45話 わけあり救世主
「もうすぐここに来るぞ」
エビルはそう告げると酒を盛始めた。
俺とリンもどんな奴かと思い待つこと数分。一つの足音が外から近づいてきて扉の前で止まり。
「ただいま戻りました」
扉を開きながら挨拶をする一人の青年が明るい表情で帰ってきた。
こいつが……
その青年の体型は俺と同じくらいだが、髪は日本人らしさの欠片もない白髪。
眼帯つけて腕に包帯でも巻いていれば立派な厨二病だな。
聞かれてはいけないような第一印象を受けた俺だったが警戒は怠らない。リンと警戒するなか、救世主は俺達を気にした様子もなくエビルの下まで歩き何やら話している。
ある程度話してたのかやっと相手にされた。
「それで、このお客さん達は?」
「その魔族の女と人間は魔王の敵で前にイスカルが報告したやつらだ」
間違っていない説明に頷く救世主。だがその目はギラギラと輝いていて危険臭が半端ない。
「そうか……なら俺の敵だな」
そう低い声で言いながら銃でも持っているかの様な形を作った手を俺に向ける。
「魔王の敵は……俺の敵」
一瞬で救世主の手に魔力が集まりハンドガンを形成した銃が現れ、それの引き金を引くとパンッと乾いた音が部屋中に響く。
「…………なんで死んでないの?」
音速と言っても過言でないほどの速さで打ち込まれた一発の銃弾は俺の眉間を打ち抜く前にリンの空間魔法によって防がれていた。
「君……そこの魔族の子がいなかったら死んでたよ」
銃を構えたまま不敵な笑みを浮かべる救世主。
「そうか、ならお前は俺に銃を向けた時点で死んでるな」
俺が撃たれる直前に救世主の背後に生やしていた数センチ程度の大きさの大樹から二本の根が飛び出し、一瞬で一本の根が救世主の足首を掴みもう一本の根がゆっくりと救世主の首筋をなで、今動けばどうなるかを無言で想像させる。
「う……」
「だが俺はお前を殺さない」
「何故だ……」
「理由は簡単だ。魔王を殺った後に救世主には働いてもらうためだ」
「なっ」
予想を大きく外したのか動揺する救世主。
俺は大樹と根を消して戦う意志が無いことを示し救世主に近寄る。
「俺はタクヤで横にいるのがリンだ、よろしく」
俺はそう言いながら握手を求めた。
「なんのつもりだ?」
どうやら応じるつもりは無いらしい。
「日本人らしいだろ? 握手は」
「馬鹿か?」
「安心しろ、お前程度に殺されたりはしな——」
——頭上に魔力!
言い終わるとほぼ同時に魔力サーチが作動して頭上より何かが落ちてくるのに気づき数歩横に動いてかわす。
「ほらな、死ななかったろ?」
落ちてきた物を確認すると着地点には切れ味のよさそうな刀が地面に垂直に突き刺さっていた。
「ちっ」
「なんだよ危ないやつだな。嫌われっぞ」
「救世主なんか全員俺が殺してやる。人間滅べ」
うわ、絶対こいつ仲間に裏切られた系のやつだな……昔の自分もこんな感じだったのか。妙に親近感の湧くわ。
「そんな暗いこと言うなって」
「なにも知らないくせに」
「はいはい」
面倒なやつだな。
そう思ったとき今まで黙っていたリンが話に参加した。
「ねえ、タクヤ」
「なんだ?」
このタイミングでどうしたのか——
リンはつまらなさそうにぼやいた。
「この人めんどくさいし、気持ち悪い」
ばっかぁぁぁ。やっちゃったよもお。
耳を疑う発言に脱力感を覚えるがめんどくさい人と言うのはよくわかる。それでも
「そんな皆に聞こえる声で言うんじゃないよ」
「だってぇ」
怒ってるだろうな。どうするか。
「取り敢えずリンは謝れ」
俺はそう言いながら救世主を見ると救世主は詠唱を始めていた。
「我は創造し造形する求めるは無限の武器、流れる魔力は個体となれ『連続造形』」
詠唱が終わると同時に俺とリンを取り囲むように槍やら斧が何もない空間から出現してくる。
「くそ、馬鹿にしやがって」
たった数秒間で数えるのが面倒になるほどの武器が俺とリンを中心に円を描くように取り囲む。
「やっぱり人間は嫌いだ!」
恨み丸出しのセリフを合図に現れた武器が一斉に動きだし俺とリンを全方位から襲う。
それでも冷静でいられるのは、やはりリミッター解除のおかげ、いつか副作用的なのに襲われそうだが今はそれどころじゃない。
「リン」
「ん」
俺がリンに指示を出そうとするとリンが分かっているとばかりに俺の思い描いていた行動をとる。
俺とリンの周囲を強大な重力波で覆い迫る武器の全てを一定の距離を越えさせずに落としていく。
「なっ……」
その光景を見ている全ての魔族と魔法を行使している救世主は驚愕しお互いの顔を見合っている。
「くそっなんなんだよ!」
そんな中でも救世主は手を休めることなく武器を造形しては打ち込むを続けているが。
「リンはよく俺の考えていたことが分かったな」
「前にも言った。私はタクヤの考えていること全部分かるって」
「それでも、最初は空間魔法で守ったじゃん。それに重力を使うの始めてだから今回も空間を使うのかと思ったりしてた」
「ん。始めてだったけど上手くいった。それに失敗してもタクヤが守ってくれるから安心」
余裕な俺達を見る周りの魔族は悪夢でも見ているかのように汗をだらだらと流し、救世主はどうすることも出来ない力の差を実感しているようだ。
「そろそろ分かったろお前は俺達を殺せないことが」
そう言った時すでに呼吸も荒くなっていた救世主は突然地面に膝から崩れ落ち行使し続けていた魔法は止まった。
「ほら魔力切れだ」
俺とリンを見上げる救世主は何か言いたそうだが口を開かない。
何故何も言わないのか察した俺は救世主の言いたそうな事を予想して答えてやった。
「お前がリンより先に魔力が尽きたのはレベルと魔力制御の能力の差だ」
予想は……当ったみたいだな。
救世主もそれっぽい反応を示したから間違いない。
そう思ったときエビルを含めた数人の魔族が倒れた救世主の元へ駈け寄り小声で俺とリンをチラチラと見ながら何かを言い合っている。
しばらくして、まだ話し合っている途中に救世主が叫んだ。
「止めろって言ってるだろうが! 皆殺しにされっぞ!」
覇気の籠った声にその場で話し合う全員が硬直し視線が集まる。
「しないから」
「しないわ」
物騒な事言うなよ、リンと同じこと言っちまったじゃねーか。
「いいか、あいつらは魔王の敵だがイスカルの情報によるとあいつらにとって人間も敵。つまり戦争の第三者なんだ。第三陣営はほっといてもいい。それにあいつらは俺達を殺す気は無いらしい。あいつらは強すぎる、ここは生き延びることだけを考えて行動するべきだ。ここで俺達が死んだら戦争に影響がでる。救世主の侵攻を止める部隊が一つ減るんだ。それは絶対に避けるべきだ。俺達はいずれ訪れるであろう救世主共を迎撃する力をつけるために今を生き抜かないといけないんだ!」
熱く語る救世主を俺とリンは冷めた目で眺めていた。
「俺とリンが先に戦争を止めるからそんな力持っても使う機会は訪れない」
「あなた達は何もしなくていい」
誰も何も言わなくなる。
「リン……もう行こう」
「ん……」
こうして俺とリンはエビル達の前から去った。




