4話 救世主の初めての戦闘で
時代が変わる、それはそう遠くない未来のことだ。
魔族は人間を滅ぼすことで計画がすすむ、そう魔王様はおっしゃられた。きっと魔族に平和をもたらしてくださるのだろう。
魔王様の名を知る者は魔王様の血族だけだ、魔王様はこれまで私達に戦い方を教えてくださったそのおかげで苦戦していた人間との戦いも有利進めることに成功した。
そんな魔王様のおっしゃることだ平和への道筋は間違いないだろう。
「準備が整いました、ウォグリアへの侵攻いつでも可能です」
「そうか……では出発するぞ」
こうして闇召喚士ダンブルの率いる近接戦闘隊の侵攻ははじまった。
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この世界に来て早くも四週間が過ぎた。相変わらずカナがやたらめったらと俺にちょっかいかけてくるが、最近俺の評価が良い方向に変わりつつある。
「無詠唱サポーターね、そのまんまじゃねーか」
そう俺は無詠唱で足止めの魔法が使えることでサポート面では有能な救世主となることに成功した。
「今日もサポートご苦労さん! おかげで手っ取り早く魔物を始末できたぜ」
午前の訓練を終えた俺は昼食をとるために食堂へと続く廊下を歩いていると後ろからユウに話かけられ、立ち止まり振り返る。
「どういたしましてユウ、おかげで俺のレベルは全く上がらないぜ」
最近の俺はサポートしかさせてもらえてない、このままだとまた足手まといに格下げされるだろう。
「まあいいじゃねーか! 評判も良くなってきてるしさ」
ユウは笑顔で俺の元まで追いついてきたから食堂を目指して歩き出す。
「よくねーよ、強くなってないといざって時に足手まといになりかねんからな」
「いざって時は俺が守ってやるから、安心しろよ」
ユウのさわやかなスマイルが妙に引っかかる。
こいつホモなんじゃね?
「俺は女が好きなんだけどなー」
「なんだよ急に、ちなみに俺は胸はでかい方が好みだよ」
「いい趣味してるぜコハル達に聞かせてやりてぇな」
「それだけは勘弁」
ははははっと笑える和やかな空間。
ユウはホモではないみたいだ。
俺の中でユウのホモ疑惑が晴れて安心しているさなか戦闘を知らせる大きな鐘の音が響いた。
「魔族が攻めてきたぞ! 敵の装備は近接型のものが多いことから闇召喚士ダンブルだ!」
見張りの兵の声が拡散してその情報はすぐに全員に知れ渡る。
「ここから先は訓練された通りに動くだけだ」
いきなりな展開にテンパるがユウがしっかりしているおかげで冷静さをとりもどす。
「よし、行こう」
俺とユウは指導されていたように指定された場所まで走った。
指定されていた広場に着いた俺とユウはサイホーンによって組まれていたチームごとに集まり指示を待つが違和感を覚えている。
それが何かを探していると答えは直ぐに見つかった。
「集まりが悪すぎる……何かあったのか?」
俺は疑問を思いふと口に出し周りの声を聞くと。
――――救世主様達がいるから俺達に出番ないな
――――ま、なんとかなるっしょ!
周りの兵士達の会話は俺達任せのものだった。
「皆、油断している……」
「俺達は五人しかいないのになんでこんなに気を緩めれるんだよ!」
ユウの言う通りだ、俺達は五人しかいないそのうちの一人はサポート特化で敵の数を減らす手段を持ち合わせていないのに。
「しかたない……俺達でなんとかしよう」
ユウの覚悟を聞き終えた直後にサイホーンに呼び出され指示を聞いた。
「お前たちには遊撃隊となってもらう。まずは二手に分かれてもらう」
サイホーンの指示で俺達は俺・カナとユウ・ノブアキ・コハルに分かれて役割を聞いた。
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「俺達は砦の防衛か……まあ死ぬリスクが軽減されてよかったんじゃないか?」
「よくないわよ! あーあこの戦いでレベルが二くらい上がると思ってたのにー」
こんな状況でも余裕があるのか、カナは不貞腐れている。
今回は万が一に備えて足止めに長けた俺と範囲攻撃のできるカナが門と砦の間の最終防衛ラインを任された。
「コハル達はいいよねー、自由に戦えて」
「まあ、ノブアキの魔法で移動速度も上がるし、ユウとコハルの魔法は軽い足止めをしながら戦う事ができるからなー」
俺とカナは駄弁っているが他の三人は数分前にさっさと準備を終え出発した。
