだけ安全な気分になれることだ。
狼を倒し切ったので一応、唯一の所持品のステータスプレートで俺のステータスを確認した。
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タクヤ 16歳 レベル20
固有魔法:植物
筋力 610
抵抗 590
体力 640
瞬発 620
魔力 680
スキル:集中・魔力感知・魔力操作・多重魔法・特殊植物化
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「レベルが一気に十も上がってる……どんだけこの森の生物は強いんだよ」
といあえず俺は川を目指すことを忘れて新たなスキルについて考えた。
「えーと、多重魔法ねーこれは今までは木の魔法を使ってる時は常時発動型の根を操作することしかできなかったが、このスキルのおかげで木の魔法を使ってる時に別の種類の木の魔法が使えるようになるのかな?」
結構便利なものだ早速実験を開始しよう。
「大地の神恵の力を我に『大樹』」
足元から一メートルくらいの高さに育った大樹に手を当ててさらに魔力を流した。
イメージするのは木の槍
すると木の表面から槍が生えてきて正面に発射した。
「成功だ……」
新しい攻撃方法が増えて嬉しくなった俺はいろいろな場所から多重魔法を行使する。
魔法で生やした木から、多重魔法によって生まれた槍から、常時発動型の根から、それはもうどこからでも複数の魔法を行使できた。
「やべぇ……便利すぎる……これで攻撃方法が一気に増える……」
これを使えば一度敵を貫けば敵の内側から外に向かって貫くことができるな……俺って最強じゃね?
「次は特殊植物化か……」
このスキルに関してはなぞだ
予想できることは俺自身が特殊な植物の能力を使えるようになることだと思えるが、この世界に来て俺は特殊な植物を見たことが無いからイメージができない。
この世界に来る前の知識で何とかできるかな?
とりあえずこれまでの人生でえた植物の知識を使ってみる。
「たしか寿命の長い木は自分で木の一部を枯れさせたり切り離したりするんだったっけ?」
思い出した時俺の右腕が地面に落ちたが不思議と痛みは無かった。
「腕が……」
そ、そうだ! 切れたのなら生やせばいいんだ! 植物だからこれくらいはできるはず! これで生えなかったら一生片腕か……
「生えろ右腕!」
唱えると右肩に温もりを感じ
「おお! 生えた」
腕は再生した。
そのスキルのおかげでとうとうタクヤは植物の能力をフル活用できるようになり口元がにやける。
「光合成だけだったころが懐かしい」
そんなことを思いながらも俺は本来の目的を思い出し川へ向かった。