「全く……他の兵隊共は何をやってんだか……」
荒ただしい雰囲気を微塵も感じさない兵隊共を見やると本当に心配になる。
皆が皆安心しきっているな。
カナも俺と同じことを思ったのだろう兵隊を一目見ては溜息をつく次第だ。
「万が一の事があったらどうするつもりなのよ……相手は闇召喚士なんでしょ? 召喚可能範囲が目の前に迫ったら……」
あきれて二の句がでない風を表現しているカナ。
「そんなフラグチックなこと言うなよ」
そのセリフを言うことが完全なフラグなのか異変を生じた。
やばい……
俺のスキル魔力感知が魔力の流れを感じ取ったようだ。
なんだ? 強い魔力の流れを感じる……ここに魔族が召喚される……
突如、門外の地面に蒼く輝く大きな魔法陣が出現した。
最初はそれが何なのか理解できずに固まっていると魔法陣の上には魔物が次々に出現しては門を超えて襲い掛かってくる。
やばい
そう感じたがもう遅い。
「ま、魔族が来たぞ!」
「救世主様はどうしたの!?」
「急げ攻撃の準備だ!」
無論、油断していた兵士は次々に魔物に襲われ吹き飛ばされたりかみ砕かれたりして殺されていく。
「カナ! 津波で兵士ごと門の外まで押し出せ! 俺は魔法陣上のやつを止める!」
カナはうなずき詠唱を始める。
「水の精、我は悪を滅する者、我は力を求める『水流壁』」
砦への侵入を間一髪のところで食い止めたカナはホットしているようだがどこかおかしい。 詠唱する声に違和感があった。
「おい、どうしたカナ」
「……なんでもないわよ」
俺は地面から大量の根を張わせることに必死でろくにカナを見ることができないがさっきの会話で確信した。
こいつ……震えていやがる……ったくこれじゃあ魔力の調整もままならないだろう。
このままじゃ数を減らせない……
「予定通り戦い方で行くぞ……俺が足止めで、カナがとどめだ」
「む……無理よ……」
やっぱりか……ビビってやがる
「じゃあ俺が数を減らしに行く、後衛は任せるぞ」
俺はうまくできるかどうかもわからないが俺がやるしかないという感情に飲まれ、根でできた棍棒を作りそれを片手に走りだす。
足止めをくらっていた魔族共も突如の自由に喜び襲い掛かってくるが
「遅い」
俺のほうが速かった、攻撃スピードも移動スピードも魔法発動も何から何まで勝っていた。
前の敵は棍棒で殴り殺し、後ろから襲い掛かる敵は地面から生えた根でガードし振り向きながら棍棒で殴り飛ばすというスキを与え無い戦いを見せる。
意外と楽勝だな……いかんいかん油断してはいかんぞ俺。
そう思ったとき新たに不思議な魔力を感じた。
魔力の発生源を見ると先ほどまで蒼かった魔法陣は紅い輝きを放っていて禍々しさがにじみ出ている。
「————ッ」
まずいと思った俺はすぐさま門まで撤退を試みたが魔族共がそれを許してはくれなかった。
「カナに任せるしかないな」
俺は再び雑魚魔族共との戦闘開始した。
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「タクヤが行っちゃった……私の役目を果たすために」
私はどうすれば……
兵隊達は魔族と戦っている、魔法陣から次々に出てくる魔族と。タクヤが数を減らしに行ったときは無理だと思ったが、タクヤの戦いを見て安心した。
「あいつがあそこまで戦えるもの私なら余裕よね」
ふと魔法陣のほうに目を向けると紅く輝いていた。
兵隊共じゃ太刀打ちできないようなやつが来る!
そう思った時、私の足はすでに動いていた。
「防衛ラインまで撤退して、強いのが来る! そいつは私がなんとかするから」
叫んだのと同時に魔法陣から四メートルくらいの大きさをもったゴーレム種が現れ雄叫びを上げる。
でかい……今までのとは格が違う……だが問題ないはず!
私は両手を向け詠唱を開始した。
「水の精、蒼き力で破壊をよべ!『貫水』」
水をレーザー状にして一点特化の攻撃を繰り出しゴーレムの胴体に直撃したがゴーレムは微動だにしなかった。
ノーダメージ!?
「な、なんでよ!」
カナは自分にできる精一杯の攻撃が効かなかったことにひどく動揺してしまった。
そして動揺してできた隙にゴーレムはお返しとばかりにレーザーを放ってきて、カナの時間の流れが遅くなった。
回避不能な攻撃、防御魔法の詠唱は間に合わない、動こうにも足が竦んで言うことを聞かない。
「タクヤ…………」
最後にそう呟き私は意識を手放した。